WHO(世界保健機関)は1月24日現在、コロナウイルスによる武漢の新型肺炎について、世界的な緊急事態であるとの宣言を出していない。一方、中国政府は武漢市一帯の交通を遮断し、町を事実上封鎖する措置をえらんだ。
日本ではインフルエンザの流行期に学校閉鎖をすることがある。これは学校保健安全法に基づく措置である。エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、マールブルグ病及びラッサ熱発生にあたっては、緊急の場合都道府県知事が特定地域の交通を72時間を限度に遮断することができると法律で定めている。
武漢は人口1000万を超える大都市である。新型肺炎を理由に、1000万人の移動の自由を制限し、一定地域にとどめ置くことができる法律が中国にあったのだろうか。
驚騒は世界に広がっている。フィリピンは到着した中国人団体旅行者の入国を認めなかった。台湾は武漢からやってきたことを隠した旅行者に100万円の罰金を科した。加えて、アメリカが米国人救出のために武漢へチャーター機を飛ばすことを中国政府と交渉しているというニュースが流れた。日本政府をはじめ各国政府が自国民救出のために中国政府と交渉している。中国政府は自国民が団体旅行で海外へ出かけることを禁止した。
逃げ出せる機会のある人はまだしも、武漢に閉じ込められた中国国籍の人はどうなるのだろうか。救援のための人員と物資を大量に送りこまないと、武漢は非衛生な1000万都市となり、新型肺炎だけでなく、その他の感染症も広がる危険性がある。
春節の武漢がカミュの小説『ペスト』のオランのようになり、後に武漢市を舞台にしたカミュをしのぐ小説が書かれることになるのか。それよりも、武漢の肺炎と1000万都市封鎖が、習近平指導部の英断と評価されるのか、失態と批判されることになるのか、世界の中のチャイナ・ウォッチャーが武漢の新型コロナウイルスを見つめている。
(2020.1.26 花崎泰雄)