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Déjà-vu

2025-06-06 00:59:50 | 政治

「時は春、日は朝、朝は七時、片岡に 露みちて、あげひばり、名のりいで、かたつむり、枝にはひ、神、空に しろしめす、すべて世は 事もなし」

ロバート・ブラウニングの長い詩劇の一節の上田敏訳の名調子だ。牧歌的である。ロシアはウクライナから兵を引く気配を見せず、イスラエルの攻撃でガザは飢え、このままでは先は長くない。アメリカの大統領は世界情勢の管理など、オレがやればちょろいものだとほらを吹いていたが、混乱する国際情勢を鎮静化することもできず、憂さ晴らしに米国内で大学を相手に「内戦」を始めた。

「神、空にしろしめす、すべて世は事もなし」はブラウニングの発明ではなく、旧約聖書のころから言われていた。「エルサレムの王、ダビデの子、コヘレトの言葉。コヘレトは言う。なんという空しさ、すべては空しい……かつてあったことは、これからもあり、かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。見よ、これこそ新しい、と言ってみても、それもまた、永遠の昔からあり、この時代の前にもあった。昔のことに心を留めるものはない。これから先にあることも、その後の世にはだれも心に留めはしまい」(新共同訳聖書)

辞書にあたると、「太陽の下、新しいものは何ひとつない」は人口に膾炙された言葉で、ラテン語の格言 "nihil sub sole novum" になっている。

関税障壁を張りめぐらせた米国の大統領はトランプ氏だけではない。第25代のマッキンリー氏も関税好きの保護貿易論者だった。同時に植民地獲得が好きな拡張主義者だった。米西戦争を始め、プエルトリコ、グアム、フィリッピンを併合、ハワイを属領にした。支持者の運動でアラスカの高山・デナリ(地元の先住民族がつけた名)がマッキンリー山とよばれるようになった。マッキンリー山はオバマ大統領の時代に元の名前・デナリに戻されたが、トランプ大統領が再びマッキンリーと旧名に戻した。トランプはオバマよりもマッキンリーが好きなのだ。

トランプ大統領はパナマ運河はアメリカのものだ、グリーンランドをアメリカの支配下に置きたい、カナダを51番目の米州にしたい、ガザから住民を集団移転させて更地にし、一大観光・保養地を建設したいといった。

オーストラリアの岩山・ウルルはかつてエアーズロックの名で知られたが、時の流れる中で岩山は地元のオーストラリア先住民族に完全返還され、先住民族にとっての聖なるウルルは登山禁止の山となり、観光登山道に沿ってうたれていた登山補助の金属製の杭はすべて引き抜かれた。

トランプ氏お得意のMAGA(Make America Great Again) も1980年の大統領選挙でレーガン氏が使ったスローガン “For those who’ve abandoned hope, we’ll restore hope and we’ll welcome them into a great national crusade to make America great again”の焼き直しである。

同じことをロシアのプーチン大統領も考え、行動している。「ロシアを再び偉大な国に」。それはソビエト連邦崩壊で散り散りになった元の連邦構成国をロシアの影響下に取りもどし、西洋世界に対する緩衝地帯をぶ厚くしておきたいというロマノフ朝時代からの安全保障の固定観念である。

(2025.6.6 花崎泰雄)

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どうしてそんなにのろいのか

2025-05-03 00:01:24 | 政治

 

「もしもしかめよかめさんよ せかいのうちにおまえほど あゆみののろいものはない どうしてそんなにのろいのか」

立憲民主党が選択的夫婦別姓の導入に向けた民法改正案を4月30日衆院に単独で提出した。選択的夫婦別姓制度の提案が最初に国会に出されたのは前の世紀(1996年)のことである。爾来、夫婦の名前が異なると日本社会が崩壊するというたぐいのナンセンス議論が繰りかえされてほぼ30年。内閣府にいたっては2022年に行った世論調査で、夫婦同姓の維持がよいか、選択的別姓の導入がよいかを問う設問に「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」「現在の制度である夫婦同姓制度を維持したうえで、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」の3つの選択肢を用意した。その結果、「維持したほうがよい」27%パーセント、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」29%、「旧姓の通称使用の法制度を設けた方がよい」42%という数字をねん出した。選択的別姓の支持率を下げるための工作である。共同通信社は4月1日に郵送方式の世論調査結果をまとめた。選択的夫婦別姓は「賛成」71%となり「反対」27%と差が開いた。Yes or Nonの2択で尋ねるとこういう結果になる。

5月3日は憲法記念日である。憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される」としている。私の知り合いのオーストラリアの大学教授は、大学院生のころ知り合った男性と結婚し、夫の姓を名乗った。夫の姓で博士論文を書き、またたくさんの学術論文を発表した。そして離婚。やがて別の男性と結婚したが、彼女は独身時代の姓でなく、新しい夫の姓でもなく、離婚したかつての夫の姓を維持した。その姓が彼女のキャリアを示すものであり、彼女にとってアイデンティティーだったからだ。世界最後の夫婦同姓を強制する国である日本からみると外国では人が個人として尊重され、その中で個人が日本より自由に生きているように見える。

日本はなぜもこう不自由なのだろうか。インド哲学の碩学中村元氏によると、日本人は生きるために与えられている環境世界ないし客観的諸条件をそのまま肯定してしまう。現象世界をそのまま絶対者とみなし、現象をはなれた境地に絶対者を認めようとする立場を拒否する。「現象即実在」の思惟方法が目立つ(中村元『日本人の思惟方法』春秋社)そうだ。

外国からの観察はもっとえぐい。その一つバリントン・ムーア・ジュニア『独裁と民主政治の社会的起源』(岩波現代選書)は以下のように論じる。明治維新は中央権力と藩とのあいだの旧式な封建闘争だった。天皇制が保守的な諸勢力の結節点になった。 日本ではブルジョア革命も、農民革命も生じなかった。17世紀以降の日本の村落の寡頭支配構造、内部の連帯、上級の権威と効率的な垂直の結びつきがながく生き残った。日本の政治・社会構造が資本主義に適応可能だったことから、日本は革命という犠牲を払わないですんだが、のちにファシズムと敗戦によって打ちのめされた。No bourgeoisie, no democracy と民主化の担い手として中間階級に焦点を当てたムーアの見解で、当たるも八卦当たらぬも八卦のようなところも感じられるが、選択的夫婦別姓問題の30年を回顧すれば、現代日本になおも明治の国家主義の陰が残っていることを思い知らされる。

(2025.5.2   花崎泰雄)

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誰のための国家

2025-03-27 22:50:55 | 政治

その昔ヘーゲルが自由は倫理的である国家のなかでこそ得られると夢想した。しかし、そうした牧歌的な時代は終わった。ヘーゲルのあと、国家とは一つの階級が他の階級を抑圧するための機構であるとレーニンが言った(『国家について』)。国家はあらゆる政治社会における最高の強制権力であり、その強制権力はその社会で生産手段を所有する人々の利益を保護し助長することに使用されるとラスキが書いた(『政治学大綱』)。あらゆる社会には権力を独占する少数の支配階級と、支配する少数の階級に統制される多数の階級が存在する(モスカ『支配する階級』)とする気分が21世紀のいま世界にたれこめている。

20世紀の終わり、米国のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」という言葉を流行させた。ソビエト連邦の崩壊によって資本主義・自由主義と対立してきた共産主義イデオロギーが崩壊した。共産主義を標榜する中国も自由主義の方向へ経済・政治路線を転換している。「歴史の終わり」は米国が長年の封じ込めの末にソ連に勝ったという、そうした時代の祝祭的な気分がはじけた言葉なのだろう。ソ連は消滅したが、ロシアがプーチンのもとで、過去の帝国をよみがえらせようとEUやNATOに反目し、西ヨーロッパへ向かって影響力の拡大につとめている。ロシアのウクライナ侵攻はその一環である。中国は面と向かって米国に対峙する。

イデオロギー対立に勝利した資本主義デモクラシーの国である米国では、歴史の終わりを機に、リベラルな経済・社会が順調に進展するはずだった。しかし、いまのところ、その軌道は自国の大統領ドナルド・トランプ氏によって進めなくなった。米国ではアメリカが権威主義政治体制へと逆行を始めたという見解が表面化している。グリーンランドを米国の領土にし、パナマ運河から中国の資本を追い出して運河を米国の物にし、カナダを51番目の米国の州にし、ガザからパレスチナ人を引っ越しさせて、跡地を整備して一流の保養地にしたい。米国の力を取り戻すために関税をかけまくる。トランプ大統領は「マッドマン・セオリー」に乗じて、何をするかわからいアメリカという風評を生じさせて世界に恐怖をバラまき、そのパフォーマンスに自己陶酔している。だが彼が何のためにそんなことをやっているのかは誰にもわからない。

歴史的必然によって社会が抑圧体制から民主的体制に直線的に変化すると考えるのは愚かなことである――その逆の変化もあるのだ、とロバート・ダールは言う(『ポリアーキー』)。

韓国の憲法裁判所は3月24日、ハン・ドクス首相の弾劾審判で訴追を棄却した。2日後の26日にはソウル高裁が野党・共に民主党のイ・ジェミョン 代表に対する公職選挙法違反事件の控訴審で、1審のソウル中央地裁の有罪判決を破棄し、逆転無罪の判決を出した。

この判決は、次の大統領選挙へ向けてイ・ジェミョン氏の態勢を有利にする。ユン・ソンニニョル大統領の弾劾裁判の判決はいつになるのだろうか?

韓国では、朝鮮戦争中、非常戒厳令を全国的に発令した。1961年にパク・チョンヒ少将が主導した軍事クーデターで戒厳令が宣言された。1980年にはチョン・ドゥファン政権が戒厳令を出した。

戒厳令は戦争など国家的な危機のさい、あるは敵対する国内政治団体を弾圧する目的で出される。

ユン・ソンニョル大統領が出した戒厳令は、野党・共に民主党弾圧が狙いだったと野党側は主張した。大統領側の北朝鮮の影響力増大に対応するためという理屈には証拠が薄弱だ。したがって、選挙で選ばれた大統領が確かな証拠もなく戒厳令を出した浅慮と軽率が非難されることになる。自国の軍政時代に詳しいはずの大統領としては大きな判断ミスであった。

エルドアン政権下のトルコでは、3月23日にイスタンブールのイマモール市長が汚職容疑で逮捕された。エルドアン氏は2003年から2014年までトルコの首相、2014年以降大統領をつとめている。イマモール市長はトルコ最大の野党共和人民党に属しており、次の大統領選挙でエルドアン氏のライバルになるとみられている。逮捕に先立って、イスタンブール大学が不正行為を理由にイマモール市長の学位を抹消したと発表していた。トルコでは大学の学位がなければ大統領選に立候補できない、とメディアが報じた。支配者は権勢維持のためにそこまでやるのである。

インドネシアの第5代大統領だったメガワティ・スカルノプトゥリ氏は、初代大統領スカルノ氏の長女で、スハルト政権が倒れた後の人気政治家だった。反メガワティ勢力は、メガワティ氏を大統領選に立候補できないようにするために、立候補者の資格に「大学卒業」を入れようと画策したが、実現しなかった。

(2025.3.27 花崎泰雄)

 

 

 

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永田町のポトラッチ

2025-03-20 18:33:24 | 政治

「贈物は経済取引とは違いつねに返礼の義務を生み、社会関係の強化と一体感を創出する機能を持っている……贈物はある社会関係に付随する当然の行為として期待されており、したがって、任意というよりは半ば義務的であり……」(平凡社『世界大百科事典』)。

マルセル・モースは『贈与論』で、「贈物をする義務」、「それを受け取る義務」、「お返しをする義務」について文化人類学的見解を述べている。

現代風にいえば、贈物によって送り手と受け取り手の間に、貸し・借りの関係が発生する。この関係は受け取り手が送り手にお返しをするまで消えない。だから、石破首相に公邸に招かれ商品券を贈られた当選1回の衆院議員は「私たちは石破チルドレンです」と言って早速負債を返済しようとした。米国ではイーロン・マスク氏から巨額の政治献金を受け取ったトランプ大統領が、マスク氏をDOGE(政府効率化省)のトップにすえた。

石破茂首相が3月、当選1回の自民党衆議院議員15人を首相公邸に招き懇談したさい参加した各議員に10万円の商品券を贈ったという報道に関連して、自民党の舞立昇治参院議員が、歴代首相も慣例としてやっていたとした発言し、すぐさま「事実誤認、推測に基づく発言であり撤回する」と表明した。菅元首相や麻生元首相はどうだったのかな、と疑惑の視線が永田町で交差している。

石破首相は首相に就任する前の去年7月、福岡市で講演し、公選法が適用されない党総裁選で買収的行為が行われてきたと指摘し、規制が必要だと訴えた。日本経済新聞によると石破氏は「自民党総裁は公職ではない。だからカネをばらまくというのがある。おかしくないですか」と述べた。石橋は総裁選に過去4回立候補したがカネをまいたことがないと明言した。

「ニッカ・サントリー・オールドパー」という語呂合わせが、かつて永田町で喧伝された。自民党総裁選で2人の候補から金を受け取るのが「ニッカ」、3人から受け取るのが「サントリー」、だれかれ構わず金を受け取るのが「オールドパー」といわれた。自民党総裁の座をめぐって、大金が動いた。永田町のポトラッチであった。

(2025.3.20 花崎泰雄)

 

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金券政治家

2025-03-16 20:40:19 | 政治

1週間ほどかけて東北の5つの温泉地を回ってきた。温泉のハシゴである。温泉通ではないので泉質の違いは私にはわからない。温泉旅館の晩御飯の献立とおなじで、基本的には似たようなものである。つれあいが温泉に行くというのでついて行っただけである。

今回のLa Edad De Oroで使った写真はその旅の途中で立ち寄った平泉の中尊寺で撮ったものだ。3月11日のお昼過ぎ、中尊寺の本堂横にある2011年の3.11東日本大震災の追悼碑にお参りした。本堂では追悼の読経か行われていた。

ところで、温泉のハシゴをすると、皮膚の脂気がとけてしまい、高年齢が原因の乾燥肌がひどくなる。したがって保湿クリームをたっぷりと塗り込めて、また温泉につかる。すると保湿クリームが流れてしまう。それ、昔の中国の有名な詩の一行に

    温泉水滑らかにして凝脂を洗う

とあるが、年寄りの脂肪は内臓にたまるだけで、皮膚まで回ってこない。入浴・保湿クリーム・また入浴。温泉のハシゴはこの作業の繰り返しだった。

温泉宿のテレビや新聞で日本の石破茂首相が自民党所属衆院議員15人に10万円の商品券を配っていたことを知った。石破首相は3月3日、自民党の1回当選議員15人を集め懇談会と称する食事会を開いた。その時に参加した議員に10万円の商品券を渡したそうだ。

首相は自らが党首である自民党の議員を首相公邸に集めて懇談したことは認めたが、懇談は政治活動ではないと言った。政治資金規正法で禁止されている「政治活動に関する寄付」には該当しないというのが首相および首相周辺の政治家の見解である。商品券をもらった議員はそれぞれ金券を返却している。

金集めに貪欲で、金の使い方のだらしなさ。これは政治家の持病である。この病気には政治家以外にも罹る人は多いが、政治家は清廉でなくてはならないとする社会通念が強いため、とくに問題視されてきた。戦後の金まみれの保守党支配の歴史をみれば納得できるだろう。

人は選挙で選ばれて議員になる。国会議員ともなれば一国の富と権限の配分に関与する。政権の中枢に集う議員はランクに見合った権限を持つことになる。そのランクにたどり着くには党内の議員を味方につけておく必要がある。資本主義デモクラシーの枠内で、マックス・ウェーバーのいう「政治によって生きる政治家」は、権力のランクを上ることで政治活動資金を増やすことができる。資金が増えれば人が集まってくる。だから金まみれの政治を根本的に浄化することは至難である。できるのは、おりを見て対症療法を試みることだけだ。
(2025.3.16 花崎泰雄)

 

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タイトロープ

2024-10-07 00:36:45 | 政治

今月に予定されている解散総選挙で、自民党は何をすればよいのか? 議席増や現状維持は常識的に判断して望むべくもないが、議席減をできる限り抑える方法はないのか? 自民党の議席が単独過半数を割れば、党総裁は責任をとって辞めることになる。

フレイザー『金枝篇』第1巻はネミの湖のほとりの一本の樹の説明ではじまる。その樹の下を抜身の剣を手にあたりを警戒する祭司の姿が描写される。祭司は彼を殺して、彼に代わってあたらしい祭司になろうとする人物の出現を警戒している。その人物は祭司を殺すことによって司祭の地位を手に入れ、次により老獪な者によって殺されるまでその地位を保つことができる。

ここでちょっと話が脱線するが、フレイザーのネミの湖の祭司のエピソードは伝承の時代の物語で、権力奪取は論敵の頭を叩き潰すことから、敵と味方の頭数を数えることで決着をつける時代へと変わっていった。もっとも、東洋ではかつてスカルノが大統領時代に「賛成51、反対49であっても、51を占めた側の意見がそのまま通るのは乱暴だ。インドネシアでは協議を尽くし(musyawarah)そのうえで全会一致(mufakat)で物事を決める」とインドネシア式多数決を自賛した。スカルノ政治を研究した政治学者たちはムシャワラとムファカットの決め方は、たいていの場合、会議を支配するボスの意向通りの決定になる、と冷やかした。いまの日本でもよく見られる会議の風景である。議論は出尽くした、決定はボスに一任しよう、一同賛成。あの風景だ。

権力と支配をめぐるドラマは今も昔もあまり変わらない。自民党総裁選挙での石破氏の論調が、首相に選出されたとたん渋くなったのは、党幹部とのムシャワラで説得されたことや、あたりに彼の首をねらう人物の影を感じたからだろう。総選挙での自民党の後退要因は裏金議員の処遇である。裏金議員を党公認から外せば、それは議席減につながり、都内の一部から不満が噴出し、総選挙後の党総裁の首が危うくなる。多数の裏雁議員を党が公認すれば野党からの批判が激しくなり、自民党の議席減になる。党のボスたちが軟着陸軟着陸可能な裏金議員の党公認数を鳩首協議している。

10月初めの朝日新聞の世論調査では、「今後も自民党を中心とした政権が続くのがよいと思いますか。それとも、立憲民主党を中心とした政権に代わるのがよいと思いますか」の問いに、48パーセントの回答者が「自民党中心」がよいとし、「立憲民主党中心」は23パーセントどまりだった。

平凡社『世界大百科事典』は保守主義について次のように説明している。保守主義は元来政治イデオロギーだったが、「今日ではそうした発生に由来するイメージのほかに、変革を嫌う現状維持的態度一般を指す漠然たる概念にまで拡大されてきている。この意味での保守主義は生活のさまざまな領域で発現するが,共通しているのは,未知への恐怖心,過去から受け継いだ習慣への固執といった,いずれも安全への本能的欲求に根ざした,個人または集団の心理的特性や態度の表れだということである」。

そういうわけで石破首相は4日の所信表明演説で①ルールを守る②日本を守る③国民を守る④地方を守る⑤若者・女性の機会を守る、を演説の柱とした。派閥裏金事件でいらだつ有権者を、自民党政権は「あなたを未知への恐怖」から守りますとなだめているのだ。

(2024.10.7 花崎泰雄)

 

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ボンボヤージュ

2024-09-28 23:15:56 | 政治

自由民主党が新しい総裁に石破茂氏を選んだ。公明党は石井啓一氏を新代表に選出した。立憲民主党は野田佳彦氏が新代表に選ばれている。10月に入ると臨時国会が始まる。石破氏が新しい首相に指名されて組閣する。組閣のあと国会で所信表明演説だの代表質問だのがあって、予算委員会で質疑が行われるだろう。そして質疑もそこそこに衆議院が解散され、総選挙が始まるだろう。

総選挙の後、国会の勢力図がどうなっているか。確実なことは誰にもわからない。韓国や台湾なら支配政党の構造的な疲労は素直なかたちで選挙結果に反映されるのだが、日本の有権者はたえしのぶことが好きで、かつては「踏まれてもついてゆきます下駄の雪」と自民党と連立をくんだ公明党が揶揄されたが、日本の有権者全体にもこの傾向がみられる。球場の夜空に消えてゆくホームランの打球をぽかんと見上げるように次の選挙を観戦するのだろうか。

おそらく総選挙で自民党は議席を減らすだろう。議席を増やしたり、現有議席を保持できるような環境にはないのだから、議席は減るしかないのだ。

(2024.9.29 花崎泰雄)

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ドジョウすくいを今一度

2024-09-23 23:26:15 | 政治

立憲民主党の代表選挙が9月23日に行われ、決選投票で野田佳彦氏(元首相)が新しい代表に選ばれた。まもなく自由民主党の総裁選挙がおこなわれ、そのあとに衆院解散・総選挙の可能性があり、野田氏が立憲民主党の総選挙の顔として選出された。

野田氏は2011年に民主党を率いて首相に就任した時、自身のことを「泥鰌」と表現した。権力を振りかざすことのない、普通の市民感覚を持った政治家であるとの自己評価だった。政治家はときどきこの手の謙譲表現を使う。

1974年に米国でニクソン大統領がウォータゲート事件で辞任したあと、大統領職を引きつだジェラルド・フォード氏は前年の1973年に副大統領に就任したあとのスピーチで、自らのことを “I am a Ford, not a Lincoln” と自己紹介した。大衆車のフォードです、高級車のリンカーンではありませんという意味のジョークだった。

野田氏の泥鰌的自己紹介は、フォード氏の諧謔をまねた節がうかがわれるが、2024年になって、「昔の名前」で代表選に出たとき、彼はまた「泥鰌」という言葉を使った。人差し指で押すだけで自民党が次の総選挙でドミノ倒し的大敗を喫するところまできているいま、政治コミュニケーションの技法としては泥臭いところがある。そうか、野田氏や立憲民主党はそういう言い回しを喜ぶ層をターゲットにしている政治家・政党なのかと思われると若者や女性の票を減らす恐れもある。

それと野田佳彦という名を聞くとあのみじめな民主党衰退の記憶がよみがえる。2012年11月14日、野田首相は安倍晋三・自民党総裁と党首討論で対峙した。当時の新聞報道によると次のように問答をかわしていた。

野田首相「一票の格差と定数是正の問題。一票の格差の問題は違憲状態だ。定数削減は、2014年に消費税を引き上げる前に、まず我々が身を切る覚悟で具体的に削減を実現しなければいけない」

安倍氏「まずは0増5減。皆さんが賛成すれば明日にも成立する」

首相「定数削減はやらなければならない。定数削減は、来年の通常国会で必ずやり遂げる。この決断を頂けば、私は今週末の16日に解散をしても良いと思っている」

安倍氏「まずは0増5減、これは当然やるべきだ。すでに私たちの選挙公約において、定数の削減と選挙制度の改正を約束している」

民主党政権はそのころ野党・自民党の激しい抵抗で政治的に行き詰まっていた。解散・総選挙は時間の問題と言われていた。解散と引き換えに議員定数の削減を求めたのである。

しかし、民主党に代わって成立した自民党の安倍政権は.定数削減に手をつけなかった。

1年余りがたった2016年2月19日の衆院予算委員会で野田氏は「衆院の定数削減、いまだに実現していない。党首討論で、当時総理である私と自民党の安倍総裁が国民に約束したことだ。私は衆院解散という約束を果たしたが、次の国会での衆院定数削減の約束が実現されないまま今日に至った。できなかったということは、国民に嘘をついたことになる。満身の怒りを込めて抗議する」と安倍総理に迫った。日本政治の愁嘆場である。

一強多弱の国会で地球儀を回しながら大宰相の白昼夢を見ていたような感じだった安倍晋三氏の権力奪取を、野田氏が結果としてサポートしたような形になった。野田―安倍の党首討論が行われた2012年日本の1人当たりGDPは世界ランキングで11位だった。それが2023年には34位にまで落ちた。

9月23日の朝日新聞朝刊「記者解説」のページで編集委員の原真人氏が「斜陽の経済大国」を書いていた。「身の丈に合った社会設計 考える時」と見出しにあった。日本社会に流れる哀歌の通奏低音である。過ぎし日を思い、明日を考える人におすすめの、しみじみとした秋の歌である。

(2024.9.23 花崎泰雄)

 

 

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どこ吹く風の暑苦しさ

2024-09-15 19:32:13 | 政治

日本記者クラブが9月14日に自民党総裁選挙9候補の討論会を催した。15日はNHKが恒例の日曜討論番組で、自民党総裁選挙9候補の討論と、そのあと立憲民主党代表選4候補の討論を放送した。いずれも面白くもおかしくもなかった。

自民党の総裁選挙候補は夢物語のような実現可能性の少ない将来展望を語った。例えば「所得倍増」。年間所得が倍になるということは、どういうことか。オーストラリアの最低賃金は2000円超で日本の最低賃金の2倍以上である。オーストラリア人の年間所得は800万円超で、これも日本人の平均所得の2倍近い。「日本人の所得をオーストラリ並みに引き上げたい」と言っているのである。円安の背景もあるが、日本経済はここまで落ちた、と自認しているわけだ。日本の歴代政権の無能ぶりを、どうやって挽回するのか、聞いていた人たちは9月の暑さがこたえたことだろう。

立憲民主党代表選の候補者たちは、自民党総裁選候補捕者たちが派閥の裏金づくりスキャンダルについては発言を極力さけ、かわりに淡い将来展望を振りまいていると批判している。自民党を政権から追い払う、と4候補は声高だが、4人のうち2人がかつての民主党政権の中核だったオールドタイマーだ。

立憲民主党の代表選挙候補者も自民党総裁選挙の候補者の多くも、首班指名のあと間髪を容れず解散・総選挙を実行すると標榜する若手の自民党候補者の論に反対している。岸田文雄氏が総裁のままでは次の総選挙で大敗するという危惧から、岸田氏の総裁続投に反対し、総選挙の看板かけ替えのための総裁選挙をやっているのだから、人品骨柄はさておき、人気者を総裁にたて、新総裁のメッキの剥げないうちに早急に総選挙を済ませて議席減を防ぎたい、という気分のだろう。選挙で負ければ、総裁に責任を取らせ、次の総裁選で機会を狙うだけのことだ。

日本記者クラブの討論会で並んだ自民党総裁選候補者9人をテレビで眺めながら、なんだか就職試験の集団面接を見ているような気がしてきた。異常な暑さのせいだ。

(2024.9.15 花崎泰雄)

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どこまで行けるか?

2024-09-08 17:33:31 | 政治

オリンピックが終わった。パラリンピックも終了した。よーいドンで始まったのが日本の自民党総裁選挙と立憲民主党の代表選挙である。新聞・テレビだけではなく、週刊誌や眉唾ゴシップを流すインターネットサイトはしばらくの間このネタでしのいでゆける。

9月7日には立憲民主党の代表選挙が告示された。野田佳彦、枝野幸男、泉健太、吉田晴美の4氏が立候補した。同じ日の討論会(日本記者クラブ主催)で、元首相の野田氏は、政権交代こそが最大の政治改革だ、と語った(9月8日付朝日新聞)。

思い出したのが古い恋の歌――。

あひみての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり

立憲民主との4氏が何を考えているのか、まだよくわからない。わかったところで私は党員ではないので選挙権がなく、解散総選挙になっても彼らの選挙区の住民ではないので、一票を入れることもできない。こういう顔揃えになったのは現在の立憲民主党の実力のあらわれであると写真を眺めるだけである。4人の中に素敵な政治的パースペクティブの持ち主がいればいいのだが、願うだけである。

一方、自民党総裁選挙の告示日は12日である。茂木敏充氏は、防衛力増強のための増税は避けたいと言った。小泉進次郎氏は選択的夫婦別姓の導入について賛成する考えを示し、法案を国会へ提出すると発言した。林芳正氏はマイナンバーカードへの健康保険証一体化に関連して、現行の健康保険証廃止期限の見直しを検討する考えを示した。

思い出したのが昔のざれ歌――。

年を経し糸の乱れの苦しさに衣のたてはほころびにけり

(2024.9.8 花崎泰雄)

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日替わり表明

2024-09-01 00:01:05 | 政治

台風10号はながっちりというか動きの鈍い嵐だった。九州から四国へ移動するのに数日かかった。その間、暴風と豪雨で被害を出した。それどころか、台風の中心から遠く離れた関東圏で線状降水帯を作り出し、大雨を降らせた。この嵐で新幹線は止まり、飛行機も飛べなくなり、連絡船も出航を中止した。自民党総裁選挙に出馬するとみられている議員が次々と正式な出馬表明の予定を先延ばしした。有権者が台風で難儀している最中に総裁選ではしゃいでいると思われるのを避けたのだろう。もっとも立憲民主党の野田佳彦氏は台風が鹿児島に上陸した8月29日に立憲民主党代表選挙に出馬すると表明している。政局の台風の目のゲンかつぎか、野党の身軽さのゆえだろうか。

自民党の茂木敏充氏は新聞報道によるとは9月4日に総裁選立候補を正式表明する予定。小泉進次郎氏も当初の予定を先に延ばし9月に入ってからの出馬表明。9月上旬は下馬評にあがった議員たちが日替わりで出馬表明をすることになる。

8月31日付朝日新聞の「首相動静」によると、岸田首相は30日東京のホテル・オークラの日本料理店で、自民党副総裁の麻生太郎氏、幹事長の茂木敏充氏、林芳正官房長官と昼食を共にした。林芳正氏も9月に入ると出馬表明をする。官邸に帰ると石破茂氏、河野太郎氏と面談した。

ところで、31日の朝日新聞の別の記事によると、河野太郎氏は30日に麻生派の事務所で同派の議員に支持を訴えたが、集まったのは河野氏を入れて13人だった(麻生派には54議員が所属)。

下馬評に名前が出ている11人の議院のうち、何が脱落し、何印が正式立候補にたどり着けるか、興味深いレースになる。

また、立憲民主党では現在の代表である泉健太氏が所定の推薦人を集めきれていないのではないか、とにおわせる報道も出ている。

9月が始まる。風に任せて、流れに任せて、日本の政治が漂流するかもしれないシーズンが始まる。

(2024.8.31 花崎泰雄)

 

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下馬評

2024-08-25 00:43:25 | 政治

日本列島は性悪な熱気にとりつかれている。気象庁の長期予報ではこの暑さは9月に入っても尾を引くそうである。9月には自民党の総裁選挙と立憲民主党の代表選挙がある。それが終わるころには、涼風(寒気がするほどの冷風でもよい)が戻ってくれるとありがたいのだが。

8月24日には自民党の石破茂氏が地元・鳥取県の小さな神社で正式な総裁選挙出馬を表明した。同じ自民党の小泉進次郎氏が浴衣姿で夏祭り(多分地元の)にあらわれて小さな(選挙権のない)こどもに媚びを打っている姿がテレビのニュースで流された。小泉氏はまだ正式な総裁選出馬表明を済ませていない。

自民党の総裁選挙には今のところ11人が下馬評にあがっている。8月22日の日経新聞(電子版)によると、同社の世論調査で、23%の回答者が小泉進次郎氏を次の自民党総裁にふさわしいと回答した。18%の回答者が石破茂氏の名をあげた。

この段階で小泉・石破両氏とも出馬を表明していなかった。政治理念や具体的な政策、自民党のモラル向上策について語っていなかった。したがって、日経新聞のこの世論調査は下馬評的人気調査であり、小泉純一郎氏の息子である世襲議員小泉進次郎、「おもてなし」で人気者になったタレントの夫である進次郎氏、環境相在任時に環境対策のプロジェクトはセクシーであると、聞きなれない英語をつかった進次郎氏が、陰陰滅滅な語り口の石破氏より世間に受けているというだけのことである。

一方、立憲民主党の代表選びも泉健太氏、野田佳彦氏、枝野幸男氏が争うことになりそうだ。野田氏、枝野氏のどちらかが代表になれば、次の総選挙で、日本版"カマラ・ハリス効果“を作り出せるのは小泉氏かもしれない。

とはいえ、次の総選挙で自民党は相当な議席減を経験するだろう。自民党総裁の椅子に固執する岸田首相を椅子からはぎとったのは、このままでは次の選挙で議席を失う恐れのある自民党議員たちである。次の総選挙で自民党が2009年の総選挙の時のような大敗に見舞われれば、新総裁は即交代である。公明党や日本維新の会と連立を組むような状況になっても、総裁は責任を問われるだろう。

いま火中の栗をあえて拾うのは誰か、洞ケ峠を決め込むのは誰か。政治記事とは政局解説であると思いこんでいる日本の政治記者たちにとっては、興味深い9月になる。いっぽう「売り家と唐様で書く三代目」の時代を日本は迎えている。なぜこんな政治になったのか? 奥行きのある政治分析をたまには読ませてもらいたいものだ。

(2024.8.25 花崎泰雄)

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8月のたそがれ

2024-08-17 22:38:46 | 政治

岸田文雄首相が9月の自民党総裁選挙に出るのをやめたと記者会見で語った。次の首相を目指す気のないことを明らかにした。8月16日の朝日新聞コラム「天声人語」は「結局、岸田氏は何が最もしたくて首相になったのだろう」と書いた。なるほど。そういう感じを持つ人は少なくない。

岸田氏は何かがやりたくて首相になったわけではない。彼の天地左右なりゆき的なプリンシプルのない状況すり寄り型の政治的言動から、そのことは推測できる。彼は首相になりたかった、だけのことである。岸田氏の父も祖父も国会議員だった。三代目にして大輪の花を咲かせたかった――世襲の業である。世間には政治家の家庭で育った子であるから政治的才覚は自ずと身につけている、と楽観的に考える人がいる。おまかせ政治の風景だ。だが、岸田首相の長男は首相秘書官になって海外出張に出たさい、大使館の車に乗ってお土産品を買い集めていた。

福田康夫首相は福田赴夫首相の息子だ。麻生太郎首相は吉田茂首相の孫だ。安倍晋三首相は岸信介首相の孫だった。朝日新聞が伝える海外の研究によると、日本のGDPは1920年に世界の3.4%を占めていた。戦後の高度成長でそれが8.6%に上昇したが、2022年には3.7%に落ちた。

英国あたりなら政権が野党に移って当たり前の失政だが、自由民主党は少なからぬ有権者から「腐っても鯛」という評価を受けている。野党に政権が移っても世の中がよくなるとは思えない、慣れ親しんだ自民党政権の下でじり貧に耐える方がましだ、と考える人が多い。日本文化には、変化よりもなじみに重きを置く傾向がある。

それはさておき、もっか日本よりはるかに将来が不安なのがイスラエルである。イスラエル軍のガザ市民に対する攻撃は、ベトナム戦争における米軍のふるまいと同じように映像となって世界の家庭に流れている。ハマスの軍事組織を叩き潰すと叫んで、ガザを破壊し、そこに住む民間人、特に子どもを殺傷する行為は世界の多くの市民が批判している。近く停戦交渉の結論が出るようだが、イスラエルに痛めつけられたパレスチナ人の憤りは消えないだろう。汚職問題で裁判沙汰になっているネタニヤフ首相が、自らの保身をねらってガザ攻撃を続けているという見方が世界中で報道されている。停戦交渉を進めているさいに、ハマス幹部のハニヤ氏をイランの領内で暗殺するなど、停戦を嫌がっているようだ。

これだけのことをしてしまった以上、停戦交渉がまとまったとしても、イスラエルはすでに国際的な信用を失い、不快な国家としてのレベルを修復しがたいまでに上昇さた。このダメージを修復するには並々ならぬ努力が必要になるだろう。

自民党が変わる最初の一歩、と高尚な言い回しで憤懣を隠し、総理・総裁レースから身を引くことが許された岸田氏は、追い詰められていた割には運がよかった。

(2024.8.17 花崎泰雄)

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敵失頼みの失敗

2024-07-08 00:19:47 | 政治

退屈な都知事選挙だった。これといった哲学を持っているわけではないが、状況に合わせて身振り手振りを変えて見せる政治技術の持ち主である現職都知事を自由民主党と公明党が水面下で支援した。これに対して、自民党の裏金スキャンダルに助けられて少しばかり人気があがった立憲民主党の元参議院議員が無所属で挑戦し敗北した。

東京都の予算規模は大きいが、都知事は日本の安全保障政策や沖縄問題に影響力があるわけでもなく、日本経済の指針やもっかの円安対策を指示できるわけでもない。東京一極集中は長い期間にわたって深刻な問題であり続けているが、東京都自体ががこれといった具体的な解決方法を模索している様子はない。東京一極集中解消に動き出せば東京は東京の特別なステータスを失い始め、都知事の椅子は道府県知事のそれに毛の生えた程度のものになって行く。

そういうわけで、今回の都知事選の最大の政治効果は崩壊寸前にまで追い詰められている自民党政権への、相撲で言えば野党のぶちかましだった、蓮舫氏は参議院議員だった2009年の民主党政権で予算の事業仕分けでこんな発言をしたことがある。世界一を狙うスーパーコンピューター「京」の予算に関して「世界一になる理由は?」「2位じゃダメなんでしょうか?」

今回の都知事選挙では、現職の小池百合子氏に得票で激しく肉薄できれば、2位で十分だった。敵失で得た立憲民主党の勢いを党代表選へむけて持続させる弾みになるはずだった。

(2024.7.7 花崎泰雄)

 

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政権を変えられる国、変えられない国

2024-07-01 14:50:25 | 政治

互いをののしり合う老いたライオンの一騎打ち――バイデン現大統領とトランプ前大統領の双方にうんざりしている米国の有権者を「ダブルヘイター」という。日本の新聞に載っていた。失語症気味の現職と虚言癖丸出しの前職だから、ダブルヘイターの嫌悪感に同情する。民主党がバイデン大統領を説得して選挙戦から退かせる工作をしているとの報道もある。アメリカ政治の老化の兆候だが、日本で高みの見物というわけにはいかない。アメリカの政権とちかしい政権を持つ国の民は、米国の大統領選挙に投票はできないが、アメリカ人の選択の結果の影響にさらされる。

英国でも7月の下院選挙で保守党が大負けしそうだと日本の新聞が伝えている。保守党政権が退陣し、労働党政権が誕生する公算が大きい。経済的な得失より、大陸ヨーロッパとのしがらみをすて、大陸に制約されないという自尊心の方を優先した英国のEU離脱の判断の結末ともいえる。

フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の与党が、右翼勢力の国民連合に押されている。欧州議会選挙でフランスでは大統領与党が大敗したため、どちらかと言えば発作的にマクロン大統領が議会を解散して選挙に打ってでた。自業自得である。イタリアではすでに右翼が政権を握っている。ドイツでも右翼が勢力を強めている。若いころであれば興味津々の政治状況だが、世俗のろくでもない出来事を経験してきた身には、「明日は嵐」の天気予報を聞きながら夕暮れの空を眺める気分だ。

安倍晋三氏が首相を務めていたころ、安倍氏はしばしば外国のメディアや政治コメンテーターから右翼と言われてきた。安倍晋三氏(当時首相)は2013年2月15日、朝日新聞の記事によると、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の会合で講演し、「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」と改憲の必要性を訴えた。米国のトランプ氏は「もし私が大統領だったとした、ロシアはウクライナに攻め込まなかった」と先ごろの選挙運動で言った。夜郎自大の発言で笑止千万だが、安倍氏の場合は横田めぐみさんを引き合いに出して憲法改正を急がせようとした。現行憲法では市民を守れない、その理由が省略されてところは、トランプ氏の法螺話と同じ作りである。

アベノミックスという言葉が存在感を失い、日銀総裁が黒田氏から植田氏に代わり、1ドルが160円という円安時代が始まった。この円弱はアベノミックスの後遺症――決定的な日本経済の沈没を象徴しているのではあるまいか。さらに、森友学園、加計学園、新宿御苑の桜を見る会、お気に入り検察官の定年延長のごり押し、内閣法制局を抱き込んでの安全保障関連の憲法解釈の変更、派閥の政治パーティー券をめぐるピンハネやキックバックなど、安倍政治の時代に日本の政治倫理は瓦解した。

都知事選のポスターが風俗営業法違反の疑いがあると警察が党首に警告する珍奇な現象が起こるような社会になってしまった。蒸し暑い梅雨の不快指数が跳ね上がっているが、これから都知事選挙の期日前投票に行って、自民党衰退につながりそうな候補者の名前を書こうと思う。

(2024.7.1 花崎泰雄)

 

 

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