昔々、全面講和か単独講和かをめぐって、日本国内の意見が分かれたとき、時の吉田茂首相が、全面講和を唱えた南原繁・東京大学総長を、、曲学阿世の徒と激しく非難したことがある。
憲法9条の下で日本が武力行使できるのは①我が国に対する急迫不正の侵害がある②これを排除するために他の適当な手段がない③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと――の3要件がみたされた時である、というのが最近まで内閣法制局の見解だった。
それが、安倍政権の新方針で①日本に対する武力攻撃が発生したこと、また日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること②これを排除し、日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと――の新3要件を合憲としたのが、横畠祐介長官率いる内閣法制局だった。
日本を取り巻く安全保障環境が変わったので、日本だけでなく日本と密接な関係にある他国への武力攻撃も、日本が憲法9条の下で武力攻撃に踏み切ることができる条件の1つに加えた。
その大転換の立役者である横畠内閣法制局長官が、さきの参院予算韻会で国会には内閣を監督する機能もあるが、「このような場で声を荒らげて発言するようなことまで含むとは考えておりません」と発言した。
その前段で質問者である小西洋之議員が、「安倍総理のように時間稼ぎをするような総理は、戦後1人もいませんでしたよ。国民と国会に対する冒とくですよ。聞かれたことだけを堂々と答えなさい。我々、国会議員は国民の代表として、議院内閣制のもとで質問しますので、私の質問は、安倍総理に対する監督行為なんですよ」と言ったことと対になっている。
国会は一強他弱で、運営は自民党が思うがまま。野党は首相べったりの法制局長官にまで侮られたと感じた。自民党内の1強である安倍首相の忠臣までもが首相気取りで野党議員を侮った。
そもそも憲法は国会の内閣に対する監督権を認めているが、「声を荒げてそれを行うことまでは含まれていない」と内閣法制局長官が参院予算委員会で公言したのである。発言を撤回し陳謝したので、「声を荒げてそれを行うことまでは含まれていない」という法制局長官の論理展開や判断の法的根拠については明らかにならないままにおわった。
このニュースをテレビは「横畠長官が、声を『あららげて』……」と伝えたが、参議院予算委の審議中継を見ると、“あらぶる”横畠長官は「あらげて」と発音している。「あららげて」が正調日本語、「あらげて」は流通はしているが、堅いことを言えば変調日本語。
(2019.3.10 花崎泰雄)