日本の安倍首相が私のためにノーベル平和賞の推薦文を書いてくれた、とトランプ米大統領が記者会見でしゃべった時のニュースを伝える日本の新聞に、次のようなコメントが紹介された。
「もし本当ならひどい話だ。でも、お世辞を受け入れることが証明されている人には、とても巧みなやり方だ」(元米国務省当局者)。
このコメントは含蓄に富んでいる。①トランプ氏のような人物をノーベル平和賞に推薦するとは、ひどい話だ②トランプ氏のようなお世辞を受け入れることが証明されている人には、とても巧みなやり方だ(が、これまたひどい話だ)。
世の中には実利第一主義者がいて、トランプがノーベル平和賞に値しないのは誰しもが感じるところだが、彼が値するかしないかよりも、彼のために推薦状を書くことによって、安倍氏がトランプ氏に貸を作り、米国との貿易協定にあたって手加減求める手がかりをつくったという効果はある、と評価する。
上記のような実利論は、まことに短期的なもので、次の選挙でトランプ氏が2期目を失うことになれば、アメリカ大統領への貸しはゼロとなり、日本の指導者はトランプ氏並に下品で、その言動には注意しなくてはならない、というマイナスの印象だけが次の大統領に引きつがれることになる。ブッシュ(父)は2期目の大統領選挙で、民主党のクリントンに敗北している。トランプ大統領に2期目があるとは限らないのだ。
最近の衆院予算委員会の質疑で、野党の議員が、最近の官庁の若手には上だけを見て見て仕事をする者が増えている、と嘆いてみせた。役人だけではなく、日本の会社でも平社員は係長・課長を、係長を課長を、課長は部長を、部長は重役を、とそれぞれが上司のご機嫌をうかがいながら仕事をしている。
民間会社では、無資格者が自動車の完成検査をし、アルミや銅などの品質データ改ざんをやった。
官庁では、森友学園問題、加計学園問題、厚生労働省の統計問題など、怪しげな事柄が国会で追及され、「記憶にございません」という言葉が何度も繰り返された。
文書の隠蔽、改竄、廃棄。役人の劣化から垣間見えるのが、下から上へ、人事権を持つ者への忖度、おべっか、追従である。
日本の政府の役所の頂点に座っているのが内閣総理大臣だから、彼はあらゆる忖度・おべっか・追従を一身に受けている。その日本国首相自らが、あからさまに追従を届ける先が米国大統領である。
そうまでしないと日本の首相は務まりませんか、と予算委で野党議員が嘆くような、いやみな発言をした。
そうまでしないと務まらないのではなく、ついつい発作的にそうなってしまうのである。日米戦争とその敗戦、戦後のGHQとマッカーサー、これらの記憶は世代を越えて、日本の権力の中核とその周辺にいる人たちに受け継がれ、いまや心的外傷後ストレス障害(PTSD)に似た日本支配層の持病になっているのである。
(2019.2.20 花崎泰雄)