デンマーク・ハーフキッズ

デンマークについての情報やニュースを紹介、またデンマーク人と日本人のハーフの子供たちの子育て日記。

サンクト・ルカス・ホスピス Sankt Lukas Hospice

2011-08-31 16:09:58 | デンマークについて
義母は今、ヘレラップにあるサンクト・ルカス・ホスピスにいます。私達が日本に戻る前日に入院していた病院から退院し、その3日後には運よくそのホスピスに受け入れてもらうことができました。

 それまでも在宅ホスピスでがんばっていた義母ですが、退院した日、とうとう、立ち上がることもベッドから抜け出ることもままならず、という自分の体の状況を冷静に判断して、ホスピスに入ることを決めました。このことは義母にとっても、そして周りの家族にとってもとても大きな決断だったと思います。そこに至るまで、私は、いつもいつもデンマーク人の考え方と日本人の考え方を自分の中で対比させ、いろいろ私自身も考えさせられていました。あくまで本人の意思や尊厳を尊重しようというデンマーク社会の中核となる部分を見たような気がします。

 在宅ホスピスでは、看護師の女性が毎日1度、義母を訪ねてきていました。(私達のいる間はことわっていたようですが、夕方には食事を整えてくれるヘルパーの方が来てくれ、そして週に一度は掃除をしてくれるヘルパーの方が来るようになっていたようです。)看護師の女性は40歳前後の、非常にフレンドリーな、そして一度など大切な診療バッグを忘れて帰るなどちょっとお茶目な感じの人で、初対面から親しみを持てるタイプで私はとても好感をもちました。彼女は義母に、昨日の訪問から今までの義母の様子を聞いていきます。何をどのくらい食べたか、何をしたか、トイレはどうだったか、シャワーは浴びたか、薬は飲んだか、効果はどうか、などなど、ゆっくりとシートに書き込みながら聞いていきます。そして、痛みはどうか、問題はあるか、そして何かあればそれにどう対処しましょうか、と相談していきます。

 ダイニングテーブルでそうした質問に答える義母は、気分のよいときは、なんだか親しい親戚の娘が訪ねてきてくれたような、ちょっと楽しげな様子で答え、気分の悪いときはその親しい娘に、ねえ、わかるでしょう?と目で訴えているような様子を見せていました。そして、義母がその看護師さんを心から信頼している姿を見て、家族はどんなに安心したかしれません。

 看護師さんは義母の話を聞きながら、柔らかな口調で、そして焦らせるようなそぶりは全くなく、義母の今後の選択、つまりホスピスに入るか、あるいは在宅ホスピスを強化していくことについて説明していました。家族と看護師さんの思いは、1人暮らしではもう危険すぎるので、ホスピスに入ってほしいと思っていましたが、義母はかなり悩んでいました。在宅ホスピスを強化する場合は日に6度、ヘルパーが入り、細やかに義母の面倒を見てくれ、そしてくつろげる自宅に最後までいられるというメリットがありましたが、そのためには看護用のベッドを入れなくてはならず、そのためにカーペットをはがすなどのこれまでの居心地を損ねるようなことが行う必要があるというデメリットもあり、義母はそれを嫌がっていました。しかし、やはり家にいたいということで、一度は在宅ホスピスを強化することが決まり、早速次の日の早朝には工事の若者が来て、義母の玄関の外側に、鍵を入れるための箱が取り付けられました。(あまりの手配の早さにびっくり。)

 けれども、退院してきた義母はもうベッドから起き上がることも難しく、そして恐らく息子や孫達がまた遠く離れてしまうことにがっくりしたのでしょう、帰国の朝、訪問に来た看護師さんに「ホスピスに入りたい」と言いました。(実はその日、彼女は義母を訪問しなくてよいことになっていたのですが、昨夜退院してきたはずだからどうかなと思って寄ってくれたそうです。本当にいい人です。)

 そして、今、義母はホスピスにいます。来てからというものの、義母は眠り続け、ほとんど食べず、まるで生きていく気持ちを完全に失ってしまったかのようだそうです。それでもときどき、幻覚を見たり、その話をホスピスの看護師さんにしたり、孫からの絵や写真を見たりもしているそうですが。

 でもこのホスピスは、義母も以前少しお世話になったときに「みんなが本当に優しくしてくれた」と言っていましたし、夫が何度電話しても非常に親切で優しい対応をしてくれます。義母に対してはもちろん、私達家族の要望も出来る限り応えてくれようとし、何かお願いしても快く応え、できるだけのことをしますよ、という姿勢です。病気の強大さにあまりにも家族は無力で、しかも私達のように遠く離れていると、本当に何をしているんだろう?という無力感に襲われますが、ホスピスでの看護師さんたちに本当に救われます。もしかしたら病気の当人よりも家族のほうが救われていると思います・・・。このようなところに義母が迎え入れられて、神様に感謝するしかありません。

 そう思っていた矢先、先日図書館にいったら、なんとこのホスピスのことが紹介された本を見つけました。このホスピスで最後を迎えた女性のことを書いた本なのですが、義母がこのようにケアを受けているということがわかり、また少し掲載されている写真でその環境もわかり、どうしてこういうときに、こういう本に私は巡り合えるんだろう、とこれもまた神様と自分の幸運に感謝しました。この本に書かれていることは、内容は違えど私達の日記のような感じがします。そして、このタイトルも実感しています。

 『天使に見守られて 癌と向きあった女性の闘病記録』
  イェンス・グルンド&メッテ・ホウマン
  トーベン・ストロイヤー写真
  フィッシャー・緑 訳 
  須山玲子 企画・編集協力
  新評論 2009年


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