沖縄の米軍普天間飛行場移設のため名護市辺野古沿岸部を埋め立てていることに関して2月24日に行われた県民投票で反対票が圧倒的多数を占めた。
25日付朝日新聞によると玉城沖縄県知事は政府に対して「辺野古の埋め立てを決して認めないという断固たる民意を真正面から受け止め、『辺野古が唯一』という方針を見直し、工事を中止するとともに、普天間飛行場の一日も早い閉鎖・返還に向け、県との対話に応じるよう、強く求める」と記者団に述べた。
一方、日本国政府は投票の結果は真摯に受け止めるが、移設は先送りできない、という態度である。
安全保障を最優先に掲げる政府とその支持者、沖縄を踏み付けにするなと叫ぶ沖縄の人とその支持者のにらみ合いが続く。沖縄の米軍基地が日本の安全保障に、過去ソ連の脅威が声高に叫ばれた時代においてどれだけ有用であったか。もっぱら北朝鮮の軍事的脅威が叫ばれるいま、沖縄の米軍の存在がどの程度北朝鮮の脅威を払拭してくれているのか。これから議論が展開するといいのだが、いまの日本ではこんな議論は好まれないだろう。
同じ25日の朝日新聞朝刊の天声人語がドナルド・キーン氏の死を悼んだ。その中でこんなふうに書かれた部分がある。「親交の深かった作家の安部公房は『新大陸発見』のコロンブスにキーンさんを讃えてこう書いた。あいにく大陸ではなかったが、日本文学という未知の群島に辿り着いてしまった冒険家なのである」。「群島で見つけた魅力の数々を世界へ発信してくれた」。
10月の「コロンブス・デー」は合衆国の祝日だが、コロンブス以前からアメリカには先住民が住んでいたし、スカンジナビアからバイキングが渡って来ていた可能性がある。コロンブスがアメリカを発見したわけではないが、コロンブスの到来を機に、ヨーロッパ人が南北アメリカにやって来て植民地を築いた。その過程で南北アメリカ大陸に住んでいた1000万人の先住民が暮らしを奪われ、文化を破壊され、部族が絶滅寸前においこまれた。、アメリカン・センター・ジャパンのサイトの記事にあった。
その記事によると、アメリカでは、アメリカ先住民をはじめとする各団体が、コロンブスがアメリカ大陸を発見したという主張に異議を唱えたことで、「全米各地の学校では、コロンブス・デーのカリキュラムにアメリカ先住民に関する知識と、ヨーロッパ人との接触がアメリカ先住民に及ぼした影響についての知識が加えられるようになった。州によっては、この祝日に両方の名前を付けて、「コロンブス・デー/アメリカ先住民の日」と呼んでいるところもある。また、アメリカ先住民の日を別に設けている州もある。サウスダコタ州では、先住民を称えて、正式にコロンブス・デーの代わりにアメリカ先住民の日を祝うようになっている」。
安倍公房存命のころは、アメリカはコロンブスによって発見されたと多くの人が思い込んでいたのだろう。それにしても日本の文芸がドナルド・キーン氏によって発見されたとはさびしい話である。草津温泉はベルツによって発見され、アンコールワットは仏人アンリ・ムーオによって発見され、マチュピチュは米人ハイラム・ビンガムによって発見された、という言説と同じである。遅れた国は白人国家という太陽に照らされて輝く月のような存在であるというある種のオリエンタリズムを感じさせる。
(2019.2.26 花崎泰雄)