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富者と貧者と

2018-11-22 00:18:22 | Weblog

S&P500とよばれる米国の代表的企業の最高経営責任者と一般従業員の賃金の格差が2017年に361倍に広がった。米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)によると1950年代には20倍程度だった。

米国は世界に冠たる強欲資本主義の国である。企業は消費者から金をむしり取り、経営責任者らは企業から金をむしり取る。

かつてのいわゆるリーマン・ショックの時の事を思い起こせばわかる。米国政府は危機にたちいたった大手保険会社AIGを国有化し多額の公的援助を与えた。そのさなか、AIGは幹部社員70人ほどが合計約170億円のボーナスを分け合った。再建のために新しくCEOに就任したエドワード・リディ氏の年収は1ドルだった。

米国では2017年から金融規制改革法で企業のCEOと一般従業員の年収の差を開示することが義務付けられた。イギリスでも従業員数250人以上の企業に役員と一般従業員の報酬額の公表を義務付ける予定だ。

日本では証券取引法が上場会社に営業・経理・事業の内容について記載した有価証券報告書を内閣総理大臣に提出することを求めている。報告書の中には役員報酬についての報告も含まれている。

目下話題のゴーン日産会長(11月21日現在)はこの報告書に自分の報酬額を偽って少なめに書いた容疑で逮捕された。

米国ほどあからさまではないが、日本でも役員と一般従業員の会社内給与格差が広がっているといわれる。企業の役員は従業員の賃金を抑制あるいは減額することで企業の利益を生み出し、そのことを自らの報酬を引き上げる理由にする。

トマ・ピケティの『21世紀の資本主義』によると、1950年代の米国の賃金格差はフランスより低い水準だった。トップ10パーセントの労働所得は総労働所得の25パーセントほどだった。それが2010年には35パーセントに上昇した。

2011年のウォール街占拠運動は所得格差やヘッジファンドやデリバティブといった非実体経済分野で荒稼ぎしている、頭は良いが心は貧しいグループのカジノ資本主義に対抗するモラル・エコノミーの側の異議申し立てだった。興味深く見ていたのだが、長続きはしなかった。

ゴーン事件に関して、頭の良い会社経営者の強欲、日産とルノーのせめぎ合い、ゴーン会長に対する西川社長のクーデターといった話題もさることながら、これを機に日本における公正な所得分配のあり方についての議論へ発展すると面白いと思う。銀行系シンクタンクのエコノミストのどうすりゃ儲かる論ではなく、見栄えのしない道学者風の経済論を聴きたいものだ。

 (2018.11.21  花崎泰雄)

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