米国のトランプ政権が留学生を国外へ追い出している。アメリカが蓄積してきた知的財産を留学生たちが出身国に持ち帰るのを嫌悪しているように見える。留学生と彼らを送り出した国々は、米国から甘い汁をむさぼろうとしている害虫であるという認識なのだ。
一昔前の米国はおせっかいな国で、途上国が共産化するのを防止するために、奨学金を出して海外の若者を米国の大学に招いた。
いまインドネシアで大統領をつとめているプラボウォ・スビアント氏の父親は経済学者で、インドネシア大学の経済学部長のころ米国のフォード財団の資金でカリフォルニア大学バークレー校に学生を送り込み、経済学を学ばせた。学生たちは帰国後、インドネシアの開発と経済発展に取り組みバークレー・マフィアとよばれるようになった。
バークレー・マフィアの学者たちのアメリカ仕込みの開発論は、スハルト政権の幹部の開発ナショナリズムと衝突諸突することも多かったが、インドネシアの近代化に一定の役割を果たした。米国で学んだバークレー・マフィアの経済学が、スカルノ時代に左傾化していたインドネシアを資本主義のイデオロギー圏に復帰させることに役立った。
インドネシアの首都ジャカルタ郊外のテーマパーク「タマン・ミニ・インドネシア・インダ」に隣接して、いわゆる「スハルト博物館」(Purna Bhakti Pertiwi Museum)があった。博物館の見ものは、スハルトが大統領として海外の元首や政治指導者からギフトとして受け取ったおびただしい数の品々の展示だった。スハルト1997年の『フォーブズ』によると世界で4番目の金持ちだった。資産総額160億ドル。大統領として年額2万1千ドルの給与を受け取っていた人物の貯蓄としては法外な額だった。1990年代のスハルトは東南アジアのとびぬけた権力者で、インドネシアは東南アジアでは抜きんでた腐敗国家だった。KKN(korupsi, kolusi, nepotisme 汚職・癒着・ネポティズム)がインドネシアにあふれていた。
ギフトといえば英国王室が所有する世界最大級のダイヤモンド(原石はカリナンとよばれた)。原石はいくつかに分けられ、その一部はロンドンの「ロンドン塔」におさめられているそうだ。
ブーア戦争でイギリスの植民地なったトランスバールの政府が英国王エドワード7世に献上したダイヤモンドで発掘したトマス・カリナンの名をとって「カリナン」とよばれている。ブーア戦争の一因はトランスバールの金やダイヤモンドが欲しくなったイギリスの野心だったという見方もある。
国家間のギフトのやり取りは見返りを当てにしている。スハルトやエドワード7世がその見返りに何を贈ったのか。それについては別の機会にしらべてみよう。
時の人であるトランプ米大統領へのギフトであるボーイング747が米国に届いたという記事を読んだ。カタール王室からのこのギフトを、米国の法律がどう判断するのか、興味を持ってみている。
誰から誰への贈物なのか?
見返りについては何か暗黙の了解があるのか?
(2025.5.31 花崎泰雄)