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news commentary

おっとっとっと大阪都

2011-11-29 22:04:36 | Weblog

この間の同時選挙で前大阪府知事が大阪市長に、その子分が大阪府知事に、それぞれめでたく当選した。

二人して大阪都を創るのだという声が聞こえてくる。

新聞などを読むと、だらしない国の政治やじり貧の経済からくる有権者の閉塞感が、大阪都構想を掲げた二人を当選させた、と解説している。しかし、大阪都構想がどんな具合に、国政の無能や経済の低調を打破することと結びつくのだろうか? そのあたりの詳しい説明がなかったようだ(私が読んでいる新聞が東京で発行されているもので、大阪で発行されている新聞にはきちんと説明されているのかもしれない)。

大阪府を大阪都に名称変更するには、地方自治法などの国レベルの法律改正が必要になる。国政が大阪都構想に協力しないのであれば、衆院選に打って出て、国会に乗り込んで大阪都を実現する、と新大阪市長がつくった地方政党は息まいている。

大阪都構想をネタに府知事から市長になり、次は衆議院議員を目指すのか。地方政党を率いて衆議院をたたかい、それなりに勝利すれば、理論上、地方政党が中央政党になり、その党首に日本国の首相になるチャンスが回ってくる可能性がないわけではない。

どうやら投機の手法であるレヴァレッジが政治に応用されている気配が濃厚だ。まず大阪府知事として府の教育基本条例や職員基本条例で君が代・日の丸起立義務化を画策し、愛国的ポーズで人気集めを試みた。昔から西洋で言われているように、愛国主義とは野心家が売名のためにかざすかがり火に使われるぼろ布のことである。そのことは日米戦争前後の昭和史の中でうんざりするまでに例証されている。そうした愛国主義で大阪市を手に入れ、その勢いをテコにして国政に影響力を与えようともくろんでいる。

大阪都構想の実現可能性については当事者もあまり気にしていない。レヴァレッジの材料にすぎないからだ。突撃ラッパで上げ潮をよびこみ、それに乗って出世魚になろうという魂胆だ。

大阪都構想など、野球の阪神・巨人戦の延長戦線上にある東西対抗意識の虚妄でしかない。いまの東京都知事は、東京から日本を変えると大言壮語して知事になった人だが、日本はよくならず、逆に、悪くなる一方だ。もちろん、日本が悪くなるのは国政を担当している政党や政治家、官僚などなどの責任であって、日本を変えるといって都知事に当選した人のせいではない。そもそも一介の知事がどうあがいたところで日本全体を変えることはできない。東京都は平々凡々の行政を行っている。ときどき知事が無責任な放言で失笑を買うという余興を提供しつつ……。大阪都ができても似たようなものだろう。

東京都も大阪府もある時期から知事選挙がタレントの人気投票風になっていった。誰が知事になろうと何も変わらないという都市住民のアパシーが根っこにある。だが、大阪都構想と愛国主義が対になって、個人の政治的野望実現のためのレヴァレッジに使われるとなると、府民・市民はレヴァレッジにつきものの流動性リスクというやつを頭の片隅に入れておく必要がある……というのは、よそ者のナイーヴな心配であって、ど根性主義の大阪の人たちはそれを百も承知で、つれづれなる余暇の時間つぶしに危険なゲームを「いてまえー」と楽しんでいるのであろう。

(2011.11.29 花崎泰雄)
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見事な外交手腕

2011-11-20 23:35:55 | Weblog


東日本大震災・津波・福島原発メルトダウン――その復旧・復興をめぐる政府・国会の不手際と怠慢、さらには復興担当大臣の被災地知事に対する暴言、混迷する経済の中で、アメリカ主導のTPPへの前のめり参加意思表示の韜晦、通称「永田町文学」の言語遊戯をめぐる国会の低級にして醜悪な質疑応答、日本の人々のこころが深く冷たい闇の中に沈んでいくさなか、ブータン国王夫妻が国賓として日本を訪問した。

比較的大柄な国王は比較的小柄な皇室の人々と握手を交わす際、腰を折って互いの目線が水平になるよう努力し、その両手で相手の手をしっかりと包み込んだ。

国王は日本国会でスピーチをした。一言でいえば、日本人と日本の再起への応援歌で、「このような不幸からより強く、より大きく立ち上がれる国があるとすれば、それは日本と日本国民であります。私はそう確信しています」ということに尽きた。

何年か前にアメリカ大統領選挙でオバマ候補が
   Yes, We Can!
と叫んで人々を狂喜させて支持を拡大した。

今度は日本を訪れた外国の賓客が日本人に対して、
   Yes, You Can!
と優しく語りかけ、彼らの心の傷を癒そうとした。

相馬市の津波被災地では心のこもった合掌で追悼の意思を示し、小学校では児童たちと和気あいあいで話しあった。

雨の京都では、プレスの写真撮影のさい、それまでお坊さんに傘をさしかけていた付き人が、写真取材の邪魔になるので傘を持ったままその場を離れた。傘を自分で持っていた国王夫妻にはさまれて、お坊さんひとりが雨中に取り残された。間髪を入れず、国王と王妃がそれぞれが持っていた傘を僧にさしかけた。国王はもっとこっちにいらっしゃいとばかり僧の背中に自分の手を回した。日本仏教と、ブータン国が国教にしているチベット仏教では、僧の権威や宗教の存在理由についての認識にはいちじるしいギャップがある。国王夫妻が僧に示した配慮は、仏・法・僧に対するブータン人の厚い信頼だけでなく、人と人の普通の心づかいがもたらしたものだ。

さらに、ジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王とジェツン・ペマ王妃は、訪問先と訪問の趣旨に合わせて民族衣装を着替えて見せた。とくに王妃の衣装が見事で、背後に有能な衣裳係が控えていることをうかがわせた。

若い国王のあの優雅でそれでいてしっかりとした立ち居振る舞いは、どこで身につけたものだろうか。ブータン王室の教育の成果だろうか。留学先のイギリスで身につけた洗練だろうか。ブータン国王夫妻に好意的になった日本のメディアが好意的な報道を続けたことで、国王夫妻は日本人の心をすっかりメロメロにした。

一般の日本人は、こんな素敵な新婚カップルが代表するブータンという国に興味をもった。彼の国が掲げるGNH(国民総幸福)とはどんな考え方だろうかと、興味をそそられた。

GNHはブータンの国王が1972年に言い出した考え方で、GNPやGDPでは測れない幸せを大切にしようというものらしい。高度経済成長によって1968年にGNPが資本主義国で第2位になり、その後の安定成長期を経てバブル経済崩壊を見る1991年ごろまでは、日本ではGNHはヒマラヤ山中の最も遅れた小国の負け惜しみ程度にしか考えられていなかった。

そして今、日本経済は沈滞し、政治家たちはその無能をさらけ出し、国家公務員はあいかわらず省益を追い求め、経営者は企業を私物化して恥じないありさまだ。われわれは、どこで、何を間違えたのだろうか? その答えが見つからず日本人はいらだち、不安にさいなまれ、落ち込んでいる。ブータンは「1人当たりの国民総所得は、2020ドルで貧しい。だが国勢調査では、90%以上の人が『幸せ』と答えている」(『信濃毎日新聞』11月20日)。昔なら目もくれなかったようなこの文字列に日本人の目が吸い寄せられる。

むかし老子がこんなことを言った。小さな人口の小国だが、国民に命を大切にするようにさせ、遠くへ移住することがないようにさせる。まずい食物をうまいと思わせ、粗末な衣装を心地よく感じさせ、狭い住まいに落ち着かせる。そうなれば、隣の国はすぐ見えるところにあっても、国民は老いて死ぬまで他国の人と互いに行き来することもないだろう。(『世界の名著 荘子 老子』中央公論社の老子第80章)

統治術の一つの理念型を示そうと、老子が仕立ててた寓話である。老子はこのことを第3章で違う形で述べている。

不尚賢、使民不争、不貴難得之貨、使民不為盗、不見可欲、使民心不乱

孔子が教えた統治の哲学は人口に膾炙されたが、孔子の宇宙の反宇宙である老子のコスモロジーは、一部の好事家を除いて、話半分に聞く人が多かった。

ブータン国王夫妻は、かの国の国民総幸福の考え方がどのような政治哲学に由来しているのだろうかと、日本人に関心を持たせるきっかけを作った。鮮やかな外交だった。

(2011.11.20 花崎泰雄)





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むなしかった入り口論議

2011-11-15 21:57:31 | Weblog


11月11日の野田内閣総理大臣記者会見で、彼はこういった。

「私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました」

この言葉は、首相官邸のサイトで次のような英文に翻訳されて数日遅れで掲載された。

I have decided to enter into consultations toward participating in the TPP negotiations with the countries concerned, on the occasion of the Asia-Pacific Economic Cooperation (APEC) Economic Leaders' Meeting in Honolulu, Hawaii which I will be attending from tomorrow.

いくつかのニュースメディアのサイトを見ると、記者会見での首相の表明を受けて、

①AFPは、

"I have decided to start holding talks with related countries at the APEC meeting, which will start from tomorrow, towards joining the negotiations of TPP," Noda told reporters Friday.

②APは、

“I’ve decided to start discussion with related countries toward joining TPP negotiations at the APEC summit in Honolulu,”

③Nikkei.comは、

"We've decided to enter discussions toward joining negotiations,"

④Washington Postは、

“I’ve decided to start discussion with related countries toward joining TPP negotiations at the APEC summit in Honolulu,”

⑤New York Timesは、Japan to Join Talks on Pacific Trade Pact という見出しで、

Prime Minister Yoshihiko Noda said Friday that Japan would join talks toward an ambitious pan-Pacific free trade pact.

⑥Times of India が発行する経済紙Economic Timesは、

Prime Minister Yoshihiko Noda said Friday that Japan will participate in talks on joining a U.S.-backed Pacific Rim free trade zone, a decision strongly opposed by farmers who say the move will ruin them.

①から④は引用符を使って日本の首相の日本語表現をなぞっている。⑤⑥は記者が首相の発言を自分の頭で咀嚼して、間接話法で書いている。結局、①から⑥までの発言の核心はニューヨーク・タイムズの見出しJapan to Join Talks on Pacific Trade Pact ということにつきる。

日本国首相は米国大統領に、おそらくは、

"I have decided to start holding talks with related countries at the APEC meeting, which will start from tomorrow, towards joining the negotiations of TPP."

と、告げたのだろう。それを受けて、ホワイトハウスは次のような報道発表をした。

①Prime Minister Noda noted that he had decided to begin consultations with TPP members, with an eye to joining the TPP negotiations. The President welcomed that important announcement and Japan's interest in the TPP agreement…

②The President noted that all TPP countries need to be prepared to meet the agreement's high standards, and he welcomed Prime Minister Noda's statement that he would put all goods, as well as services, on the negotiating table for trade liberalization.

③The President noted that he would instruct USTR Kirk to begin the domestic process of considering Japan's candidacy, including consultations with Congress and with U.S. stakeholders on specific issues of concern in the agricultural, services and manufacturing sectors, to include non-tariff measures.

外務省は②のPrime Minister Noda's statement that he would put all goods, as well as services, on the negotiating table for trade liberalizationのくだりは事実無根であると米国に抗議したところ、米側が誤りを認めて陳謝したといっている(時事通信)。だが、15日の朝日新聞夕刊によるとホワイトハウスの副報道官があの発表は正確であり、修正するつもりはないと突っぱねた。

「オバマ大統領と野田首相との私的な協議、そして野田首相らによる広く知られた宣言にもとづくものだ」

副報道官はそう説明したという。

したがって、報道発表は今でもホワイトハスのサイトに掲載されている

日米首脳は10分ほどさしで話し合っている。私的な協議の機会はあったわけだ。

また、菅内閣時代の2010年11月9日、「包括的経済連携に関する基本方針」として「センシティブな品目について配慮を行いつつ、すべての物品を自由化の交渉の対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」ことを閣議決定している。

③の記述は、米国大統領が日本首相の協議申し入れを、参加申し入れとして了解したことを物語るが、これについて、日本側では、早とちりだ、待ってくれ、とは言っていない。

TPPの協議に参加するために、米国では議会への事前通知が必要だが、ペルー、オーストラリア、マレーシア、チリの場合、閣議決定か了解で手続きは終わる。シンガポールの場合、原則、貿易産業大臣の判断にゆだねられる。ニュージーランド、ベトナム、ブルネイは格段の手続きを必要としない。

以上、日本の参加申し入れ手続きが事実上終了していることがわかる。

にもかかわらず、日本の首相は、13日のホノルルの記者会見で、

「アジア太平洋自由貿易圏、いわゆるFTAAPの実現に向けて、唯一交渉が開始されているTPPについて、我が国は交渉参加に向けて関係国との協議に入ること、この旨を紹介し、いくつかのエコノミーから歓迎の意が表明された」

for the realization of the Free Trade Area of the Asia-Pacific (FTAAP), I explained that Japan will enter into consultations toward participating in the Trans-Pacific Partnership (TPP) negotiations with the countries concerned, currently the only FTAAP scheme for which negotiation has started, and several economies expressed their welcome.

などと、空っとぼけてみせた。

まだ若かった40年ほど前、筆者は自動車で東北を旅行して回ったことがある。奥羽山脈の国道で日が暮れたので、近くの温泉宿に泊まった。○○温泉郷の看板が国道の脇道にあり、その山道をゆくと、たった1軒の温泉宿があった。温泉の脱衣所は男女別だったが、脱衣所の戸をあけて浴槽へ行くと、浴槽はひとつ、混浴だった。

泥鰌首相のむなしい入り口論議であった。

(2011.11.15 花崎泰雄)

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交渉参加に向けての協議

2011-11-11 22:31:36 | Weblog


環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、民主党の経済連携プロジェクトチームが9日、「慎重な判断」を提言したことから、内閣総理大臣野田佳彦は参加表明の日取りを「熟慮」のため1日だけ延ばし、11月11日に記者会見で、「明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました」とと語った。

「交渉に参加する」と直裁に言わず言葉を濁した首相は、記者会見で「関係各国との協議を開始し、各国がわが国に求めるものについて、さらなる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経たうえで、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていくこととしたいと思います」とも言っている。

以上の文脈から判断すると、首相の言う「協議」は交渉のテーブルにつくための事前協議のことを意味するように聞こえる。そうすると、首相の言う「TPPについての結論」はTPP交渉の結論ではなく「交渉参加についての結論」なのだろうか。

これはいったいなんだろう?

関係各国への通告は、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ合衆国が国語が英語、ブルネイ、マレーシアがマレー語、チリ、ペルーはスペイン語、ベトナムはベトナム語、シンガポールは――国語はマレー語、公用語が英語、中国語、タミール語なので、何語で通告するのか筆者は知らない。

筆者としては「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」がどのように翻訳されるのか興味しんしんだ。その段階で野田発言の意味するところがはっきりとわかるだろう。ところで、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」を額面通り米語に翻訳した場合、米国議会がそれをエントリーの申し入れと認めてくれるのかどうか。

ともあれ、国内の反対勢力に対する文言と、外国に対する文言が違い、また火種を残すことになった。そこまで脂汗を流すほどの利益がTPP交渉参加にあるのだろうか。

東アジアの経済統合に向けた計画は、①1991年のマレーシアが提案したEAEC構想、②1997年のASEAN+3、③2005年のASEAN+6があったが、④2010年に米国などが加わった第1回TPP交渉が始まった。

2002年の外務省経済局のペーパーに要旨こんなことが書かれていた。①日本にとっては、北米、欧州よりも、東アジアとの自由貿易協定がより大きな利益になる。その理由は、日本産品は最も貿易額の多い東アジア地域において最も高い関税を課されているからだ② まずは韓国及びASEANとのFTAを追求し、中長期的にはそうした土台の上に、中国を含む他の東アジア諸国・地域とのFTAにも取り組むべきである③日米自由貿易協定については、当面は、特定分野における枠組み作りや、規制改革対話等を通じた関係強化を図ることが有益と考えられる。

外務省経済局のペーパーが書かれたころから日本の首相が血相を変えてTPPに前のめりになっている現在までの間に、①中国がGDPで日本を追い抜いて世界でNO.2になった②同時に海軍力をビルドアップし海洋権益を声高に主張し、南シナ海、東シナ海、日本近海で力を誇示する行動に出るようになった③韓国が米国と自由貿易協定を結んだ④自民党政権のころと比べて、農業の衰退による農業団体の政治圧力が弱まった⑤沖縄の基地問題で米国から不興をかった――などの出来事があった。

アメリカ抜きのASEAN+3やAEAN+6の枠組みでは東アジア最強の国家になった中国の風下にたたされる。もちろんTPPではアメリカの風下に立つことになるのだが、同じ風下なら立ちなれたアメリカの方が安心だ。そういう判断であろう。

これからさきTPPがどんな経過をたどるか、成り行きはとても面白そうだ。韓国国会でいま韓米FTAの批准をめぐって野党・民主党が条約批准反対を唱えてもめている。民主党は4年前ノ・ムヒョン政権が米韓FTA条約を締結した時の与党・ウリ党の血をひいている。それが野党となった今では、条約の批准に反対している。

ポリティシャンは面白い行動にでるものだ。

(2011.11.11)
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