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news commentary

語るに落ちる

2017-10-29 21:41:55 | Weblog

「問うに落ちず語るに落ちる」という。

武装した北朝鮮の偽装難民がやって来たらどうする? そんな発言で話題になった副総理・麻生太郎氏が、先の総選挙での自民党の勝利の要因について、「明らかに北朝鮮のおかげもありましょう」と自民党議員のパーティーで語った。

あれはジョークだよ、と自民党幹事長・二階俊博氏は例の愛想な表情と口調で語ったが、麻生発言をジョークだと思った有権者は、さて、どのくらいいたのだろうか。

首相・安倍晋三氏は先の解散総選挙を決意したさい、記者会見でこんなことを言っていた。

「国民の皆様は、北朝鮮の度重なる挑発に関しまして大きな不安を持っておられることと思います」「民主主義の原点でもある選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されるようなことがあってはなりません」「こういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応によって、国民の皆さんに問いたいと思います」「我が国を飛び越える弾道ミサイルの相次ぐ発射、核実験の強行、北朝鮮による挑発はどんどんエスカレートし、その脅威はまさに現実のものとなっています」

いわゆる国難突破解散・総選挙の宣言だ。

10月27日の朝日新聞朝刊の記事によると、安倍首相は9月28日の衆院解散から10月21日までの間に、全国で75回の演説をした。このうち53回は北朝鮮関連のテーマに触れた。消費税増税とその死と変更については67回、東日本大震災・熊本地震からの復興については6回だった。ちなみに同紙によると、森友・加計問題については一切触れなかった。改憲についてもほとんど口にしなかった。

「問うに答えず」となのである。言いたいことだけを口にする。「由らしむべし知らしむべからず」。古臭い『論語』の統治者の心得が、いまなお、日本国では生きている。

それで、北朝鮮の脅威が「国難」だったかといえば、そうではなかったようである。

総選挙が終わって特別国会で首班指名・組閣をすませたら、年内には国会は召集しないそうである。通常国会は1月に召集される。

2017年の通常国会は6月18日に閉会した。9月28日には臨時国会が開かれたが、これは衆院解散を告げるためだけの開会。

したがって国難である北朝鮮の脅威はかれこれ半年にわって、民主主義の原点である国会で本格的な議論がされないままになりそうだ。北朝鮮の脅威については「難儀なことである」という認識はあるのだろうが、日本国の存立の基盤が崩れるほどの「国難」とは、議員諸侯の誰もが感じていなようだ。

というわけで、麻生氏の「北朝鮮のおかげ」発言は、ジョークでもなんでもなく、正鵠を得た発言だった。

 (2017.10.29  花崎泰雄)

 

 

 

 

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鉄槌

2017-10-24 21:45:59 | Weblog

みなさま、よくご存じの事なので、結論だけを書く。

小池百合子、前原誠司の両氏に名誉自民党員の称号を差しあげてはいかがだろうか。

解散・総選挙にあたって、安倍晋三氏は自身の進退ラインを定数の過半数とした。進退ライン過半数はあまりに低すぎるのではないかとの声もあったが、進退ラインの引き上げは口にしなかった。

それほどまでに、彼の読みでは、先行きに不安があった。

第五列という言葉がある。スペイン内戦のさいマドリッド侵攻にあたって、フランコ派の将軍が、ここに4個部隊を率いているが、マドリッド市内には我々の攻撃に呼応して蜂起する第5の部隊(quinta columna)がある、と言った。Columnaには兵士の縦隊の意味がある。

そういうことから、第五列という言葉は敵の中に紛れ込んで攪乱を担当する隠密部隊をさすようになった。

小池・前原両氏の思いつきが、結果として招いた第五列効果で、自民党は総選挙で予想外の大勝を果たした。安倍氏は森友・加計問題をリセットし(古い永田町用語でいえばミソギをすませ)、憲法9条の変更を日程にあげた。永田町には彼を止められる人はもう誰もいない。

自民党は小池・前原両氏をかりそめにもおろそかに扱ってはいけない。前原氏は中身のあることをまだ何も言っていないが、小池は「鉄の天井」があった、という言い方をした。知事選で勝って女性を排除するガラスの天井をぶち破ったが、国政選挙では鉄の天井にぶつかった、のだそうである。

自分の失敗を人のせいにする小池氏らしいレトリックである。

見ていた人はみんな知っている。鉄の天井があったわけじゃない。あれは、天上の鉄槌だった。

(2017.10.24 花崎泰雄)

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ヌー

2017-10-17 23:16:24 | Weblog

 デジャ-ヴュ。

テレビの動物ドキュメンタリーで見たアフリカのセレンゲティのヌーの大群のシーンがちらつく。

東アフリカから南アフリカにかけてのサバンナに「ヌー」とよばれる一見牛のような動物か群れを成して生息している。『世界大百科事典』(平凡社)によると、ヌーは別の名を「ウシカモシカ」という大型のアンテロープで、偶蹄目ウシ科の哺乳類だ。

頭と体の前半が牛に似て、雌雄とも角とたてがみをもつ。体の後半は細く貧弱だ。6月から7月にかけての、雨季から乾季への変り目と、10・11月の乾季から雨季への変り目に、草を求めて、数万の大群が移動する。

そのヌーの大群がケニアとタンザニアの国境付近のマラ川を渡るシーンが特に有名である。

何万というヌーがいっせいに渡河を始める。ドキュメンタリーは待ち構えていたワニに喰われるヌーや、流れに足をとられるヌーを映し出す。それでもヌーの大群は押し合いへし合いしながらマラ川を渡り、必死で向こう岸にたどり着こうとする。

いわゆるスタンピード(大暴走)のようにもみえる。

ワニの餌食になるヌーは想像するほど多くないそうだ。渡河に失敗して溺死するヌーの方が圧倒的に多い。

『ナショナル・ジオグラフィック』日本語版のサイトの記事によると、溺れ死ぬヌーは、平均で6250頭。重さにしてシロナガスクジラ10頭分に匹敵する1100トンにおよぶ。

英語「スタンピード」には、総崩れ・大敗走の意味もある。もっか進行中の「日本のヌー」の総崩れ・大敗走の先頭で、緑の狸が旗を振っているように見えるのは、幻影か?

はたして、どのくらいのヌーが向こう岸までわたりきれるか?

 

(2017.10.17 花崎泰雄)

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