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ギフト

2025-05-31 00:47:36 | 国際

米国のトランプ政権が留学生を国外へ追い出している。アメリカが蓄積してきた知的財産を留学生たちが出身国に持ち帰るのを嫌悪しているように見える。留学生と彼らを送り出した国々は、米国から甘い汁をむさぼろうとしている害虫であるという認識なのだ。

一昔前の米国はおせっかいな国で、途上国が共産化するのを防止するために、奨学金を出して海外の若者を米国の大学に招いた。

いまインドネシアで大統領をつとめているプラボウォ・スビアント氏の父親は経済学者で、インドネシア大学の経済学部長のころ米国のフォード財団の資金でカリフォルニア大学バークレー校に学生を送り込み、経済学を学ばせた。学生たちは帰国後、インドネシアの開発と経済発展に取り組みバークレー・マフィアとよばれるようになった。

バークレー・マフィアの学者たちのアメリカ仕込みの開発論は、スハルト政権の幹部の開発ナショナリズムと衝突諸突することも多かったが、インドネシアの近代化に一定の役割を果たした。米国で学んだバークレー・マフィアの経済学が、スカルノ時代に左傾化していたインドネシアを資本主義のイデオロギー圏に復帰させることに役立った。

インドネシアの首都ジャカルタ郊外のテーマパーク「タマン・ミニ・インドネシア・インダ」に隣接して、いわゆる「スハルト博物館」(Purna Bhakti Pertiwi Museum)があった。博物館の見ものは、スハルトが大統領として海外の元首や政治指導者からギフトとして受け取ったおびただしい数の品々の展示だった。スハルト1997年の『フォーブズ』によると世界で4番目の金持ちだった。資産総額160億ドル。大統領として年額2万1千ドルの給与を受け取っていた人物の貯蓄としては法外な額だった。1990年代のスハルトは東南アジアのとびぬけた権力者で、インドネシアは東南アジアでは抜きんでた腐敗国家だった。KKN(korupsi, kolusi, nepotisme  汚職・癒着・ネポティズム)がインドネシアにあふれていた。

ギフトといえば英国王室が所有する世界最大級のダイヤモンド(原石はカリナンとよばれた)。原石はいくつかに分けられ、その一部はロンドンの「ロンドン塔」におさめられているそうだ。

ブーア戦争でイギリスの植民地なったトランスバールの政府が英国王エドワード7世に献上したダイヤモンドで発掘したトマス・カリナンの名をとって「カリナン」とよばれている。ブーア戦争の一因はトランスバールの金やダイヤモンドが欲しくなったイギリスの野心だったという見方もある。

国家間のギフトのやり取りは見返りを当てにしている。スハルトやエドワード7世がその見返りに何を贈ったのか。それについては別の機会にしらべてみよう。

時の人であるトランプ米大統領へのギフトであるボーイング747が米国に届いたという記事を読んだ。カタール王室からのこのギフトを、米国の法律がどう判断するのか、興味を持ってみている。

誰から誰への贈物なのか? 

見返りについては何か暗黙の了解があるのか? 

 

(2025.5.31 花崎泰雄)

 

 

 

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そのきさらぎの望月の頃

2025-05-16 01:02:25 | 国際

5月13日に死去したホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領の追悼記事が15日付の朝日新聞社会面に載っていた。89歳。

農民で、過激派都市ゲリラ・ツパマロスのメンバーを経て、囚人、のちに政治家に転じて大統領をつとめ、引退後に農民に戻った。収入のほとんどを寄付し「世界で最も貧しい大統領」とよばれて世界中に知られた。

記事の中で、元ウルグアイ大使の真銅竜日郎氏が5年ほどまえホセ・ムヒカ氏の自宅を訪ねて、桜の木を贈った時のエピソードが語られていた。

 「わしは近い将来、天に召される。わしの亡きがらは、この桜の木のそばに埋めてもらい、土にかえって、桜の花がきれいに舞うのをながめたい」

 元大統領はそうつぶやいた。

 ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃 西行

私はオマル・ハイヤームのファンで、ルバイヤートの日本語訳本が出ると買い込んで積読するのをならいとしてきた。森亮訳、高遠弘美訳、黒柳恒男訳、岡田恵美子訳、陳舜臣訳、小川亮作訳など。とはいうものの、手に取るのはたいてい小川亮作訳『ルバイヤート』岩波文庫版である。その文庫版の解説にオマル・ハイヤームの弟子だったネザーミイ・アルーズイが書いた『チャハール・マカーラ』の中にある次のような文章が引用されていた。オマル・ハイヤームが他界した数年後の1135年ごろにネザーミイ・アルーズイがネイシャプールにある師の墓参りをした時、

「彼の墓はとある土塀の直下にあって、その塀を越して数本の梨の木と桃の木が枝を垂れかけており、墓場の上にはおびただしい花びらが地面の見えないほど堆く散り敷いていた」

小川訳の『ルバイヤート』はいう。

 幾山川を超えて来たこの旅路であった、

 どこの地平の果てまでもめぐりめぐった。

 だが、向こうから誰一人来るのに会わず、

 道はただ行く道、帰る旅人を見なかった。

いつの日にかネイシャプールを訪ね、オマル・ハイヤームの墓に参るのを楽しみにしてきたが、インターネットでオマル・ハイヤームの墓があったあたりにモニュメントがたてられ、すかっり記念公園の風景になっているのを知った。

(2025.5.30  花崎泰雄)

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顔パス

2025-04-29 17:24:02 | 国際

トランプ米大統領がパナマ運河とスエズ運河の米国艦船(軍用と民間とも)の通行料を無料とするよう求め、ルビオ国務長官にその折衝を指示したと報道されている。

パナマ運河はパナマがコロンビアの領域だったころに米国が計画した。工事をやりやすくするためにパナマをコロンビアから分離独立させたのは米国の策謀だった。米国はパナマを事実上の属領として扱い、運河の管理権を握り続けた。パナマ運河は20世紀の終わりに、カーター政権がパナマに完全返還した。

トランプ氏は最初「パナマを取り戻す」と言っていた。今度はちょっと弱気になって、薩摩守の要求である。パナマ運河通行量のうち、7割が米国発着の貨物がしめている。徴収した通行料から国庫に納付される金は、パナマ国の歳入の7パーセント強を占める。米国の船を無料通行させるとパナマ政府は財政赤字に苦しむことになる。

スエズ運河無料通行については、何を根拠にそのような要求をしているのかよくわからない。グリーンランドはアメリカに帰属すべきだ、カナダは合衆国の51番目の州になるべきだ、関税を引きあげて政府の歳入を増やし、それをもとに所得税減税をしようという怪しげなねずみ講風の財政政策などなど、白昼夢を披歴するトランプ大統領の支持率がここにきて下落し始めた。

トランプ氏はADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder、注意欠如多動症)ではなかろうかと疑う声が巷に広がっている。

(2025.4.29 花崎泰雄)

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You’re fired!

2025-04-05 00:08:51 | 国際

Donald Trump: We're going to tell crooked Joe Biden, “You're fired.”
Then, “Kamala, you’re fired,” said he.
Finally, Trump said “Yoon suk yoel, you’re fired!”

冗談はさておき、4月4日、韓国憲法裁判所がユン・ソンニョル大統領の弾劾審判でユン大統領の罷免を宣告した。8人の裁判官全員の一致した意見だった。60日以内に大統領選挙が行われる。

前日の3日にはトランプ米大統領が“関税戦争”をおっぱじめた。EUも中国も怒りの姿勢を見せている。中国は4日、報復関税を表明した。日本の石破政権は怒りを抑えてもじもじするだけ。お風呂で屁をたれたような対応だ。

私が勤め人だったころ、異動・転勤命令をやたらに出す管理職がいて「洗濯機」と呼ばれていた。ようもなくやたら人事をかき混ぜるからだ。タリフマンの関税戦略もそのたぐいだろう。アメリカの株式市場、世界の株式市場に暴落の風が吹きだした。テレビを見ていたら、関税は手術だ、アメリカの経済はこれから良くなる、トランプ氏がうそぶいていた。

手術は成功したが患者は死んだ、という暗い冗談は昔からある。

「浮世はのう、所詮あそびか芝居小屋
 くすむ心をさらりとすてて
 かぶきたまえや
 それは御免と言いやるならば
 忍びたまえや世の憂さを」
(パルラダース、沓掛良彦編訳『ピエリアの薔薇』平凡社ライブラリー)

(2025.4.5 花崎泰雄)

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決闘ホワイトハウス

2025-03-02 01:22:21 | 国際

イギリスのスターマー首相が米ワシントンのホワイトハウの大統領執務室でトランプ米大統領と会談したのは2月27日。そのとき取材で大統領執務室にいた記者が、今でもゼレンスキー・ウクライナ大統領を「独裁者」だと思うかとトランプ大統領に質問した。翌日の28日にはゼレンスキー大統領がホワイトハウスに来て、トランプ大統領と会談、レアアースの共同開発について合意書に調印する運びになっていた。

記者からの質問に対してトランプ氏は「そんなことを言ったか? わたしがそんなことを言ったなんて信じられない。次の質問をどうぞ」(Did I say that? I can’t believe I said that. Next question.)としらばっくれた。

世界の政治指導者たちは、これほどまでに自分の言葉に重みを認めないアメリカ大統領と外交交渉をしなければならない。気の毒である。

28日のトランプ・ゼレンスキー会談は口論の末に決裂した。会談の冒頭から50分間に限ってホワイトハウスはテレビの実況中継を認めた。50分は長い時間である。今の世界を仕切っているのは米大統領のドナルド・トランプであることを全米の有権者に見せるために50分をかけたのである。トランプ大統領がプーチン大統領と組んで、ウクライナ抜きで急ぎ停戦交渉を始める。そのためにウクライナから委任を取り付ける。プーチン大統領を抱き込むことで、ロシアと中国と関係を希薄化させる。露骨な自己陶酔。そのような見方が世界に広がっている。ゼレンスキー大統領もそのことを気にしている。

ロシアに対する肩入れが強すぎると主張するゼレンスキー大統領への不快感もあって、バンス米副大統領が「平和と安定への道はおそらく外交だ」と横から両首脳の会談に割って入った。ゼレンスキー大統領は、2014年のクリミア侵攻に侵略に始まるロシアの外交に歴代の米国政権はきちんと対処してこなかったと反論した。これに怒ったバンス副大統領が失礼であると非難。けたたましい口論となった。ついにはトランプ大統領がゼレンスキー大統領を「第3次世界大戦をかけてギャンブルしている」(gambling with World War Three)と罵倒した。

上記のような、政治家たちの暗闘と武勇伝は、事件のほとぼりが冷めてから、側近が回顧録で、ジャーナリストがドキュメンタリーで、こもごも語る裏話である。それがいまや、白昼堂々テレビの実況で見られるようになった。よい時代になったのか、政治リーダーの品質がここまで劣化したのかと驚くか、それはあなたのご判断。

さて、トランプ大統領は就任早々、ラテンアメリカからの違法移住者を軍の航空機などを使って送還した。政権は合衆国にいる違法移住者のすべてを送還するような口ぶりだったが、トランプ政権発足後1ヵ月の送還者は、バイデン前大統領の就任後1ヵ月のそれより少なかった、と米のメディアが伝えた。それはさておき、送還する人々に手錠をかけていたニュースは、米国の粗野な文化の宣伝になった。

一方、トランプ政権は米国永住権とその後の市民権獲得に有利なゴールドカード・ビザを富裕層の外国人に販売すると発表した。値段は500万ドル(7億5000万円)。トランプ大統領が「お買い得だよ」(It's going to sell like crazy. It's a bargain.)と言った。
(2025.3.2 花崎泰雄)

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春立ちぬれば楽しい関税

2025-02-04 01:12:43 | 国際

2月3日は日本の暦で立春。昨日(2月2日)は節分で、あちこちの社寺で豆まきがあった。横綱になったばかりの豊昇龍が豆まきをしているのをテレビのニュースで見た。顔面の筋肉の中に細い目が埋まってしまうほどの笑顔だった。

日本の国会では新年度予算案の審議が衆院予算委員会で進んでいる。これといったヤマ場のない平坦な問答が繰り返され、新年度予算案に「楽しい日本」の副題をつけた石破首相の表情もどこか眠たげである。

元気いっぱいに見えるのは米国のトランプ大統領だ。3月3日の朝刊で、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税をかけ、中国からの輸入品には10%の塚関税をかけると米大統領が言明した。

不法移民や合成麻薬の米国内流入に対する措置だと解説されているが、原因と対策のあいだに論理的なつながりはない。メキシコもカナダも対抗策として米国からの輸入品に25%の関税をかけると表明した。この関税合戦はどのくらいの期間続くのだろうか。

トランプ政権は1月下旬にも移民を送還する米軍機の着陸を拒否したコロンビアに対して関税引き上げを脅しに使った。コロンビア政府は折れて、米軍機の着陸を許可した。

このような性格の米政権だから、カナダやメキシコと打開策を協議する一方で、さらに中国。ロシアに対してあらたな関税合戦を始めることだろう。

コロンビアの政府も、カナダの政府も、メキシコの政府も、中国の政府も、ロシアの政府もはた迷惑なアメリカ大統領を付き合うこれからの4年にうんざりしていることだろう。

この問題を解決できるのはアメリカ合衆国の有権者だけなのがなんともつらいところだ。

(2025.2.4   花崎泰雄)、

 

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大統領の選択

2025-01-19 20:44:36 | 国際

韓国のユン・ソンニョル大統領が内乱の容疑で逮捕された。逮捕状を出したソウル西部地裁に19日大統領支持派の人びとが乱入した。昨年12月にユン大統領が非常戒厳令を出して国会に軍隊を送り込んだとき、人々はあっけにとられた。政党間の勢力争いを戒厳令で打開しようとした「牛刀をもって鶏をさく」的なユン大統領の政治感覚は精神分析の対象になる事例と感じられた。これに対して、国会は大統領の戒厳令の解除を可決した。これを機に野党はユン大統領の弾劾案を可決、大統領の退陣と次の大統領選の早期実現へ激しく動いた。韓国の有権者は野党のあからさまな権力奪取の攻勢にうんざりしたのか、今年に入ってからの世論調査では、政党与党支持率と野党支持率が逆転、与党支持が野党支持を上回った。これに勢いを得た大統領支持派の一部が地裁に乱入し、ユン大統領を守ろうとする姿勢を誇示した。この一連のドタバタ劇の出発点は、ユン・ソンニョルという人物の特異な個性と的外れの政治感覚が作り出した「青天の霹靂」的パロディーだったが、今では本気の戒厳令に至りかねない雲行きになってきている。韓国憲法第77条は①大統領は戦時·事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力により軍事上の必要に応じ,又は公共の安寧秩序を維持する必要があるときは法律の定めるところにより戒厳を宣布することができる②戒厳は非常戒厳と警備戒厳とする.③非常戒厳が宣布されたときには法律の定めるところにより令状制度,言論·出版·集会·結社の自由,政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる④戒厳を宣布したときには大統領は遅滞なく国会に通告しなければならない.⑤国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領はこれを解除しなければならない.と定めている。

一方、20日には米国でドナルド・トランプ大統領の就任式が行われる。トランプ新大統領は選挙中から「タリフマン=関税男」を名乗り、新聞報道によると中国産品に60%、中国企業によるメキシコ産自動車に100%、全世界からの輸入に一律10%の関税をかけると表明してきた。

アジア経済研究所の予測では、米国が中国からの輸入品に60%、全世界からの輸入品に一律10%の関税をかけた場合、米国のGDPは1.9%減り、中国のそれは0.9%減る。日本やASEAN諸国のGDPには大きな影響はないが、世界のGDPは0.5%減る。

高い関税をかければ輸入する国では商品の売れ行きが落ち、輸出元では商品の生産が落ちる。高い関税を課せられた方は、報復関税を決意する。関税ごっこはやがて非生産的なシーソー・ゲームに入り込み、両者が不自由な思いをするようになる。

20世紀末、日本と米国は農産物自由化をめぐっていわゆる「牛肉・オレンジ戦争」を始めた。米国はアメリカの牛肉やオレンジの対日輸出増をねらい、日本は国内の畜産農家やミカン農家守ろうとした。農業への配慮を優先しすぎると、工業製品である自動車の輸出が伸び悩む。日本政府は苦慮の末、アメリカと日本の外交体力の違いもあって農産物輸入自由化を決意した。

これから4年間のトランプ政権下で、米中の関係はどうのように推移するのだろうか。米国では通商に関する決まりは関税率も含めて議会の承認が必要だ。大統領令だけで関税率を決められるのは限定的な条件と期間に限られる。関税によってMAGA(Make America great again)を実現するのは関税男の一存だけでは困難だろう。関税引き上げが遠因となって米国経済が萎縮することもありうるのだ。

20世紀後半には効率を最大化する意思決定者の行為を研究する方法として経済学の合理的選択論が政治学研究に転用されもてはやされた。経済学においては効率の最大化は収益の最大化であるが、政治の分野での合理的選択とはいったい何を意味するのだろうか。米国経済を傷つけてでも中国に圧力をかけるのが合理的だろうか。「肉を切らせて骨を断つ」。アメリカはそれほど中国を恐れているのだろうか。

超大国アメリカの衰退傾向が言われてからもう長い時間がたっている。これから4年間、トランプ米大統領が不動産業者ではなく政治指導者として発想し、選択し、実現させようとする合理的選択が、果たして誰を幸いにするのか、興味深い観察ができそうである。場合によっては関税がMake America gloomy againにつながることもありるだけに。

(2025.1.19 花崎泰雄)

 

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福笑い

2025-01-14 01:10:13 | 国際

旅の修行僧とこんにゃく屋六兵衛がふんする和尚の問答。

修行僧が「法界に魚あり、尾もなく頭もなく、中の鰭骨を保つ。大和尚、この義はいかに」と問うが六兵衛和尚は無言。ほほう、無言の行だなと勘違いした旅の僧が、手で○をつくると、六兵衛和尚が両手で大きな○をつくって応じる。修行僧が十本の指を突き出すと、六兵衛が片手で五本の指を出す。修行僧が三本の指を出すと六兵衛があかんべえ。修行僧が恐れ入ったと退散する。

〇をつくって「天地の間は」としかけたところ「大海のごとし」と大きな〇。「十方世界は」には「五戒で保つ」と指五本。「三尊の弥陀は」には「目の下にあり」。恐れ入りましたと修業僧が述懐する。

六兵衛は憤慨して毒づく。お前が売っているこんにゃくはこんなに小さいとぬかすから、それはちがうこんなに大きいと答えてやった。十個でいくらかと聞いたので、五百だと言った。すると、三百にまけろという。だからあんべえだ。

昔の正月はテレビでこんな落語を聴いて笑っていた。いまテレビはニュースしか見ない。昨年から今年の正月にかけてドナルド・トランプの独演会が切れ目なく続いている。もうすぐかれの就任式だ。

NATO諸国は防衛費をGDP5パーセントに増やせ。もし私が大統領だったら、ロシアとウクライナの戦争は起きなかっただろう。あの戦争は24時間でやめさせることができる。アメリカの安全保障のためにグリーンランドが必要だ。カナダを51番目合衆国の州にしよう。メキシコ湾をアメリカ湾と改名しよう。パナマ運河を取り戻そう……などなど。

ニュース解説ではジャーナリストや外交専門家、政治学者らがトランプ発言の端々をとらえては、面白おかしく解説をしてくれる。笑門来福の福笑いのゲームさながらだ。

ドナルド・トランプというご仁は、何かの目標を実現するために権力を握ったのではなく、権力がもたらす快感に酔うために権力を握ったのだ。トランプ発言からゴシップ的要素を取り去ると、そのあとに彼の世界観が見えてくるか――存在しない世界観など見ようがないではないか。それが世界中を不安に陥れているのだ。

まもなく大統領の座につくドナルド・トランプ氏は、中国関連の展望を語らない。台湾をめぐる事態への基本的な対応についてだんまりを決め込んでいる。大統領周辺にはいくつかのオプションを持った専門家がいるだろうが、最終的な選択は大統領にゆだねられる。それが世界の初笑いを凍りつせているのだ。

(2025.1.14 花崎泰雄)

 

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師走の火遊び

2024-12-04 17:50:25 | 国際

韓国の現行憲法は、国家が非常事態に直面したとき、大統領が戒厳を宣布することができるとしている。2024年12月3日夜、ユン・ソンニョル大統領が発した非常戒厳は憲法の規定に基づいていた。

同時に憲法は国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領は戒厳を解除しなければならないと定めている。国会は戒厳の解除を決議、大統領は数時間後に非常戒厳を解除した。

戒厳は軍事上の必要があるとき、公共の安寧秩序を維持する必要があるときに、宣布されると憲法は定めている。それにより、令状制度,言論·出版·集会·結社の自由、政府や裁判所の権限に関し特別な措置をすることができる.

韓国の通信社・聯合ニュースが新聞の見出しを紹介していた。

<朝鮮日報>尹大統領、「非常戒厳」宣布 国会、150分後に解除
<東亜日報>尹大統領が真夜中に「非常戒厳」…国会、2時間で解除
<中央日報>尹大統領、「非常戒厳」宣布…国会で解除要求決議可決
<ハンギョレ>社説:尹大統領の戒厳令、国民に対する反逆だ
<京郷新聞>尹大統領、真夜中に「非常戒厳」宣布
<毎日経済>尹大統領、「非常戒厳」宣布…国会、即刻解除
<韓国経済>尹大統領、深夜に「非常戒厳」宣布…国会が155分後に「解除」決議

ユン大統領は何を何から守ろうとして非常戒厳を宣布したのだろうか。いまのところ納得できるような説明をした人はいない。

合衆国の次期大統領・トランプ氏がカナダのトルドー首相に、高関税を避けたければ合衆国の51番目の州になればよい、と言ったとか。カナダ側は冗談と逃げを打っているが、薄気味悪い話だ。

野党の攻勢で打つ手がなくなった韓国のユン大統領が、局面打開のために、えいやっと、トランプをまねたのだのだろうか――これはもちろん冗談である。

マッチ1本火事のもと。師走の火遊び、ご用心。

(2024.12.4 花崎泰雄)

 

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お盆が近づくころ

2024-08-10 21:38:16 | 国際

パリの五輪競技大会と甲子園の高校野球の中継が夏のNHKテレビの番組を埋め尽くしている。そのさなか、スポーツ中継を押しのけて「南海トラフ巨大地震注意」を気象庁が出した。長崎市の平和祈念式典にイスラエルが招待されていないのは政治的な意図によるものだとして、駐日米国大使ら欧米の大使が結束して式典への不参加を表明した。原爆忌にうちあげた三尺玉のようなたいした、びっくり花火だった。

8月6日の広島の式典ではロシアとベラルーシは招待されなかった。イスラエルは招待されたが、パレスチナ自治政府は招かれなかった。式典の主催者である広島市の判断は政治的であるが、駐日アメリカ大使やイスラエル大使は式典に出席した。ロシアは米国と並ぶ核兵器を持つ国家であり、そういう国にこそ祈念式典に参列してもらい、核のない世界への想像力を身に着けるきっかけにしてもらうべきだった、という考え方もありうる。しかし、それは主催者広島市の政治的判断で不可能になった。ロシアが招かれなかったことにロシア大使は不当な政治的判断だと異議を唱えたが、米国大使やイスラエル大使らはなんらコメントしなかった。

9日の長崎の式典ではロシア、ベラルーシ、イスラエルが招待されず、パレスチナ自治区は招待された。平和祈念式典の招待国・地域の選定でこのような違いが出たのは、主催者である広島市と長崎市の政治的判断の違いによるものだ。ロシアやベラルーシと同じようにイスラエルが招かれなかったのは、ウクライナを侵略しているロシアと、ハマスからの攻撃に対して自衛しているイスラエルとを同列に置くことになり、承服できないと米欧の大使たちは出席を見送った。代わりに、駐日米大使、英大使、イスラエル大使の3人が9日東京の増上寺で催された長崎原爆殉難者追悼会に出席する茶番を演じてみせた。

ラーム・エマニュエル駐日米国大使は、イスラエルから米国に移住した医師の息子だ。CNNによると18歳まで米国とイスラエルの2つの国籍を持っていた。とはいえ、エマニュエル駐日米大使がイスラエルの立場を擁護して長崎の平和祈念式典に出席しなかったのは、彼のユダヤ系アメリカ人としての信条・道徳・情緒が影響していると考えるのは短絡である。道徳観が行動の規範になることは、個人の場合は考えられるが、国家はモラルとは関係ないナショナル・インタレストにもとづいて行動する。イスラム世界のまん中にあるイスラエルは、アメリカとそれに与する欧州国家にとって、安全保障の橋頭保であり、核武装を進めるイランをけん制するための武力配備のコーナーストーンである。炭坑の安全を確かめるカナリアのような存在なのだ。イスラエルはアメリカが断固として擁護すべき国であると歴代の米国政府は考えてきた。それをよく知っているから、イスラエルのネタニヤフ政権は米国から軍事援助をうけつつ、米国をいらだたせる身勝手な戦闘行動を行っている。

アメリカ合衆国は国内法(レイヒー法)で、人権侵害に関与している外国の軍隊に対して、合衆国政府が資金援助などを提供することを禁止している。BBCによると、イスラエル軍の部隊で違反行為が見つかったことがあるが、米国政府はその後適切な措置が講じられたとしてイスラエルへの軍事援助を続行している。

ところで、長崎の平和祈念式典をめぐる出来事について岸田首相は、イスラエルを招かなかったのは主催者である長崎市の判断であり日本政府はコメントする立場にない、と表明している。この無気力発言の背後には、平和祈念式典は地方自治体のローカルな催しであるとする矮小化の論理がある。半面、核廃絶は生涯をかけた目標であると岸田首相は公言している。

その一方で、岸田首相は米国の核の傘を何とかもっと確実なものにしようとする拡大抑止の考え方に好意を寄せている。したがって、核兵器禁止条約についは、核兵器のない世界という大きな目標に向け重要な条約だが、アメリカやロシア、中国など、核兵器を保有する国々が参加していないので、日本だけ加わって議論をしても、実際に核廃絶にはつながらないと岸田首相は言う。核廃絶は遠い将来のユートピアンの目標であり、脅しや欺瞞にみち、権力と権力がわたりあう国際政治のジャングルで国家の生き残りを測るには、今後しばらくはリアリストの外交が不可欠であると岸田首相は言う。こうした日本政府のやる気のなさにしびれを切らせて日本のNGOは政府に核禁止条約加盟を迫っている。

日本の自治体が独自に平和祈念式典の招待国を政治的に決めたのは、いわゆる「外交」が政府だけの、外務省だけの専権事項でなくなり始めていることを感じさせる。やがて被爆者追悼・平和祈念式典に日本国首相を招くか招かないかは主催者が政治判断すること――そういう未来を想像すれば、しばしの猛暑しのぎになる。

愚行は時代や場所と関係なく、政治形態とも関係がない。君主政治、寡頭政治、民主政治のいずれも愚行をうんでいる。民族や階級とも関係がない。政治は3000―4000年前からほとんど向上していない。この先も人間は光輝と衰亡、偉大な努力と翳りのまだら模様を縫ってなんとかお茶を濁してやっていけるだけなのかもしれない。そうした人間の悲しさをテーマにしたバーバラ・タックマン『トロイアからヴェトナムまで 愚行の世界史』(大社淑子訳、朝日新聞社、1987年)を拾い読みするお盆(8月盆)が近づいてきた。

(2024.8.10 花崎泰雄)

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合衆国憲法修正第2条

2024-07-15 23:53:42 | 国際

「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保蔵しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」。この条文が米国の憲法修正第2条に入れられたのは1791年のことである(『世界憲法集第3版』岩波文庫)。

1791年は日本の年号でいうと寛政3年、11代将軍徳川家斉の時代である。米国でも日本でも先込め式の単発小銃が使われていたころだ。米国で連発式の小銃が使われるようになったのは19世紀に入ってからである。

2024年7月13日の米国ペンシルベニア州バトラーで、元合衆国大統領で11月の大統領選挙の共和党候補者であるドナルド・トランプ氏が狙撃された。銃弾はトランプ氏の顔をかすめ、同氏は耳にけがをした。選挙集会に参加していた1人が巻き添えで死亡、2人が重傷を負った。使われた銃は殺傷能力の高いセミオートマチックのAR-15型ライフル。短時間に複数の銃弾を放った。狙撃者とトランプ氏の距離は100メートル以上あった。

この「7月の銃声」がこれから先の世界にどんな悪夢を呼び込むことになるのか。誰にもわからない。

トランプ氏の政治の舞台への登場が米国の分断をもたらしたのか、米国の分断を利用してトランプ氏が上昇気流に乗ったのか。歴史家の綿密な資料収集と分析が待たれる。

さて、ケネディ大統領が暗殺され、その弟のロバート・ケネディ氏も銃撃されて死んだ。レーガン大統領も銃撃されたが、負傷で済んだ。キング牧師も銃で撃たれて死んだ。ジョン・レノン氏も銃撃されて死亡した。2022年5月に米テキサス州ロッブ小学校で生徒19人と教師2人が殺された銃撃事件をはじめ、公共の場所での銃乱射事件がアメリカでは多発している。

アメリカの銃撃事件の最大の原因は銃が身近なところにあることだ。そしてアメリカ人の相当部分が、銃撃による流血と死は合衆国憲法の1791年の修正条文を尊重し維持するための犠牲であるとの考え方を受け入れているからである。

(2024.7.15 花崎泰雄)

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なんとも人を食った話である

2024-04-27 01:34:30 | 国際

せんだってジョー・バイデン米大統領が遊説先のペンシルベニアで、第2次大戦に従軍していたおじが乗っていた軍用機がパプア・ニューギニアで墜落したが、彼の遺体は戻ってこなかった。あのたり人食いで知られたところだ、と話した。笑いをよぶための冗談のつもりだったのだろうが、判断力や注意力の劣化がうかがえる発言になってしまった。

第41代米大統領だったジョージ・ブッシュ・シニアはパイロットとして第2次世界大戦に従軍した。1945年の事だった。乗っていた軍用機が小笠原諸島の父島付近で日本軍に撃墜された。ブッシュ・シニアは海に落ち、米潜水艦に救助されたが、他の乗員8人は日本軍につかまった。日本軍が降伏した後、グアムで開かれた戦争裁判で、日本の軍人が8人の米軍人を殺し、その肉を調理して食べたとして有罪になった。5人の日本軍人が捕虜殺害と死体損壊の罪で死刑になった。

11世紀末、現在のシリアに攻め込んだ第1次十字軍の兵は、糧食が尽きたため、攻め込んだマアッラという町で、合戦で殺したイスラム教徒の死体から肉切り取って食べたと、キリスト教徒側とイスラム教徒側双方の記録に残っている。

18世紀のアイルランドは事実上イングランドの植民地で、カトリックのアイルランド人は英国教会のプロテスタントから差別的な扱いをうけ、民衆は貧困と食糧不足で苦しんでいた。『ガリバー旅行記』の著者・ジョナサン・スイフトは『貧民の子どもが親や国の負担となることを防ぎ、子どもを国家にとって有益な存在に変えるための穏健な提案』という論説を書いた。生まれた嬰児を育て、食べごろの1歳になったら、食用肉として富裕層に売る。シチューにして良し、ローストして美味、フリカッセもイケける――スイフトの憤りがほとばしる驚愕の風刺である。

ところで、英国の議会が先ごろ難民認定の申請を目的に不法に入国した人々をアフリカのルワンダに強制的に移送する法案を可決した。英政府はルワンダ政府に対して、円滑な受け入推進のために460億円相当を援助した。

(2024.4.27 花崎泰雄)

 

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台湾の選挙結果

2024-01-15 23:29:15 | 国際

2023年の暮れ、北朝鮮のキム・ジョンウン労働党総書記が、韓国は統一の対象から敵対的な交戦国になった、との認識を公にした。朝鮮戦争で戦った敵同士で、現在は長い休戦ラインをはさんでにらみ合う仲だ。再び砲火を交え、相手を屈服させて統一する以外に見通しが立たない現在、統一の対象と交戦の相手という認識には大きな食い違はない。ただ、北朝鮮にとって韓国は戦争の対象国であるという言い方には、矢継ぎ早にミサイルを打ち上げ、ロシアに兵器を融通している北朝鮮の血気盛んぶりが滲んでいる。あるいは、こういう言い方で国民を緊張させる必要があるほど、民の生活の困窮が切羽詰まっている可能性もある。

中国は、台湾は中国の不可分な一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるという。諸外国が台湾問題に口をはさむことに神経質になっている。台湾問題で譲歩の姿勢を見せれば、チベット族やウイグル族を元気づけることになり、それが中国共産党指導部のヒエラルキーを揺るがすことになり、ひいては最高指導者の権力の陰りにつながりかねないと心配している。

現在の中国の富は、一党制による強引な指導と、安い労働力を求めて中国に進出した外国資本・技術の合作である。権威主義政権下で人民を抑え込んで達成した豊かさだった。したがって一足先に豊かになっていた香港に対する仕打ちは、西欧風の政治プロセスになれていた香港市民にとっては、迷惑なことでしかなかった。それをちょっと離れた台湾から見ていた台湾市民は、香港の悪夢が台湾で繰り返されることを恐れた。

イギリス下院の外務委員会が2023年8月に公にした報告書の中で、台湾は独立国としての要件のほぼすべてを持っている、と見解を述べた。報告書は次のように述べていた。①台湾はすでに独立国家である②領土と領民を持ち、政府を持ち、諸外国と外交関係を結ぶ能力を持っている③台湾に欠けるものはより広範な国際的認知だけである。何をいまさら、という感じの認識である。台湾は中国を代表して国連の常任理事国だった。中国が台湾にとって代わって代表権を獲得、常任理事国になったのは1971年の事である。

国共内戦で敗北した蒋介石と国民党軍が台湾に逃げ込んできた。1949年の事である。蒋介石の抑圧に耐え、台湾の人たちは民主的な政治制度を築きあげた。そのような民主化のモデルが権威主義的な中国に飲み込まれるのはもったいない気がする。

中国の指導部は中国と台湾の統一は歴史的必然であるというが、現在の台湾人にとって、歴史的必然よりも、豊かな経済生活と個人の自由を踏みにじらない社会の存続が優先する。

中国に対して距離を置こうとする頼清徳氏の総統選勝利と、立法院選挙での民進党の過半数割れが興味深い。中国とは距離を置き、同時に蔡英文政権下の内政への不満が現れた選挙となった。

(2024.1.15 花崎泰雄)

 

 

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台湾総統選挙

2024-01-08 18:44:51 | 国際

今週末の1月13日土曜日は台湾総統選挙の投開票日である。民進党の頼清徳氏が、一歩リード、国民党の侯友宜氏と民衆党の柯文哲氏が追っている。世評ではそういう観測が流れている。

朝日新聞の1月8日付朝刊が総統選挙の特集を組み、状況を伝えている。これといって息をのむような驚きはないが、小さく添えられた「有権者の関心事は?」という豆データが面白かった。昨年12月6日に発表された台湾メディア『鋒燦』の調査データである。①調査対象者の74パーセントが「経済」に関心があると答え、②42パーセントが「内政」、③中台問題と答えた人は39パーセントだった。

2023年は中国がいつ台湾に武力侵攻するかで米国発(主として米軍筋)の情報が世界を駆け回った。そらきたとばかりに、日本の防衛筋は自衛隊を南西にシフトさせ、アメリカから兵器を買うための予算増を発表した。朝鮮戦争を機に日本の戦後復興が軌道に乗り、ベトナム戦争が韓国経済を加速させたという朧げな記憶をたよりに、台湾危機でひと儲けし、それが右肩下がりの日本経済のためのカンフル注射になればなあ、と淡い期待を持つ資本とそのとりまきの政治家が「台湾有事は日本の有事」と騒ぎ出した。「ドナルド・トランプはアメリカの民主主義の破壊者だ。アメリカの民主主義が壊れると、日本の民主主義も崩壊する」などとうわごとを言う政治家は日本といえども少ないだろう。票も寄付もふえないから。

それを思うと、「まず経済、次に内政、それから台中問題」とする台湾市民のさめた感覚が新鮮に感じられる。習近平の時代はやがて終わる。それまでは大陸の情勢を注視し、めったなことでは妄動せず、彼が去るのをしばし待て、という気分なのだろう。

去年から中国ロケット軍の汚職騒ぎが伝えられてきた。直近のニュースでは(アメリカ発の情報だが)ロケット軍はロケットに燃料ではなく水を注入し、軍費を私していた疑いがもたれているとのこと。水鉄砲では台湾に攻め込めない。

(2024.1.8 花崎泰雄)

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師走の黄昏

2023-12-02 22:25:07 | 国際

日本時間で12月1日、ガザで戦闘が再開した。人道的戦闘中止は1週間ほどで終わり、その先の延長交渉に失敗した。天井のない監獄のガザが、塀の中の瓦礫置き場と墓地になる日が近づいてくる。

ハマスがイスラエルにロケット弾を撃ち込み、戦闘員がイスラエルから人質をガザに連れて帰ったことが発端だった。イスラエルはガザ地区北部を空爆し、地上部隊を送り込んでハマスの戦闘司令部を探した。だが、地下トンネルは空っぽ。攻撃された病院では入院患者や嬰児、避難してきた住民らが死んだ。攻撃の理由だった病院地下の司令部については、その存在をイスラエル軍は世界に示すことができなかった。

ベトナム戦争を思い出す。米軍は戦略村、索敵殲滅、ボディー・カウント、カンボジア侵攻などなど珍奇な戦術を尽くしたが、結局のところ、中国と折り合いをつけて、ベトナムから敗退するしかなかった。ベトナム南部の農村で暮らす人びとを、南政府側の農民、南ベトナム民族解放戦争のシンパの農民、北ベトナムから潜りこんでいる兵士に分別するのは難しかった。手をやいた米軍は農民の集落を焼き、時に住民を殺し、ベトナムの森林に枯葉剤を撒いた。

米中国交やベトナム和平の協議で活躍(または暗躍)したヘンリー・キッシンジャー氏が11月29日死去した。享年100歳。米国がその軍事力を背景に、ベトナム、カンボジア、チリと世界の出来事に介入し、反ソ連の旗を掲げる米国の利益をめざして外交を繰り広げることができた時代だった。ジョゼフ・ナイ・ハーバード大学名誉教授はForeign Affairsのために書いた追悼文 “Judging Henry Kissinger: Did the Ends Justify Means?” に、ボストンで開かれたキッシンジャーを囲む会の会場で、聴衆の一人がキッシンジャーに向かって “war criminal” と叫ぶ声を聴いたと書いている。かつてキッシンジャー氏が大統領補佐官になるために、ハーバード大学を去ってワシントンDCに向かったとき、学生たちが「もう帰ってこないで」と書いたパネルを抱えて見送った、という記事を新聞で読んだ記憶がある。とはいえ、ナイ氏のキッシンジャー外交の評価は、キッシンジャー外交のモラルの逸脱と彼が成就した世界の平和をはかりにかけると、功績の方が多かったとした。ドイツ出身の国際政治学者キッシンジャー氏も、ハンス・モーゲンソー氏もナショナル・インタレストの追及が外交の目的であるとするリアリストだった。2人ともドナルド・トランプ氏風の “America First” の思考を、国際政治学のレトリックを用いて、ちょっと上品に説明した。

日本駐留の米軍のオスプレイが11月29日に屋久島沖に墜落した。新聞報道によると日本政府は米国にオスプレイの飛行中止を正式に要請したが、米国防総省は公式の中止要請は受けていないと発表した。墜落したオスプレイの捜索のために沖縄からオスプレイが飛来し、奄美空港に着陸、燃料を補給して現場近くの海に向かった。日米地位協定第5条によって、米軍の航空機や船は入港料や着陸料なしで日本の港や飛行場を利用できることになっている。

日本政府は日本の14の空港と24の港湾を自衛隊など(つまりは米軍も)が使いやすいようにするために設備を改良する計画をしている(11月27日朝日新聞朝刊)。有事の際の部隊展開などのための施設の強化が目的で、滑走路を延ばし、海底を浚渫して空港・港湾の民間と軍の共用を進めるという。中国と台湾の関係が緊張する中で、日本の安全保障の「南西シフト」にそって、九州から沖縄にかけての空港や港湾が共用化の候補にあがっている。朝日新聞によると、38施設のうち約7割の28施設(14空港、14港湾)が該当する。同紙は「ジュネーブ条約上、自衛隊と民間会社が共用する空港や港湾を敵国が攻撃しても、敵国は条約違反に問われない。民間人を『人の盾』にしたとして、日本側の戦争犯罪が問われる恐れがある」という専門家の見方を紹介している。自民党の安全保障信仰がもたらした錯覚だ。もし中国の台湾武力侵攻が始まったら、戦いが日本に波及するだろうという「台湾有事は日本有事」説があり、南西シフトによる空港・港湾の民軍共用は攻撃する側にとっては便利なエクスキューズになる。自民党は政権の座に長居しすぎて、議員の才覚の縮小再生産が進んでしまった。

加えて、自民党の派閥、特に安倍派が政治パーティー券の売りあげで裏金を作り出しているとの新聞報道があった。暮れのボーナス時の話題になっている。パーティー券販売ノルマを超えた分の金額のキックバック、あるいはノルマを超えた分を売り上げた議員があらかじめ天引きし、ノルマ分だけを派閥におさめるなどの裏金作りの手口が報道されている。東京地検特捜部が調査を始めているそうだ。闘争心が希薄になってきている野党だが、ここは奮起の時である。

(2023.12.2 花崎泰雄)

 

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