自民・公明惨敗の参院議員選挙にもめげず赤沢経済再生相は米国へ行って関税交渉にあたっている。これで8回目の訪米だ。「お互いの国益を守りながら着地点を見つける」と赤沢氏は言った。日本の新聞が伝えている。「アメリカ・ファースト」と「日本ファースト」のせめぎ合いだ。
今度の選挙でこぼれ球を集めて議員を増やした参政党が叫んだ「日本人ファースト」は「日本ファースト」と意味が異なる。
ロイター通信など海外のメディアの記者は、参政党を右翼ポピュリストであると報じた。ヨーロッパの動向を目撃している彼らには、貧しさのうっぷんばらしに日本の有権者の一部が外国人排斥(ゼノフォービア)ごっこをしているように見えるのだろう。日本には、在来の日本人が不安を感じるほど外国人からの圧迫感はヨーロッパほど強くはないのだが。
このところ日本にやってくる観光客が増えた。出入国統計によると2023年には3700万人弱の入国があった。だがその98パーセントは短期滞在の人である。2023年には約380万人の外国人(調査時に日本に滞在中だった観光客などもふくむ)が日本に住んでいた。日本の人口の3パーセントほどである。日本に住む外国人は増えているが、外国人が刑法犯として検挙される人数は減少傾向を示している。在留資格のない滞在者は2025年初めに7万人余り。20年ほど前の4分の1に減っている。生活保護受給世帯の3分の1が外国人という言説もSNSで流されたが、厚生労働省の資料では、2.87パーセントである。2015年度からこれまでに受給率は2.8パーセントから2.9パーセントの間を推移している。外国人の医療費未払いが多い、という説も流されたが、政府の統計では、日本人を含む医療費の未払いは総額766億円なるが、そのうち外国人による未収金の割合は1.4パーセントだった。
こういうみみっちい物語をばらまいて集票の道具とするような選挙戦であった。SNSの情報が虚偽であったとしても、一部の有権者はゼノフォービアの快感に浸りたかったのである。
そういえばむかし『日本及日本人』という雑誌があったことを思い出した。調べてみると、2019年10月13日の朝日新聞の「グローブ」にこんな記事があったのを見つけた。要旨は以下のとおりである。
1920年(大正9年)4月、『日本及日本人」(政教社)が「百年後の日本」という特集を組んだ。当時の有識者らに、100年後の日本の姿、つまり2020年に日本がどんな国になっているかを大胆に予想してもらったのだった。
- 「もし現在の如く、我が軍閥が国論を無視して侵略主義を行う時は、遠からず日米戦争を惹起し、その勝敗いかんによって、日本の百年後の運命が定まることになる。勝てば英国と並ぶ大国となり、いよいよアジアの主人たるを得るけれども、負ければ日清戦争前の小日本に成り下がることになる。しからば、来たるべき戦争において日本に勝算ありや。残念ながら私は結果を危ぶむ」(法学博士・末廣重雄)
- 「日本はまだ醒めきらないのです。寝床の中でやッと背伸びをしているぐらいです。強者に跪拝し、弱者を陵辱して悦んでいます。ヨーロッパの真似をして威張っています。さァ、百年の後? その間に、一度は崇め奉っているヨーロッパ、アメリカから袋叩きにあいます。そこでほんとうに目を覚ます。覚めなければ叩き殺されて滅亡するばかり。覚めればアジアの解放を完成して、東洋の心臓くらいになれるでしょう」(早稲田大学講師・矢口達)
- 「我ら子孫の日本人はますます根性がひねこびてずるがしこくなり、小闘紛騒を事として諸外国に侮られ、国威すこぶる振るわざるものとなります。この間に支那は誠に大国としていよいよ発展し、米国と提携して日本をいじめることになるでしょう」(小説家・仲木貞一)
- 「自分が生きていそうもない百年後のことなどは、考えて見たことがありません。ただしかし、人間がこれから先、だんだん幸福になっていくかどうか、大いに疑問だろうと思います。人類の真の幸福というものは、社会改造論者などの手でヒョイヒョイと生まれるものでしょうか」(作家・菊池寛)
100年前も諸賢は明るくない見通しを語っていたのである。
(2025.7.22 花崎泰雄)