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news commentary

世論調査はどの程度正確か

2017-05-29 18:24:04 | Weblog

新聞がときどき世論調査記事を掲載する。それがどの程度信用できるかどうか。判断が難しい。回答者が性別、年齢、職業などの面で日本の有権者の縮図となるように、層化無作為2段抽出法によって選び出した回答者に面接調査するのが、かつては世論調査の常道だった。これには時間と費用がかかった。今では新聞社の世論調査は電話調査が多い。面接調査に比べると安上がりで機動性もある。

面接調査のころは固定電話の普及率が低かった。固定電話が普及したのでコンピューターで無作為に電話番号を発生させて、電話に出た人の意見を聞く電話調査法式に変わった。皮肉なことだが、電話調査を始めると間もなく、携帯電話が普及し、固定電話の加入率が減った。そいうことなので、今では電話調査は固定電話だけでなく携帯電話も対象にしている。

面接調査法と電話調査法のどちらの世論調査が代表性に優れているかについての議論はさておく。回答率に限って言えば、面接調査の時代の回答率は80-60%台だった。電話調査では回答率は40%台にとどまっている。

回答率が低いと誤差率が高くなる。回答率4割台の世論調査結果は、「当らずと言えども遠からず」程度のものである。

くわえて世論調査は質問の発し方によって回答が違ってくる。

たとえば、5月29日付日経新聞(電子版)の世論調査記事は次のように言う。「日本経済新聞社とテレビ東京による25-28日の世論調査で、安倍晋三首相が提起した憲法9条に自衛隊の存在を明記する条文の追加について『賛成』は51%で、『反対』の36%を上回った。男女別に見ると、男性は賛成が59%で反対の34%より多かった。女性は賛成が40%、反対が38%で賛否が拮抗した。首相の2020年に新憲法を施行する目標については「賛成」が43%で「反対」は39%だった」

次に5月3日付同紙の記事。「日本国憲法は3日、1947年の施行から70年を迎えた。日本経済新聞社とテレビ東京が憲法記念日を前に世論調査を実施したところ、憲法改正について『現状のままでよい』が46%、『改正すべきだ』が45%で拮抗した。昨年4月の調査と比べると、現状維持が4ポイント減って改憲支持が5ポイント増え、その差が縮まった」

5月初めの段階では、「憲法は現状のままでよい」とする世論と「憲法を改正すべきだ」という世論が拮抗していたが、5月末になると「憲法9条に自衛隊の存在を明記する条文の追加」に賛成する意見が51%と、反対する意見34%に大きく水をあけた。憲法9条に自衛隊の存在を追加することは、すなわち憲法修正・改憲であることを考えると、この2つの調査結果の矛盾は世論というものを考えるうえで興味深い。

日経新聞の記事から、質問を引用すると次の通りである。

「安倍首相は憲法9条について戦争放棄や戦力の不保持を定めたいまの条文は変えずに、自衛隊の存在を明記する条文を追加したい意向を示しました。あなたはこの条文の追加に賛成ですか、反対ですか」

ちなみ、次のような質問と回答もあった。

「安倍首相は憲法改正の項目として、高等教育を含む教育無償化にも理解を示しました。あなたは高等教育も含めた教育無償化を憲法に明記することに賛成ですか、反対ですか」。

  賛成だ   52

  反対だ   35

では、質問を次のように変えたら、回答はどう変化するだろうか?

「安倍首相は憲法9条について戦争放棄や戦力の不保持を定めたいまの条文は変えずに、自衛隊の存在を明記する条文を追加したい意向を示しました。あなたはこの憲法改正案に賛成ですか、反対ですか」

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役人

2017-05-22 13:05:00 | Weblog

「最近の役人たちといったら……10もの禁忌を犯して10もの真実を踏みにじるといった具合で、それがどんな結果をひきおこすか何も考えていないのではないか」

そういわれてみると、防衛省の例があった。南スーダン国連平和維持活動参加した陸上自衛隊の部隊から送られてきた日報について、保管期限切れですでに廃棄したと、国会で(つまり国民に)言っておきながら、問い詰められると、実は保管してあった、と返答を変えた。

森友学園国有地売却問題でも、国会での追及に対して、高級役人がその記録は規定に従って廃棄した、の一点張りだ。コンピューターから消したとしても、データは復元出来るとして、情報公開活動をしているNPOが、関係官庁のコンピューターの証拠保全申し立てしている。

安倍首相のお友達が理事長をしている加計学園の獣医学部新設に関係して、文部科学省に「総理のご意向」とつたえられた文書があると、報道され、国会で追及された。そこで、文部科学大臣が、関係する高等教育局長、大臣官房審議官、専門教育課長ら省内の7高級役人に問い合わせたが、答はすべて知らぬ。存ぜぬ、だった。新聞の報道によると、1人当たり10分から30分間程度の聞き取りだった。

内閣総理大臣とその妻を守るために、役人たちが公務員としての禁忌をものとせず、納税者のために真実を見つける責任を拒否している――ように見える。

時の政権と官僚集団は運命共同体だ。これは日本に限らないが、日本は特にひどい。公文書の扱いについて、歴史への敬意の気持が薄いからである。

さて、冒頭の「最近の役人たちといったら……」は、今から1000年前の、11世紀ペルシアのニーザム・アルムルク(井谷鋼造他訳)『統治の書』(岩波書店)からの引用だ。

古典の教えは常に新鮮で、人はあいかわらず愚かである。

 (2017.5.22  花崎泰雄)

 

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セドナヤの火葬場

2017-05-16 22:33:41 | Weblog

チュニジアで2010年12月に始まったジャスミン革命は、アラブの民主化運動にとなって中東に広がった。あれから6年余り。すべては短い春の夜の夢であった。

エジプトは再び軍政の国に逆戻りしたし、シリアでは地獄の内戦が続いている。

民主化失敗の原因究明はこの地域の政治を観察している専門家にゆだねることにするが、素人判断では、この地域に民主化を進めることができる政治指導者が不足していたこと、政治制度の確立が遅れていたこと、指導者や住民の多くが古い政治的メンタリティーを残していたことが原因であろう。これらは多くの国が抱える問題である。

日本の民主化は占領軍が原案をつくり、それにしたがって成立したが、そののち、日本の有権者と彼らが選んだ議員たちがさらなる民主主義の前進に向って、大きな足跡を残したという事例は、あいにくこれといってない。日本にはびこっている藩閥時代のメンタリティーと、家柄・血筋の信仰と、拝金主義と、大勢順応・異議申し立てへの嫌悪、などが足かせになっている。

 愚痴はさておき、シリアのことだが、5月15日のワシントン・ポスト紙の記事を読んで暗然となった。ダマスカスから30キロほど離れたセドナヤ軍刑務所に、シリア政府が火葬場を建設し、刑務所内で殺害した囚人の遺体を密かに焼却している、というニュースだった。

アムネスティ・インターナショナル(AI)によると、シリア内戦が始まった2011年からこれまでに、シリア政府の監獄で拷問、殴打、電気ショック、レイプの果てに殺された囚人は1万8千に達する。AIや他のNGOによると、2011年から2015年の間に、6万5千人から11万7千人の人々が投獄された。また、10万人以上の人々がなお拘束され続けているか、消されているという推定もある。

AIがかつて囚人だった人々から集めた証言によると、毎月300人のペースで囚人が殺害されているという。政府による自国民のホロコーストである。

国連の資料によると、シリア内戦でこれまでに40万人が死んでいる。AIによると、住む場所を失って国内を漂泊しているシリア人は6百万人を超え、400万人が難民となって国外に出た。内戦前のシリアの人口は2千2百万人だった。

それぞれ腹に一物――安全保障上の自国の利益――抱えるソ連、EU、トルコ、米国がにらみ合って身動き取れない間に、シリアの人口がどんどん減って行く。

 

(2017.5.16  花崎泰雄)

 

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ビデオ・メッセージ

2017-05-05 17:54:07 | Weblog

憲法記念日の3月3日、日本国首相で自由民主党の総裁である安倍晋三氏が、日本会議が中心になって開いた改憲集会に①2020年の東京オリンピックの年を新しい憲法が施行される年にしたい②憲法9条の第1項、第2項を残したうえで、自衛隊についての項を追加する③あわせて高等教育の無償化も憲法に書き込むと語った。

安倍氏が集会に出席して発言したわけではなく、集会主催者が安倍氏から送られてきたビデオ・メッセージを披露した。

米国大統領のトランプ氏が、ツイッターの書き込みで、米国の市民やメディアを右往左往させているのと同じ手法である。安倍氏は先ごろ読売新聞の首脳と会食し、その数日後に同紙が首相にインタビューを行い、3月3日の朝刊でこのニュースを報じていた(『朝日新聞3月4日付朝刊』。とはいえ、日本のその他の新聞はそのニュースの後追いをせざるをえなかった。

安倍首相はこれまでも日本会議の改憲集会にビデオ・メッセージを送ってきたが、内容は改憲派の季節のご挨拶に毛の生えたようなものだった。それが、今回は異様に中身の濃いメッセージだった。

安倍氏が2020年を目標に本気で9条変更に走り出したのか、憲法記念日をとらえての政治的ジャブだったのか、多くの市民も、多くの新聞も、自民党内でさえ、判断に迷ったようだ。

本気だったらもっときちんとした場を選んでいたはずだから、あれはアドバルーンをあげただけだ。読売新聞に特ダネとして書いてもらい、改憲派の憲法集会でビデオ・メッセージを流したが、自民党総裁として党幹部を引き連れて改憲スケジュールと内容を堂々と発表したわけではない。いやいや、かたちはどうあれ、2020年目標という流れがこれでできることになる、など。

そのころ安倍氏はというと、3日の午前から午後にかけて、東京・富ケ谷の自宅で過ごし、午後になって山梨県鳴沢村の別荘へ向かった。夕方には富士吉田市の中国料理店で首相補佐官、秘書官らと食事し、夜8時半ごろ別荘に帰った(朝日新聞3月4日朝刊・首相動静)。

翌4日は、早朝からお友達とゴルフ。ゴルフのあとは夕刻から別荘で、夫人、官房副長官、補佐官らとバーベキューを楽しんだ。官房副長官らが別荘を辞したのは夜10時ちょっと前(朝日新聞3月5日朝刊・首相動静)。

のどかなものである。首相は北朝鮮からミサイルが飛んでくることはないと知っているのであろう。

世間を騒がせておいて高みの見物である。憲法に自衛隊を正式認知する条文を書き込んだところで、北朝鮮がミサイルを飛ばすのを躊躇するわけでもあるまい。そもそも憲法9条の1項と2項を残したままで、自衛隊について書き加えるという発想が、ブレーキとアクセルを同時に踏むようなものである。

日本政府の高等教育に対する公財政支出は、OECDの平均の半分ほどで、加盟各国中最低の水準だから、高等教育の無償化は素晴らしい約束になるが、さて、その財源をどこからひねり出すか? 教育国債? ビデオ・メッセージに託すには、これまた重大すぎる政策転換である。

(2017.4.5 花崎泰雄)

 

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東京とソウル

2017-05-01 20:33:57 | Weblog

  北朝鮮がミサイル発射に失敗した4月29日早朝、ミサイル発射の報道速報をうけて東京メトロが地下鉄全線、JR西日本が北陸新幹線の運行を短時間であるが停止した。

 北朝鮮が発射したミサイルが日本に飛んでくる恐れがある場合、日本政府はJアラート(全国瞬時警報システム)を使うことになっている。鉄道各社はJアラートを受けて、安全が確認されるまで、列車の運行を止めることにしている。

このときJアラートは使われていなかった。

新聞報道によると、JR東日本、JR東海は新幹線、在来線とも運行を続け、朝鮮半島に近い九州の西鉄、福岡市営地下鉄も運転を停止しなかった。

日本の鉄道の慎重ぶりを知ったソウルの新聞は「大げさに振る舞う」(『東亜日報』)と報じた。 ソウルからのニュースでは、38度線のすぐ南に位置する韓国の首都で地下鉄が止まることはなった。

日本の対応が妥当だとすれば韓国のそれは鈍感。韓国の対応が妥当だとすると、日本のそれは過敏ということになる。

さて?

2日後の5月1日、海上自衛隊が保有する最大の護衛艦「いずも」が、安全保障関連法にもとづいて「米艦防護」を実施した。横須賀基地を出港して、東京湾の南でアメリカ海軍の補給艦と合流、四国沖までの護衛を始めた。

米海軍の補給艦を防護したのは「いずも」1隻だけだった。これといって危険が予想される海域ではないから、形ばかりの米艦防護である。ねらいは米艦防護の実績づくりである。「いずも」は米補給艦と別れた後、東南アジア方面に向かうが、その時は護衛艦「さざなみ」が「いづも」を護衛する。

首都東京の地下鉄や新幹線がとまったあと、米艦防護とくれば、少々カンの悪い向きといえども、「なんだかなあ」という筋書きを感じるだろう。

東京の地下鉄がとまり、新幹線もとまった4月29日、日本国首相・安倍晋三氏は訪露・訪英のはるか旅の空にあった。

 (2017.5.1  花崎泰雄)

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