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news commentary

駐米日本大使のご指名は?

2016-11-22 22:49:45 | Weblog

英米のメディアがこの話でもちきりだ。

来年1月の大統領就任早々、TPPから手を引くことを明らかにし、目下、ホワイトハウスを右翼排外主義者の梁山泊に変えようとしているドナルド・トランプ次期米大統領が、ソーシャルメディを使って例のEU離脱の無責任右翼の英国独立党のナイジェル・ファラージ氏を駐米英大使として送り込んでほしいと英国政府に暗に要望した。「彼ならいい仕事をするだろう」。冗談にしても気がしれないというのが、米英のメディアの受け止め方である。

トランプ、ファラージ両氏は気の合ったお友達のようで、トランプ氏が当選した後、ナイジェルはトランプタワーにドナルドを訪ねた。シンゾー・アベとどちらが先だったかは明らかではない。

ファラージ氏をねだったトランプの書き込みに対して、ダウニング街10番地は「あの席はうまっている」とそっけない反応を示した。

すると、今度はファラージ氏が「ダウニング街は国益よりも私に対する嫌悪感を優先させた。世界は変わった。ダウニング街も変わらねばならぬ」と発言した(BBCの速報)。

ははは、2人とも夜郎自大的能天気。

そのうちトランプ氏は「このあいだ会ったシンゾーはいい男だ。ここでいい仕事をするだろう」と、駐米大使に送り込むよう要請するかもしれない。いや、これはたちの悪い冗談かも。

トランプがパンドラの箱を開けた。みんな血眼で箱の底に残っているはずの「希望」をさがしている。この危機感あふれるジョークもアメリカの新聞で読んだ。

(2016.11.22  花崎泰雄)
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不愉快な現実

2016-11-18 13:05:17 | Weblog

11月17日付『朝日新聞』朝刊のオピニオンのページ掲載の米大統領選挙の勝者ドナルド・トランプに関するポール・クルーグマンの論説(ニューヨーク・タイムズ紙から転載)と、エマニュエル・トッドの対談記事が面白かった。

米国人のクルーグマンは以下のように言う。

①トランプ政権は米国と世界に多大な損害を与えることになる。今回の大統領選の結果がもたらす悪影響は、今後何十年、ことによると何世代も続くだろう
②気候変動の行方が懸念される。とんでもない人たちが連邦最高裁判事になると見込まれ、各州政府は有権者をもっと抑圧できるような権力を持つだろう。最悪の場合、陰湿な人種差別が米国全土で標準となる可能性がある。
③市民の自由も心配しなければならない。ホワイトハウスはまもなく、明らかに権威主義的な衝動を持つ男に占有される。
④トランプの政策は、彼に投票した人々を救済することにはならないだろう。それどころか、支持者たちの暮らしは、かなり悪化すると思われる。
⑤米国はいまや強権者に支配される堕落した国へと転がり落ちている途上にあるのかもしれない。

一方、フランス人のエマニュエル・トッドは以下のように言う。

①ここ15年間、米国人の生活水準は下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がった。白人は有権者の4分の3である。自由貿易と移民が不平等と停滞をもたらしたと白人は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。理にかなったふるまいをした。
②米国社会について真実を口にしていたのはトランプだった。「米国はうまくいっていない」「米国はもはや世界から尊敬されていない」と。
③トランプ選出で米国と世界は現実に立ち戻った。
④米国ではレーガン時代から不平等が急速に拡大した。米国政治の世界は、経済的な対立が前面に出るマルクス主義モデルに戻ったと言えるかもしれない。トランプが劣勢をひっくり返して支持を広げたのは、ラストベルト諸州であり、彼を選んだのは虐待されたプロレタリアともいえる。マルクスが生きていたら、結果に満足したかもしれない。


米大統領予備選挙でヒラリー・クリントンと民主党候補指名を激しく争った上院議員のバーニー・サンダースは民主社会主義者を自称し、以下の公約を明らかにした。

①公立大学の授業料をかつてのように無料化する。その費用はウォール街への課税でまかなう。
②米国の最低賃金を時給15ドルに引き上げる。
③TPPに反対する。TPPで得をするのはウォール街であって労働者ではない。企業は従業員の賃金を下げやすくなる。食品安全に懸念が生じる。特許期間の延長で薬価も上がる。ISDS条項は、米国の主権に脅威になる。
④老朽化が進んだ米国の社会的インフラストラクチャ―再生のための投資を積極的に行う。
⑤中絶の権利を擁護する。

サンダースはトランプと同じ様な激しい口調で、だが、理知と論理に裏付けされた公約を語った。自由貿易で安い労働力を途上国に求め、米国人から労働の機会を奪ったのはウォール街であることを説いた。だが、サンダースはクリントンに敗北、クリントンはトランプに敗北した。

「米国政治の世界は、経済的な対立が前面に出るマルクス主義モデルに戻ったと言えるかもしれない」とトッドは説明するのであるが、そうだとするなら、ラストベルト諸州の虐待されたプロレタリアートは、なぜ、理屈を説くサンダースでなく、咆哮するだけのトランプを選択したのだろうか?

米国で大統領予備選挙が始まった今年2月、このコラムで「アメリカ合衆国大統領予備選挙が始まった。この時期になると、1冊の本を開いて拾い読みすることが多い。Richard Hofstadter, Anti-Intellectualism In American Life, New York Knopf, 1963 (日本語版は、リチャード・ホーフスタッター、田村哲夫訳『アメリカの反知性主義』みすず書房、2003年)である」と書いた。あの時、さすがにトランプが最終勝利者になるとは予想していなかった。アメリカの反知性主義の根深さを甘く見ていたのである。

(2016.11.18 花崎泰雄)



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あとの始末を誰がする?

2016-11-10 01:06:35 | Weblog

来年のことを言うと鬼が笑うとのことだが、来年の1月20日にトランプ米国大統領の就任式がある。子どものころ「年の始めのためしとて門松ひっくり返して大騒ぎあとの始末を誰がする」と歌った。トランプ氏の大統領選挙勝利が決まった日本時間11月9日、インターネットで米国の新聞をいくつか拾い読みをした。ワシントンポスト紙が「ドナルド・トランプの76の約束」と題して、選挙期間中を中心にしたトランプ発言を箇条書きにまとめていた。トランプ放言・暴言の集大成で興味深かった。76はちょっと多すぎるので、ここでは同じ日のBBC電子版が伝えた同じ趣の「ドナルド・トランプ30の信条」を引用しよう。トランプの後始末をさせられるのは、どこのどなただろうか?

1.アラブ系アメリカ人は9.11事件に喝采した。
2.アメリカ国内のモスクを監視せねばならならい。
3.ちょっと太った元ミス・ユニバースを、ミス・ピギー(ブタ)と呼んだ。
4.女の35歳はチェックアウト・タイムだ。
5.ISとの戦いでは水責め拷問などの手法をとらねばならない。
6.ISに爆弾をくらわせ、やっつける。
7.サダム・フセインやムアンマル・カダフィが生きて権力の座にいたとすれば、世の中もっとよかっただろうに。
8.合衆国とメキシコの国境に万里の長城よりもっと大きい壁を築く。
9.1,100万人の不法移民を大量送還する。
10.ムスリムを入国させない。
11.米国に亡命を求めてやって来たシリア人を送還する。
12.銃乱射による大量殺人を防ぐために精神療法に資金を投入する(銃規制ではなく)。
13.ウラジミール・プーチンは真のリーダーである。
14.税率の簡略化。
15.ヘッジファンド・マネジャーは殺人無罪の犯罪者のようなものである。
16.公平な対米貿易をさせるために、中国にやらせなければならないことがある。
17.現行の失業率統計は間違っている(20%、いや42%にもなる)
18.Black Lives Matter(黒人の命を守れ)運動はトラブルだ。
19.実質資産100億ドルを自称(ブルームバーグは30億ドル、フォーブスは40億ドルと推計)
20.退役軍人のヘルスケアの大々的な改革。
21. オバマケアは災難である。
22. 気候変動は人為的な災難でなく自然の変化であり、産業の規制は競争力を弱める。
23. ロビイストをもっと規制しなくてはならない。
24. 私はナイス・ガイである。
25. 日本と韓国は核装備すべきである。米国の核に頼り過ぎだ。
26. 北大西洋条約(NATO)は詐欺だ。米国の負担が多すぎる。
27. 人口流産を施した医師を罰すべきだ。
28. 共和党全国委員会は私に対してイカサマを仕掛けている。
29. 1時間当たり7.25ドルの連邦平均賃金を引き上げるべきだ。
30. ヒラリー・クリントンはリンチ司法長官を買収した。

ちょっと物足りなところがあるので、ワシントンポスト紙からも少し拾いあげて付録にしておこう。

 *軍備を強化し、どこの国も米国に対してちょっかいを出せなくする。
 *テロリストの親族をねらい、殺す。
 *ISに利用されるようなインターネットを切断する。
 *アフガニスタンから兵を引き、南シナ海、東シナ海の米軍プレゼンスを増強する。
 *イラン指導者に尊称をつけない。
 *中国の主席には国賓の夕食会でなくマクドナルドのハンバーガーを買ってやればいい。
 *経済成長率を6パーセント以上にする。
 *低賃金の外国人労働者は期限付きビザで入国させる。

どう読んでもお笑いの舞台のような発言内容だが、大統領になると、もっと深刻な事態が発生する。上記のような短絡的な発言をしてきた人物が、1962年のキューバ危機、あるいは9.11の惨劇のような事態に直面した時、どのようなふるまいをするだろうか。

鬼の顔もこわばるような4年間が来年から始まる。

(2016.11.9  花崎泰雄),

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窮地の韓国大統領

2016-11-05 21:39:39 | Weblog


韓国のパク・クネ大統領が辞任の瀬戸際に立たされている。

韓国ギャラップの世論調査では支持率が5パーセントに落ちた。国家の機密文書を支持者の実業家に渡した疑惑のせいである。必要であれば大統領自らも検察の調べに応じる、とさえ発言せざるをえないところまで追い込まれた。

思い起こせば、韓国の大統領の多くが退任後、在任中のスキャンダルが暴露されて政治家としての晩節を汚すはめになった。チョン・ドファン大統領の場合は金銭スキャンダルと民主化活動家への弾圧。ノ・テウ大統領も政治資金隠匿と民主化運動弾圧を追及された。

ノ・ムヒョン大統領も親族や側近の金銭スキャンダルに加え、自身も政治資金の不正な受け取りを疑われた。逮捕が噂される中でノ・ムヒョン氏は自宅裏山の崖から投身自殺した。

イ・ミョンバク大統領も私邸用地の不正購入を疑われたことがある。イ大統領の実兄の国会議員は不正政治資金問題で逮捕され、親族の不正をイ大統領は謝罪した。

日本の戦後政治史研究には戦後疑獄史の研究が欠かせないほど、政治スキャンダルの悪徳の花盛りの時代が続いてきたが、ロッキード事件以来、日本を揺るがすほどの大規模な贈収賄事件はこれといって表ざたになっていない。最近では、甘利TPP担当大臣が大臣室で業者から現金入りの封筒を受け取った程度の小型スキャンダルが露見しているだけだ。

ちょっとありえない想像だが、日本の政治家たちが徳性を身につけてきたためだろうか?

いまはどうか知らないが、スハルト政権時代、汚職はインドネシアの文化だという風評があった。日本人がインドネシア人に、汚職はインドネシアの文化であると言ったら、インドネシア人が、汚職が文化なら、日本も汚職文化の国ではないか、とまっとうなことを日本人に言い返した。すると、日本人が、インドネシアでは収賄した政治家や役人が捕まることはないが、日本では政治家が収賄容疑でときどきは捕まることがある、と逃げをうった。

古い話だが1954年の造船疑獄捜査のさい、検察が佐藤栄作・自由党幹事長を収賄容疑で逮捕しようとしたら、犬養健法務大臣が指揮権を発動して逮捕を中止させたことがあった。ちまちました話になるが、最近では、家族で食べた回転ずしの払いを政治資金で済ませたという政治家の話もある。

政治家稼業を続けているうちに公金と私金、不浄の金と浄財、その境界線が見えなくなるのだろう。政治家の方は、金にきれいも汚いもあるものか、要るものは要る、「白河の清きに魚も住みかねてもとの濁りの田沼恋しき」というではないか、といった気分なのだろうが。

権力をあさる政治家の群れがある限り、各種スキャンダルは多かれ少なかれ世界各国どこにでもある。韓国で検察が大統領のスキャンダルを果敢に捜査してきたのは、①韓国の検察が優秀であるから②政敵追い落としの政治勢力の策謀に検察が一役買わされている、のいずれかであろう。

ということは、日本の検察が有権者の憤激を呼び大衆行動の引き金になるような政治スキャンダルをこのところ捜査していないということは①日本の検察が無能であるから②政敵追い落としをはかるような敵対勢力が弱くなった、のいずれかであろう。永田町の政党勢力分布は1強多弱であり、1強の政党の内部でも1強多弱の議員構成だ。出る杭は打たれる、と萎縮する向きが多いのであろう。

(2016.11.5  花崎泰雄)




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