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news commentary

胡散臭いお話

2011-10-31 17:56:40 | Weblog

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に参加する意向を、日本の野田佳彦首相が固めたと報道された。TPPについてはこれまで賛成派と反対派がにぎやかな議論をしてきているが、双方の言い分にどうも説得力に欠けところがある。

賛成派は「アジアの成長を取り込む」と言っているが、日本が交渉に参加した場合、TPPの交渉国のGDPの9割強を日本と米国が占めることになる。中国も韓国もいまのところ交渉に参加することを表明してしないからだ。一体全体どこにアジアの成長市場がある?

反対派は農業問題を中心にあげつらっているが、日本の農業はTPPに関係なく衰退している。2010年に農業従事者の61パーセントが65歳以上になっている。反対派はTPPが日本の農業を死滅させると言っているが、TPPで攻められなくても日本の農業はこのままではいずれ死滅する。

日本政府が言っていることもよくわからない。

内閣府はGDPを2兆円から3兆円ほど増やす効果があると言い、経済産業省はもしTPP加盟が実現しないとGDPが10兆円ほど減ると脅した。一方で、農林水産省は加盟すれば農業関連のGDPが8兆円ばかり減るといった。

そこで日本政府はあらためて経済効果は10年間で2.7兆円であると統一見解を出した。年間2,700億円である。

日本の外貨準備高は1兆ドルを超えるが、10月31日には日本政府の円売りドル買いの市場介入で、一気に円は4円近く急落した。帳面上は日本の資産が4兆円近く増えたことになる。TPPよりも異常な円高をなんとかするのが先決だ。といってもできない相談だが。

TPPはアメリカにとってどんな利益があるのだろうか。韓国との自由貿易協定によって、アメリカでは年間110億ドルと7万人以上の雇用創出が見込こまれると、その経済効果をオバマ政権は米国民に告げた。

PTTは事実上日本と米国の自由貿易協定になるわけだから、アメリカはこの協定で日本からどんな利益を引き出そうとしているのか。日本とアメリカの間には1970年代から貿易摩擦が連続して発生した。繊維、自動車、牛肉、オレンジ、半導体、市場開放などなど。そういう経過もあって日本とアメリカの関税はコメなどの特定品目を除いて異常に高いものはない。日本の自動車輸入関税は0パーセント、米国は2.5パーセントだ。米国の関税が0パーセントになったとしても、米国で売る日本車の7割ほどが米国内で生産されているから、有難味は薄まる。

そこで、アメリカは日本に物品を売りたいがためにTPPへ誘いをかけているわけではなくて、狙いはゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式取得だという説を唱えるむきもある。二つ合わせて総資産は300兆円を超す。そのほとんどが国債で、その額あわせて270兆円ほどになる。強欲を絵にかいたようなアメリカの経済リバタリアンどもの金融乗っ取りの陰謀だという説明だ。この陰謀のおっかないところは――日本の国債は大半が国内で買われているから日本のギリシャ化はありえない、と言っていたが、ゆうちょ銀行と簡保生命の株式が民間に開放され、株式を外資が買い占めるような事態に至れば、それは日本のギリシャ化の始まりの条件の一つになりうる。

アメリカにとってTPPの最大の狙いは、TPPをテコにしてアメリカが主導するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を実現しようということだろう。2010年のAPEC首脳会議(横浜)の宣言は、①ASEAN+3、②ASEAN+6、③TPPを基礎にしてFTAAPを実現すべきであるとした。①はアセアン10ヵ国に日中韓を加えたメンバー、②は①にインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16ヵ国で構成される。この二つには米国の名がない。

ヨーロッパにはEUがあり、北米には北米自由貿易協定(NAFTA)があるが、アメリカのご威光とご意向を気にする日本国政府はこれまでアメリカ抜きの①と②に本気で取り組んでこなかった。ここにきて、日本政府がついに、何らかの理由でアメリカが主導権を握るFTAAPづくりの構想に賛成することにしたのだろう。三歩しりぞいてアメリカの影を踏まずという日本政府のしきたり通りの選択をまたやったといことだ。

中国はTPPにいまのところそっぽをむいている。米国の対中貿易赤字は2731億ドル(2010年)になった。この年のアメリカの貿易相手国は大きい順に中国、カナダ、メキシコ、日本、ドイツになる。アメリカの貿易問題はいまや中国問題なのだ。米国は対中貿易赤字をなんとかしたいのだが、中国が相手では、日米安保体制に組み込んでいる日本を相手にした貿易摩擦交渉とは勝手が違う。TPPを突破口にいずれ中国を貿易交渉の場に引っ張り出そうという戦略なのだろう。

(2011.10.31 花崎泰雄)

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カダフィ大佐のおなら

2011-10-21 22:47:22 | Weblog

リビアのシルトの戦いでムアマル・カダフィ大佐が死んだと報道された。1942年生まれ、享年69歳。反米の反逆児という道化を演じ、自らの狂気で中東の矛盾や国際社会の二重基準を浮き彫りにしてみせたが、その代償はリビア国民にとってあまりにも大きかった――10月21日の朝日新聞朝刊はそう論評した(中東アフリカ総局長・石合力「自国民を殺した末に」)。

碩学・井筒俊彦の『イスラム生誕』(中公文庫)は砂漠の民ベドウィンは同じ血を分けた家族、同部族民、友人、客人としてテントに迎えた異教の人には限りなく優しいが、異部族に向かうやいなや恐るべき悪鬼に変貌してしまう、と書いている。ムハンマドと同時代のベドウィンの話だ。では、21世紀の今のベドウィンはどうなのだろうか。同じ部族民の意識と同じ国民という意識に、強弱があったのだろうか。

カダフィはベドウィンの出自である。海外出張に出るさいテントを運ばせたのもベドウィンのスタイルにこだわりがあったからだ。

さて、いくつかのメディアのカダフィ評を読んだ。いわんとするところは冒頭の朝日新聞の論評と似たような話だが、BBCのサイトで読んだJohn Simpsonの "Gaddafi was ‘killed in crossfire'" は面白かった。この記事の中で、シンプソンはカダフィのおならのエピソードを披露した。

かつてシンプソンがカダフィをインタビューしたさいに、カダフィは音高らかに放屁したそうだ。シンプソンによると、インタビューは40分間にわたり、すべてが録音されていたが、その間、カダフィははばかることもなくおならをぶっ放していたという。

千夜一夜物語にこんなベドウィンのおならの話が伝えられている。イエメンの街に定住して商人として裕福な暮らしをしているベドウィン男性アブ・ハサンがの美女と結婚することになった。

着飾った花嫁を来賓が祝福している部屋に花婿のアブ・ハサンが入ろうとしたとき、ごちそうをたらふく食い、たらふく酒を飲んでいた花婿は、不覚にも来客の真っただ中でおならを響かせてしまった。

事の重大性に、来客はその音が聞こえなかったふりをして、声高に雑談をはじめたが、花婿アブ・ハサンは羞恥のあまり、そのまま馬に乗って出奔してしまった。

アブ・ハサンは放浪の果てにインドにたどり着き、インドの王様から優遇されて幸せな生活を送った。それから十年。アブ・ハサンはホームシックにかられてインドを出奔、放浪の
末、故郷の街にたどりつた。

故郷の町はずれのとある家で、小さな女の子が母親と話している声が聞こえた。

「お母さん、私が生まれたのはいつ? お友達が誕生占いをしてくれるの」
「お前はね、アブ・ハサンがおならをした、ちょうどその夜に生まれたの」

自分のおならが暦の一部になっていることを知ったアブ・ハサンは、もはやこれまでと、インドにとって返し、とうとうインドでその生涯を終えましたとさ。

ベドウィンにとっておならとはこれほどセンシティブなものだというお話だ。もしカダフィが健在な折にこんな話がBBCで紹介されていたとしたら、彼は刺客を放っていたかもしれない。

独裁者といえど権力の座を追われ―それに、死んだとなっては、水に落ちた犬。あわれな話である。

(2011.10.21 花崎泰雄)
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水に魚あり、田に稲あり

2011-10-15 23:01:10 | Weblog


タイが雨季の終わりの水害に見舞われた。チャオプラヤ川流域のアユタヤの工業団地にある日系企業が、直接の浸水被害や部品調達難などで操業停止追い込まれたと、日本の新聞各紙が伝えた。日本の新聞だからトヨタ、 ホンダ、三菱などの自動車メーカーのほか、ニコン、パナソニック、食品・飲料の日本ハム、味の素、ヤクルト、ファミリーマートなどの操業停止・閉店を詳しく伝えている。

バンコク・ポスト紙によると、今回の水害で900以上の工場が操業し、20万人の労働者が影響を受けたたそうだ。だが、例によってそうした全体像は、日系企業の被害ばかりに焦点をあてた日本の報道でははしょられていてなかなかわかりにくい。

チャオプラヤ川の下流にある首都バンコクにも水害の危機が迫っている。外国資本は、この水害をどう乗り切るか、首相になったばかりのインラック・シナワットの手腕を注視している、と大げさな物言いをする外国メディアもある。

雨季のバンコクはしばしば水害に見舞われてきた。運河を掘ってチャオプラヤ川から水を引き込んで水運のネットワークをはりめぐらせていたバンコクはかつて東洋のベニスと称された。ベニスと同じようによく水浸しになった。

ベトナム戦争のころ、米はタイ東北部にB52の基地を作ることを認めてもらい、ベトナムじゅうたん爆撃の基地にした。タイは見返りに米国から提供された資金援助でバンコクの運河を埋め立てて道路にした。そして、日本がその道路を走らせる自動車をタイ人に売った。何十年も前の冗談とも本当ともつかない伝聞である。

バンコクの平地とチャオプラヤ川の水面は高低差があまりなく、川が増水する雨季には、水が市内にあふれ出ていた。チャオプラヤ川のほとりにある、かの5つ星ホテル、マンダリン・オリエンタル・バンコクの前の通りも水浸しになり、宿泊客がボートでホテルに出入りした。

日本の急流が作り出すような急性の水害が洪水(flood)で、緩やかなチャオプラヤの水位が徐々に上昇してやがて陸地を浸してゆくような水害は溢水(inundation)という。タイの水害は溢水で、この溢水のゆるやかな速度にあわせて“浮稲”がその背をのばすことができた。日本のようなあっという間の洪水だったら、さしもの浮稲も水中に没するだろう。

さて、タイ王国大使館の広報サイトによると、世界で一番広い浮稲の田んぼをもっているのはバングラデシュだ。バングラデシュも水害で有名な国だ。2番目がインド。タイは3番目になる。そのあと、ベトナム、ミャンマーと続く。

今回水害に見舞われたバンコク北方のアユタヤはバンコク王朝の前のアユタヤ王朝の都があったところだ。アユタヤ王朝の前の王朝はアユタヤ北方のスコータイ王朝である。スコータイ王朝の有名なラムカムヘン大王の碑に「ナイナームミープラー、ナイナーミーカーオ(水に魚あり、 田に稲あり)と彫られている。タイの豊かさを讃えたとされる有名な言葉で、たいていのタイ語の入門書に引用される。

農業国タイの豊かさを支えたのはチャオプラヤ川流域のデルタ地帯だ。雨季のチャオプラヤの溢水が稲を育てた。

今回のアユタヤの水害は20年にいちどあるかないかの規模のものだとされる。雨の降り方もさりながら、チャオプラヤの溢水がこれほどの大騒ぎになったのは、タイが工業国へと確かな変身をとげていることの証でもある。

(2011.10.15 花崎泰雄)

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やがて日本でも買えるか? OccuPie Special

2011-10-09 15:14:39 | Weblog

ニューヨークのウォール街で始まった失業や格差に抗議する若者たちの小さなデモが、次第に膨れ上がった。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ニコラス・クリストフによると、若者たちがOccupy Wall Street運動を繰り広げるさなか、付近のピザ屋がOccupy Specialとなづけたピザパイを売り出した(2011年10月1日)などと、初めのうちはお祭り見物気分だった。マイケル・ムーア、ジョセフ・スティグリッツ、ジョージ・ソロスらが激励・声援、同情的なコメントを述べた。やがてデモはボストンなど全米のいくつかの都市に広がり、オバマ大統領が「国民の不満の表れ」と発言するにいたり、政治問題になった。日本の新聞も「金融街デモを『反市場』に広げないために」(日本経済新聞10月8日社説)や「ウォール街デモ――『99%』を政治の力に」(朝日新聞10月9日付社説)などと、本気で取り上げる姿勢を見せ始めた。

若者の雇用を促進させるためにフランス政府が、従業員20人以上の企業が26歳未満の従業員を採用する場合、試用期間の2年以内であれば理由を告げずに自由に解雇することを認める「初期雇用契約」を打ち出したさい、労働組合や若者はこれに反対して大規模なストライキとデモを繰り広げ、政府に法案を撤回させた。2006年のことだった。フランスでは無期限雇用契約が一般的で、このため雇用に慎重になっている企業が多く、これが若者の失業拡大の一因になっているとして、企業側の雇用促進をねらった法案だった。だが、働く側は雇用促進より無期限雇用の慣行が崩されることの方を重要視した。

2010年にはイギリスやイタリアで学費値上げ反対のデモがあった。赤字財政に苦しむ政府の大学補助金の削減と学費値上げの動きに反対する学生が街頭に出た。筆者はこの時イタリア旅行中で、ベニスのサンタルチア駅発車の列車がデモで止められ、立ち往生してしまった。日本、アメリカ、韓国に比べれば、これらの国の高等教育費の個人負担は極めて低い。

そうした若者の抗議が、今度は米国で広がっているわけだ。銀行は政府によって救済されるが、われわれは救済されない。日経新聞の社説によると「米国では、上位1%の人たちが国民全体の所得総額の20%を占める。全体の失業率は9.1%だが、25歳未満の失業率は17.7%。欧州でも英国の若年失業率は20.9%、スペインは46.2%に達する」そうだ。米国のインターネット新聞『ハフィントン・ポスト』(2011年5月13日)によると、2011年に大学を卒業する学生は平均で27,200ドルの学生ローンを借金として抱えて社会に出てゆくそうだ。そのうえ、就職難などが理由で卒業後親元に帰る学生も前代未聞の85%に達する見込みという調査会社の数字も出されている。CNNはこうした親元に帰る学生をBoomerang Kids あるいはBoomerangerとよんでいた。

日本政府の『子ども・若者白書』(2011年版)によると、2010年の日本の完全失業率は5.1%だが、これを年齢層でみると25-29歳では7.1%、20-24歳では9.1%、15-19歳では9.8%になる。日本の場合、安定的な終身雇用の機会は学校卒業の時がほとんどだから、この若年層の失業率は見かけよりきつい。同白書によると、15-24歳のいわゆる非正規雇用率は30.4%になる。

日本の若者が街頭で異議をとなえないのは、日本社会の不公正の現状がまだ受忍限度内にとどまっているためなのか、日本国民の受忍能力が他国民に比べて高いためなのか――議論のあるところだろう。

日本では政府のガバナンス(統治能力)は低く、国民のガバナビリティー(統治容易性=注)は高い。ありていに言えば、唯々諾々とお上の決定に従うという従順さがこの国の人々の特徴である。とはいえ、発火点が存在しないわけではないだろう。人間は年を重ねると物事の見方が悲観的になるようで、国債漬けの日本がギリシャ化するのも、虐待されつつも政治的ひきこもりを続けている若者が久しぶりに街頭に出て、オキュパイが売られるのも時間の問題のように、筆者には思える。

<注>日本では英語国と異なって、以前はgovernabilityがgovernanceの意味で使われていた。その例を国会審議から紹介する。「さて、最後に三木総理、議会運営において、ロッキード究明において、経済運営において、日本の民主主義は死に瀕しています。苦し紛れに、あなたは、野党の担政能力が欠けているなどということを口実にされます。しかし、今日の政治の乱れは、目の前の参議院の保革伯仲が物語るように、すでに一党支配の条件を失った自民党が、それにもかかわらず強権をもってこれを推し進めようとするところにあるのであります。ガバナビリティーの喪失とは、一総理の統治能力の欠如などではなく、言葉の正しき意味において自民党全体の当事者能力の欠如であります。議会の子としての三木さんは、生きたり、死んだり、また生きたり、そうした有為転変ではなく、まさに死力を尽くして、いま民主主義の蘇生のために立つべきであります。(1976年9月28日、参院本会議 上田哲質問)

(花崎泰雄 2011.10.9)


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お楽しみはこれからだ

2011-10-07 00:24:51 | Weblog


政治資金規正法違反の罪で強制起訴された衆議院議員小沢一郎の裁判が10月6日始まった。

小沢は初公判の意見書で、カレル・ウォルフォレンを引き合いに出して、「小沢一郎に対する長期的なキャラクター・アサシネーション」と検察のやり方に憤懣をぶちまけた。

そのあとの記者会見で、4億円の出所を質問された小沢は、そんなことは検察に聞いてくれ、と記者に言った。むむ、大将、法廷でもこんなとんがった調子でやるのだろうか?

これから来年の4月まで、予定されている公判でどんな問答が交わされるのか。検察の取り調べと違って、法廷には傍聴席があるので、問答は逐一報道されることだろう。また、公判の進展にともなってメディアがどんな報道を工夫するのか。新しい事実も掘り起こされるだろうし、小沢の資産形成や、政党助成金をめぐる黒いうわさなどについても、またあらためて光があてられるだろう。長い冬の夜の楽しみができた。

判決は2012年の4月に予定されているそうだ。国会審議が通常どおりに進めば、3月いっぱいで2012年度の予算が成立する。それからは衆院解散がいつあってもおかしくない状況になる。野田内閣はそう長くはもたないだろうから、予算審議と並行して総選挙のうわさがキナ臭く漂ってくるだろう。

小沢親分が裁判で身動き取れない間に選挙が迫ってくる。そういう状況になれば、小沢グループの議員たちはパニックに襲われ、浮足立つことになろう。あわれなのは1年生議員だ。親分のお助けなしに選挙の洗礼を受けて何人が国会に帰ってこられるだろうか。

そうなると、子分が減った小沢親分は民主党内での重みを失い、民主党内の孤児的立場に置かれ、またしても、例によって、党を割って出ていくことになろう。

(2011.10.6 花崎泰雄)

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