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news commentary

あとは野となれ……

2018-10-31 00:55:48 | Weblog

トランプ米大統領は就任するや否な、TPPからの離脱を宣言した。気候変動枠組パリ協定からも離脱した。古い友人である欧州に背を向ける外交姿勢をとった。北の国境で接するカナダと南の国境で接するメキシコと意味のない摩擦を起こした。北朝鮮のキム・ジョンウン委員長とシンガポールであった。中国と貿易戦争を始めた。これらは中間選挙に間に合うような見栄えのする結果は生まなかった。

それではと、ホンデュラスから数千人の人々がキャラバンを組んで徒歩でメキシコ国内を縦断し、米国国境を目指していると騒ぎ出した。ペンタゴンに5000人ほどの兵隊を国境に送るよう指示した。軍隊の米国内派遣に関しては賛否両論があるらしいが、ここはひとまずおく。

米国内のメディアが面白がって(というか、愚劣の極みとして)報道しているのは、トランプ支持者には、米国を目指すキャラバンは、民主党寄りの投資家ジョージ・ソロス氏が資金を出して組織したものだと信じている人が少なくない点である。ソロス氏やオバマ前大統領にパイプ爆弾が送りつけられた。

トランプ大統領自身もツイッターに「ギャングや、たちの悪い奴らがキャラバンに紛れ込んでいる」と書いた。CIAの情報というよりは、彼の妄想ないし意図的なフェイクだろう。CIA情報ならとっくにメディアにリークされている。

アメリカの中間選挙の投票日(11月6日)まで1週間となった今日、米国の新聞(日本の新聞もそうだが)アメリカ合衆国の国籍出生地主義をやめさせるためトランプ大統領が行政令を準備しているといっせいに報じた。

トランプ大統領はこう語った。

 “We’re the only country in the world where a person comes in and has a baby, and the baby is essentially a citizen of the United States for 85 years, with all of those benefits……It’s ridiculous. It’s ridiculous. And it has to end.”

例によってこれまた大統領のフェイクである。でなければ、大した認識不足である。

北の隣国・カナダも南の隣国・メキシコも国籍については出生地主義を採用している。

くわえて、合衆国憲法修正14条は次のように定めている。

All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the state wherein they reside.

同じころ、キリスト教民主同盟の党首を辞任すると表明し、首相の職務も2021年を限りと語ったドイツのメルケル首相に対して、ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員室が次の言葉を贈った。

Compassionate when hearts grew cold, committed to unity when others abandoned it.

トランプの対極にあったメルケルが眩しかったのであろう。

 

(2018.10.31  花崎泰雄)

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社会主義アメリカ

2018-10-14 23:09:43 | Weblog

 筆者がまだ若かったころ、米国の大学・大学院に留学する日本人学生は胸部レントゲン撮影のフィルムを大学当局に提出するよう求められた。

「アメリカは結核を怖がっているんだ。それと社会主義とね。蔓延すると大変だから」

米国通がそう教えてくれた。

米国にも共産党や社会党があり、中国にも共産党以外の政党があるが、それらは同時に無いに等しい。政党活動の自由を認めているというアリバイのために存在しているだけだ。

先の米国大統領予備選挙で、バーニー・サンダース上院議員が民主党の候補者選び名乗りを上げて、一気に支持者を増やしていったことはまだ記憶に新しい。

サンダース氏は予備選挙中に自らを社会主義者と称することはしなかった。一般のアメリカ人は社会主義という言葉を聞くと、独裁者、強制労働キャンプ、言論の自由の欠如などを連想するからという理由だった。

その代り彼は「政治的民主主義」や「平等」という信念があるのなら、「経済的民主主義」もまたあるべきである、という言い方をした。著書の中で「ビル・クリントンは中庸な民主主義者。私は民主社会主義者」と書いた。また、「20年前には社会主義というとソ連やアルバニアを連想した。いまではスカンディナヴィア諸国を連想する」と2006年に新聞のインタビューで語った。「中間層が減り続け、労働者の所得がトップ1パーセントの超富裕層の懐に流れ込んでいる。中間層の富も同じことだ。何兆ドルもの富が過去30年の間に、中間層から富裕層に吸いあげられた。これは正しいことだろうか?」

サンダース氏は民主党の大統領候補者にはなれなかったが、強い印象を残した。

さて、中間選挙を前にトランプ米大統領は最近、「中道的な民主党は死んでしまった。いまの民主党は過激な社会主義者で、アメリカの経済をヴェネズエラのようにしようとしている。若し民主党が11月の中間選挙で議会多数派になったら、アメリカは危険なまでに社会主義に近づくことになろう」とUSA Today紙に書いた。

「社会主義」という言葉で、民主党の足を引っ張ろうという作戦だ。

それにしても、いつもツイッターに書いているような粗雑な思考と文章を、日刊紙にのせる米大統領の頭の中も不思議だ。民主党に社会主義というラベルを張り付ければ共和党支持者増につながると、本気で信じているのだろうか。合衆国市民の頭の中はそれほど空疎なのだろうか。日本に対して戦後民主主義を教えたアメリカと今のアメリカははたして同じ国なのだろうかと、一瞬、めまいがする。

   (2018.10.14  花崎泰雄)

 

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運がいいのか悪いのか

2018-10-03 20:37:07 | Weblog

沖縄県知事選の投開票日の9月30日、本州のメディアは台風24号のニュースにかかりきりだった。沖縄知事選で安倍政権が支援した候補が敗れ、安倍政治のほころびが見えたが、メディアはそのほころびを取り上げて詳しく分析する暇がなかった。あるいは、分析や知事選論評が、沖縄以外では台風ニュースほどには関心を持たれていないと判断したのかもしれない。

すこし待てば沖縄問題の突っ込んだ分析が出るかもしれないと期待していたが、今度は京都大学の本庶佑特別教授のノーベル賞受賞のニュースが飛び込んできた。テレビも新聞も報道は本庶だらけになった。

それにしても、日本の人はノーベル賞が好きだ。ノーベル賞が人の栄誉の最高基準だと勘違いしている。それが証拠にノーベル賞を受賞するとすぐさま文化勲章がでる。本庶氏はすでに文化勲章をもらっているので、再度もらうことはないだろう。ノーベル賞は北欧のどこかの町の選考委員会が選ぶのではなく、全知全能の神様が裁定するかのごとき幸せな誤解をしている。ノーベル賞文学賞が今年出せなくなったのは、選考委員会内部の人間臭に満ちたスキャンダルが原因である。

ついでの感想は、日本のメディアはガラパゴス・メディアであるということだ。今年のノーベル医学生理学賞は本庶氏とともに米国・米テキサス大のジェームズ・アリソン教授が受賞しているが、アリソン教授の業績をきちんと紹介した日本のメディアは少なかった。

日本人にとっては科学的業績の内容よりも、ノーベル賞をとったのが日本人である事のほうが大事で、それだけで十分である、とメディアが考えているからだ。

英国・BBCのサイトでこのニュースを読んだが、本庶・アリソン両氏の業績に関しては公平に業績を紹介していた。イギリス人の受賞者がいないからだ、と反論があるだろう。

ニューヨーク・タイムズ紙の電子版を開くと、そこでもアリソン氏と本庶氏の仕事が公平に紹介されていた。アリソン氏が主で、本庶氏が添え物という感じは全くない。それは、アメリカ人はしょっちゅうノーベル賞を受賞しているからだ、という反論があろう。確かに……。

これでまた、沖縄問題の深層にせまる解説記事にお目にかかる機会が先延ばしになった。

それから今度は、自民党役員人事と内閣改造だ。日本の国会議員の目標は大臣になることである。したがって内閣改造は与党議員の定期異動である。大臣は変わるが役所は変わらない。

あれやこれやで、知事選後の沖縄についての本格的な分析記事はまだ出ていない。

「しょうがないね」と沖縄知事選の敗北の感想を語った安倍晋三首相にとっては、ここ数日のニュースは干天の慈雨だろうが、沖縄の人々にとっては、沖縄の人々の政治選択の意味が沖縄以外の人々にきちんと伝わらいという意味で、運の悪い数日だった。

          (2018.10.3 花崎泰雄)

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世界は笑う

2018-09-26 23:08:40 | Weblog

 トランプ米大統領が9月25日(現地時間)ニューヨーク市で開かれている国連総会で演説した。

冒頭、トランプ政権は発足2年もたたないうちに米国のどの政権よりも多くの業績を成し遂げたと、トランプ氏が国連総会とトランプ支持集会を取り違えたような発言をした。そのとき、世界中から総会に出席していた代表たちが笑い出した。

トランプ氏は思いがけない反応に、演説のプロンプターから目を離し、アドリブで「本当です」と言った。これが会場のさらなる笑いを誘った。「そういう反応は予想していなかった。まあかまいませんけれど」と、トランプ氏も気まずそうな笑いを浮かべた。

国連総会での場内の失笑は異例のことで、故カダフィ氏の支離滅裂な演説の時も笑った人はいなかった、と『ニューヨーク・マガジン』が書いた。

日本から総会に行った安倍さんも会場にいて、お付き合いで笑ったのかな?

 (2018.9.25  花崎泰雄)

 

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トランプ批判と国家機密

2018-09-09 17:10:04 | Weblog

「ブレジネフは阿呆だ」とモスクワの赤の広場でウォッカのボトルを持った男が叫んだ。すぐさま男は警察に逮捕された。「国家元首侮辱罪か?」。男が訪ねた。いや、と警察が言った。「おれは秘密警察だ。お前の言ったことは国家機密漏洩罪になる」。旧ソ連時代にはこんな政治風刺小話が街にいっぱいあふれていた。

2018年9月8日の朝日新聞夕刊によると、トランプ政権幹部が匿名で大統領批判をした文章が『ニューヨーク・タイムズ』のオピニオンのページ掲載されたことをとがめて、トランプ大統領が「国家安全保障の問題」だとして、筆者を特定するための調査を司法長官に指示する考えを示した。

 以下、朝日新聞記事の引用。

「トランプ氏は6日の米モンタナ州の集会で、政権幹部の寄稿を『国家反逆罪だ』と批判した。さらに7日、大統領専用機「エアフォースワン」の機中で記者団に、『私はジェフ(セッションズ司法長官)に、この記事はだれが筆者なのか調査するべきだと言うつもりだ。私はこれは本当に国家安全保障上の問題だと思う』と強調。また、『彼(匿名の政権幹部)は、セキュリティークリアランス(秘密取扱者適格性確認)を得て、中国やロシア、北朝鮮などに関するハイレベルの国家安全保障の会議に参加している。彼にこうした会議には出て欲しくない』と語った。ただし、米メディアによると、寄稿の内容には国家安全保障上の機密情報は含まれていないため、司法省が現実に調査を開始するのは困難との見方が強い。一方、ニューヨーク・タイムズは7日、『我々は合衆国憲法修正第1条(言論の自由)がすべての米国市民を守っていることを、司法省は理解していると確信している』との声明を発表した」

トランプ大統領が“国家安全保障の問題”としたのは、「私はトランプ政権内部の抵抗勢力の1人だ――トランプ大統領の下で仕事はしているが、心を同じくする同僚と私は大統領の愚かしい政策や性癖を阻もうと誓っている」との見出しが付けられている9月5日付の寄稿である。

「トランプ大統領はこれまでの現代アメリカ大統領が直面したことのない試練と向き合っている。特別検察官の存在が大きくなっているからではないし、トランプ氏の指導力をめぐってアメリカ社会が割れているからでもなく、共和党が下院選挙で、大統領の失脚を狙う民主党に負ける可能性があるからでもない。大統領がよくわかっていないディレンマは、トランプ政権内部の上級幹部の多くが、大統領の政策と政治的性向を妨害しようと額に汗して働いていることだ」

「問題の根っこには大統領の道徳意識の欠如がある。トランプ氏と一緒に仕事をする誰もが、トランプ氏の政策決定には知性ではっきりと認識できる大事な原則が見当たらない、と感じている」

寄稿文のトランプ批判は手厳しい。トランプ氏は共和党の大統領だが、保守党がながらく大切にしてきた自由な精神、自由な市場、自由な人民という理想に何らの親近感も持っていない。重要な政策の変更が目まぐるしく変わる。外交面ではロシアのプーチン氏や北朝鮮のキム・ジョンウン氏のような専制政治家や独裁者に好感を持っている。反対にこれまで考え方を共有してきた同盟国をなおざりにしている、などと続く。具体的な問題点の多くはすでにトランプ大統領がフェイクニュースと悪態の対象にしたメディアが報じて来たものだ。

トランプ政権の幹部が政権内部で反トランプ政策に汗を流しているため、アメリカ合衆国の行政がトランプ大統領と反トランプ幹部に分断され、二重路線になっていることだ(The result is a two-track presidency.)と匿名の寄稿者は書いている。

アメリカ合衆国に二重権力状況が近づいている。国家安全保障の機微に触れる衝撃的な情報といえる。

             (2018.9.9 花崎泰雄)

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夏安居

2018-07-01 10:40:21 | Weblog

6月中に関東甲信梅雨明けのアナウンスがあり、カンカン照りの日々が始まりました。高温多湿、世界最悪の季節です。

安居はかつてインドの仏教教団の慣行でした。春から夏にかけてのインドの雨季に、僧たちは外出を避けて修行に専念しました。「雨安居」――仏教辞典によると雨季の外出では草木の若芽をふんだり昆虫類を踏んづけたりすることが多いこともその理由だったそうです。

日本でも陰暦の4月16日、または5月16日から3ヵ月の安居が行なわれました。「夏安居」「夏行」「夏籠り」「夏勤め」「坐夏」と呼ばれました。たんに「夏(げ)」とも。

これにならって Podium は7月から8月いっぱい、夏安居に入ります。くだらないことを口走らず、軽挙妄動を慎んで、沈思。心頭を滅却すれば火もまた涼し、ということで。

(2018.7.1 花崎泰雄)

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体制保証とその後

2018-06-13 22:21:56 | Weblog

北朝鮮のキム・ジョンウン委員長が手に入れたのは「体制保証」の約束で、アメリカのトランプ大統領が手にしたのは、CVID抜きの非核化の約束の再確認だけだった。「おいぼれのゴロツキ」が「ちびのロケットマン」に「ディール」でしてやられた――という風な論調が、米国やヨーロッパ、それに日本の――トランプ氏が嫌いな――メディアで流されている。

自らに有利な共同声明に署名して、その後のこうるさい記者会見をトランプ氏にまかせて、自分は記者会見をさけたキム氏の異例の欠席は、カナダのG7を中座したトランプ氏の行動を参考にしたのだろうか?

日本の新聞の多くは「体制保証」は即ち「キム・ジョンウン体制の保証」と報じたが、「体制保証」という言葉は、6月12日シンガポールのセントサ島で行われたトランプ―キムの米朝首脳会談の共同宣言のどこにも書き込まれていない。ホワイトハウスのサイトで米朝共同宣言を読むと、

President Trump and Chairman Kim Jong Un conducted a comprehensive, in-depth, and sincere exchange of opinions on the issues related to the establishment of new U.S.–DPRK relations and the building of a lasting and robust peace regime on the Korean Peninsula.  President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.

とある。この英文は以下のような日本語に翻訳されて朝日新聞に載った。

(トランプ大統領とキム・ジョンウン委員長は、新たな米朝関係の構築と、朝鮮半島の永続的かつ強固な平和体制の建設について、包括的かつ綿密で真摯な意見の交換をした。トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、キム・ジョンウン委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた確固とした揺るぎない責務を再確認した)

トランプ氏が約束したのは「北朝鮮の安全の保証」である。北朝鮮と米国の間には停戦協定(北朝鮮は過去何度も停戦協定の破棄を口にしている)があるのみで、相互防衛条約のようなものはないのであるから、北朝鮮に安全の保証を与えるという文言は、日米安保とは違って、北朝鮮が他国から攻撃を受けた場合、米国が助けるということではさらさらない。北朝鮮の政治体制は世界でも類のない独裁制で、民主主義のラッパを吹いてきたアメリカが、その独裁体制を保証すると公文書で明言できるわけもあるまい。そもそも、外国がある国の安全を保障することはできたとしても、その国の特定の政権や政治体制を保証することができるだろうか? 米国大統領が共同声明で日本の安倍体制を保証するといえば、それがどんなに馬鹿げた発言であるかは、論を待たないだろう。したがって、「北朝鮮に安全の保証を与える」(to provide security guarantees to the DPRK)という記述は、米国は停戦協定を破って北朝鮮を攻撃することはない、という意味であると読む以外にない。北朝鮮指導者は永らく米国から攻撃されるのではないかという恐怖感にさいなまれてきたというのが世間の認識だった。

その恐怖を打ち消すために、北朝鮮は非核化のごまかしを繰り返しなら核弾頭を持ち、それを運ぶICBMの発射実験に成功した。今度は北朝鮮が米国に不安を呼び起こさせて、トランプ大統領に腰をあげさせ、念願の米朝両国の首脳同士のサシの話し合いまで持ちこんだ。

そうした過去のいきさつを踏まえて、世間が「北朝鮮の安全の保証=金王朝支配の保証」と理解しているだけである。

それはさておき、米朝首脳会談そのものは歓迎すべき出来事である。

首脳会談はこの秋の米国の中間選挙とその後の大統領再選をねらったトランプ氏の景気づけという見方もある。トランプ氏が大統領再選に失敗すれば北朝鮮問題を早急に解決しようという米国側の機運は薄れ、トランプ氏が再選すればトランプ氏にとって北朝鮮の利用価値は低下する。

さて、シンガポール会談の後、運が良ければ北朝鮮の非核化は時間をかけて実現に向かうかもしれない。運が悪ければ、冷戦の負の遺産である朝鮮半島の非武装地帯を挟んで、これまでと同じいがみ合い、脅し合い、虚勢の張り合い合戦が再開され、偶発核戦争の恐怖で、再び眠れない夜がやってくる。

運良く、北朝鮮の非核化をめぐり時間のかかる交渉が始まったとしても、「朝鮮半島の非核化」という文言を廻り、北朝鮮の核のCVIDだけではなく、過去に在韓米軍が保有していたが1990年代には撤去されたとされる戦術核兵器の韓国内での徹底的な検証を北朝鮮が要求することになる。

「北朝鮮の安全の保証」をめぐっては、在韓米軍の存在はもちろん、在韓米軍と一体となって北東アジアの安全保障を担っている在日米軍にまで話が及ぶことになろう。在韓米軍は韓国の安全を保障し、在日米軍は日本の安全を保障するのが目的であるという主張と、韓国と日本の安全を保障する駐留米軍は同時に北朝鮮にとっては安全保障上の脅威になるという千日手――安全保障のディレンマが浮上し、決着がつかなくなる。

すったもんだの交渉の終着点は、北朝鮮に対する攻撃か、北朝鮮の核保有を既成事実として容認する、の二者択一を米国がせまられる事態へと発展する。

北朝鮮の非核化の道のりは、停戦協定にかわる米朝の平和条約締結の交渉と同時進行で進まなければならず、それには骨の折れるデリケートな外交交渉の積み重ねが必要になる。一発ウケをねらうトランプ大統領を頭に頂いた現在の米政権の政策企画能力ではこなしきれない作業である。

(2018.6.13 花崎泰雄)

 

 

 

 

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ジョーカー、ライアー、マッチョ、トランプ

2018-06-11 16:37:01 | Weblog

ダグラス・ホフスタッターの『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(白揚社)は、翻訳出版された当時、書評欄で話題になった。その本の中に、

 エピメニデスはクレタの人で、次のような金言を残した。「クレタ人はみなうそつきである」

という記述がある。昔から論理学的に豊かな話題を提供してきた故事である。

これに似た話が現代の米国にもある。

トランプ米大統領がフェイク・ニュースと呼ぶ米国の主要メディアは「トランプはうそつきである」と報道している。

そのようなトランプ氏がG7のホストをつとめたカナダ首相のトルドー氏を “dishonest and weak” と罵る言葉をツイートした。トランプ氏が唱えたアメリカ・ファーストの保護主義貿易をめぐって、欧州とカナダのリーダーたちから厳しい批判を浴びたことへのお返しだろう。批判がトランプ氏のナイーブで過敏な自尊心を逆なでしたのだろう。それ以上に、トランプに抗う奴はののしりを受けることになる、そのせいでG7がどうなろうとおれの知ったことか、と会議途中で席を立ったタフガイの姿を、アメリカのトランプ支持者やキム・ジョンウン氏に見せたかったのである。

外交辞令は単なる美辞麗句の羅列だけではなく、所々に辛辣な針をしかけた文章テクニックをいう。G7のメンバー国の首脳が会議の途中で席を立ち、さらにホスト国の首相の人格を誹謗するような書き込みを公にするのは、外交上気極めて稚拙で異例のことである。最初からけんか腰では外交にならない。

さて、トランプ米国大統領は、キム・ジョンウン委員長との会談で、非核化をめぐって満足できる交渉にならないとわかった場合はすぐさま席を立つ、と公言してきた。G7では憤懣やるかたなく会議途中で席を立ってみせたが、シンガポールでこれといった成果を手にしないまま、会談の最後までキム・ジョンウン氏の相手をずるずると務めるということにでもなれば、それはそれで、マッチョ・トランプにとってマイナスイメージになるだろう。G7では席を立ったのに、なぜシンガポールでは席を立たなかったのか、と。

 (2018.6.11 花崎泰雄)

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給与1年分自主返納

2018-06-04 23:35:16 | Weblog

麻生太郎財務大臣が一連の森友問題のゴタゴタに関連して、閣僚給与を1年分自主返納するという。

国務大臣の給与は現行で2930万円ほど。所管の違いに関係なく一律である。約3000万円を自主返納するのかというと、そういうことではないらしい。

麻生氏は財務大臣であると同時に衆議院議員である。国会議員が国務大臣になった場合は、「議員で国の公務員を兼ねる者は、議員の歳費を受けるが、公務員の給料を受けない。但し、公務員の給料額が歳費の額より多いときは、その差額を行政庁から受ける」(国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律、第7条)ことになる。

国会議員の歳費は年額2200万円ほどで、国会の予算から支給される。国務大臣給与から議員歳費を差し引いた差額は、それぞれの省の予算から支給される。

麻生太郎財務大臣の場合は、計算上、その差額約700万円を自主返納することになる。しかしながら、国務大臣給与はすでに政策上の判断で減額されているので、麻生氏が自主返納する実際の額は170万円と報じられている。1ヵ月あたり15万円弱である。

国会議員がその歳費を返納すると、国庫への寄付行為とみなされ、政治家の寄付行為を禁止している公職選挙法との関連で、そうとう厄介な事案に発展する。公務員としての給与の自主返納は公職選挙法に抵触しないとされている。

 ●麻生太郎財務大臣が閣僚給与1年分を自主返納

 ●麻生太郎財務大臣が閣僚給与1年分170万円を自主返納

だいぶ印象が違ってくる。

170万円か。

麻生氏の国会審議中の意味のないヘラヘラ笑いや、傲岸不遜、傲慢無礼、無知蒙昧な記者会見の発言をテレビや新聞で今後、見聞きしないですむのであれば、「自主返納結構です。こちらから同額を追い払いいたしますので、どーぞ大臣席からお引き取り下さい」という気分の有権者は少くないだろう。

(2018.6.4  花崎泰雄)

 

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ポーカーの手みえみえ

2018-05-28 00:16:01 | Weblog

1972年のニクソン訪中による米中関係正常化の始まりは、1971年8月ニクソンが72年2月の訪中を発表するまで極々限られた人しか知らなかった。71年8月のニクソン訪中発表を聞いた当時の佐藤栄作日本国首相は目のくらむような思いだった。訪中発表に先駆けてキッシンジャー補佐官が極秘裏に北京に行き、中国首脳部と交渉をした。キッシンジャーの隠密外交を当時のアメリカのメディアはかぎつけることができなかった。ニクソン訪中発表から実際の訪中までには6ヵ月の準備期間があり、ニクソンが北京に降り立った時、共同声明の大筋は出来上がっていた。

米朝首脳会談のお膳立てでポンペオCIA長官(当時)が極秘裏にピョウヤンへ出かけたが、準備不十分なうちにトランプ大統領がしゃべり始めた。そのお喋りと、大統領側近の高飛車な対北要求に対抗して北朝鮮が会談の中止もありうると語り、米大統領が6月12日予定のシンガポール会談は中止と、北朝鮮の金委員長に手紙を書いたことを公にした。

そのあとすぐさま、米朝双方がその舌の根もかわかないうちに、6月12日にシンガポールで会ってもいい、と焼けぼっくいに火がついたようなことを言っている。

これまでは、政府間交渉は重要外交日程が終ってからしばらくたって、「会談やめだ、やってもいい、交渉には荒波が何度も襲ってきた」などという秘録でしか知りえなかった。外トランプ政権下のアメリカでは、外交の機微にわたる出来事が、米大統領の口と指先で広く世間に同時進行で伝えられている。

こうした型破りな、開かれたアメリカ外交はトランプ大統領ならではの事だろう。専門家に意見を聞いて考える前に、ついつい口が開き、指先がツイッターのキーを打ってしまう個性的な大統領ならではの展開だろう。

アメリカは北朝鮮のICBMが米本土到着前に処理する万全の態勢をまだ整えていないし、北朝鮮はアメリカの対北攻撃を心配している。だから双方が会うことを決意した。ICBMと核があったからこそ、アメリカ大統領が会おうと腰をあげかけている。ICBMと核のない北朝鮮だったら、アメリカは歯牙にもかけなかっただろうということを、北朝鮮はよく知っている。核とミサイルが北朝鮮のお守りであり、魔法のランプなのだ。

したがって、体制保障と経済援助が先か、核とミサイルの廃絶が先かという「卵と鶏のどちらが先か論争」に決着はつかない。キューバ危機の回避にあたって、ソ連がキューバから核ミサイルを撤去する見返りに、米国がトルコに配備していたミサイルを撤去するとソ連に約束した。

とはいうものの、援助と核開発の中止の取引が失敗したとトランプ氏とその政権は過去の米政権のやり方を非難しているのであるから、似たような取引はしないだろう。それでいて米国民中のトランプ・共和党支持者を歓喜させる手柄をあげたいのだから、会談失敗→北朝鮮への軍事攻撃開始という脅しが現実のものになる可能性がある。いまのところその歯止めは、朝鮮戦争の記憶である。米軍(国連軍)が中朝国境に肉薄すると、中国人民解放軍が参戦してきた。国連軍司令官だったマッカーサーは原爆の使用をトルーマン大統領に進言した。トルーマンはマッカーサーを更迭した。原爆を使用すれば、朝鮮戦争が半島の局地戦ではなくなるからだ。

さて、北朝鮮との交渉がこう着状態になり(大いにありうる)、それを一気に打破するために米国の大統領が核使用を含む北朝鮮への軍事攻撃を決意した時(トランプ大統領は何度も繰り返し口にしている)、いったい誰が米大統領を更迭することになるのだろうか?

(2018.5.28 花崎泰雄)

 

 

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