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news commentary

はて、面妖な

2016-10-20 11:22:41 | Weblog

今日10月20日の朝日新聞朝刊4面に、以下のような気持ちの悪い記事が載っていた。

「選挙区が県境をまたぐ参議院の合区の解消について、自民党の高村正彦副総裁は19日、憲法改正で対応する考えを示した。近く党内に設ける検討機関で協議する。憲法審査会での議論の入り に合区解消を据えることで、野党との改憲論議を進める狙いがある。党本部で記者団に語った。高村氏は『単なる法律改正では無理なので、憲法改正が必要になってくる』と持論を展開。党が18日の憲法改正推進本部で草案を憲法審査会に出さないことを決めるなか、『党の憲法改正草案に全く触れられていなくても、今の時点で大切なことは、衆参の憲法審査会に提案する可能性がある』とも語った。発言は『都道府県制度は100年以上続く。憲法改正に向けた有権者の理解も得られやすい』(党幹部)との党内の期待を踏まえたものだ」

日本国憲法は地方自治に関して次のように定めている。

   第八章 地方自治
 第九十二条  地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
  第九十三条  地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
   2  地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
  第九十四条  地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
  第九十五条  一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

また、地方自治法第6条は、

 都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、法律でこれを定める

としている。都道府県の縄張り(線引き)変更に憲法の変更は必要ない。

この考え方からすれば、参議院の合区問題に憲法を持ちだす必要はない。

以前は参議院の選挙に「全国区」があった。現在は「比例区」に変わっている。衆議院にも現在、「比例区」があり、選挙区選挙で落選した候補者が比例区で救済される仕組みになっている。

ご存じのとおり、これらの変更にあたっては、憲法の条文変更は行われなかった。

これはあたり前の話である。憲法が、

 第四十七条  選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める

としているからだ。

合区の設定に憲法の変更は必要でなかったのだから、合区の解消にも憲法の変更を必要としないのは理の当然である。

高村正彦という人は、先の安保法制をめぐる議論で、憲法を変えなくても集団的自衛権は行使できるという主張の中心になった人物である。その彼が参議院の合区問題でことさら憲法論議を提唱しているのである。日本の安全保障のためなのだから憲法の変更は必要ないと主張した高村氏は、こんどは何をもくろんで憲法の変更を言い出したのだろうか?

きれいは汚い汚いはきれい、私益は公益公益は私益―――永田町は一寸先が闇の暗黒街である。明治時代に「三百代言」という言葉があった。弁護士を罵るときに使われた。高村氏は弁護士でもある。

(2016.10.20 花崎泰雄)

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まぼろしの中国戦艦

2016-10-08 13:46:02 | Weblog


「戦艦」と聞けば、映画『戦艦ポチョムキン』や日本が降伏文書に署名した戦艦ミズーリ、日本製では戦艦大和などが頭に浮かぶが、2016年10月上旬の衆院予算委員会で、稲田朋美防衛省が突如、中国の戦艦を尖閣周辺の海域に出現させた。

10月4日の朝日新聞朝刊掲載の政治短信は以下の通り。

 【防衛相答弁】
 後藤氏 稲田朋美防衛相は昨日、「中国の戦艦が尖閣に入ってきた」と答弁したが、間違っている。
 稲田防衛相 正確には、尖閣の接続水域であったことは補足する。私の答弁で強調したかったのは、初めて中国の戦艦が入ってきたということだ。
 後藤氏 防衛省発表では「艦艇」「艦船」という言い方をしている。言葉の選び方を慎重に。

戦艦はいわゆる大艦巨砲主義の時代の遺物で、第2次大戦後その非効率と脆弱さを理由に世界の軍備リストから消えていった。最後まで戦艦とよばれるタイプの軍艦を使っていたのはアメリカ合衆国で、ベトナム戦争や湾岸戦争で沖合から艦砲射撃をした。現在、アメリカ海軍の「戦艦」とよばれた軍艦はすべてが退役し、各地で博物館になっている。日本が降伏文書に調印した戦艦ミズーリはハワイのパールハーバーで博物館として保存されている。

そういうわけで、ミサイルが大砲にとってかわったいまの時代、我々がいわゆる「戦艦」と聞いて思い浮かべるタイプの戦闘艦を保有している国は、世界中探しても見つからない。

戦艦の定義は①戦争に用いる船。戦船。軍艦②特に、第2次世界大戦まで海上兵力の中心であった大型の軍艦の1つ。大口径砲を搭載し、攻撃力、防御力ともに最もすぐれ、艦隊指揮艦となった、と『精選版 日本国語大辞典』にある。

日常の雑談、講演会での漫談スピーチ、右寄り路線を売りにするメディアでの放談などでは、前記①の定義でよろしいが、国会の委員会質疑となればやはり精緻な用語法に心がけるべきだ。でないと、諸外国から―――仲の良い国からも、仲の良くない国からも―――日本ではあの程度の人物が防衛の要にいるのかと、用心され、馬鹿にされてしまう。稲田防衛相の存在そのものが、日本の防衛の脆弱性の象徴になる。

(2016.10.8 花崎泰雄)


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特別立法

2016-10-02 22:23:27 | Weblog

天皇が生前退位を希望しているとの報道がされたのは7月のことである。その時即座に、菅義偉内閣官房長官は皇室典範の改正は考えていないと、定例記者会見で語った。

その後、流れは天皇の生前退位を認めもよいのではないかという方向に進んだ。皇室典範の改正は考えないと言った官房長官の路線に従って、横畠法制局長官が皇室典範を改正しなくても特別立法で対応できると9月30日の衆院予算委員会で述べた。毎日新聞によると「憲法2条は皇位継承について『国会の議決した皇室典範の定めるところ』に基づき規定するとされ、厳格に解釈すれば典範改正が必要との専門家の見解もあるが、横畠氏は『2条に規定する皇室典範とは、典範の特例、特則を定める別法も含む』と述べた。

内閣法制局長官は去年から安倍政権の意向を忖度して条文解釈を行う法律顧問になり下がり、レフリーとしての役割を放棄しているので、このくらいの詭弁は平気で使う。

でも、まあ、考えてもご覧なさいな。天皇がその公務に関して考え方を公にし、その言葉から世間が生前退位の希望をくみとった。国会も政府もその方向で準備しようとしている。そういう状況下で、

 ①生前退位が可能な制度を新たに明記するために皇室典範を改正する
 ②現天皇の生前退位が可能になるように特別立法をおこなう

では、天皇の発言の政治的な意味合いが大きく異なる。①の場合は天皇の発言や世論の動向を契機に制度的変更を行うことと理解できるが、②の場合は天皇の発言を受けて現天皇に便宜を図るための特別立法、と理解されかねない。当然のことながら②の場合、天皇の発言の政治性があらわになってしまう。

特別立法の準備のために政府は6人からなる有識者会議をつくった。朝日新聞が伝えるところでは、「皇室問題に詳しい専門家は入れず、これまで様々な有識者会議などに起用した識者らを集めた。宮内庁に官邸中枢から幹部を送り込む人事も決定。首相官邸が主導し、スピード重視で生前退位の議論を進める狙いがありそうだ……安倍晋三首相に近い官邸関係者は『有識者会議は、官邸のコントロールで議論を進めるための仕掛けだ』と言い切る」。

日本は法治主義の国であると学校で習った覚えがあるが、このところいわゆる人治主義の手法が露骨になっている。

(2016.10.2 花崎泰雄)


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