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news commentary

暮れのうちから初笑い

2011-12-30 13:42:45 | Weblog

12月30日付朝日新聞の世論調査記事を読んだ。「首相は現在、国会議員の中から選ばれています。仮に首相が国会議員以外からも選ばれる制度に変わったら、だれがふさわしいとおもいますか。今生きている日本人の中から1人だけあげてください」(自由回答)という質問に対する回答が、

①石原慎太郎
②橋下徹
③小泉純一郎
④北野武
⑤池上彰
⑥東国原英夫
⑦小沢一郎
⑧孫正義
⑨石破茂
⑩前原誠司

の順になっていた。

質問した方の姿勢も、回答した方の態度も笑えてくる。

この手の仮定の質問は「世論」調査にはなじまない。これが世論調査だというのであれば、「社長、部長、係長に迎えたい日本人トップ10」のような、よくある人気投票も「世論」調査になる。世論調査はpublic opinion pollで、popularity ranking とは一線を画すものだ。

この人気投票結果を解説した政治理論専攻の杉田敦は「1位の石原氏も2位の橋下氏もそれぞれ(回答の)1割に満たなかった。有権者はポピュリズムを求めているわけではない。ちゃんとした政党、政治家、首相が出てきて、自分たちのほうを向くのを待っている状態ではないか」と意味づけをした。

これからの日本のかじ取りをゆだねたい人10人の名前を眺めていると、笑いがこみあげてくる。そしてその笑いをもたらすものがブラックユーモアであることを知る。ブラックユーモアの先にあるのは、この国に対するどうしようもない絶望感である。

(2011.12.30 花崎泰雄)
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ご臨終

2011-12-26 15:15:52 | Weblog

「コンクリートから人へ」という民主党のマニフェストが、八ッ場ダムの建設再開で事実上総崩れになった、とメディアが伝えた。そんな政党がいまだに政権の座にとどまっているのは、とって代わる政党がどこにもないせいだ。今日の状況をもたらしたのは自民党の長期政権だ。自民党も、自民党の別働隊のような民主党も、ともに×だが、自民党に寄りそった公明党や、自民党からスピンアウトした弱小政党を信用する人はさらに少なく、ましてや社会主義を標榜する政党はこの国では不人気だ。

したがって出口なし、の閉塞感がただよう。大阪の橋本や、名古屋の河村といったご仁が蠢動できるのはこうした環境があるからだ。

鳩山政権で八ッ場ダムの工事中止をとなえ、野田政権で八ッ場ダムの工事再開を了承した民主党の政調会長・前原誠司が、こんどは、人件費削減のために公務員法の分限免職の規定を幅広く適用したい、とテレビで言った。12月26日の朝刊が伝えた。2012年度の予算案で、借金が税収を上回った。4年連続の異常事態である。このままでは、公務員の地位だけを保全して、国や地方がつぶれることになる、というのが彼の理屈だ。

とうとうこの国もどんづまりまで来てしまった。

内閣府経済社会総合研究所が野村総合研究所に委託した「公務員数の国際比較に関する調査」(2006年)によると、人口あたりでみた日本の公務員数は、先進国中で最も少ないグループに入る。国家公務員、公社・公団・政府系企業、地方公務員、国防を含めた公務員の数は、人口1000人でフランス96人、イギリス78人、米国74人、ドイツ70人。日本はフランスの半分以下の42人だった。

さらに、公務員を雇うために必要とされる経費のGDP比では、フランスが14%、米国が10%、ドイツとイギリスがそれぞれ8%、日本は先進5か国中最低の6%だった(2002年のデータでちょっと古いが)。
 
各国の公務員の質を問題にしなければ、日本は公務員による公共サービスが先進5か国中で最低と考えられる数値である(そうした公共サービスの貧困にもかかわらず、日本がなんとかもってきたのは、「お上」に従順な社会体質のおかげだ)。公務員を減らそうというのは、社会サービスを減らそうということである。

国会議員は特別職の国家公務員で、地方自治体の議員は特別職の地方公務員である。「タコの共食い」が始まったこの国、どうやらご臨終も近いようだ。

(2011.12.26 花崎泰雄)
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王朝三代記

2011-12-19 23:45:22 | Weblog

2011年12月19日正午ごろ、北朝鮮のメディアがキム・ジョンイル総書記の死亡を伝えた。同月17日、出張途上の列車内で心筋梗塞に見舞われたという。

例によってテレビのアナウンサーは喪服を身にまとい、涙声でニュースを読んだ。そのうち、テレビにキム・ジョンイル死亡の報に接して、身をよじらせ、号泣して悲しみを表現するピョンヤンの一般市民の姿が映し出された。

日本の野田首相は、同日午後1時すぎから安全保障会議を開き、①北朝鮮の動向に関する情報収集態勢の強化、②米国、韓国、中国などの関係国との情報共有、③不測の事態に備えて万全の体制をとる、の3点を全省庁に対して指示した。

この陳腐な安全保障会議の内容や、会議自体が10分間で終わったことなどから、内閣は①キム・ジョンイルの死去は早晩やってくる事態であると織り込み済みだったので、冷静沈着な態度をとることができた、あるいは②議論を深める資料の持ち合わせも、能力もなかった、かのいずれかであろうと考えられる。

米国政府の反応も、中国政府の反応も落ちついたものだった。韓国政府にもあわてた様子はなかった。

どこの国も、キム・ジョンイルが死んでも、短期的には北朝鮮が大きく変わる要素はないとみているようだ。中国は北朝鮮が現在のままでの形で存続することを望んでいる。北朝鮮が米韓勢力に対する軍事的緩衝地帯であり続けることを望んでいる。

北朝鮮は迷惑な存在ではあるが、民族統一国家実現が今なお遠い先の夢物語であることを韓国政府は知っている。西ドイツが東ドイツを吸収合併したのはソヴィエト連邦崩壊の前年にあたる1990年で、ソ連はすでに東欧諸国に対する支配力を失っていた。中国は経済・軍事大国への道を邁進中だ。中国は、韓国による北朝鮮吸収合併を喜ばないだろうし、合併阻止に動くだろう。韓国のシンクタンクなどの計算では、北朝鮮吸収合併にかかる費用は、東西ドイツ統合に要した経費を上回ると言われている。韓国がこれを負担できるか?

韓国と北朝鮮の経済格差は、かつての西ドイツと東ドイツの差をはるかに上回る。北朝鮮吸収合併は、韓国にとっては巨大なお荷物を抱え込むようなもので、経済効果より、もむしろ場合によっては経済的な失速をもたらしかねないとさえいわれている。

米国は核疑惑が理由でフセインのイラクを攻撃し、イランに制裁を加えている。だが、北朝鮮の核問題については、きわめて抑制された態度をとってきた。カーター、クリントンと大統領経験者が2人も北朝鮮へ宣撫工作に出かけたのも、中国に対する遠慮から強腰に出られないからだ。

日本についてはいわずもがな。この国は周辺の国際環境に影響を与える能力が悲しいまでに乏しい。

北朝鮮をめぐる地政学は、北朝鮮が当面、いまのまま変わらないことが周辺の政治環境の安定にとって最も望ましいと結論する。

かくして、北朝鮮はキム・イルソン、キム・ジョンイル、キム・ジョンウンにわたる三代の家督相続を完成することになろう。初代のキム・イルソンはまがりなりにも共産主義イデオロギーを信奉しており、北朝鮮をスターリニスト全体主義国家にした。世襲の2代目キム・ジョンイルのイデオロギーについては知られているところが少なく、北朝鮮は彼の代で王朝全体主義国家に変わったといわれている。おそらく3代目と目されているキム・ジョンウンの時代になると、イデオロギー性はさらに希薄となり、それでいて国家の運営が支配者の恣意性にまかされるスルタン的支配国家に変わっていくだろう。

キム・ジョンウンがスルタンであるというわけではない。北朝鮮最大の権力集団である軍の将軍たちが、キム・ジョンイルの「先軍政治」から、「軍政」へとさらに一歩を進めるための神輿として、支配の正統性の血筋であるキム・ジョンウンを担ぐからである。

(2011.12.19 花崎泰雄)
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盗賊漁労

2011-12-14 20:01:56 | Weblog


黄海(韓国では西海と呼ぶ)の韓国側の排他的経済水域にもぐりこんだ中国の漁船が違法な漁をしていた。これを韓国の海洋警察が摘発したところ、中国漁船の船長が割れたガラスの破片で警察官に襲いかかり、警察官を殺してしまった。

12月13日の『東亜日報』の日本語サイトの記事によると、事件は以下の通りである。12月12日午前7時(現地時間)ごろ、インチョン・オンジングン(仁川甕津郡)の小青島南西85キロメートルの海上で、韓国の排他的経済水域内で違法操業をしていた66トン級の中国船籍の漁船「魯文漁号」のだ捕にあたっていた仁川海洋警察署所属の3005艦特攻隊員・イ・チョンホ警長(40)が、船長の程大偉容疑者(42)が振り回した凶器で刺され、ヘリコプターでインハ(仁荷)大学病院に搬送されたが死亡した。イ警長と共に作戦に参加したイ・ナクフン巡警(33)も凶器によって腹部を負傷し治療を受けているが、命に別状はない。海洋警察は、だ捕した中国漁船と船員9人を仁川海洋警察に連行し、特殊公務執行妨害および殺害の容疑で取り調べている。

『東亜日報』によると、2008年9月にも海洋警察官が取り締まり中に死んでいた。中国漁船を検問中、船員の凶器が頭にあたり、海に落下して死亡した。

同じ13日付の『中央日報』日本語サイトの記事によると、 中国漁船の取り締まりは、いまや戦闘の様相を呈しているという。 中国漁船は摘発されそうになると、船をロープでつなぎあって集団で対抗する。 船員は竹棒・斧・鉄パイプなどで武装し、警察を攻撃する。 もはや海賊に等しい。 2011年1-10月に韓国の海洋警察が拿捕した中国漁船は計294隻になる。

『中央日報』によると、中国漁船の密漁は組織的だ。韓国の海洋警察に拿捕された場合に備え、船主は20-30隻で互助組織をつくっている。1-2隻が拿捕され、罰金を取られると、船主が均等にその罰金を負担する。10月末に木浦海洋警察署の取り締まりに対して、集団で抵抗した中国漁船3隻に約1000万円の罰金が科されたが、互助組織に加入している29隻の船主が約50万円ずつを捻出、罰金やその他の諸費用を共同で負担した。

中国漁船の違法操業の背景には、中国国内での水産物の需要が拡大し、価格が急騰しているからだ、と『中央日報』は伝えている。摘発さえ受けなければ、一度の出漁で約300万円を稼げるという。

中国の漁民は、中ロ国境にあるハンカ湖でも違法操業を行い、ロシア国境警備隊に摘発されている。『朝鮮日報』社説は、「このほかフィリピンやベトナムも、中国漁船の違法操業によって大きな被害を受けており、一部の国は軍艦まで動員して対応している。韓国政府は外交的な対応をめぐって愚痴ばかりこぼすのではなく、中国漁船の違法操業によって損害を被っている周辺各国と連携し、共同で対応策を模索すべきだ」と主張している。

『中央日報』によれば、かつては韓国の漁船が日本の海で違法操業をして拿捕されることが多かった。 当時は韓国の沿岸海域も現在の中国のように乱獲で魚類が減っていたからだ。 そこで韓国政府は沿岸漁業の中心を操業から養殖に変えるよう誘導し、沿岸漁業に従事する漁船の数を、政府が補助金を与えながら減らした。 こうした過程を通して、韓国の漁民は他国の海で違法操業をする必要がなくなり、日韓間の漁業紛争も解消した、と書いている。

それ以前は、1952年の大韓民国大統領李承晩による「海洋主権宣言」にもとづく海域、いわゆる「李ライン」に入った日本の漁船を韓国政府が拿捕し、乗組員を釜山の収容所に抑留した。李ラインは1965年に廃止された。

日・韓・中で、海の縄張りと違法操業の似たような事例を繰り返してきたのだ。ただ、いまの中国には欲望を全開させた獰猛ともいえる「向銭看」の広がりがあり、黄海の中国漁船による盗賊漁労も恐れを知らぬ物欲の表れで、空恐ろしい感じがする。

人間とは経済活動においては私利私欲に基づいて行動するものであり、経済人=ホモ・エコノミクスは物欲の充足を利己的に追及する、というのがアダム・スミス以来の経済学者の人間観だ。韓国の海洋警察と渡り合いながら違法操業する中国漁民の行動も、世界の経済を混乱させつつ巨大な儲けを追求している投機マネーも、その動機は同じところにある。

投機マネーを操っているのは資本主義的人間だが、中国はついこの前までは社会主義国家だった。林達夫『共産主義的人間』(中公文庫)という古い本を開くと、ルイ・アラゴンの『共産主義的人間』を例に引いて、「人間を自分自身以上に置き、自分のためには何も求めず、人間のためにはすべてを求める人であり、自分に関する一切を犠牲にして、万人のためにその幸福と安泰とを希求してやまぬ人である」と林が説明している。だが、林はこのような聖者の系列に入る純粋型の人間性を「共産主義の政治指導者にしてそれを兼ね備えるということは、ローマ教皇や枢機卿、大司教にして聖者になったものがまことに少なかったと同じに稀有な例外ではなかろうか」と説明することも忘れなかった。

中国共産党の変貌ぶりについて、「中国共産党-計画経済+市場経済≒昔の台湾を一党支配した中国国民党」と言われてきた。中国は市場経済の拡大とともに、資本家を中国共産党の党員として招き、共産党幹部・官僚・資本家が手を組んで国家を操っている。官僚・財界・与党が手を組んでよろしくやってきた日本と根本において変わるところがない。

権威主義的政治体制を維持するには、今の体制があるからこそ君たちは食え、君たちの暮らしはよくなってきた説得し、大衆を了承させる必要がある。日本の自民党の長期政権も、アジア金融危機あおりで崩壊したインドネシアのスハルト政権の30年余りも、いまなお続くシンガポールの人民行動党による一党支配も、支配する権力から恩恵がもたらされているという大衆の認識を基盤にしてきた。

中国大衆の欲望は他国の経済水域に入りこんで沿岸警備当局と実力で渡り合いながら漁獲収入を稼ごうとするところまで行ってしまった。このように肥大化した中国大衆の欲望を満足させ続ける方策が北京の指導部にあるのだろうか。13億の人口の物欲を満足させる能力を彼らは持ちあわせているのだろうか。

遠藤誉『拝金社会主義 中国』(ちくま新書)の説明はわかりやすい。ソ連崩壊を目のあたりにした中国は、中国の共産党支配の存続のために市場経済を導入した。「政治を語らず、金儲けにはげめ」。中国人のホモ・エコノミクス本能が刺激され、それが中国を世界第2の経済大国に押しあげた。

中国は欲望を全開させた大衆を抱えてどこまで現体制を維持できるか? 物欲をふくらませた大衆が、韓国の海洋警察でなく、中国の官憲と渡りあう事件がさらにふえ、予想外のスタンピードを引き起こして、それが中国の政治変動の引きがねになることもありうるだろう。

ソ連邦は1世紀ともたなかった。はたして中国はどうなのだろうか?

ギリシア悲劇の悲劇たるゆえんは、皆がその悲劇的終幕を予想していながら、それを阻止するすべを持たなかったことだ。国家の命運もどこかそれに似たようなところがある。

(2011.12.14 花崎泰雄)


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君が代とボクシング

2011-12-10 00:07:47 | Weblog

橋下・新大阪市長と松井・新大阪府知事が12月7日、ボクシングの試合の前座をつとめ、リング上で「君が代」を歌った、というニュースを新聞で読んだ。この二人、来春の卒業・入学シーズンには、大阪の学校を駆け回り、君が代を歌って見せる「歌う首長」をやるつもりなのだろうか。

そんなに君が代と日の丸が好きなのであれば、市長と知事の公用車をSUVにして、市長や知事がお出かけのさいは車体にぎっしりと日の丸の旗を掲げ、大音量で君が代を流しながら御堂筋を走ったらどうだろう。また、市議会、府議会の開会式では、国旗を掲揚し、議員全員が起立して君が代を斉唱することを義務づけ、これに応じない議員を処分できる条例をつくってみてはどうだろうか。

2人が活動の母体にしている政党が「大阪維新の会」。いまどき古臭いこの維新という言葉は、王政復古の明治維新(Meiji Restoration)にあやかったものだろうか。それとも、軍国主義とファシズムが進行する中で、天皇親政運動に奔走した青年将校や右翼の「昭和維新」から来たものだろうか。あるいはたんなる司馬遼かぶれなのか。

大阪維新の会は会費1口千円のサポーターを募集中で、それを「志士」募集と銘打っているから、維新とはおそらくこれまでの常識どおりに明治維新のことであろう。

王政復古も天皇親政も右翼ナショナリズムの思想であるから、その伴奏として、日の丸・君が代が大好きである。戦後長らく生きてきたが、日の丸・君が代が好きだという左翼は知らない。

元来、戦争に負けたり、体制が変わったりした国では、国旗も国歌も変えている。ドイツを例にあげれば、ヒトラーが定めた第三帝国のハーケンクロイツの国旗は第2次大戦後に、廃止され、ドイツ国歌も時代に合わない1番と2番の歌詞が削られて、3番の歌詞だけが正式な国歌とされた。

日本も連合国に敗けたのを機に、君が代の歌詞を削って国歌を曲だけにし、例えば国旗を赤字に白丸と染め変える手もあった。歌詞のない国歌を持つ国の例としてはスペインがあり、赤字に白丸の国旗に近い雰囲気の国旗を持つ国の例としては(左から)パラオ、バングラデシュ、ラオスがある。

              


日本の場合、戦後も天皇制が維持され、君主国の体制は変更されなかった。したがって、国旗も国歌も(正確に言えば、君が代・日の丸は1999年に国旗及び国歌に関する法律ができるまでは法で定められた国旗・国歌ではなかった)変える理由がなかった。

話変わるが、道元は時の権力者に近づくことを潔く思わなかった。時の権力者・北条時頼から、寺を建ててさしあげるから鎌倉に留まっていただきたいと頼まれた時、道元は即座に鎌倉を去ったほど権力者と距離をおこうとした。

その後、越前の土地を永平寺に寄進するという時頼の書面を道元のもとに届けた僧に対して道元は激怒し、その僧を永平寺から追放し、彼が座禅に使っていた床を打ちこわし、あまつさえその床下の土まで掘り起こして捨てた。掘った深さは7尺に及んだ、と逸話はいう。

日本と違ってドイツはナチズムの過去について道元的潔癖主義を示している。日本の場合、例によって一億総ざんげで昭和軍国主義の記憶をうやむやにした。

そういうわけで、日本の左と右が日の丸・君が世をはさんで、相変わらずすったもんだともめている。それを好機として、いまや政治的に落ち目の左派をボクシングよろしくぶん殴って、格闘技で大衆のご機嫌を取ろうとしているのが、大阪市長と大阪府知事が率いる昭和維新の会である。インターネットのサイトで、リングで歌うお二人さんの写真を見ながら、その絵が象徴する日本社会の喜劇性に胸が痛んだ。

(2011.12.9 花崎泰雄)

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