20年ほど前にフィリピンの軍事基地を手放していたアメリカ軍が、再びフィリピンにおける軍事プレゼンスを拡張強化するための交渉をフィリピン当局と始めた。1月26日のワシントン・ポスト紙が伝えた。
交渉はまだ始まったばかりだが、米国とフィリピンの双方がこの交渉に乗り気で、実現の可能性は高いと同紙は伝えている。
米国がどの程度の兵力をどのような形でフィリピンへ派遣するのか。詳しいことはこれからの交渉になるようだ。
米国が1991年のピナトゥボ火山の噴火でクラーク空軍基地を閉鎖し、翌年の1992年にはフィリピン議会が米国との基地協定を延長しなかったためスービック湾の米海軍基地も閉鎖されることになった。
以来、米国はアル・カーイダ系のゲリラ掃討協力のために数百人規模の海兵隊をフィリピンに送り込んでいるだけだ。今回のフィリピンと米国の規模の大きい軍事協力再開のための協議は、中国の海洋進出に対するフィリピンと米国の双方の懸念からうまれた。
南シナ海の島々の領有権や排他的経済水域をめぐっては、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナムなどが長らくにわたって論争を続けている。
中国は該当する2国間の協議で解決しようとする立場を譲らず、アセアン各国はアセアン対中国の交渉を主張している。この問題に関わりたいアメリカは、問題解決のための国際協議を提案したが、中国が反発した。
米国がアフガニスタンやイラクでの戦争に手を取られている間、経済的に成功した中国が金にものを言わせて軍備を拡大し、アジア太平洋での海洋権益を声高に主張するようになった。第1列島線の中には南シナ海と台湾、ベトナム北部が入り、第2列島線内には沖縄やフィリピンが入っている。中国は少なくとも第1列島線内から米国の軍事プレゼンスを排除したいと望んでいる。中国沿岸部からアメリカの軍事力を遠ざけ、中国の安全保障を確保したがっているのだ。
そういうわけで、このところアジア太平洋の国の中で米軍を呼びこもうとする動きが強まっていた。2011年11月にはオーストラリアと米国が、米海兵隊がオーストラリアの軍事基地内に駐留することで合意した。オバマ米大統領がキャンベラで語ったように、これは中国に対する政治的メッセージである。
シンガポールは最新鋭の米海軍の戦艦の常駐で米国とほぼ合意している。
さらに、2011年8月にはベトナム・カムラン湾に、米海軍の4万トンクラスの補給船が修理のために寄港している。カムラン湾はベトナム戦争時代にソ連の海軍が基地にしていたところだ。米艦の寄港はベトナム戦争終結後初めてのことだった。この米艦寄港に先立って、ベトナム政府はカムラン湾を外国軍艦の寄港地として整備すると表明していた。外国の軍艦呼びこみは中国に対するけん制である。
さらに最近では中国と親密だったミャンマーが、中国と共同のダム建設中断を表明した。それを機に、突如として、米英日などに対して対話の窓口を開き始めている。その理由についてはまだ定かではないが。
中国の海洋進出と米国の中国封じ込めラインの構築が今後どのように展開していくか。ベトナム戦争がアメリカの敗退で決着してからもう40年近い。久しぶりにアジア太平洋に回帰してきた米国に対して、力をつけた中国がどう対抗するか見ものである。中国どう出てくるか。その過程で中国の権力構造内部における、党と国家と人民解放軍の軋轢も徐々に明るみに出てくることだろう。
(2012.1.26 花崎泰雄)