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news commentary

なんとも人を食った話である

2024-04-27 01:34:30 | 国際

せんだってジョー・バイデン米大統領が遊説先のペンシルベニアで、第2次大戦に従軍していたおじが乗っていた軍用機がパプア・ニューギニアで墜落したが、彼の遺体は戻ってこなかった。あのたり人食いで知られたところだ、と話した。笑いをよぶための冗談のつもりだったのだろうが、判断力や注意力の劣化がうかがえる発言になってしまった。

第41代米大統領だったジョージ・ブッシュ・シニアはパイロットとして第2次世界大戦に従軍した。1945年の事だった。乗っていた軍用機が小笠原諸島の父島付近で日本軍に撃墜された。ブッシュ・シニアは海に落ち、米潜水艦に救助されたが、他の乗員8人は日本軍につかまった。日本軍が降伏した後、グアムで開かれた戦争裁判で、日本の軍人が8人の米軍人を殺し、その肉を調理して食べたとして有罪になった。5人の日本軍人が捕虜殺害と死体損壊の罪で死刑になった。

11世紀末、現在のシリアに攻め込んだ第1次十字軍の兵は、糧食が尽きたため、攻め込んだマアッラという町で、合戦で殺したイスラム教徒の死体から肉切り取って食べたと、キリスト教徒側とイスラム教徒側双方の記録に残っている。

18世紀のアイルランドは事実上イングランドの植民地で、カトリックのアイルランド人は英国教会のプロテスタントから差別的な扱いをうけ、民衆は貧困と食糧不足で苦しんでいた。『ガリバー旅行記』の著者・ジョナサン・スイフトは『貧民の子どもが親や国の負担となることを防ぎ、子どもを国家にとって有益な存在に変えるための穏健な提案』という論説を書いた。生まれた嬰児を育て、食べごろの1歳になったら、食用肉として富裕層に売る。シチューにして良し、ローストして美味、フリカッセもイケける――スイフトの憤りがほとばしる驚愕の風刺である。

ところで、英国の議会が先ごろ難民認定の申請を目的に不法に入国した人々をアフリカのルワンダに強制的に移送する法案を可決した。英政府はルワンダ政府に対して、円滑な受け入推進のために460億円相当を援助した。

(2024.4.27 花崎泰雄)

 

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マグノリア

2024-04-19 23:44:54 | 政治

藤原定家自筆の古今和歌集注釈書『顕注密勘』の原本が京都・冷泉家で保存されている木箱から見つかったという記事が4月19日の朝日新聞朝刊1面に載っていた。思い出したのが、

  大空は梅のにほひにかすみつつくもりもはてぬ春の夜の月 

という彼のけだるい春の夜の歌。「梅のにほひ」から、連想がリチャード・ライト『HAIKU この別世界』(彩流社、2007年)へとワープする。本を開くと、あった。

   Steep with deep sweetness,

 O You White Magnolias,

   This still torpid night!

この本の翻訳者は「甘美満ち白きモクレン夜だるし」と日本語訳をつけている。

『アメリカの息子』や『ブラック・ボーイ』で知られる米国の作家リチャード・ライトはミシシッピ州の生まれ。白い大きな花をつける高木・タイサンボク(Southern Magnolia、学名Magnolia grandiflora)は同州の花とされ、州の旗のデザインになっている。子ども時代に見たタイサンボク(マグノリア)の白い花はライトの記憶に焼きついていた。

白い花はどこにでもある平凡な花だが、時と場所、事と次第によっては、つよく記憶にのこることもある。むかし私はジャカルタで暮らしたことがある。そのころのある日、訪れた外国人墓地公園「タマン・プラサスティ」の一角で大きな墓石の上に白い花が散り落ちているのを見た。モクレンか、クチナシか、ジャスミンか――花の分類に暗い私にはよくわからなかった。だが、しばらく間その白い花は私の記憶の中でちらつき続けた。墓の主がスタンフォード・ラッフルズの最初の妻で、インドネシアで客死したオリヴィア・ラッフルズだったからだ。

アウンサンスーチー氏の髪飾りの白い生花。バリ島の女性が髪に飾る白い花。ビリー・ホリデイが髪飾りにした白い花――こちらはクチナシの花だったが、白いクチナシの花を髪に飾ってビリー・ホリデイが歌ったのが『奇妙な果実』(Strange Fruit)だった。

――アメリカ南部には奇妙な果実をつける木がある。葉も根元も血に染まっている。南部のそよ風にポプラの木に吊るされた黒い死体が揺れている……マグノリアの香りは甘くさわやかだが、突然、肉体の焼ける匂いが鼻を衝く――そういった内容の、かつての南部の黒人に対するリンチの光景を歌ったものである。この凄惨な歌詞の歌をビリー・ホリデイは生涯にわたって歌い続けた。ビリー・ホリデイ亡き後、ニーナ・シモンが歌をひきついだ。

米国南部のミシシッピ州に生まれたリチャード・ライトにとっては、合衆国南部が原産地であるタイサンボク(magnolia grandiflora)は望郷の花であり、差別された貧しい黒人少年の――奇妙な果実の歌詞にあるような暗い記憶の――花であり、晩年フランスで暮らして俳句制作に励み、澄明な「別世界」に遊ぼうとした作家の心の花でもあった。

リチャード・ライトやビリー・ホリデイとは違って、アメリカに住む白人にとっては、タイサンボクは大輪の花を咲かせるマグノリア・グランディフローラである。アメリカが誇る花の木だ。第7代の米国大統領アンドリュー・ジャックソンは亡き妻を偲んで、ホワイトハウスの南側の庭(サウス・ローン)に2本のタイサンボクを植えた。ホワイトハウスのサウス・ローン――権力の庭――のタイサンボクは「ジャックソン・マグノリア」としてドル世界であまねく知られた。1928年から1998年まで印刷された20ドル札の裏の挿絵に使われた。タイサンボクは植樹から200年近く生き続けた。やがて、うち1本が老化でもろくなり、庭から発着する大統領専用ヘリが巻き起こす強い風をうけて倒れる恐れが出てきた。大統領がヘリで出かけるさいはメディアの写真班がこの木の近くでカメラを構える。危険、ということで2017年に撤去された。

第18代米国大統領だったユリシーズ・グラント将軍は大統領職から退いたのち、夫婦で世界漫遊の旅に出た。夫妻は1879年に日本を訪れ、上野公園にタイサンボクを記念植樹した。こちらのタイサンボクはいまも健在だ。

岸田首相は11日の米議会スピーチで、米国への友情の印に250本の桜の木をプレゼントすると約束した。昨年は岸田氏の妻・岸田裕子氏が単独でホワイトハウスを訪問し、ホワイトハウスの南庭で桜の苗木を植樹している。

マグノリアの話はこのくらいにしておこう。ライトの『HAIKU』には「この道をくだって右折桃が咲く」という軽快な句も載っている。

   Keep straight down this block,

  Then Turn right where you will find

   A peach tree blooming.

英文の方の俳句というか3行詩というか、その音のリズムが心地よい。私が住んでいる高層アパートの玄関を出て、建物沿いにしばらく歩き、舗道と交差するところを左折すると、今の時期そこに紫木蓮が咲いている。思えば白梅紅梅が咲いて散り、公園の遊歩道のこぶしの白い花が開き、桜が散って葉桜になり、白とピンクのハナミズキが咲いた。春は駆け足で初夏に向かっている。この間、岸田文雄首相は自民党派閥のパーティー券裏金スキャンダルの鎮静化のための弥縫策に追われ、新年度予算の年度内成立のために不祥事のおわびを連発し、暇な時間には公邸か官邸で英語の発音練習に取り組んでいた。日経新聞のワシントン特派員の記事によると、岸田氏が米国議会で行ったスピーチは、起草にあたってレーガン元大統領のスピーチライターだった人物の助けを借りたという。スピーチライターが録音してくれた発音をまねて練習を重ねていた。すると、前回お話ししたバイデン大統領主催のレセプションでの岸田スピーチにでてきた「スタートレック」のセリフも、このスピーチライターからアイディアをもらったのかもしれない。4月28日の衆院補選では、自民党が3選挙区で全敗する可能性がある。自民党にとっては春に背くようなしまらない話のオチになってしまい恐縮である。5月に入るとタイサンボクの白い花が咲き始める。

(2024.4.19 花崎泰雄)

 

 

 

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ワシントン参拝

2024-04-14 00:57:13 | 政治

”Boldly go where no one has gone before”と.訪米した日本国首相・岸田文雄氏は晩餐会の挨拶で、アメリカ製のドラマ『スタートレック』のキャッチフレーズを引用した。「日米はゆるぎない。前人未到の地へ、果敢に挑もう」と言った岸田氏に対して、米大統領バイデン氏は「同じ未来に乾杯」と返した。正確にいうと1960年代の『スタートレック』初期シリーズでは” boldly go where no man has gone before”だったが、のちのシリーズでは”no man”が”no one”と言いかえられた。アメリカ合衆国にジェンダーの視点が広がったせいだ。岸田氏のレセプション・スピーチを書いた日本政府のスタッフもその程度の時代の変化はわきまえていた。

日本国首相が米国の対中国包囲網に積極的に関与することを明言した。米国大統領は日本国の安全保障関係の費用負担増と、世界で指折りの軍事力を持つまでになった自衛隊と米軍の指揮統制の調整協議に意欲を示した。

思い返せば――。

1945年にポツダム宣言を受け入れて日本は連合軍に占領されたのだが、ポツダム宣言では、日本が占領を解かれて独立国となる場合は、占領軍は速やかに日本から撤収する約束になっていた。

サンフランシスコ条約で日本が主権を回復したのは1952年である。朝鮮戦争は1950年に始まっていた。占領軍が一斉に日本を去る事態は、東アジアに深刻な武力の真空を生じさせると考えた米国は、日本と安全保障条約を結んだ。この条約はサンフランシスコ条約と同時に1952に発効した。この条約で米軍は米国の反共世界戦略の最前線に軍事基地を確保した。

朝鮮戦争のさい米軍は日本駐留兵力を朝鮮半島に出動させたので、日本国内での安全保障能力が低下した。そこで、米国政府は日本政府に警察予備隊をつくるよう要請した。

警察予備隊が日本再軍備の始まりだった。警察予備隊は保安隊と改称され、1954年には自衛隊となった。自衛隊を管理する防衛庁は2007年に防衛省と改称。近い将来には航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に拡充する計を進めている。さらには、イギリス、イタリアと共同開発する戦闘機の第3国への輸出も行う予定である。GDPの1パーセントを上限とする日本の軍事費はやがて2パーセントに迫るようになる。

戦後70余年、憲法の条文を無視して日本国の首相の多くは米国に媚び続けたのである。憲法を変える前に、人事権を用いて内閣法制局に憲法条文の新解釈を編み出させて既成事実を作り上げる手法は、有権者の政治嫌悪を増幅させた。議員職の世襲化がつのる万年与党は権力の上に胡坐をかいて、仲良しのお友達とくるま座でわが世の春を合唱してきた。国債乱発のツケはかならず回ってくるし、アメリカに寄り添う保守政党が醸し出した国民の政治的悪酔いが、まだどの国も行ったことがない領域の果てに日本を追い込むことだろう。岸田首相帰国後の国会の論戦の盛り上がりを楽しみにしている。

(2024.4.14 花崎泰雄)

 

 

 

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サクラチル

2024-04-11 01:07:49 | 社会

連歌師の飯尾宗祇の独吟百韻の一つは次のように始まる。

 限りさへ似たる花なき桜かな

  しづかに暮るゝ春風の庭

桜の花の見事さは満開の時だけに限らず、その散りぎわにもあるのだなあ、と春風に包まれて舞う花びらを見る春の静かな夕方。連歌に見られる中世知識人の美意識がにじむ。静謐。

つづいて、浅野内匠頭の辞世と伝えられる歌。

 風さそふ花よりもなほ我はまた春の名残をいかにとやせん

「いかにとやせん」がちょっと「におう」。

さきほど毎日新聞の電子版で読んだのだが、職業差別的な発言をした川勝平太・静岡県知事が退職届提出にあたって10日、

 散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ

という細川ガラシャの辞世の引用を記者たちに披歴した。同紙によると、川勝氏は「辱めを受けないために死を決意した。(自分が)昔から行動規範として持っているもの」と説明した。県民からは「自己陶酔だ」と批判の声もあがった、という。

桜の散りぎわにかこつけて恨みがましい自己弁護をするというのは、美的とはいえない。

(2024.4.11 花崎泰雄)

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ハーフタイム

2024-04-06 23:49:59 | 政治

4月6日から14日まで、永田町の議員の先生がたは自民党派閥パーティー券問題をめぐるつかみいあいの闘争劇を中断してハーフタイムに入った。8日から14日まで岸田首相が訪米するからだ。岸田・日本国首相はバイデン・米大統領と面談、米連邦議会で演説する。首相官邸や外務省の訪米日程を見ても、これといった緊急の案件は明示されていない。

頼・台湾新総統の就任後の東アジア情勢をめぐっての意見交換や、イスラエルの攻撃により生じているガザの人道問題、ソ連の侵攻と戦っているウクライナの問題の見通しやその対策、トランプ氏との大統領選挙の攻防など、バイデン大統領の方は、できれば岸田氏と相談したい案件を抱えている。しかし、自民党の党内スキャンダルで支持率を下げた岸田政権を相手に相談する気にはなれないだろう。相談したところで、解決の手を差し伸べてもらえないことは、バイデン氏もわかっている。

いっぽう岸田氏の方は、自民党のボス連中の怨念が渦巻く日本を離れて、ワシントンで穏やかに眠りにつくことができる平穏な1週間になる。

といっても、首相は訪米後、自民党内の大ボス、小ボス、中堅ボスの不満のガス抜きをし、自らの総裁ポストの基盤修復を行い、政治資金関連の法律の作り替えを行わねばならない。これらの作業の中でのちょっとした火花が、たまっていていたガスに引火、自民党が分解してしまうこともありうる。自民党からのスピンアウト議員が野党爆発の誘爆材になるかもしれない。

永田町あたりに棲息している人々には、プリンシプルやディシプリンは希薄な一方で、機を見ることだけには敏、という傾向が強いので、日本の有権者もやがて、心配のあまり寝つきがわるくなることだろう。春愁である。

(2024.4.6 花崎泰雄)

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