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news commentary

NSA

2013-06-12 00:32:00 | Weblog

結局は隠れ家を突き止められて米軍の兵隊に殺されてしまったのだが、オサマ・ビン・ラデンはパキスタンのアボタバードに隠れ住んで以来、携帯電話もインターネットもeメールも使わなかった。連絡は出入りする連絡係に口頭で伝えた。世界最大のスパイ機関である米国のNSA(国家安全保障局)に盗み見・盗み聞きされることを恐れたからだ。

イギリスの秘密情報機関MI5やMI6にならって、米国は第2次大戦後にCIAやNSAをつくり、秘密情報に聞き耳を立てた。CIAの方は米国のアフガニスタン攻撃の時のように実際の戦闘に参加することもあるが、NSAの方は数万人規模の人員を使って世界中のシギント(信号情報)を見張っている。世界に張り巡らせたエシュロンという盗聴ネットワークを取り仕切っているのもNSAである。

戦前、日本の外交暗号電報は米国側に解読されていた。米国政府による外国の政府の暗号電報傍受が米国内法には抵触しないように、外国情報の盗聴・収集も法に触れない。ニクソン元大統領がウォータゲートの盗聴事件やホワイトハウス内の盗聴録音機問題で失脚したように、米国内で米国人を対象にした盗聴は、裁判所のしかるべき令状がない限り、違法であった。

それが、9.11事件を機に、ブッシュ政権が令状なしの国内盗聴をNSAに行わせた。国内からの批判でやめたことになっていたのだが、それがまだ続いていることをエドワード・スノウデンという男性がガーディアン紙とワシントン・ポスト紙に暴露し話題になっている。

オバマ大統領は議会や裁判所から了解をとっていると弁明しているが、裁判所が政府からの盗聴申請を拒否したのは全体のわずか0.3パーセントにすぎない(ウォールストリート・ジャーナル紙)。

興味津々な点は、インターネット関連の通信企業がどの程度NSAに協力していたかだ。中国本土に進出したグーグルが中国政府のインターネット監視政策と折り合いがつかず、拠点を香港に移したことがあった。アメリカの企業は米国政府のインターネット監視とどう折り合いをつけるのだろうか?

(2013.6.11 花崎泰雄)

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イスタンブールの乱

2013-06-04 01:28:13 | Weblog

イスラムの国はケンカばかりしている――東京都知事の失言・とりこぼしで、オリンピック開催候補地として独走態勢に入ったかに見えたイスタンブールだが、好事魔多し、イスタンブールでデモ隊と警察の激しい衝突に見舞われた。ただし、イスラミストによる騒動ではなく、むしろ世俗派からの、親イスラム中道右派のエルドアン政権への不信の表明である。

ボスポラス海峡を挟んでヨーロッパ側のイスタンブール・新市街の中心部タクシム・ゲジ公園の木を伐採してショッピングモールを核にした商業施設つくる計画に反対する市民が公園にテントを張って抗議活動をしていたところ、警官隊に実力で排除された。

市民たちがこれに抗議して公園に集まると、警官隊が催涙ガスと放水を浴びせ、市民の一部も投石で応じた。アンカラ、イズミルといった他の大都市でも、政府の強硬措置に抗議するデモが発生した。

トルコの新聞のサイトを見ると(日本時間6月3日夜)、エルドアン首相はショッピングモール建設の計画を中止し、代わりにタクシム広場にモスクを建てる計画を新たに発表した。

形勢不利と見たエルドアン政権が、ムスリムカードを切ろうとしている。エルドアン首相の公正発展党(AKP)は保守的な農村部を支持基盤とする中道右派の政党で、最近は親イスラムの政策が目立つようになった。AKPには福祉党、美徳党など憲法裁判所によって解散を命じられたイスラム系政党のメンバーだった政治家が参加している。親イスラムと保守勢力が合体した政党だ。

トルコは世俗政治を国是としている。大学や官庁で女性がイスラムのスカーフを被ることが禁じてきた。スカーフを被っていると大学の講義が受けられなかった。エルドアン政権はイスラム勢力の求めに応じてスカーフを解禁しようとしたが、裁判所から差し止めを受けた事もあった。政権党は親イスラムだが、トルコの裁判所、官庁、軍、大学はアタテュルクのナショナリズムと世俗主義を守る砦である。

また、ごく最近では、国営トルコ航空が女性の客室乗務員に、真っ赤な口紅やネイルポリッシュの使用を禁じ、パステルカラーのものに変えるよう指示して話題になった。夜間の酒類販売を禁止した。これらはエルドアン政権のイスラム勢力への媚である、と世俗派は批判している。

エルドアン政権はEU加盟を念頭に置いた2010年の憲法改正案で、軍と裁判所の政治関与を制限する項目を入れ、国民投票で過半数の賛成を得た。軍を政治から排除することは文民統治の徹底という民主化路線の強化である。国民の98パーセントがムスリムであるトルコで世俗政治が続いてきたのは、軍がイスラムの政治関与ににらみをきかせていたからだ。したがって軍を政治から遠ざけると、イスラムの政治関与が容易になってくる。

現在3期目の首相を務めているエルドアンは、党や政府の同じ役職に就くことを3期に限っているAKPの規約によって、首相の座は今期限りだ。そこで、大統領の権限を強化したうえで、次は大統領の座を目指そうとしているともいわれる。

親イスラムのエルドアン政権の強権性に批判を強めている世俗派・アタテュルク主義者の反感が今回のイスタンブールの乱の底流にあるようだ。トルコの軍部は、極左・極右・イスラム原理主義・クルド民族主義に強い嫌悪感を持っている。過去、政治が混乱するとクーデタで軍政を敷いたこともある。AKPが落としどころを間違えると、オリンピック開催だけではなく、EU加盟の目標も難しくなるような方向へと、坂道をころがり始める可能性もありうる。

(2012.6.4 花崎泰雄)

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