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news commentary

ボンボヤージュ

2024-09-28 23:15:56 | 政治

自由民主党が新しい総裁に石破茂氏を選んだ。公明党は石井啓一氏を新代表に選出した。立憲民主党は野田佳彦氏が新代表に選ばれている。10月に入ると臨時国会が始まる。石破氏が新しい首相に指名されて組閣する。組閣のあと国会で施政方針演説だの代表質問だのがあって、予算委員会で質疑が行われるだろう。そして質疑もそこそこに衆議院が解散され、総選挙が始まるだろう。

総選挙の後、国会の勢力図がどうなっているか。確実なことは誰にもわからない。韓国や台湾なら支配政党の構造的な疲労は素直なかたちで選挙結果に反映されるのだが、日本の有権者はたえしのぶことが好きで、かつては「踏まれてもついてゆきます下駄の雪」と自民党と連立をくんだ公明党が揶揄されたが、日本の有権者全体にもこの傾向がみられる。球場の夜空に消えてゆくホームランの打球をぽかんと見上げるように次の選挙を観戦するのだろうか。

おそらく総選挙で自民党は議席を減らすだろう。議席を増やしたり、現有議席を保持できるような環境にはないのだから、議席は減るしかないのだ。

(2024.9.29 花崎泰雄)

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ドジョウすくいを今一度

2024-09-23 23:26:15 | 政治

立憲民主党の代表選挙が9月23日に行われ、決選投票で野田佳彦氏(元首相)が新しい代表に選ばれた。まもなく自由民主党の総裁選挙がおこなわれ、そのあとに衆院解散・総選挙の可能性があり、野田氏が立憲民主党の総選挙の顔として選出された。

野田氏は2011年に民主党を率いて首相に就任した時、自身のことを「泥鰌」と表現した。権力を振りかざすことのない、普通の市民感覚を持った政治家であるとの自己評価だった。政治家はときどきこの手の謙譲表現を使う。

1974年に米国でニクソン大統領がウォータゲート事件で辞任したあと、大統領職を引きつだジェラルド・フォード氏は前年の1973年に副大統領に就任したあとのスピーチで、自らのことを “I am a Ford, not a Lincoln” と自己紹介した。大衆車のフォードです、高級車のリンカーンではありませんという意味のジョークだった。

野田氏の泥鰌的自己紹介は、フォード氏の諧謔をまねた節がうかがわれるが、2024年になって、「昔の名前」で代表選に出たとき、彼はまた「泥鰌」という言葉を使った。人差し指で押すだけで自民党が次の総選挙でドミノ倒し的大敗を喫するところまできているいま、政治コミュニケーションの技法としては泥臭いところがある。そうか、野田氏や立憲民主党はそういう言い回しを喜ぶ層をターゲットにしている政治家・政党なのかと思われると若者や女性の票を減らす恐れもある。

それと野田佳彦という名を聞くとあのみじめな民主党衰退の記憶がよみがえる。2012年11月14日、野田首相は安倍晋三・自民党総裁と党首討論で対峙した。当時の新聞報道によると次のように問答をかわしていた。

野田首相「一票の格差と定数是正の問題。一票の格差の問題は違憲状態だ。定数削減は、2014年に消費税を引き上げる前に、まず我々が身を切る覚悟で具体的に削減を実現しなければいけない」

安倍氏「まずは0増5減。皆さんが賛成すれば明日にも成立する」

首相「定数削減はやらなければならない。定数削減は、来年の通常国会で必ずやり遂げる。この決断を頂けば、私は今週末の16日に解散をしても良いと思っている」

安倍氏「まずは0増5減、これは当然やるべきだ。すでに私たちの選挙公約において、定数の削減と選挙制度の改正を約束している」

民主党政権はそのころ野党・自民党の激しい抵抗で政治的に行き詰まっていた。解散・総選挙は時間の問題と言われていた。解散と引き換えに議員定数の削減を求めたのである。

しかし、民主党に代わって成立した自民党の安倍政権は.定数削減に手をつけなかった。

1年余りがたった2016年2月19日の衆院予算委員会で野田氏は「衆院の定数削減、いまだに実現していない。党首討論で、当時総理である私と自民党の安倍総裁が国民に約束したことだ。私は衆院解散という約束を果たしたが、次の国会での衆院定数削減の約束が実現されないまま今日に至った。できなかったということは、国民に嘘をついたことになる。満身の怒りを込めて抗議する」と安倍総理に迫った。日本政治の愁嘆場である。

一強多弱の国会で地球儀を回しながら大宰相の白昼夢を見ていたような感じだった安倍晋三氏の権力奪取を、野田氏が結果としてサポートしたような形になった。野田―安倍の党首討論が行われた2012年日本の1人当たりGDPは世界ランキングで11位だった。それが2023年には34位にまで落ちた。

9月23日の朝日新聞朝刊「記者解説」のページで編集委員の原真人氏が「斜陽の経済大国」を書いていた。「身の丈に合った社会設計 考える時」と見出しにあった。日本社会に流れる哀歌の通奏低音である。過ぎし日を思い、明日を考える人におすすめの、しみじみとした秋の歌である。

(2024.9.23 花崎泰雄)

 

 

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どこ吹く風の暑苦しさ

2024-09-15 19:32:13 | 政治

日本記者クラブが9月14日に自民党総裁選挙9候補の討論会を催した。15日はNHKが恒例の日曜討論番組で、自民党総裁選挙9候補の討論と、そのあと立憲民主党代表選4候補の討論を放送した。いずれも面白くもおかしくもなかった。

自民党の総裁選挙候補は夢物語のような実現可能性の少ない将来展望を語った。例えば「所得倍増」。年間所得が倍になるということは、どういうことか。オーストラリアの最低賃金は2000円超で日本の最低賃金の2倍以上である。オーストラリア人の年間所得は800万円超で、これも日本人の平均所得の2倍近い。「日本人の所得をオーストラリ並みに引き上げたい」と言っているのである。円安の背景もあるが、日本経済はここまで落ちた、と自認しているわけだ。日本の歴代政権の無能ぶりを、どうやって挽回するのか、聞いていた人たちは9月の暑さがこたえたことだろう。

立憲民主党代表選の候補者たちは、自民党総裁選候補捕者たちが派閥の裏金づくりスキャンダルについては発言を極力さけ、かわりに淡い将来展望を振りまいていると批判している。自民党を政権から追い払う、と4候補は声高だが、4人のうち2人がかつての民主党政権の中核だったオールドタイマーだ。

立憲民主党の代表選挙候補者も自民党総裁選挙の候補者の多くも、首班指名のあと間髪を容れず解散・総選挙を実行すると標榜する若手の自民党候補者の論に反対している。岸田文雄氏が総裁のままでは次の総選挙で大敗するという危惧から、岸田氏の総裁続投に反対し、総選挙の看板かけ替えのための総裁選挙をやっているのだから、人品骨柄はさておき、人気者を総裁にたて、新総裁のメッキの剥げないうちに早急に総選挙を済ませて議席減を防ぎたい、という気分のだろう。選挙で負ければ、総裁に責任を取らせ、次の総裁選で機会を狙うだけのことだ。

日本記者クラブの討論会で並んだ自民党総裁選候補者9人をテレビで眺めながら、なんだか就職試験の集団面接を見ているような気がしてきた。異常な暑さのせいだ。

(2024.9.15 花崎泰雄)

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どこまで行けるか?

2024-09-08 17:33:31 | 政治

オリンピックが終わった。パラリンピックも終了した。よーいドンで始まったのが日本の自民党総裁選挙と立憲民主党の代表選挙である。新聞・テレビだけではなく、週刊誌や眉唾ゴシップを流すインターネットサイトはしばらくの間このネタでしのいでゆける。

9月7日には立憲民主党の代表選挙が告示された。野田佳彦、枝野幸男、泉健太、吉田晴美の4氏が立候補した。同じ日の討論会(日本記者クラブ主催)で、元首相の野田氏は、政権交代こそが最大の政治改革だ、と語った(9月8日付朝日新聞)。

思い出したのが古い恋の歌――。

あひみての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり

立憲民主との4氏が何を考えているのか、まだよくわからない。わかったところで私は党員ではないので選挙権がなく、解散総選挙になっても彼らの選挙区の住民ではないので、一票を入れることもできない。こういう顔揃えになったのは現在の立憲民主党の実力のあらわれであると写真を眺めるだけである。4人の中に素敵な政治的パースペクティブの持ち主がいればいいのだが、願うだけである。

一方、自民党総裁選挙の告示日は12日である。茂木敏充氏は、防衛力増強のための増税は避けたいと言った。小泉進次郎氏は選択的夫婦別姓の導入について賛成する考えを示し、法案を国会へ提出すると発言した。林芳正氏はマイナンバーカードへの健康保険証一体化に関連して、現行の健康保険証廃止期限の見直しを検討する考えを示した。

思い出したのが昔のざれ歌――。

年を経し糸の乱れの苦しさに衣のたてはほころびにけり

(2024.9.8 花崎泰雄)

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日替わり表明

2024-09-01 00:01:05 | 政治

台風10号はながっちりというか動きの鈍い嵐だった。九州から四国へ移動するのに数日かかった。その間、暴風と豪雨で被害を出した。それどころか、台風の中心から遠く離れた関東圏で線状降水帯を作り出し、大雨を降らせた。この嵐で新幹線は止まり、飛行機も飛べなくなり、連絡船も出航を中止した。自民党総裁選挙に出馬するとみられている議員が次々と正式な出馬表明の予定を先延ばしした。有権者が台風で難儀している最中に総裁選ではしゃいでいると思われるのを避けたのだろう。もっとも立憲民主党の野田佳彦氏は台風が鹿児島に上陸した8月29日に立憲民主党代表選挙に出馬すると表明している。政局の台風の目のゲンかつぎか、野党の身軽さのゆえだろうか。

自民党の茂木敏充氏は新聞報道によるとは9月4日に総裁選立候補を正式表明する予定。小泉進次郎氏も当初の予定を先に延ばし9月に入ってからの出馬表明。9月上旬は下馬評にあがった議員たちが日替わりで出馬表明をすることになる。

8月31日付朝日新聞の「首相動静」によると、岸田首相は30日東京のホテル・オークラの日本料理店で、自民党副総裁の麻生太郎氏、幹事長の茂木敏充氏、林芳正官房長官と昼食を共にした。林芳正氏も9月に入ると出馬表明をする。官邸に帰ると石破茂氏、河野太郎氏と面談した。

ところで、31日の朝日新聞の別の記事によると、河野太郎氏は30日に麻生派の事務所で同派の議員に支持を訴えたが、集まったのは河野氏を入れて13人だった(麻生派には54議員が所属)。

下馬評に名前が出ている11人の議院のうち、何が脱落し、何印が正式立候補にたどり着けるか、興味深いレースになる。

また、立憲民主党では現在の代表である泉健太氏が所定の推薦人を集めきれていないのではないか、とにおわせる報道も出ている。

9月が始まる。風に任せて、流れに任せて、日本の政治が漂流するかもしれないシーズンが始まる。

(2024.8.31 花崎泰雄)

 

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下馬評

2024-08-25 00:43:25 | 政治

日本列島は性悪な熱気にとりつかれている。気象庁の長期予報ではこの暑さは9月に入っても尾を引くそうである。9月には自民党の総裁選挙と立憲民主党の代表選挙がある。それが終わるころには、涼風(寒気がするほどの冷風でもよい)が戻ってくれるとありがたいのだが。

8月24日には自民党の石破茂氏が地元・鳥取県の小さな神社で正式な総裁選挙出馬を表明した。同じ自民党の小泉進次郎氏が浴衣姿で夏祭り(多分地元の)にあらわれて小さな(選挙権のない)こどもに媚びを打っている姿がテレビのニュースで流された。小泉氏はまだ正式な総裁選出馬表明を済ませていない。

自民党の総裁選挙には今のところ11人が下馬評にあがっている。8月22日の日経新聞(電子版)によると、同社の世論調査で、23%の回答者が小泉進次郎氏を次の自民党総裁にふさわしいと回答した。18%の回答者が石破茂氏の名をあげた。

この段階で小泉・石破両氏とも出馬を表明していなかった。政治理念や具体的な政策、自民党のモラル向上策について語っていなかった。したがって、日経新聞のこの世論調査は下馬評的人気調査であり、小泉純一郎氏の息子である世襲議員小泉進次郎、「おもてなし」で人気者になったタレントの夫である進次郎氏、環境相在任時に環境対策のプロジェクトはセクシーであると、聞きなれない英語をつかった進次郎氏が、陰陰滅滅な語り口の石破氏より世間に受けているというだけのことである。

一方、立憲民主党の代表選びも泉健太氏、野田佳彦氏、枝野幸男氏が争うことになりそうだ。野田氏、枝野氏のどちらかが代表になれば、次の総選挙で、日本版"カマラ・ハリス効果“を作り出せるのは小泉氏かもしれない。

とはいえ、次の総選挙で自民党は相当な議席減を経験するだろう。自民党総裁の椅子に固執する岸田首相を椅子からはぎとったのは、このままでは次の選挙で議席を失う恐れのある自民党議員たちである。次の総選挙で自民党が2009年の総選挙の時のような大敗に見舞われれば、新総裁は即交代である。公明党や日本維新の会と連立を組むような状況になっても、総裁は責任を問われるだろう。

いま火中の栗をあえて拾うのは誰か、洞ケ峠を決め込むのは誰か。政治記事とは政局解説であると思いこんでいる日本の政治記者たちにとっては、興味深い9月になる。いっぽう「売り家と唐様で書く三代目」の時代を日本は迎えている。なぜこんな政治になったのか? 奥行きのある政治分析をたまには読ませてもらいたいものだ。

(2024.8.25 花崎泰雄)

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8月のたそがれ

2024-08-17 22:38:46 | 政治

岸田文雄首相が9月の自民党総裁選挙に出るのをやめたと記者会見で語った。次の首相を目指す気のないことを明らかにした。8月16日の朝日新聞コラム「天声人語」は「結局、岸田氏は何が最もしたくて首相になったのだろう」と書いた。なるほど。そういう感じを持つ人は少なくない。

岸田氏は何かがやりたくて首相になったわけではない。彼の天地左右なりゆき的なプリンシプルのない状況すり寄り型の政治的言動から、そのことは推測できる。彼は首相になりたかった、だけのことである。岸田氏の父も祖父も国会議員だった。三代目にして大輪の花を咲かせたかった――世襲の業である。世間には政治家の家庭で育った子であるから政治的才覚は自ずと身につけている、と楽観的に考える人がいる。おまかせ政治の風景だ。だが、岸田首相の長男は首相秘書官になって海外出張に出たさい、大使館の車に乗ってお土産品を買い集めていた。

福田康夫首相は福田赴夫首相の息子だ。麻生太郎首相は吉田茂首相の孫だ。安倍晋三首相は岸信介首相の孫だった。朝日新聞が伝える海外の研究によると、日本のGDPは1920年に世界の3.4%を占めていた。戦後の高度成長でそれが8.6%に上昇したが、2022年には3.7%に落ちた。

英国あたりなら政権が野党に移って当たり前の失政だが、自由民主党は少なからぬ有権者から「腐っても鯛」という評価を受けている。野党に政権が移っても世の中がよくなるとは思えない、慣れ親しんだ自民党政権の下でじり貧に耐える方がましだ、と考える人が多い。日本文化には、変化よりもなじみに重きを置く傾向がある。

それはさておき、もっか日本よりはるかに将来が不安なのがイスラエルである。イスラエル軍のガザ市民に対する攻撃は、ベトナム戦争における米軍のふるまいと同じように映像となって世界の家庭に流れている。ハマスの軍事組織を叩き潰すと叫んで、ガザを破壊し、そこに住む民間人、特に子どもを殺傷する行為は世界の多くの市民が批判している。近く停戦交渉の結論が出るようだが、イスラエルに痛めつけられたパレスチナ人の憤りは消えないだろう。汚職問題で裁判沙汰になっているネタニヤフ首相が、自らの保身をねらってガザ攻撃を続けているという見方が世界中で報道されている。停戦交渉を進めているさいに、ハマス幹部のハニヤ氏をイランの領内で暗殺するなど、停戦を嫌がっているようだ。

これだけのことをしてしまった以上、停戦交渉がまとまったとしても、イスラエルはすでに国際的な信用を失い、不快な国家としてのレベルを修復しがたいまでに上昇さた。このダメージを修復するには並々ならぬ努力が必要になるだろう。

自民党が変わる最初の一歩、と高尚な言い回しで憤懣を隠し、総理・総裁レースから身を引くことが許された岸田氏は、追い詰められていた割には運がよかった。

(2024.8.17 花崎泰雄)

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敵失頼みの失敗

2024-07-08 00:19:47 | 政治

退屈な都知事選挙だった。これといった哲学を持っているわけではないが、状況に合わせて身振り手振りを変えて見せる政治技術の持ち主である現職都知事を自由民主党と公明党が水面下で支援した。これに対して、自民党の裏金スキャンダルに助けられて少しばかり人気があがった立憲民主党の元参議院議員が無所属で挑戦し敗北した。

東京都の予算規模は大きいが、都知事は日本の安全保障政策や沖縄問題に影響力があるわけでもなく、日本経済の指針やもっかの円安対策を指示できるわけでもない。東京一極集中は長い期間にわたって深刻な問題であり続けているが、東京都自体ががこれといった具体的な解決方法を模索している様子はない。東京一極集中解消に動き出せば東京は東京の特別なステータスを失い始め、都知事の椅子は道府県知事のそれに毛の生えた程度のものになって行く。

そういうわけで、今回の都知事選の最大の政治効果は崩壊寸前にまで追い詰められている自民党政権への、相撲で言えば野党のぶちかましだった、蓮舫氏は参議院議員だった2009年の民主党政権で予算の事業仕分けでこんな発言をしたことがある。世界一を狙うスーパーコンピューター「京」の予算に関して「世界一になる理由は?」「2位じゃダメなんでしょうか?」

今回の都知事選挙では、現職の小池百合子氏に得票で激しく肉薄できれば、2位で十分だった。敵失で得た立憲民主党の勢いを党代表選へむけて持続させる弾みになるはずだった。

(2024.7.7 花崎泰雄)

 

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政権を変えられる国、変えられない国

2024-07-01 14:50:25 | 政治

互いをののしり合う老いたライオンの一騎打ち――バイデン現大統領とトランプ前大統領の双方にうんざりしている米国の有権者を「ダブルヘイター」という。日本の新聞に載っていた。失語症気味の現職と虚言癖丸出しの前職だから、ダブルヘイターの嫌悪感に同情する。民主党がバイデン大統領を説得して選挙戦から退かせる工作をしているとの報道もある。アメリカ政治の老化の兆候だが、日本で高みの見物というわけにはいかない。アメリカの政権とちかしい政権を持つ国の民は、米国の大統領選挙に投票はできないが、アメリカ人の選択の結果の影響にさらされる。

英国でも7月の下院選挙で保守党が大負けしそうだと日本の新聞が伝えている。保守党政権が退陣し、労働党政権が誕生する公算が大きい。経済的な得失より、大陸ヨーロッパとのしがらみをすて、大陸に制約されないという自尊心の方を優先した英国のEU離脱の判断の結末ともいえる。

フランスでは国民議会選挙でマクロン大統領の与党が、右翼勢力の国民連合に押されている。欧州議会選挙でフランスでは大統領与党が大敗したため、どちらかと言えば発作的にマクロン大統領が議会を解散して選挙に打ってでた。自業自得である。イタリアではすでに右翼が政権を握っている。ドイツでも右翼が勢力を強めている。若いころであれば興味津々の政治状況だが、世俗のろくでもない出来事を経験してきた身には、「明日は嵐」の天気予報を聞きながら夕暮れの空を眺める気分だ。

安倍晋三氏が首相を務めていたころ、安倍氏はしばしば外国のメディアや政治コメンテーターから右翼と言われてきた。安倍晋三氏(当時首相)は2013年2月15日、朝日新聞の記事によると、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の会合で講演し、「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」と改憲の必要性を訴えた。米国のトランプ氏は「もし私が大統領だったとした、ロシアはウクライナに攻め込まなかった」と先ごろの選挙運動で言った。夜郎自大の発言で笑止千万だが、安倍氏の場合は横田めぐみさんを引き合いに出して憲法改正を急がせようとした。現行憲法では市民を守れない、その理由が省略されてところは、トランプ氏の法螺話と同じ作りである。

アベノミックスという言葉が存在感を失い、日銀総裁が黒田氏から植田氏に代わり、1ドルが160円という円安時代が始まった。この円弱はアベノミックスの後遺症――決定的な日本経済の沈没を象徴しているのではあるまいか。さらに、森友学園、加計学園、新宿御苑の桜を見る会、お気に入り検察官の定年延長のごり押し、内閣法制局を抱き込んでの安全保障関連の憲法解釈の変更、派閥の政治パーティー券をめぐるピンハネやキックバックなど、安倍政治の時代に日本の政治倫理は瓦解した。

都知事選のポスターが風俗営業法違反の疑いがあると警察が党首に警告する珍奇な現象が起こるような社会になってしまった。蒸し暑い梅雨の不快指数が跳ね上がっているが、これから都知事選挙の期日前投票に行って、自民党衰退につながりそうな候補者の名前を書こうと思う。

(2024.7.1 花崎泰雄)

 

 

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御破算で願いましては

2024-06-15 22:28:21 | 政治

いつから梅雨に入りいつ頃梅雨が明けるのか。どうもはっきりしないが、6月20日告示、7月7日投票の東京都知事選は確定している。40人を超える人々が立候補を予定しているとメディアが伝えている。賑やかなお囃子にのって現職の小池百合子氏と参議院議員を辞して都政に挑戦する蓮舫氏との争いになると世間は面白がっている。小池氏がこれまでの2期8年、都知事として何をやったか――築地市場移転、東京オリンピック、神宮外苑再開発などをめぐる毀誉褒貶は新聞で読んだが、東京で暮らす人々の日常が、この8年間でどの程度よくなったのか、あるいは悪くなったのか、私にはわからない。蓮舫氏が都知事になって何をしようとしているのか、こちらもよくわからない。

小池―蓮舫対決は都政をめぐって行われる以上に、もっと大がかりな意味がある。

韓国の大統領の任期は1期5年に限られる。台湾総統の任期は4年2期限り、フランス大統領の任期は5年、連続2期まで可能、米国大統領の任期は4年2期まで。ロシア大統領は任期6年連続2期までだが、プーチン大統領が憲法を改正して、2024年からは過去の任期をノーカウントにして、あらたに2期12年とした。中国の国家主席は連続2期までだったが、習近平氏の時代に憲法を修正して任期の制限をなくした。習近平氏は現在3期目の国家主席を務めている。

「転石は苔むさず」という言葉を、肯定的に受け止めるか、否定的に受け止めるか。それは各地の文化や時代によって異なる。国家最高指導者の任期に制限を加えた米仏韓台は権力者のほど良い交代制度を法律で定めた。「さざれ石のいわおとなりて苔のむすまで」とうたってきた日本では公職の期間に制限を定めていない。

そうした事情もあって、日本では古くからの地盤・看板・カバンの3バン選挙を通じて、職業としての政治家の家業化がすすみ、自民党に見られるように、緊張感に欠ける世襲議員たちとそのとりまきが永田町にとぐろを巻いた。

自民党安倍派を中心とした政治パーティー券のスキャンダルを目の当たりにした日本の有権者たちは、日本経済の不振、賃金の低迷、不正規雇用の拡大、学術の賃貸、さらにはこのところの円の弱体化など、そのほとんどが自民党長期政権いすわりと無関係ではないと感じている。

岸田内閣の支持率は低迷を極め、自民党の党勢も大きく陰りを見せている。このところ各地の選挙で自民党は負けを続けている。小池都知事の3選で、何とか負け癖を払拭し、再起のためのカンフル剤にしたいと自民党は考えている。

ということは、小池都知事の3選を阻止できれば、保守政党としての自民党はそのダメージで強度の機能不全に陥り、野党に政権を渡さざるをえなくなる。

この原稿を書いている私のPCは年に1度くらいの割合で帯電して操作ができなくなる。また、部屋の中の家庭用wifi も帯電する。電源コードや機器の接続コードを引き抜いて10分ほど放置する、すると放電の効果で、PCが再び正常に動き出す。

(2024.6.15 花崎泰雄)

 

 

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政治ごっこ

2024-06-08 19:36:41 | 政治

かつて南米・ウルグアイに「世界一貧しい大統領」と、その清貧ぶりが国際的な評判になった政治家がいた。大統領在任中も首都モンテビデオ郊外の農場に住み、大統領の給与の多くを学校などに寄付した。ホセ・ムヒカ元大統領。いくつかのドキュメンタリーが作られた。友人から譲り受けたフォルクスワーゲン・カブトムシを自ら運転してして移動、国際会議からの帰国では、知り合いの他国の政治家の専用機に同乗させてもらったりした。「多くのものを必要とする者こそ貧しいのだ」が口癖だった。

ホセ・ムヒカ氏の清貧は政治的パフォーマンスだったのか、彼の信念だったのか。議論のあるところだったが、ムヒカ氏の生活態度は、金に手を汚さないで政治活動を続ける政治家の、マックス・ウェーバーいうところの「理念型」となりえた。「政治には金がかかる」と、政治資金規正法をめぐって合唱した自民党国会議員から見れば、ホセ・ムヒカ氏は「清貧のピエロ」であろう。

日本の岸田首相は、政治的にはレイムダック状態を過ぎ、政治的な死の床に体半分が入ってしまったような状態だ。岸田氏は政治的な危機感知能力に乏しく、危機への対応能力がないことが日本中に知れわたってしまった。

もう、そろそろ、というわけだろうか、菅元首相がさきごろ同じ自民党の萩生田前政調会長、加藤元官房長官、武田元総務相、小泉進次郎元環境相と東京麻布十番の日本料理店で会食した。

菅氏らが自家用車で日本料理店に到着、渋面を作って見せる一方で肩で風を切るといった感じの政治家特有の気負った身のこなしで次々と店内に入って行く様子をテレビニュースが放映した。レストランへの支払い、自家用車の運転手の給与、秘書の給与、ガソリン代、などの経費はどうなるのだろうか、と気にかかる。レストランへの支払いは割勘だろうか、だれかのおごりだろうか。金の出どころは議員歳費だろうか、政策活動費だろうか。議員会館の空き部屋で、食堂からざるそばでも取って、渋茶をすすりながら清貧の政治的論議はできないのだろうか。

いやいや、それでは彼らに気の毒だ。幼いこどもがままごと遊び(今でもやっているのだろうか?)に熱中するのと同じように、日本の(それに世界の沢山の)政治家は政治ごっこが好きなのだ。これ見よがしに権勢を肩に担ぎ、同業者や世間の耳目を集めることで快感をえているのだから。

議員が使える様々な経費を有効に使って政治的パースペクティブを広げ、政治哲学を深め、それを選挙区で訴える議員は少ない。さまざまな手法でかき集めた資金を選挙区の支持培養費に充てる議員は多い。これからの日本は働く人口が減り、高齢者が増え、消費は伸びず、企業などの生産性の飛躍的な伸びも期待できなくなる。縮む日本にふさわしいじり貧経済における公正な再分配の手法――新しい資本主義――は、ボスが集う高級レストランのメニューには載っていない。

(2024.6.8 花崎泰雄)

 

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梅雨入り前の感傷

2024-06-01 21:54:16 | 政治

このところ失笑させられることが多い。たとえば北朝鮮が韓国に飛ばした"風船爆弾“。大型の風船に廃棄物や汚物を結び付けて、北朝鮮国内から38度線を超えて韓国領内に送った。飛んできた風船の荷物の廃棄物から細菌やウイルスが出てきたという報道は今のところない。卵をにくい相手に投げつける憎悪の表明の国際版だが、双方の憎悪が高まれば、廃棄物・汚物が銃弾・砲弾に代わる可能性がないわけではない。韓国と北朝鮮は38度線をこえて、宣伝用印刷物などを相互に風船で飛ばし合ってきた。ある意味で毎度のことの延長線上の行為である。別の意味では、いいおとながこどもだましのような侮蔑の交換をしていることに唖然とする。政治というものはそんなにこどもっぽいものなのだろうか。

米国ではバイデン現大統領を相手に、11月の大統領選挙をあらそうトランプ前大統領の不倫口止め料に関連する裁判で、陪審員がトランプ氏に有罪の評決をした。このコラムの筆者が若いころには、米大統領はWASPで、離婚歴がないことが当選の条件とされていたが、この半世紀で米国社会の雰囲気はだいぶ変わってきたようだ。トランプ氏が元ポルノ女優を相手にした不倫は事実であり、彼女に口止め料を支払ったことも事実である。その支払いの手続きに違法性があったことが今回の裁判の焦点だった。その裁判の有罪評決を魔女狩りだの、腐敗した判事の策謀だと公言し、真の評決は11月の大統領選挙で国民が出す、とトランプ氏は支持者に語りかけた。米国から太平洋で隔てられた日本に伝わってくる断片的な情報から判断すれば、トランプ氏は歴代米国の大統領の中でも知性を研磨することの少なかった1人であるように見受けられる。考え方は自己中心的で、自らの存在を異様に増幅して認識している張子の虎のようなものである。トランプ氏が前回当選したとき、「核のフットボール」とよばれる黒いカバンをどうやってトランプ氏の目につかないようにするか、という議論があった。彼は情緒不安定な人物であると、米国人の半分が考えており、残る半分は彼こそ最高の大統領であると信じている。第2次大戦後の米国の外交政策にはベトナム戦争を始めおかしな点が多々あったが、その自己中心的な米国民衆の錯乱がトランプ氏の周りで渦を巻いている。これは止めて留められるようなものではい。静まるまで待つしかないのだが、その時まで、世界の情勢が小康状態を保てるかどうか、不安がある。

日本では、自民党の岸田首相が公明党の山口代表、日本維新の会の馬場代表と会談、今の国会で政治資金規正法の成立させるために妥協した。次の総選挙で自民党が惨敗する可能性があり、その時は自民・公明・維新で連立政権を組み、政権内部でおいしい思いをしようと計算しているのであろう。クリーンな政治は大切だが、まずは権力の座を狙うのが、政党が目指すところであるという、伝統的な政治学が教えるところだ。その代わりにといってはなんだが、有権者諸君は定額減税で夏休みをお楽しみあれ、というのが岸田首相の思い付きである。

   世の中をなににたとへむ朝ぼらけ漕ぎゆく舟のあとのしら浪 (拾遺集)

 

(2024.6.1 花崎泰雄)

 

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連休恒例の官費外遊

2024-05-02 02:25:57 | 政治

岸田文雄内閣総理大臣が5月1日政府専用機で3か国訪問の旅に出た。ついでに言えば、岸田内閣の他の閣僚13人もこの連休中に外遊に出る。「外遊」とメディアは言うが、日本政府の外交を進めるための、国費による外国出張である。外遊にでかける大臣の数は閣僚の3分の2以上になる。

岸田首相はフランス、のブラジル、パラグアイへ旅する。上川陽子外相は6カ国へ。アフリカ3カ国と南アジア2カ国、フランスへ。パリで開かれるOECD閣僚理事会には、岸田首相、上川外相、松本総務相、斎藤経産相、河野デジタル相、新藤経済再生担当相が出席する。斎藤氏と伊藤環境相はG7気候・エネルギー・環境相会合に出席。自見万博担当相はパリで博覧会国際事務局のケルケンツェス事務局長と会談を予定。

自民党は「統一教会」問題でブーイングを浴びた。続いてパーティー券裏金問題。一番大がかりだった安倍派は派閥の岩盤がひび割れ、さしものに二階氏も次の選挙には出馬しないと言わざるを得なくなった。麻生派以外は派閥の解消を表明した。自民党は衆院補選で東京15区と長崎3区で党公認候補を立てることができなかった。不戦敗2。島根1区で立憲党候補が自民党候補を破った。敗戦1。

岸田首相には、国賓待遇で訪米した時のような高揚感は、おそらくないだろう。記録的円安が続いている。円相場の高下はアメリカの金利次第で、日本にできることは多くない。アメリカから武器を買うが、このさきの支払いをどうしたもんだろう。円安で日本観光に来た外国人が観光地を闊歩する。海外旅行をあきらめた日本人の鬱屈。首相は足どり重く3か国をめぐり、先々の事を考えて宿舎で寝付けない夜を過ごすことだろう。といって、自民党総裁・総理大臣の延命策はない。ただそんなことを気に欠けるような人物ではない、と岸田氏の鈍感力を指摘する報道も少なからずある。

自民党内からはこの3補選全敗の責任を問う声が聞こえない。反岸田勢力の核になる議員が今のところ見当たらない。有権者の自民党批判の声も、時が過ぎれば小さくなってくる。”governability” という英単語を、昭和のころには「統治能力」と誤解する政治家が多かった。本来は「統治を受け入れる国民の側の許容度」といった意味である。したがって、岸田氏にとっての「蜘蛛の糸」は、よりどころの派閥を失った自民党国会議員の「ガバナビリティー」と日本の選挙民の「ガバナビリティー」だけである。

外遊中の諸大臣のみなさまの実りある出張を祈念します。

(2024.4.9 花崎泰雄)

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マグノリア

2024-04-19 23:44:54 | 政治

藤原定家自筆の古今和歌集注釈書『顕注密勘』の原本が京都・冷泉家で保存されている木箱から見つかったという記事が4月19日の朝日新聞朝刊1面に載っていた。思い出したのが、

  大空は梅のにほひにかすみつつくもりもはてぬ春の夜の月 

という彼のけだるい春の夜の歌。「梅のにほひ」から、連想がリチャード・ライト『HAIKU この別世界』(彩流社、2007年)へとワープする。本を開くと、あった。

   Steep with deep sweetness,

 O You White Magnolias,

   This still torpid night!

この本の翻訳者は「甘美満ち白きモクレン夜だるし」と日本語訳をつけている。

『アメリカの息子』や『ブラック・ボーイ』で知られる米国の作家リチャード・ライトはミシシッピ州の生まれ。白い大きな花をつける高木・タイサンボク(Southern Magnolia、学名Magnolia grandiflora)は同州の花とされ、州の旗のデザインになっている。子ども時代に見たタイサンボク(マグノリア)の白い花はライトの記憶に焼きついていた。

白い花はどこにでもある平凡な花だが、時と場所、事と次第によっては、つよく記憶にのこることもある。むかし私はジャカルタで暮らしたことがある。そのころのある日、訪れた外国人墓地公園「タマン・プラサスティ」の一角で大きな墓石の上に白い花が散り落ちているのを見た。モクレンか、クチナシか、ジャスミンか――花の分類に暗い私にはよくわからなかった。だが、しばらく間その白い花は私の記憶の中でちらつき続けた。墓の主がスタンフォード・ラッフルズの最初の妻で、インドネシアで客死したオリヴィア・ラッフルズだったからだ。

アウンサンスーチー氏の髪飾りの白い生花。バリ島の女性が髪に飾る白い花。ビリー・ホリデイが髪飾りにした白い花――こちらはクチナシの花だったが、白いクチナシの花を髪に飾ってビリー・ホリデイが歌ったのが『奇妙な果実』(Strange Fruit)だった。

――アメリカ南部には奇妙な果実をつける木がある。葉も根元も血に染まっている。南部のそよ風にポプラの木に吊るされた黒い死体が揺れている……マグノリアの香りは甘くさわやかだが、突然、肉体の焼ける匂いが鼻を衝く――そういった内容の、かつての南部の黒人に対するリンチの光景を歌ったものである。この凄惨な歌詞の歌をビリー・ホリデイは生涯にわたって歌い続けた。ビリー・ホリデイ亡き後、ニーナ・シモンが歌をひきついだ。

米国南部のミシシッピ州に生まれたリチャード・ライトにとっては、合衆国南部が原産地であるタイサンボク(magnolia grandiflora)は望郷の花であり、差別された貧しい黒人少年の――奇妙な果実の歌詞にあるような暗い記憶の――花であり、晩年フランスで暮らして俳句制作に励み、澄明な「別世界」に遊ぼうとした作家の心の花でもあった。

リチャード・ライトやビリー・ホリデイとは違って、アメリカに住む白人にとっては、タイサンボクは大輪の花を咲かせるマグノリア・グランディフローラである。アメリカが誇る花の木だ。第7代の米国大統領アンドリュー・ジャックソンは亡き妻を偲んで、ホワイトハウスの南側の庭(サウス・ローン)に2本のタイサンボクを植えた。ホワイトハウスのサウス・ローン――権力の庭――のタイサンボクは「ジャックソン・マグノリア」としてドル世界であまねく知られた。1928年から1998年まで印刷された20ドル札の裏の挿絵に使われた。タイサンボクは植樹から200年近く生き続けた。やがて、うち1本が老化でもろくなり、庭から発着する大統領専用ヘリが巻き起こす強い風をうけて倒れる恐れが出てきた。大統領がヘリで出かけるさいはメディアの写真班がこの木の近くでカメラを構える。危険、ということで2017年に撤去された。

第18代米国大統領だったユリシーズ・グラント将軍は大統領職から退いたのち、夫婦で世界漫遊の旅に出た。夫妻は1879年に日本を訪れ、上野公園にタイサンボクを記念植樹した。こちらのタイサンボクはいまも健在だ。

岸田首相は11日の米議会スピーチで、米国への友情の印に250本の桜の木をプレゼントすると約束した。昨年は岸田氏の妻・岸田裕子氏が単独でホワイトハウスを訪問し、ホワイトハウスの南庭で桜の苗木を植樹している。

マグノリアの話はこのくらいにしておこう。ライトの『HAIKU』には「この道をくだって右折桃が咲く」という軽快な句も載っている。

   Keep straight down this block,

  Then Turn right where you will find

   A peach tree blooming.

英文の方の俳句というか3行詩というか、その音のリズムが心地よい。私が住んでいる高層アパートの玄関を出て、建物沿いにしばらく歩き、舗道と交差するところを左折すると、今の時期そこに紫木蓮が咲いている。思えば白梅紅梅が咲いて散り、公園の遊歩道のこぶしの白い花が開き、桜が散って葉桜になり、白とピンクのハナミズキが咲いた。春は駆け足で初夏に向かっている。この間、岸田文雄首相は自民党派閥のパーティー券裏金スキャンダルの鎮静化のための弥縫策に追われ、新年度予算の年度内成立のために不祥事のおわびを連発し、暇な時間には公邸か官邸で英語の発音練習に取り組んでいた。日経新聞のワシントン特派員の記事によると、岸田氏が米国議会で行ったスピーチは、起草にあたってレーガン元大統領のスピーチライターだった人物の助けを借りたという。スピーチライターが録音してくれた発音をまねて練習を重ねていた。すると、前回お話ししたバイデン大統領主催のレセプションでの岸田スピーチにでてきた「スタートレック」のセリフも、このスピーチライターからアイディアをもらったのかもしれない。4月28日の衆院補選では、自民党が3選挙区で全敗する可能性がある。自民党にとっては春に背くようなしまらない話のオチになってしまい恐縮である。5月に入るとタイサンボクの白い花が咲き始める。

(2024.4.19 花崎泰雄)

 

 

 

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ワシントン参拝

2024-04-14 00:57:13 | 政治

”Boldly go where no one has gone before”と.訪米した日本国首相・岸田文雄氏は晩餐会の挨拶で、アメリカ製のドラマ『スタートレック』のキャッチフレーズを引用した。「日米はゆるぎない。前人未到の地へ、果敢に挑もう」と言った岸田氏に対して、米大統領バイデン氏は「同じ未来に乾杯」と返した。正確にいうと1960年代の『スタートレック』初期シリーズでは” boldly go where no man has gone before”だったが、のちのシリーズでは”no man”が”no one”と言いかえられた。アメリカ合衆国にジェンダーの視点が広がったせいだ。岸田氏のレセプション・スピーチを書いた日本政府のスタッフもその程度の時代の変化はわきまえていた。

日本国首相が米国の対中国包囲網に積極的に関与することを明言した。米国大統領は日本国の安全保障関係の費用負担増と、世界で指折りの軍事力を持つまでになった自衛隊と米軍の指揮統制の調整協議に意欲を示した。

思い返せば――。

1945年にポツダム宣言を受け入れて日本は連合軍に占領されたのだが、ポツダム宣言では、日本が占領を解かれて独立国となる場合は、占領軍は速やかに日本から撤収する約束になっていた。

サンフランシスコ条約で日本が主権を回復したのは1952年である。朝鮮戦争は1950年に始まっていた。占領軍が一斉に日本を去る事態は、東アジアに深刻な武力の真空を生じさせると考えた米国は、日本と安全保障条約を結んだ。この条約はサンフランシスコ条約と同時に1952に発効した。この条約で米軍は米国の反共世界戦略の最前線に軍事基地を確保した。

朝鮮戦争のさい米軍は日本駐留兵力を朝鮮半島に出動させたので、日本国内での安全保障能力が低下した。そこで、米国政府は日本政府に警察予備隊をつくるよう要請した。

警察予備隊が日本再軍備の始まりだった。警察予備隊は保安隊と改称され、1954年には自衛隊となった。自衛隊を管理する防衛庁は2007年に防衛省と改称。近い将来には航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に拡充する計を進めている。さらには、イギリス、イタリアと共同開発する戦闘機の第3国への輸出も行う予定である。GDPの1パーセントを上限とする日本の軍事費はやがて2パーセントに迫るようになる。

戦後70余年、憲法の条文を無視して日本国の首相の多くは米国に媚び続けたのである。憲法を変える前に、人事権を用いて内閣法制局に憲法条文の新解釈を編み出させて既成事実を作り上げる手法は、有権者の政治嫌悪を増幅させた。議員職の世襲化がつのる万年与党は権力の上に胡坐をかいて、仲良しのお友達とくるま座でわが世の春を合唱してきた。国債乱発のツケはかならず回ってくるし、アメリカに寄り添う保守政党が醸し出した国民の政治的悪酔いが、まだどの国も行ったことがない領域の果てに日本を追い込むことだろう。岸田首相帰国後の国会の論戦の盛り上がりを楽しみにしている。

(2024.4.14 花崎泰雄)

 

 

 

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