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news commentary

あとは野となれ……

2018-10-31 00:55:48 | Weblog

トランプ米大統領は就任するや否な、TPPからの離脱を宣言した。気候変動枠組パリ協定からも離脱した。古い友人である欧州に背を向ける外交姿勢をとった。北の国境で接するカナダと南の国境で接するメキシコと意味のない摩擦を起こした。北朝鮮のキム・ジョンウン委員長とシンガポールであった。中国と貿易戦争を始めた。これらは中間選挙に間に合うような見栄えのする結果は生まなかった。

それではと、ホンデュラスから数千人の人々がキャラバンを組んで徒歩でメキシコ国内を縦断し、米国国境を目指していると騒ぎ出した。ペンタゴンに5000人ほどの兵隊を国境に送るよう指示した。軍隊の米国内派遣に関しては賛否両論があるらしいが、ここはひとまずおく。

米国内のメディアが面白がって(というか、愚劣の極みとして)報道しているのは、トランプ支持者には、米国を目指すキャラバンは、民主党寄りの投資家ジョージ・ソロス氏が資金を出して組織したものだと信じている人が少なくない点である。ソロス氏やオバマ前大統領にパイプ爆弾が送りつけられた。

トランプ大統領自身もツイッターに「ギャングや、たちの悪い奴らがキャラバンに紛れ込んでいる」と書いた。CIAの情報というよりは、彼の妄想ないし意図的なフェイクだろう。CIA情報ならとっくにメディアにリークされている。

アメリカの中間選挙の投票日(11月6日)まで1週間となった今日、米国の新聞(日本の新聞もそうだが)アメリカ合衆国の国籍出生地主義をやめさせるためトランプ大統領が行政令を準備しているといっせいに報じた。

トランプ大統領はこう語った。

 “We’re the only country in the world where a person comes in and has a baby, and the baby is essentially a citizen of the United States for 85 years, with all of those benefits……It’s ridiculous. It’s ridiculous. And it has to end.”

例によってこれまた大統領のフェイクである。でなければ、大した認識不足である。

北の隣国・カナダも南の隣国・メキシコも国籍については出生地主義を採用している。

くわえて、合衆国憲法修正14条は次のように定めている。

All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the state wherein they reside.

同じころ、キリスト教民主同盟の党首を辞任すると表明し、首相の職務も2021年を限りと語ったドイツのメルケル首相に対して、ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員室が次の言葉を贈った。

Compassionate when hearts grew cold, committed to unity when others abandoned it.

トランプの対極にあったメルケルが眩しかったのであろう。

 

(2018.10.31  花崎泰雄)

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社会主義アメリカ

2018-10-14 23:09:43 | Weblog

 筆者がまだ若かったころ、米国の大学・大学院に留学する日本人学生は胸部レントゲン撮影のフィルムを大学当局に提出するよう求められた。

「アメリカは結核を怖がっているんだ。それと社会主義とね。蔓延すると大変だから」

米国通がそう教えてくれた。

米国にも共産党や社会党があり、中国にも共産党以外の政党があるが、それらは同時に無いに等しい。政党活動の自由を認めているというアリバイのために存在しているだけだ。

先の米国大統領予備選挙で、バーニー・サンダース上院議員が民主党の候補者選び名乗りを上げて、一気に支持者を増やしていったことはまだ記憶に新しい。

サンダース氏は予備選挙中に自らを社会主義者と称することはしなかった。一般のアメリカ人は社会主義という言葉を聞くと、独裁者、強制労働キャンプ、言論の自由の欠如などを連想するからという理由だった。

その代り彼は「政治的民主主義」や「平等」という信念があるのなら、「経済的民主主義」もまたあるべきである、という言い方をした。著書の中で「ビル・クリントンは中庸な民主主義者。私は民主社会主義者」と書いた。また、「20年前には社会主義というとソ連やアルバニアを連想した。いまではスカンディナヴィア諸国を連想する」と2006年に新聞のインタビューで語った。「中間層が減り続け、労働者の所得がトップ1パーセントの超富裕層の懐に流れ込んでいる。中間層の富も同じことだ。何兆ドルもの富が過去30年の間に、中間層から富裕層に吸いあげられた。これは正しいことだろうか?」

サンダース氏は民主党の大統領候補者にはなれなかったが、強い印象を残した。

さて、中間選挙を前にトランプ米大統領は最近、「中道的な民主党は死んでしまった。いまの民主党は過激な社会主義者で、アメリカの経済をヴェネズエラのようにしようとしている。若し民主党が11月の中間選挙で議会多数派になったら、アメリカは危険なまでに社会主義に近づくことになろう」とUSA Today紙に書いた。

「社会主義」という言葉で、民主党の足を引っ張ろうという作戦だ。

それにしても、いつもツイッターに書いているような粗雑な思考と文章を、日刊紙にのせる米大統領の頭の中も不思議だ。民主党に社会主義というラベルを張り付ければ共和党支持者増につながると、本気で信じているのだろうか。合衆国市民の頭の中はそれほど空疎なのだろうか。日本に対して戦後民主主義を教えたアメリカと今のアメリカははたして同じ国なのだろうかと、一瞬、めまいがする。

   (2018.10.14  花崎泰雄)

 

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運がいいのか悪いのか

2018-10-03 20:37:07 | Weblog

沖縄県知事選の投開票日の9月30日、本州のメディアは台風24号のニュースにかかりきりだった。沖縄知事選で安倍政権が支援した候補が敗れ、安倍政治のほころびが見えたが、メディアはそのほころびを取り上げて詳しく分析する暇がなかった。あるいは、分析や知事選論評が、沖縄以外では台風ニュースほどには関心を持たれていないと判断したのかもしれない。

すこし待てば沖縄問題の突っ込んだ分析が出るかもしれないと期待していたが、今度は京都大学の本庶佑特別教授のノーベル賞受賞のニュースが飛び込んできた。テレビも新聞も報道は本庶だらけになった。

それにしても、日本の人はノーベル賞が好きだ。ノーベル賞が人の栄誉の最高基準だと勘違いしている。それが証拠にノーベル賞を受賞するとすぐさま文化勲章がでる。本庶氏はすでに文化勲章をもらっているので、再度もらうことはないだろう。ノーベル賞は北欧のどこかの町の選考委員会が選ぶのではなく、全知全能の神様が裁定するかのごとき幸せな誤解をしている。ノーベル賞文学賞が今年出せなくなったのは、選考委員会内部の人間臭に満ちたスキャンダルが原因である。

ついでの感想は、日本のメディアはガラパゴス・メディアであるということだ。今年のノーベル医学生理学賞は本庶氏とともに米国・米テキサス大のジェームズ・アリソン教授が受賞しているが、アリソン教授の業績をきちんと紹介した日本のメディアは少なかった。

日本人にとっては科学的業績の内容よりも、ノーベル賞をとったのが日本人である事のほうが大事で、それだけで十分である、とメディアが考えているからだ。

英国・BBCのサイトでこのニュースを読んだが、本庶・アリソン両氏の業績に関しては公平に業績を紹介していた。イギリス人の受賞者がいないからだ、と反論があるだろう。

ニューヨーク・タイムズ紙の電子版を開くと、そこでもアリソン氏と本庶氏の仕事が公平に紹介されていた。アリソン氏が主で、本庶氏が添え物という感じは全くない。それは、アメリカ人はしょっちゅうノーベル賞を受賞しているからだ、という反論があろう。確かに……。

これでまた、沖縄問題の深層にせまる解説記事にお目にかかる機会が先延ばしになった。

それから今度は、自民党役員人事と内閣改造だ。日本の国会議員の目標は大臣になることである。したがって内閣改造は与党議員の定期異動である。大臣は変わるが役所は変わらない。

あれやこれやで、知事選後の沖縄についての本格的な分析記事はまだ出ていない。

「しょうがないね」と沖縄知事選の敗北の感想を語った安倍晋三首相にとっては、ここ数日のニュースは干天の慈雨だろうが、沖縄の人々にとっては、沖縄の人々の政治選択の意味が沖縄以外の人々にきちんと伝わらいという意味で、運の悪い数日だった。

          (2018.10.3 花崎泰雄)

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