昔々、勤め先の同僚が新婚旅行でインドに行き、帰国後ただちにコレラと判定されて隔離されたことがあった。以来、久しくquarantine の訳語は「検疫」とだけしか頭の中になかったが、エボラが世果中を戦々恐々とさせるに及んで、quarantine=隔離の訳語が、生々しくよみがえってきた。
日本でも西アフリカへ行った帰りの人が発熱してエボラ感染の疑いで隔離された。10月29日までの報道では、陰性だったようであるが。
オーストラリア政府は西アフリカ諸国からの渡航者に対してオーストラリア入国禁止の措置をとった。アメリカ合衆国では、国境なき医師団のメンバーとしてシエラレオネでエボラ患者の治療にあたった看護士が米国に帰国したさい、特にエボラの兆候もないのに隔離されて、問題になった。米軍は救援活動のために西アフリカに派遣した兵士を海外基地のキャンプで隔離することを決めた。
日本の自衛隊も求めがあれば自衛官を西アフリカに派遣するのだろか? 地球規模の安全保障と外交を看板にしているのであれば、求めがあれば断りきれないだろう。日本はハンセン病患者の隔離政策を不必要なまでに継続してきた国柄だから、エボラ救援活動帰りの人々が世間からどのような目で見られるか、心配なことである。
Quarantineという英語は40日を意味するイタリア語quarantinaから来た。伝染病封じ込めのための隔離は古くからおこなわれていた。14世紀ごろから海運が盛んになった。外国からきた船舶を隔離する政策を始めたのは、当時の貿易都市国家ベネチアである。当初は30日の隔離だったので、trentinaとよばれた。やがてこれが40日間に延長されてquarantinaになった。40日間という日数は、キリストとモーゼが荒野で40日間を過ごしたという言い伝えによっている。
エボラをきっかけに、防疫と人権の観点から、隔離の条件を再検討する必要が出て来た。同時に、エボラの恐怖が世界中に広がったことで、エボラの予防薬、治療薬などの開発が進むことになろう。
(2014.10.29 花崎泰雄)