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news commentary

いい気なトウサン毛が3本

2019-02-07 01:28:23 | Weblog

すったもんだの末、やっと現地時間2月5日に行われたトランプ米大統領の2019年一般教書演説をホワイトハウスのサイトで読んだ。そのテキストの一節にこんなことが書いてあった。

「思い切った新外交の一環として、朝鮮半島で歴史的な平和攻勢を進めた。人質になっていた米国人は帰国し、核実験は停止となり、15か月間ミサイルの発射が無かった。もし私が合衆国大統領に選出されていなかったとしたら、私見では、我々はもっか北朝鮮と大戦争を行い、何百万人もの人々が死ぬ恐れがあっただろう(If I had not been elected President of the United States, we would right now, in my opinion, be in a major war with North Korea with potentially millions of people killed.)。なすべき仕事はなお多く残っているが、私とキム・ジョンウンの関係は良好だ。キム主席と私は2月27日と28日にベトナムで会うことになっている」

英語の仮定法の解釈は難しいが、多分、上記の発言は「私が大統領でよかった。北朝鮮と戦争しないですんだ」と言うのが本筋の意味なのだろう。逐語訳して「わたしが大統領に選出されていなかったら」とすると、先の大統領選の相手はヒラリー・クリントン氏だったので、「ヒラリー・クリントンが大統領になっていたら……」と同じ意味になる。

「もしヒラリー・クリントンが合衆国大統領に選ばれていたら、北朝鮮と戦争をはじめていただろう」という言説は、「もし」という仮定法で歴史フィクションを楽しむエンターテインメントに過ぎない。このことは皆さん、よくおわかりだと思う。つまり、ドナルド・トランプが大統領だっからこそ、北朝鮮との戦争が回避できた、という話もエンターテインメントに過ぎない。

この手の話は日曜日のゴルフコースで交わす与太話ならまだしも、連邦議会議事堂で披露すると、物語った当事者の知性を疑わせることになる。

アメリカのメディアはトランプ大統領の発言に関していまや「ファクトチェック」を行うのがならいになっている。『ニューヨーク・タイムズ』を見ると、いつものトランプ発言同様、一般教書演説についても「ウソ」「ミスリーディング」などの指摘が多かったが、「北朝鮮との戦争」のくだりについては「根拠なし」と判定している。その採点評。

「2016年のオバマ政権の終わりごろ、アメリカが北朝鮮と戦争を始めるような兆候はなかった。北朝鮮は核実験を続け、オバマ大統領は経済制裁を続行していた。トランプ氏は就任1年目に北朝鮮との緊張を増加させた。キム・ジョンウン氏をツイッターで攻撃した。北朝鮮の行為は激しい「怒りと炎」を招くことになろうと書いた。また、金氏を「ちびのロケットマン」と嘲った。当時、アナリストたちは米朝の戦争のリスクが高まったと見なした」

トランプ氏は北朝鮮を相手に、いわゆる危機の「マッチ・ポンプ」劇を人気浮揚のために自演し、そのことを連邦議会で自慢した。知恵の無い話である。その寸劇の決着を2月末、ベトナムで、どのようにつけるのだろう。

      (2019.2.7  花崎泰雄)

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