安倍内閣の発足を受けて新聞・通信社が内閣支持などについて世論調査を行い、それぞれ9月28日の朝刊で報じた。
それによると安倍内閣の支持率は高いほうから、日経新聞調査で71パーセント。同新聞
の調査記録によると、政権発足時の支持率としては2001年4月の小泉内閣の80パーセントに次いで歴代第2位だという。続いて、読売新聞調査の70.3パーセント。読売新聞調査の記録では、小泉内閣の87.1パーセント、細川内閣の71.9パーセントに次いで第3位。共同通信調査によると、安倍内閣の支持率は65.0パーセントだった。朝日新聞調査だと、安倍内閣支持率は63パーセントで、同紙の記録では戦後第3位の高支持率だという。
発足時の内閣支持率調査は、内閣期待度調査であり、閣僚、特に内閣総理大臣に対する好感度調査であるから、いわゆるご祝儀相場となる傾向が強い。通常、具体的な政策に手をつけるに従って、あるいは失点がなくても、時の経過によって支持率は落ちてゆく。小泉氏は支持率低下がはじまるとドラマをつくり、支持率中だるみにテコを入れた。
さて、朝日新聞の世論調査の記事からは、いたるところで不協和音のようなものが聞こえてくる。安倍内閣の支持率は63パーセントだが、安倍内閣を支持すると回答した人に、支持の理由を聞いたところ、「政策の面から」が28パーセント、「なんとなく」が27パーセント、「首相が安倍さんだから」が24パーセントだったという。政界プリンスとしての安倍氏の血筋や拉致被害者問題での強い姿勢にひかれての支持が、支持する人々の理由の半数に達した。こうした理由での内閣支持は、もちろん、きっかけひとつで「なんとなく支持しない」「首相が安倍さんだから支持しない」に転んでゆく。
ところで、安倍政権で一番力を入れてほしい政策は、年金・福祉改革が43パーセント、景気・雇用対策17パーセント、財政再建15パーセント。安倍首相が一番力をこめている憲法改正は2パーセント、教育改革は11パーセントにとどまった。
継続審議の教育基本法改正案は、安倍首相が臨時国会の最優先課題にあげている。だが、改正については、「今の国会で成立を目指すべきだ」という回答が21パーセントだった。一方、「今の国会にこだわらず、議論を続けるべきだ」という回答が安倍内閣支持率より高い66パーセントに達した。中国や韓国とのギクシャクした外交関係の原因となった、いわゆる歴史認識に関して、安倍首相が自らの認識を示していないことを「評価する」と回答した人が24パーセントで、「評価しない」が過半数の52パーセントだった。安倍内閣のもとで景気は「よくなる」との見方は29パーセント、「そうは思わない」が48パーセントだった、という。
朝日新聞はまた、回答者に「強力な内閣だと思うか」と質問した。これに対して回答者の34パーセントが「頼りない」と答えたという。「強力な内閣だと思う」は23パーセントだった。頼りないと思うのはなぜか、強力だと思うのはなぜか、という質問を同調査では行っていないので理由は不明だ。なんとなくそういう風に見える、あるいはメディアがそのような調子で報道していたから、ということなのであろうか。
最後に、朝日新聞は来年夏の参議院選挙で自民、民主のどちらに勝ってほしいか、と聞いている。答えは、自民47パーセント、民主36パーセント。この調査で得られた政党支持率は自民党39パーセント、民主党14パーセントを考えると、参院選での民主党への期待が意外なほど高い。これは安倍・自公連立内閣への牽制であるともよめる。
以上の世論調査結果を前にして感じるのは、安倍内閣に対する回答者の個別問題での好感度・期待度は決して上々とはいいがたいことである。にもかかわらず、結論としての内閣支持率が非常に高い値をマークしているのが不思議である。回答者の思考の論理回路が乱れているからだろうか。あるいは、朝日新聞の調査では、質問の順序が、まず冒頭でいきなり内閣への支持を問い、それから徐々に各論に入る方式になっているからだろうか。もし、各論から入り、最後に締めくくりとして内閣への支持を聞く形にすると、すこし違う数字が出るかもしれない。
ただ、どちらの質問順が妥当であるのかの判断は、調査を行う側の「世論」観によって異なるだろう。
(2006.9.28 花崎泰雄)
それによると安倍内閣の支持率は高いほうから、日経新聞調査で71パーセント。同新聞
の調査記録によると、政権発足時の支持率としては2001年4月の小泉内閣の80パーセントに次いで歴代第2位だという。続いて、読売新聞調査の70.3パーセント。読売新聞調査の記録では、小泉内閣の87.1パーセント、細川内閣の71.9パーセントに次いで第3位。共同通信調査によると、安倍内閣の支持率は65.0パーセントだった。朝日新聞調査だと、安倍内閣支持率は63パーセントで、同紙の記録では戦後第3位の高支持率だという。
発足時の内閣支持率調査は、内閣期待度調査であり、閣僚、特に内閣総理大臣に対する好感度調査であるから、いわゆるご祝儀相場となる傾向が強い。通常、具体的な政策に手をつけるに従って、あるいは失点がなくても、時の経過によって支持率は落ちてゆく。小泉氏は支持率低下がはじまるとドラマをつくり、支持率中だるみにテコを入れた。
さて、朝日新聞の世論調査の記事からは、いたるところで不協和音のようなものが聞こえてくる。安倍内閣の支持率は63パーセントだが、安倍内閣を支持すると回答した人に、支持の理由を聞いたところ、「政策の面から」が28パーセント、「なんとなく」が27パーセント、「首相が安倍さんだから」が24パーセントだったという。政界プリンスとしての安倍氏の血筋や拉致被害者問題での強い姿勢にひかれての支持が、支持する人々の理由の半数に達した。こうした理由での内閣支持は、もちろん、きっかけひとつで「なんとなく支持しない」「首相が安倍さんだから支持しない」に転んでゆく。
ところで、安倍政権で一番力を入れてほしい政策は、年金・福祉改革が43パーセント、景気・雇用対策17パーセント、財政再建15パーセント。安倍首相が一番力をこめている憲法改正は2パーセント、教育改革は11パーセントにとどまった。
継続審議の教育基本法改正案は、安倍首相が臨時国会の最優先課題にあげている。だが、改正については、「今の国会で成立を目指すべきだ」という回答が21パーセントだった。一方、「今の国会にこだわらず、議論を続けるべきだ」という回答が安倍内閣支持率より高い66パーセントに達した。中国や韓国とのギクシャクした外交関係の原因となった、いわゆる歴史認識に関して、安倍首相が自らの認識を示していないことを「評価する」と回答した人が24パーセントで、「評価しない」が過半数の52パーセントだった。安倍内閣のもとで景気は「よくなる」との見方は29パーセント、「そうは思わない」が48パーセントだった、という。
朝日新聞はまた、回答者に「強力な内閣だと思うか」と質問した。これに対して回答者の34パーセントが「頼りない」と答えたという。「強力な内閣だと思う」は23パーセントだった。頼りないと思うのはなぜか、強力だと思うのはなぜか、という質問を同調査では行っていないので理由は不明だ。なんとなくそういう風に見える、あるいはメディアがそのような調子で報道していたから、ということなのであろうか。
最後に、朝日新聞は来年夏の参議院選挙で自民、民主のどちらに勝ってほしいか、と聞いている。答えは、自民47パーセント、民主36パーセント。この調査で得られた政党支持率は自民党39パーセント、民主党14パーセントを考えると、参院選での民主党への期待が意外なほど高い。これは安倍・自公連立内閣への牽制であるともよめる。
以上の世論調査結果を前にして感じるのは、安倍内閣に対する回答者の個別問題での好感度・期待度は決して上々とはいいがたいことである。にもかかわらず、結論としての内閣支持率が非常に高い値をマークしているのが不思議である。回答者の思考の論理回路が乱れているからだろうか。あるいは、朝日新聞の調査では、質問の順序が、まず冒頭でいきなり内閣への支持を問い、それから徐々に各論に入る方式になっているからだろうか。もし、各論から入り、最後に締めくくりとして内閣への支持を聞く形にすると、すこし違う数字が出るかもしれない。
ただ、どちらの質問順が妥当であるのかの判断は、調査を行う側の「世論」観によって異なるだろう。
(2006.9.28 花崎泰雄)