Podium

news commentary

酒と煙草

2024-07-20 22:51:24 | 社会

ロンドンとパリの間を英仏海峡の海底に掘ったトンネルを通って高速列車が走る以前のことだからずいぶん昔の話だ。パリからロンドンまでエールフランスの便に乗った。ちょうど昼時だったので、客室乗務員が軽食とワインのミニボトルを配った。客室乗務員は私の席のすぐ近くの中学生ほどの子どもにもワインのミニボトルを渡した。ワインの国だなあと、恐れ入った。そのころのフランスではワインやビールは16歳以上、家族同伴なら14歳以上で飲んでよろしいという規則になっていた。

まもなくパリでオリンピックが始まるが、19歳の日本の体操女子代表選手が飲酒と喫煙を咎められてオリンピック出場を辞退させられた。「日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても原則的に喫煙は禁止する」「日本代表チームとしての活動の場所においては、20 歳以上であっても飲酒は禁止とする」と定めた日本体操協会の「行動規範」に違反したのが理由だ。

とはいうものの「行動規範」は「合宿の打ち上げ、大会のフェアウェルパーティー等の場合は監督の許可を得て可能とする 」としている。監督の許可さえあればTPOに応じで飲酒可能としている。

団体行動を前提とした行事で皆でいっしょに飲む酒は問題ないが、監督の許可なしに個人として飲酒した選手は処分をうけるようである。

(2024.7.20 花崎泰雄)

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合衆国憲法修正第2条

2024-07-15 23:53:42 | 国際

「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保蔵しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」。この条文が米国の憲法修正第2条に入れられたのは1791年のことである(『世界憲法集第3版』岩波文庫)。

1791年は日本の年号でいうと寛政3年、11代将軍徳川家斉の時代である。米国でも日本でも先込め式の単発小銃が使われていたころだ。米国で連発式の小銃が使われるようになったのは19世紀に入ってからである。

2024年7月13日の米国ペンシルベニア州バトラーで、元合衆国大統領で11月の大統領選挙の共和党候補者であるドナルド・トランプ氏が狙撃された。銃弾はトランプ氏の顔をかすめ、同氏は耳にけがをした。選挙集会に参加していた1人が巻き添えで死亡、2人が重傷を負った。使われた銃は殺傷能力の高いセミオートマチックのAR-15型ライフル。短時間に複数の銃弾を放った。狙撃者とトランプ氏の距離は100メートル以上あった。

この「7月の銃声」がこれから先の世界にどんな悪夢を呼び込むことになるのか。誰にもわからない。

トランプ氏の政治の舞台への登場が米国の分断をもたらしたのか、米国の分断を利用してトランプ氏が上昇気流に乗ったのか。歴史家の綿密な資料収集と分析が待たれる。

さて、ケネディ大統領が暗殺され、その弟のロバート・ケネディ氏も銃撃されて死んだ。レーガン大統領も銃撃されたが、負傷で済んだ。キング牧師も銃で撃たれて死んだ。ジョン・レノン氏も銃撃されて死亡した。2022年5月に米テキサス州ロッブ小学校で生徒19人と教師2人が殺された銃撃事件をはじめ、公共の場所での銃乱射事件がアメリカでは多発している。

アメリカの銃撃事件の最大の原因は銃が身近なところにあることだ。そしてアメリカ人の相当部分が、銃撃による流血と死は合衆国憲法の1791年の修正条文を尊重し維持するための犠牲であるとの考え方を受け入れているからである。

(2024.7.15 花崎泰雄)

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敵失頼みの失敗

2024-07-08 00:19:47 | 政治

退屈な都知事選挙だった。これといった哲学を持っているわけではないが、状況に合わせて身振り手振りを変えて見せる政治技術の持ち主である現職都知事を自由民主党と公明党が水面下で支援した。これに対して、自民党の裏金スキャンダルに助けられて少しばかり人気があがった立憲民主党の元参議院議員が無所属で挑戦し敗北した。

東京都の予算規模は大きいが、都知事は日本の安全保障政策や沖縄問題に影響力があるわけでもなく、日本経済の指針やもっかの円安対策を指示できるわけでもない。東京一極集中は長い期間にわたって深刻な問題であり続けているが、東京都自体ががこれといった具体的な解決方法を模索している様子はない。東京一極集中解消に動き出せば東京は東京の特別なステータスを失い始め、都知事の椅子は道府県知事のそれに毛の生えた程度のものになって行く。

そういうわけで、今回の都知事選の最大の政治効果は崩壊寸前にまで追い詰められている自民党政権への、相撲で言えば野党のぶちかましだった、蓮舫氏は参議院議員だった2009年の民主党政権で予算の事業仕分けでこんな発言をしたことがある。世界一を狙うスーパーコンピューター「京」の予算に関して「世界一になる理由は?」「2位じゃダメなんでしょうか?」

今回の都知事選挙では、現職の小池百合子氏に得票で激しく肉薄できれば、2位で十分だった。敵失で得た立憲民主党の勢いを党代表選へむけて持続させる弾みになるはずだった。

(2024.7.7 花崎泰雄)

 

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政権を変えられる国、変えられない国

2024-07-01 14:50:25 | 政治

互いをののしり合う老いたライオンの一騎打ち――バイデン現大統領とトランプ前大統領の双方にうんざりしている米国の有権者を「ダブルヘイター」という。日本の新聞に載っていた。失語症気味の現職と虚言癖丸出しの前職だから、ダブルヘイターの嫌悪感に同情する。民主党がバイデン大統領を説得して選挙戦から退かせる工作をしているとの報道もある。アメリカ政治の老化の兆候だが、日本で高みの見物というわけにはいかない。アメリカの政権とちかしい政権を持つ国の民は、米国の大統領選挙に投票はできないが、アメリカ人の選択の結果の影響にさらされる。

英国でも7月の下院選挙で保守党が大負けしそうだと日本の新聞が伝えている。保守党政権が退陣し、労働党政権が誕生する公算が大きい。経済的な得失より、大陸ヨーロッパとのしがらみをすて、大陸に制約されないという自尊心の方を優先した英国のEU離脱の判断の結末ともいえる。

フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の与党が、右翼勢力の国民連合に押されている。欧州議会選挙でフランスでは大統領与党が大敗したため、どちらかと言えば発作的にマクロン大統領が議会を解散して選挙に打ってでた。自業自得である。イタリアではすでに右翼が政権を握っている。ドイツでも右翼が勢力を強めている。若いころであれば興味津々の政治状況だが、世俗のろくでもない出来事を経験してきた身には、「明日は嵐」の天気予報を聞きながら夕暮れの空を眺める気分だ。

安倍晋三氏が首相を務めていたころ、安倍氏はしばしば外国のメディアや政治コメンテーターから右翼と言われてきた。安倍晋三氏(当時首相)は2013年2月15日、朝日新聞の記事によると、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の会合で講演し、「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」と改憲の必要性を訴えた。米国のトランプ氏は「もし私が大統領だったとした、ロシアはウクライナに攻め込まなかった」と先ごろの選挙運動で言った。夜郎自大の発言で笑止千万だが、安倍氏の場合は横田めぐみさんを引き合いに出して憲法改正を急がせようとした。現行憲法では市民を守れない、その理由が省略されてところは、トランプ氏の法螺話と同じ作りである。

アベノミックスという言葉が存在感を失い、日銀総裁が黒田氏から植田氏に代わり、1ドルが160円という円安時代が始まった。この円弱はアベノミックスの後遺症――決定的な日本経済の沈没を象徴しているのではあるまいか。さらに、森友学園、加計学園、新宿御苑の桜を見る会、お気に入り検察官の定年延長のごり押し、内閣法制局を抱き込んでの安全保障関連の憲法解釈の変更、派閥の政治パーティー券をめぐるピンハネやキックバックなど、安倍政治の時代に日本の政治倫理は瓦解した。

都知事選のポスターが風俗営業法違反の疑いがあると警察が党首に警告する珍奇な現象が起こるような社会になってしまった。蒸し暑い梅雨の不快指数が跳ね上がっているが、これから都知事選挙の期日前投票に行って、自民党衰退につながりそうな候補者の名前を書こうと思う。

(2024.7.1 花崎泰雄)

 

 

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脱力の二重価格論議

2024-06-23 14:06:52 | 社会

姫路市が管理する姫路城の入場料を外国からの訪日客を対象に値上げするアイディアを姫路市長が公にした。朝日新聞6月23日朝刊によると「7ドルで入れる世界遺産は姫路城だけ。外国の人は30ドル払っていただいて、市民は5ドルぐらいにしたい」と市長が言った。

観光料金の二重価格である。何十年も前、北京の天壇公園へ行ったとき、入園料は「市民」と「外国人」の二重価格になっていた。この二重価格制度は中国が経済力をつけるとともに廃止された。収入よりも国際的な評判を気にしたせいであろうと思われる。また、メルボルンに住んでいたその昔、市内のチャイナタウンのあるレストランに日本語版のメニューと英語版のメニューがあり、料理の代金が異なっていることを知った。

金が欲しいのなら、「白サギ城」の2重入場料アイディアのような、そんなけちくさいことを考えないで、日本の入国税に相当する「国際観光旅客税」を引き上げればすむ。国際観光旅客税は日本を出入りする旅行者が1回の出国につき1000円の税を払うことを定めている。この金額は航空・船舶料金に含まれていて、航空会社と船舶会社が代理徴収分を国税庁におさめている。

現行1000円の国際観光旅客税を10倍増の10000円に引き上げるとすれば、ちょっとした増収になる。ビジネクラスやファーストクラスの利用者を対象に税額を上乗せすればさらなる増収が期待できる。その税金を国際観光客の急増で困っている都市に対策費として交付すればいいだけの話だ。

どこの誰が、こんなみっともない二重価格のアイディアを姫路市長に語らせたのだろうか?

(2024.6.23 花崎泰雄)

 

 

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御破算で願いましては

2024-06-15 22:28:21 | 政治

いつから梅雨に入りいつ頃梅雨が明けるのか。どうもはっきりしないが、6月20日告示、7月7日投票の東京都知事選は確定している。40人を超える人々が立候補を予定しているとメディアが伝えている。賑やかなお囃子にのって現職の小池百合子氏と参議院議員を辞して都政に挑戦する蓮舫氏との争いになると世間は面白がっている。小池氏がこれまでの2期8年、都知事として何をやったか――築地市場移転、東京オリンピック、神宮外苑再開発などをめぐる毀誉褒貶は新聞で読んだが、東京で暮らす人々の日常が、この8年間でどの程度よくなったのか、あるいは悪くなったのか、私にはわからない。蓮舫氏が都知事になって何をしようとしているのか、こちらもよくわからない。

小池―蓮舫対決は都政をめぐって行われる以上に、もっと大がかりな意味がある。

韓国の大統領の任期は1期5年に限られる。台湾総統の任期は4年2期限り、フランス大統領の任期は5年、連続2期まで可能、米国大統領の任期は4年2期まで。ロシア大統領は任期6年連続2期までだが、プーチン大統領が憲法を改正して、2024年からは過去の任期をノーカウントにして、あらたに2期12年とした。中国の国家主席は連続2期までだったが、習近平氏の時代に憲法を修正して任期の制限をなくした。習近平氏は現在3期目の国家主席を務めている。

「転石は苔むさず」という言葉を、肯定的に受け止めるか、否定的に受け止めるか。それは各地の文化や時代によって異なる。国家最高指導者の任期に制限を加えた米仏韓台は権力者のほど良い交代制度を法律で定めた。「さざれ石のいわおとなりて苔のむすまで」とうたってきた日本では公職の期間に制限を定めていない。

そうした事情もあって、日本では古くからの地盤・看板・カバンの3バン選挙を通じて、職業としての政治家の家業化がすすみ、自民党に見られるように、緊張感に欠ける世襲議員たちとそのとりまきが永田町にとぐろを巻いた。

自民党安倍派を中心とした政治パーティー券のスキャンダルを目の当たりにした日本の有権者たちは、日本経済の不振、賃金の低迷、不正規雇用の拡大、学術の賃貸、さらにはこのところの円の弱体化など、そのほとんどが自民党長期政権いすわりと無関係ではないと感じている。

岸田内閣の支持率は低迷を極め、自民党の党勢も大きく陰りを見せている。このところ各地の選挙で自民党は負けを続けている。小池都知事の3選で、何とか負け癖を払拭し、再起のためのカンフル剤にしたいと自民党は考えている。

ということは、小池都知事の3選を阻止できれば、保守政党としての自民党はそのダメージで強度の機能不全に陥り、野党に政権を渡さざるをえなくなる。

この原稿を書いている私のPCは年に1度くらいの割合で帯電して操作ができなくなる。また、部屋の中の家庭用wifi も帯電する。電源コードや機器の接続コードを引き抜いて10分ほど放置する、すると放電の効果で、PCが再び正常に動き出す。

(2024.6.15 花崎泰雄)

 

 

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政治ごっこ

2024-06-08 19:36:41 | 政治

かつて南米・ウルグアイに「世界一貧しい大統領」と、その清貧ぶりが国際的な評判になった政治家がいた。大統領在任中も首都モンテビデオ郊外の農場に住み、大統領の給与の多くを学校などに寄付した。ホセ・ムヒカ元大統領。いくつかのドキュメンタリーが作られた。友人から譲り受けたフォルクスワーゲン・カブトムシを自ら運転してして移動、国際会議からの帰国では、知り合いの他国の政治家の専用機に同乗させてもらったりした。「多くのものを必要とする者こそ貧しいのだ」が口癖だった。

ホセ・ムヒカ氏の清貧は政治的パフォーマンスだったのか、彼の信念だったのか。議論のあるところだったが、ムヒカ氏の生活態度は、金に手を汚さないで政治活動を続ける政治家の、マックス・ウェーバーいうところの「理念型」となりえた。「政治には金がかかる」と、政治資金規正法をめぐって合唱した自民党国会議員から見れば、ホセ・ムヒカ氏は「清貧のピエロ」であろう。

日本の岸田首相は、政治的にはレイムダック状態を過ぎ、政治的な死の床に体半分が入ってしまったような状態だ。岸田氏は政治的な危機感知能力に乏しく、危機への対応能力がないことが日本中に知れわたってしまった。

もう、そろそろ、というわけだろうか、菅元首相がさきごろ同じ自民党の萩生田前政調会長、加藤元官房長官、武田元総務相、小泉進次郎元環境相と東京麻布十番の日本料理店で会食した。

菅氏らが自家用車で日本料理店に到着、渋面を作って見せる一方で肩で風を切るといった感じの政治家特有の気負った身のこなしで次々と店内に入って行く様子をテレビニュースが放映した。レストランへの支払い、自家用車の運転手の給与、秘書の給与、ガソリン代、などの経費はどうなるのだろうか、と気にかかる。レストランへの支払いは割勘だろうか、だれかのおごりだろうか。金の出どころは議員歳費だろうか、政策活動費だろうか。議員会館の空き部屋で、食堂からざるそばでも取って、渋茶をすすりながら清貧の政治的論議はできないのだろうか。

いやいや、それでは彼らに気の毒だ。幼いこどもがままごと遊び(今でもやっているのだろうか?)に熱中するのと同じように、日本の(それに世界の沢山の)政治家は政治ごっこが好きなのだ。これ見よがしに権勢を肩に担ぎ、同業者や世間の耳目を集めることで快感をえているのだから。

議員が使える様々な経費を有効に使って政治的パースペクティブを広げ、政治哲学を深め、それを選挙区で訴える議員は少ない。さまざまな手法でかき集めた資金を選挙区の支持培養費に充てる議員は多い。これからの日本は働く人口が減り、高齢者が増え、消費は伸びず、企業などの生産性の飛躍的な伸びも期待できなくなる。縮む日本にふさわしいじり貧経済における公正な再分配の手法――新しい資本主義――は、ボスが集う高級レストランのメニューには載っていない。

(2024.6.8 花崎泰雄)

 

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梅雨入り前の感傷

2024-06-01 21:54:16 | 政治

このところ失笑させられることが多い。たとえば北朝鮮が韓国に飛ばした"風船爆弾“。大型の風船に廃棄物や汚物を結び付けて、北朝鮮国内から38度線を超えて韓国領内に送った。飛んできた風船の荷物の廃棄物から細菌やウイルスが出てきたという報道は今のところない。卵をにくい相手に投げつける憎悪の表明の国際版だが、双方の憎悪が高まれば、廃棄物・汚物が銃弾・砲弾に代わる可能性がないわけではない。韓国と北朝鮮は38度線をこえて、宣伝用印刷物などを相互に風船で飛ばし合ってきた。ある意味で毎度のことの延長線上の行為である。別の意味では、いいおとながこどもだましのような侮蔑の交換をしていることに唖然とする。政治というものはそんなにこどもっぽいものなのだろうか。

米国ではバイデン現大統領を相手に、11月の大統領選挙をあらそうトランプ前大統領の不倫口止め料に関連する裁判で、陪審員がトランプ氏に有罪の評決をした。このコラムの筆者が若いころには、米大統領はWASPで、離婚歴がないことが当選の条件とされていたが、この半世紀で米国社会の雰囲気はだいぶ変わってきたようだ。トランプ氏が元ポルノ女優を相手にした不倫は事実であり、彼女に口止め料を支払ったことも事実である。その支払いの手続きに違法性があったことが今回の裁判の焦点だった。その裁判の有罪評決を魔女狩りだの、腐敗した判事の策謀だと公言し、真の評決は11月の大統領選挙で国民が出す、とトランプ氏は支持者に語りかけた。米国から太平洋で隔てられた日本に伝わってくる断片的な情報から判断すれば、トランプ氏は歴代米国の大統領の中でも知性を研磨することの少なかった1人であるように見受けられる。考え方は自己中心的で、自らの存在を異様に増幅して認識している張子の虎のようなものである。トランプ氏が前回当選したとき、「核のフットボール」とよばれる黒いカバンをどうやってトランプ氏の目につかないようにするか、という議論があった。彼は情緒不安定な人物であると、米国人の半分が考えており、残る半分は彼こそ最高の大統領であると信じている。第2次大戦後の米国の外交政策にはベトナム戦争を始めおかしな点が多々あったが、その自己中心的な米国民衆の錯乱がトランプ氏の周りで渦を巻いている。これは止めて留められるようなものではい。静まるまで待つしかないのだが、その時まで、世界の情勢が小康状態を保てるかどうか、不安がある。

日本では、自民党の岸田首相が公明党の山口代表、日本維新の会の馬場代表と会談、今の国会で政治資金規正法の成立させるために妥協した。次の総選挙で自民党が惨敗する可能性があり、その時は自民・公明・維新で連立政権を組み、政権内部でおいしい思いをしようと計算しているのであろう。クリーンな政治は大切だが、まずは権力の座を狙うのが、政党が目指すところであるという、伝統的な政治学が教えるところだ。その代わりにといってはなんだが、有権者諸君は定額減税で夏休みをお楽しみあれ、というのが岸田首相の思い付きである。

   世の中をなににたとへむ朝ぼらけ漕ぎゆく舟のあとのしら浪 (拾遺集)

 

(2024.6.1 花崎泰雄)

 

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にほん?/にっぽん?

2024-05-26 15:55:00 | 社会

朝日新聞5月25日付朝刊オピニオン・ページのコラム『多事奏論』で、高橋純子・編集委員の「思想は深いがいい つるっと『にっぽん』多用の怖さ」という記事を読んだ。

その記事の一部でNHKの連続ドラマを引き合いに出して高橋氏は次のように書いていた。

           *

 ただ、「虎に翼」では個人的にひとつだけ、残念だったことがある。第1話、冒頭のナレーション。

 「昭和21年。公布されたにっぽんこくけんぽうの第14条にこうあります」

 NHKに問い合わせたら「日本国憲法を、にほん、にっぽん、どちらで呼称するかは番組の判断」との回答だったが(つれない)、ぜひ「にほん」と読んでほしかった。正否の話ではない。「にっぽん」がつるっと多用されることへの警戒心を、私はどうしても拭えないのだ。

         *

そのあとで、鶴見俊輔や戸坂潤を引き合いに出し、日本が「にほん」ではなく「にっぽん」と発音されるのは、侵略思想を広げようとするときであると高橋氏は主張し、「おびただしい数の命や声や思い。その犠牲の上に誕生した憲法はやはり、『にほんこくけんぽう』と読まれてほしい」と書いている。

 

日本国憲法を「にっぽんこくけんぽう」と発音すれば、背後に「だいにっぽんていこくけんぽう」の亡霊を感じる人もいれば、感じない人もいる。それはともあれ、日本橋は大阪のそれは「にっぽんばし」で東京のそれは「にほんばし」と発音される。しかし、大切な日本国憲法は全国一律で「にほんこくけんぽう」と発音してほしいと、編集委員は願っているのだろう。

 

一般的には、日本を「にほん」と発音するか、「にっぽん」と発音するかは、言葉の前後関係でどちらでもいい話だ。日本脳炎を「にほんのうえん」と発音しようと「にっぽんのうえん」と発音しようと、それが危険な夏の感染症であることは同じ。日本刀を「にほんとう」と発音しても「にっぽんとう」と発音しても、切ったら血が出る人斬り包丁に変わりはない。

(2024.5.26 花崎泰雄)

 

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連休恒例の官費外遊

2024-05-02 02:25:57 | 政治

岸田文雄内閣総理大臣が5月1日政府専用機で3か国訪問の旅に出た。ついでに言えば、岸田内閣の他の閣僚13人もこの連休中に外遊に出る。「外遊」とメディアは言うが、日本政府の外交を進めるための、国費による外国出張である。外遊にでかける大臣の数は閣僚の3分の2以上になる。

岸田首相はフランス、のブラジル、パラグアイへ旅する。上川陽子外相は6カ国へ。アフリカ3カ国と南アジア2カ国、フランスへ。パリで開かれるOECD閣僚理事会には、岸田首相、上川外相、松本総務相、斎藤経産相、河野デジタル相、新藤経済再生担当相が出席する。斎藤氏と伊藤環境相はG7気候・エネルギー・環境相会合に出席。自見万博担当相はパリで博覧会国際事務局のケルケンツェス事務局長と会談を予定。

自民党は「統一教会」問題でブーイングを浴びた。続いてパーティー券裏金問題。一番大がかりだった安倍派は派閥の岩盤がひび割れ、さしものに二階氏も次の選挙には出馬しないと言わざるを得なくなった。麻生派以外は派閥の解消を表明した。自民党は衆院補選で東京15区と長崎3区で党公認候補を立てることができなかった。不戦敗2。島根1区で立憲党候補が自民党候補を破った。敗戦1。

岸田首相には、国賓待遇で訪米した時のような高揚感は、おそらくないだろう。記録的円安が続いている。円相場の高下はアメリカの金利次第で、日本にできることは多くない。アメリカから武器を買うが、このさきの支払いをどうしたもんだろう。円安で日本観光に来た外国人が観光地を闊歩する。海外旅行をあきらめた日本人の鬱屈。首相は足どり重く3か国をめぐり、先々の事を考えて宿舎で寝付けない夜を過ごすことだろう。といって、自民党総裁・総理大臣の延命策はない。ただそんなことを気に欠けるような人物ではない、と岸田氏の鈍感力を指摘する報道も少なからずある。

自民党内からはこの3補選全敗の責任を問う声が聞こえない。反岸田勢力の核になる議員が今のところ見当たらない。有権者の自民党批判の声も、時が過ぎれば小さくなってくる。”governability” という英単語を、昭和のころには「統治能力」と誤解する政治家が多かった。本来は「統治を受け入れる国民の側の許容度」といった意味である。したがって、岸田氏にとっての「蜘蛛の糸」は、よりどころの派閥を失った自民党国会議員の「ガバナビリティー」と日本の選挙民の「ガバナビリティー」だけである。

外遊中の諸大臣のみなさまの実りある出張を祈念します。

(2024.4.9 花崎泰雄)

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