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news commentary

買い取り

2015-07-26 23:06:12 | Weblog

日本経済新聞社がイギリスの『フィナンシャル・タイムズ』を買収した。価格は1600億円。ご破算になった新国立競技場の予算よりは、1000億円ほど安い。

とはいえ、『ワシントンポスト』が2013年、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスに売られた時、値段は246億円だった。ニューヨーク・タイムズ社は傘下の『ボストン・グローブ』を同年69億円で売却している。

『ウォールストリート・ジャーナル』は6600億円で、ルパート・マードックのニューズ社に買い取られた。

『フィナンシャル・タイムズ』の1600億円が高いのか、安いのか、これからの使い道しだいだろう。下手をすると、新国立競技場に似た展開をたどる可能性が無きにしも非ず、だろう。

それにしても、買収された側の新聞社で働く人たちは不安だろう。編集方針や経営方針にどんな影響が出るのか。イギリスのジャーナリズム業界で働いている人たちが、日本のジャーナリズムの現状とそれを取り巻く政治的。文化的環境を高く評価しているとはとても思えないので、彼らの心配は良くわかる。たとえば、もし日本の新聞社が外国資本、たとえば、韓国、中国、台湾の企業に買収されたとしよう。社内も社外も大騒ぎになるだろう。

日本資本が海外のメディアを買収できるのと同じシステムで、海外の資本が日本の新聞を買収できるようにすべきだ、という主張が出てくるだろう。

比較的中立的な経済情報の商売だけなら無難だろうが、新聞には不可避的に政治、特に政治権力とのスタンスとりかたなどの、文化的な問題が関わってくる。

『フィナンシャル・タイムズ』がこの先、どう変わって行くのか、日本の新聞業界では初めての日経の世界進出がどういう道筋をたどるのか、興味深い観察対象になる。

(2015.7.26 花崎泰雄)




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予定通りの強行

2015-07-15 22:32:06 | Weblog

2015年7月15日は、朝9時から衆議院のインターネットTV審議中継を見ていた。だが、いつもと比べて、中継が切れてしまうことが多かった。いったん切れると、再接続しようとしても、つながりにくくなった。やがて、アクセス集中により、視聴困難になっているとメッセージが画面に出るようになった。

7月15日は自民党・公明党が安保法制関連法案の強行採決をし、野党が阻止しようとする日なのだが、NHKは何を思ったか国会中継をしなかった。それで衆院インターネットTVにアクセスが集中した。朝刊のテレビ番組表を見ると、NHKTV1の9時台は「あさイチ」というおしゃべりショー番組、10時台が趣味のテニスの話題、11時台が昼前のお気楽ワイドショー番組。国会中継よりこちらの定番番組の方がお気に入りの方々がいらっしゃるだろうが、この時期、与野党がくんずほずれつの論戦を繰り広げる国会中継を見たかった方も、また多かったことだろう。

朝日新聞の同日付夕刊によると、「各会派が一致して委員会の開催に合意することなどを適宜、総合的に判断している」「各時間帯のニュースなどで詳しくお伝えすることにしている」などと、NHKは朝日新聞の取材に中継しなかった理由を回答した。それでいてNHKは定時のニュースのなかで、今国会の最も重要な法案の採決、と言っていた。衆議院のインターネット中継にはアクセスが集中し、一時見られない状態になったことについて、衆議院広報課は「審議中継が見られなくなることはそうそうあることではない」という。

一方に、論理的な憲法解釈を重んじる立場があり、他方に、米国との親密性を重んじる立場がある。憲法が最高法規であるという立場と、俗にいわれている、憲法の上に日米安保と日米合同委員会があるとする立場である。これは折り合いの付くような話しではなく、最後は力ずくの決着しかない。

今は昔。1946年の衆議院本会議で、 野坂参三が、「日本の帝国主義が満洲事変以後起したあの戦争、他国征服、侵略の戦争である、是は正しくない、同時に侵略された国が自由を護るための戦争は、我々は正しい戦事と云つて差支へないと思う」と意見を述べたのに対し、吉田茂は「近年の戦争は多くは国家防衛権の名に於て行われた。故に正当防衛権を認むることが偶々戦争を誘発する所以であると思う」と答えた。

その後吉田は、朝鮮戦争の始まりで、米国から再軍備を押し付けられた。憲法の上に、米国があったのは昔からである。そうした戦後レジームを今日まで引きずっている。


委員会での採決のさい、民主党・共産党が強行採決に抗議したが、TVのカメラに向かって「アベ政治を許さない」「自民党感じ悪いよね」「強行採決反対!!」といったカードを掲げて抗議するお行儀のよさだった。

昔は乱闘国会が相場で、もっとにぎやかだった。1954年の警察法改正案をめぐっては、野党は本会議での採決阻止のため、議場入口を封鎖し議長席を占拠。警察が出動し、乱闘で50人が負傷した。1956年には新教育委員会法案をめぐり、警察官500人が参議院に出動した。1960年の日米安保条約改定では、衆議院議長の要請で警察官500人が動員された。警察官は野党議員を排除して、本会議で新安保条約を強行採決した。

さて、あす7月16日午後1時からの本会議はどうなるのかな?

(2015.7.15 花崎泰雄)


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言語遊戯

2015-07-05 00:43:36 | Weblog

EIT (enhanced interrogation techniques、強化訊問技術)という言葉をまだ記憶にとどめていらっしゃるだろうか。アメリカがアフガニスタンに侵攻した時につかまえた捕虜をキューバのグアンタナモ基地で訊問した際に用いられたCIAの訊問術で、ありていに言えば、拷問である。

米国上院の情報特別委員会が2014年12月にEITに関する報告書を出し、拷問があったと結論した。ウォールストリート・ジャーナル紙によると、以下のようなテクニックが用いられていた。

*“Attention grasp” – Grabbing a detainee forcibly by the collar.

* Cramped confinement – Place the detainee in a dark, tight space for hours at a time.

* Cramped confinement “with an insect” - Developed for Abu Zubaydah, a militant commander allegedly allied with Osama bin Laden. CIA officers learned Mr. Zubaydah      was afraid of insects, so they sought permission to place him in a box with a harmless bug such as a caterpillar, while telling him it was a stinging insect.    People familiar with the matter say this technique was approved but not used.

* Facial hold – Holding the detainee’s head immobile during questioning.

* Facial slap or “Insult Slap” – Slapping a detainee in the face “with fingers slightly spread.” “The goal of the facial slap is not to inflict physical pain” but “to induce shock, surprise, and/or humiliation,” Assistant Attorney General Jay Bybee wrote.

* Sleep deprivation – A detainee is forced to go without sleep for more than 48 hours. “You have orally informed us that you would not deprive Zubaydah of sleep for more than 11 days at a time and that you have previously kept him awake for 72 hours,” Mr. Bybee wrote.

* Stress positions – Requiring the detainee to stay in uncomfortable positions to induce muscle fatigue.

* “Walling” – Pushing a detainee “quick and forcefully” against a flexible wall. “The false wall is in part constructed to create a loud sound when the individual hits it, which will further shock or surprise… the individual,” Mr. Bybee wrote for the Justice Department’s Office of Legal Counsel in 2002.

* Wall standing – “Used to induce muscle fatigue.” The detainee is forced to stand about four feet from a wall, leaning so that his arms resting against the wall carry some of his weight. “The individual is not permitted to move or reposition his hands or feet,” Mr. Bybee wrote.

* Waterboarding – A detainee lying on a gurney has a cloth placed over his face. Water is poured on the cloth, simulating the experience of drowning.

Waterboarding was used against three detainees, according to people familiar with the matter. Abd al-Rahim al-Nashiri, a suspect in the bombing of the USS Cole, was subjected to it twice, according to government documents; alleged Sept. 11 plot mastermind Khalid Sheikh Mohammed was subjected to it 183 times; Mr. Zubaydah was waterboarded at least 83 times.

違法行為だったという意見に対して、アメリカをテロの脅威から守るためだった、という反論も米国内にある。憲法学者に任せていたら国は守れない、という日本の一部の意見と理屈が似ている。

国を守りたくて仕方がない自民党の勉強会のメンバーによる、メディア威嚇や沖縄侮辱発言が報道された直後、安倍晋三首相は、私的な勉強会であり会合で議員がどういう発言をしたか私が知る立場にない、と木で鼻をくくったような国会答弁をしていたが、数日後に、非常識な発言で、党本部で行われた会合だから、最終的には私に責任がある、と国会で陳謝した。

安倍氏が発言を180度翻したのは、周辺状況の変化を認識したことによる。規範、言葉の重み、そういった政治の正統性への“尊崇の念”が欠けている。これは、現行憲法は集団的自衛権を認めていない、とするこれまでの政府見解から、集団的自衛権が認められるとする2014年閣議決定に変わった、その心変わりの背後にある安全保障環境の激変という認識、にそっくりだ。

無理もない。日本国政府は状況の変化によって憲法9条の解釈を転々と変えさせられて来た。

ポツダム宣言は「日本国国民ノ自由ニ表明セル意思ニ従ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府カ樹立セラルルニ於テハ聯合国ノ占領軍ハ直ニ日本国ヨリ撤収セラルヘシ」としていた。

1952年のサンフランシスコ講和条約で米軍が日本に駐留を続ける根拠が失われるので、米国は講和条約発効と同時に、旧安保条約を講和条約発効させ、日本に軍隊を駐留させる権利を獲得した。

1950年には朝鮮戦争が始まっていた。日本に駐留する米軍の相当部分が朝鮮に向かい、GHQが日本に警察予備隊を作るよう要請した。警察予備隊は1952年に保安隊になり、1954年に自衛隊になった。

1950年の米国安全保障会議の文書、NSC-68を読めばわかることだが、このころ米国はソ連邦を自国にとっての最大の安全保障上の脅威として認識していた。文書によると、ソ連封じ込めの核心が、ヨーロッパではドイツとオーストリア、アジアでは日本だった。

冷戦時代から米国にとって、日本の自衛隊は反共シフトを支える補助軍事力だったわけだ。冷戦が去っても、米軍はあちこちの戦争で忙しく、戦費と人的消耗が米政権の重荷になった。そこで、人的消耗も含め、日本に対して米軍への支援を要請する圧力をかけた。

Boots On The Ground!

イラク戦争のころ、アメリカ側からこの声がかかり、やがて、安倍晋三氏が、日米同盟は血の同盟、と応じた。

そういうわけで、状況に応じて身を翻すのが政治家の政治家たる所以で、理屈と膏薬はどこにでも付くという言葉の軽さがいまや国会に満ち満ちている――曰く、存立危機事態、曰く新3要件。

(2015.7.5 花崎泰雄)
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