トランプ米大統領は就任するや否な、TPPからの離脱を宣言した。気候変動枠組パリ協定からも離脱した。古い友人である欧州に背を向ける外交姿勢をとった。北の国境で接するカナダと南の国境で接するメキシコと意味のない摩擦を起こした。北朝鮮のキム・ジョンウン委員長とシンガポールであった。中国と貿易戦争を始めた。これらは中間選挙に間に合うような見栄えのする結果は生まなかった。
それではと、ホンデュラスから数千人の人々がキャラバンを組んで徒歩でメキシコ国内を縦断し、米国国境を目指していると騒ぎ出した。ペンタゴンに5000人ほどの兵隊を国境に送るよう指示した。軍隊の米国内派遣に関しては賛否両論があるらしいが、ここはひとまずおく。
米国内のメディアが面白がって(というか、愚劣の極みとして)報道しているのは、トランプ支持者には、米国を目指すキャラバンは、民主党寄りの投資家ジョージ・ソロス氏が資金を出して組織したものだと信じている人が少なくない点である。ソロス氏やオバマ前大統領にパイプ爆弾が送りつけられた。
トランプ大統領自身もツイッターに「ギャングや、たちの悪い奴らがキャラバンに紛れ込んでいる」と書いた。CIAの情報というよりは、彼の妄想ないし意図的なフェイクだろう。CIA情報ならとっくにメディアにリークされている。
アメリカの中間選挙の投票日(11月6日)まで1週間となった今日、米国の新聞(日本の新聞もそうだが)アメリカ合衆国の国籍出生地主義をやめさせるためトランプ大統領が行政令を準備しているといっせいに報じた。
トランプ大統領はこう語った。
“We’re the only country in the world where a person comes in and has a baby, and the baby is essentially a citizen of the United States for 85 years, with all of those benefits……It’s ridiculous. It’s ridiculous. And it has to end.”
例によってこれまた大統領のフェイクである。でなければ、大した認識不足である。
北の隣国・カナダも南の隣国・メキシコも国籍については出生地主義を採用している。
くわえて、合衆国憲法修正14条は次のように定めている。
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the state wherein they reside.
同じころ、キリスト教民主同盟の党首を辞任すると表明し、首相の職務も2021年を限りと語ったドイツのメルケル首相に対して、ニューヨーク・タイムズ紙の論説委員室が次の言葉を贈った。
Compassionate when hearts grew cold, committed to unity when others abandoned it.
トランプの対極にあったメルケルが眩しかったのであろう。
(2018.10.31 花崎泰雄)