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news commentary

誰のための国家

2025-03-27 22:50:55 | 政治

その昔ヘーゲルが自由は倫理的である国家のなかでこそ得られると夢想した。しかし、そうした牧歌的な時代は終わった。ヘーゲルのあと、国家とは一つの階級が他の階級を抑圧するための機構であるとレーニンが言った(『国家について』)。国家はあらゆる政治社会における最高の強制権力であり、その強制権力はその社会で生産手段を所有する人々の利益を保護し助長することに使用されるとラスキが書いた(『政治学大綱』)。あらゆる社会には権力を独占する少数の支配階級と、支配する少数の階級に統制される多数の階級が存在する(モスカ『支配する階級』)とする気分が21世紀のいま世界にたれこめている。

20世紀の終わり、米国のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」という言葉を流行させた。ソビエト連邦の崩壊によって資本主義・自由主義と対立してきた共産主義イデオロギーが崩壊した。共産主義を標榜する中国も自由主義の方向へ経済・政治路線を転換している。「歴史の終わり」は米国が長年の封じ込めの末にソ連に勝ったという、そうした時代の祝祭的な気分がはじけた言葉なのだろう。ソ連は消滅したが、ロシアがプーチンのもとで、過去の帝国をよみがえらせようとEUやNATOに反目し、西ヨーロッパへ向かって影響力の拡大につとめている。ロシアのウクライナ侵攻はその一環である。中国は面と向かって米国に対峙する。

イデオロギー対立に勝利した資本主義デモクラシーの国である米国では、歴史の終わりを機に、リベラルな経済・社会が順調に進展するはずだった。しかし、いまのところ、その軌道は自国の大統領ドナルド・トランプ氏によって進めなくなった。米国ではアメリカが権威主義政治体制へと逆行を始めたという見解が表面化している。グリーンランドを米国の領土にし、パナマ運河から中国の資本を追い出して運河を米国の物にし、カナダを51番目の米国の州にし、ガザからパレスチナ人を引っ越しさせて、跡地を整備して一流の保養地にしたい。米国の力を取り戻すために関税をかけまくる。トランプ大統領は「マッドマン・セオリー」に乗じて、何をするかわからいアメリカという風評を生じさせて世界に恐怖をバラまき、そのパフォーマンスに自己陶酔している。だが彼が何のためにそんなことをやっているのかは誰にもわからない。

歴史的必然によって社会が抑圧体制から民主的体制に直線的に変化すると考えるのは愚かなことである――その逆の変化もあるのだ、とロバート・ダールは言う(『ポリアーキー』)。

韓国の憲法裁判所は3月24日、ハン・ドクス首相の弾劾審判で訴追を棄却した。2日後の26日にはソウル高裁が野党・共に民主党のイ・ジェミョン 代表に対する公職選挙法違反事件の控訴審で、1審のソウル中央地裁の有罪判決を破棄し、逆転無罪の判決を出した。

この判決は、次の大統領選挙へ向けてイ・ジェミョン氏の態勢を有利にする。ユン・ソンニニョル大統領の弾劾裁判の判決はいつになるのだろうか?

韓国では、朝鮮戦争中、非常戒厳令を全国的に発令した。1961年にパク・チョンヒ少将が主導した軍事クーデターで戒厳令が宣言された。1980年にはチョン・ドゥファン政権が戒厳令を出した。

戒厳令は戦争など国家的な危機のさい、あるは敵対する国内政治団体を弾圧する目的で出される。

ユン・ソンニョル大統領が出した戒厳令は、野党・共に民主党弾圧が狙いだったと野党側は主張した。大統領側の北朝鮮の影響力増大に対応するためという理屈には証拠が薄弱だ。したがって、選挙で選ばれた大統領が確かな証拠もなく戒厳令を出した浅慮と軽率が非難されることになる。自国の軍政時代に詳しいはずの大統領としては大きな判断ミスであった。

エルドアン政権下のトルコでは、3月23日にイスタンブールのイマモール市長が汚職容疑で逮捕された。エルドアン氏は2003年から2014年までトルコの首相、2014年以降大統領をつとめている。イマモール市長はトルコ最大の野党共和人民党に属しており、次の大統領選挙でエルドアン氏のライバルになるとみられている。逮捕に先立って、イスタンブール大学が不正行為を理由にイマモール市長の学位を抹消したと発表していた。トルコでは大学の学位がなければ大統領選に立候補できない、とメディアが報じた。支配者は権勢維持のためにそこまでやるのである。

インドネシアの第5代大統領だったメガワティ・スカルノプトゥリ氏は、初代大統領スカルノ氏の長女で、スハルト政権が倒れた後の人気政治家だった。反メガワティ勢力は、メガワティ氏を大統領選に立候補できないようにするために、立候補者の資格に「大学卒業」を入れようと画策したが、実現しなかった。

(2025.3.27 花崎泰雄)

 

 

 

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永田町のポトラッチ

2025-03-20 18:33:24 | 政治

「贈物は経済取引とは違いつねに返礼の義務を生み、社会関係の強化と一体感を創出する機能を持っている……贈物はある社会関係に付随する当然の行為として期待されており、したがって、任意というよりは半ば義務的であり……」(平凡社『世界大百科事典』)。

マルセル・モースは『贈与論』で、「贈物をする義務」、「それを受け取る義務」、「お返しをする義務」について文化人類学的見解を述べている。

現代風にいえば、贈物によって送り手と受け取り手の間に、貸し・借りの関係が発生する。この関係は受け取り手が送り手にお返しをするまで消えない。だから、石破首相に公邸に招かれ商品券を贈られた当選1回の衆院議員は「私たちは石破チルドレンです」と言って早速負債を返済しようとした。米国ではイーロン・マスク氏から巨額の政治献金を受け取ったトランプ大統領が、マスク氏をDOGE(政府効率化省)のトップにすえた。

石破茂首相が3月、当選1回の自民党衆議院議員15人を首相公邸に招き懇談したさい参加した各議員に10万円の商品券を贈ったという報道に関連して、自民党の舞立昇治参院議員が、歴代首相も慣例としてやっていたとした発言し、すぐさま「事実誤認、推測に基づく発言であり撤回する」と表明した。菅元首相や麻生元首相はどうだったのかな、と疑惑の視線が永田町で交差している。

石破首相は首相に就任する前の去年7月、福岡市で講演し、公選法が適用されない党総裁選で買収的行為が行われてきたと指摘し、規制が必要だと訴えた。日本経済新聞によると石破氏は「自民党総裁は公職ではない。だからカネをばらまくというのがある。おかしくないですか」と述べた。石橋は総裁選に過去4回立候補したがカネをまいたことがないと明言した。

「ニッカ・サントリー・オールドパー」という語呂合わせが、かつて永田町で喧伝された。自民党総裁選で2人の候補から金を受け取るのが「ニッカ」、3人から受け取るのが「サントリー」、だれかれ構わず金を受け取るのが「オールドパー」といわれた。自民党総裁の座をめぐって、大金が動いた。永田町のポトラッチであった。

(2025.3.20 花崎泰雄)

 

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金券政治家

2025-03-16 20:40:19 | 政治

1週間ほどかけて東北の5つの温泉地を回ってきた。温泉のハシゴである。温泉通ではないので泉質の違いは私にはわからない。温泉旅館の晩御飯の献立とおなじで、基本的には似たようなものである。つれあいが温泉に行くというのでついて行っただけである。

今回のLa Edad De Oroで使った写真はその旅の途中で立ち寄った平泉の中尊寺で撮ったものだ。3月11日のお昼過ぎ、中尊寺の本堂横にある2011年の3.11東日本大震災の追悼碑にお参りした。本堂では追悼の読経か行われていた。

ところで、温泉のハシゴをすると、皮膚の脂気がとけてしまい、高年齢が原因の乾燥肌がひどくなる。したがって保湿クリームをたっぷりと塗り込めて、また温泉につかる。すると保湿クリームが流れてしまう。それ、昔の中国の有名な詩の一行に

    温泉水滑らかにして凝脂を洗う

とあるが、年寄りの脂肪は内臓にたまるだけで、皮膚まで回ってこない。入浴・保湿クリーム・また入浴。温泉のハシゴはこの作業の繰り返しだった。

温泉宿のテレビや新聞で日本の石破茂首相が自民党所属衆院議員15人に10万円の商品券を配っていたことを知った。石破首相は3月3日、自民党の1回当選議員15人を集め懇談会と称する食事会を開いた。その時に参加した議員に10万円の商品券を渡したそうだ。

首相は自らが党首である自民党の議員を首相公邸に集めて懇談したことは認めたが、懇談は政治活動ではないと言った。政治資金規正法で禁止されている「政治活動に関する寄付」には該当しないというのが首相および首相周辺の政治家の見解である。商品券をもらった議員はそれぞれ金券を返却している。

金集めに貪欲で、金の使い方のだらしなさ。これは政治家の持病である。この病気には政治家以外にも罹る人は多いが、政治家は清廉でなくてはならないとする社会通念が強いため、とくに問題視されてきた。戦後の金まみれの保守党支配の歴史をみれば納得できるだろう。

人は選挙で選ばれて議員になる。国会議員ともなれば一国の富と権限の配分に関与する。政権の中枢に集う議員はランクに見合った権限を持つことになる。そのランクにたどり着くには党内の議員を味方につけておく必要がある。資本主義デモクラシーの枠内で、マックス・ウェーバーのいう「政治によって生きる政治家」は、権力のランクを上ることで政治活動資金を増やすことができる。資金が増えれば人が集まってくる。だから金まみれの政治を根本的に浄化することは至難である。できるのは、おりを見て対症療法を試みることだけだ。
(2025.3.16 花崎泰雄)

 

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決闘ホワイトハウス

2025-03-02 01:22:21 | 国際

イギリスのスターマー首相が米ワシントンのホワイトハウの大統領執務室でトランプ米大統領と会談したのは2月27日。そのとき取材で大統領執務室にいた記者が、今でもゼレンスキー・ウクライナ大統領を「独裁者」だと思うかとトランプ大統領に質問した。翌日の28日にはゼレンスキー大統領がホワイトハウスに来て、トランプ大統領と会談、レアアースの共同開発について合意書に調印する運びになっていた。

記者からの質問に対してトランプ氏は「そんなことを言ったか? わたしがそんなことを言ったなんて信じられない。次の質問をどうぞ」(Did I say that? I can’t believe I said that. Next question.)としらばっくれた。

世界の政治指導者たちは、これほどまでに自分の言葉に重みを認めないアメリカ大統領と外交交渉をしなければならない。気の毒である。

28日のトランプ・ゼレンスキー会談は口論の末に決裂した。会談の冒頭から50分間に限ってホワイトハウスはテレビの実況中継を認めた。50分は長い時間である。今の世界を仕切っているのは米大統領のドナルド・トランプであることを全米の有権者に見せるために50分をかけたのである。トランプ大統領がプーチン大統領と組んで、ウクライナ抜きで急ぎ停戦交渉を始める。そのためにウクライナから委任を取り付ける。プーチン大統領を抱き込むことで、ロシアと中国と関係を希薄化させる。露骨な自己陶酔。そのような見方が世界に広がっている。ゼレンスキー大統領もそのことを気にしている。

ロシアに対する肩入れが強すぎると主張するゼレンスキー大統領への不快感もあって、バンス米副大統領が「平和と安定への道はおそらく外交だ」と横から両首脳の会談に割って入った。ゼレンスキー大統領は、2014年のクリミア侵攻に侵略に始まるロシアの外交に歴代の米国政権はきちんと対処してこなかったと反論した。これに怒ったバンス副大統領が失礼であると非難。けたたましい口論となった。ついにはトランプ大統領がゼレンスキー大統領を「第3次世界大戦をかけてギャンブルしている」(gambling with World War Three)と罵倒した。

上記のような、政治家たちの暗闘と武勇伝は、事件のほとぼりが冷めてから、側近が回顧録で、ジャーナリストがドキュメンタリーで、こもごも語る裏話である。それがいまや、白昼堂々テレビの実況で見られるようになった。よい時代になったのか、政治リーダーの品質がここまで劣化したのかと驚くか、それはあなたのご判断。

さて、トランプ大統領は就任早々、ラテンアメリカからの違法移住者を軍の航空機などを使って送還した。政権は合衆国にいる違法移住者のすべてを送還するような口ぶりだったが、トランプ政権発足後1ヵ月の送還者は、バイデン前大統領の就任後1ヵ月のそれより少なかった、と米のメディアが伝えた。それはさておき、送還する人々に手錠をかけていたニュースは、米国の粗野な文化の宣伝になった。

一方、トランプ政権は米国永住権とその後の市民権獲得に有利なゴールドカード・ビザを富裕層の外国人に販売すると発表した。値段は500万ドル(7億5000万円)。トランプ大統領が「お買い得だよ」(It's going to sell like crazy. It's a bargain.)と言った。
(2025.3.2 花崎泰雄)

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