デンマーク・ハーフキッズ

デンマークについての情報やニュースを紹介、またデンマーク人と日本人のハーフの子供たちの子育て日記。

『誰がため Flammen og Citronen』

2010-02-24 11:20:09 | デンマーク 映画・芸術関係
 デンマークでは2008年に公開され、高い評価を得た映画だったそうで、ぜひ見たかった1作です。でもまさか日本で見られるなんて思っていなかったので、去年日本で公開されることを知ったときには、かなりびっくりしましたが、とても楽しみにしていました。

 デンマークは第二次世界大戦ではドイツに「保護」占領されています。1940年4月9日、朝起きてみたらあっという間に占領されていたというような、占領の始まりでした。デンマーク政府は無抵抗で占領を受け入れることにし、それにより、デンマーク人の命を失うことを回避しました。

 この映画はそんな占領下で地下抵抗運動の組織の中、2人のデンマーク人、ドイツに協力する同胞の暗殺という任務を実行していたフラメンとシトロンの映画です。私はこのドイツへの1940年の占領を無抵抗で受け入れたことを正しい選択だったと思っているのですが、当時のフィンランドやノルウェーの抵抗と比較してか、デンマーク人はこれを情けないことだと考えている人も多いようです。そのなかで、この2人はデンマーク人にとって、自らの命の危険を冒してまで実際の行動をとったヒーロー、こんな人たちがデンマークにいたのだという誇りのような位置づけになっているようです。

 戦場ではないところでの戦争映画として、この映画は当時をリアルに描いた映画だと思います。少々、筋書きがわかりにくいのですが(歴史的背景などがあまり描かれていません)、出てくる俳優たちが皆すばらしく、私たちは彼らの息づかいをそばで感じ、彼らの苦しみを苦く、重く、自分の胸で感じることになります。

 私にとって馴染みのあるデンマークの風景の中で、70年近く前の彼らの日常や活動が再現され、映像で見ることができたのは、個人的にはすごく心に迫るものがありました。日本が空襲される映像などはしばしば見たことがありますが、当時の建物や町の様子と現在の日本の様子がかなり違っていることがあり、いまひとつ臨場感に欠けるのです。でも、デンマークは今もまったく同じような町並みなので、時間を超えて、「ここで起きたこと」と感じることができます。そういう意味では、歴史をリアルに感じられる映画でした。

 それにしても本当に俳優陣がすばらしかったです。マッツ・ミケルセンは有名ですが、今回フラメンを演じたトゥーレ・リントハートもこんな若手ですばらしい人がいるんだと思ってしまいました。ケティを演じたスティーネ・スティーンゲーゼもなんともいえない雰囲気を醸し出していて素敵です。(ちなみに彼女の顔は、とってもデンマーク人っぽいと私は思います。)

 ところで、ヒーローであった彼らですが、こうした映画を作ることによって、デンマークではそのヒーロー像がより鮮明にされたのでしょうか? 確かにナチス・ドイツの残虐な行為は疑う余地のないことですが、フラメンとシトロンがしたことは他人の命を奪うことであり、しかもそれは主に同じデンマーク人の命を奪うことであったわけで、そのあたりの人道的・歴史的検証はどうなっているのかなと思いました。

 もうひとつ気になるのが、ギルバートはドイツ側の人間だったのか、それとも彼の話していたようにナチスと離れた思想を取る人だったのか、どっちだったんだろう?という疑問です。彼は殺されてしまったけど、それは合っていたのか、間違っていたのか・・・。映画を見た方で、もしわかる方がいたら、どうぞ教えてくださいね~。

「レ・ミゼラブル」

2010-02-03 00:32:49 | デンマーク 映画・芸術関係
 クリスマスの後の気分転換もかねて、ちょうど上演していた「レ・ミゼラブル」を見に行きました。いつも思いますが、デンマークはこうして見たいと思ったときに、わりとすぐに切符を手に入れられるのは、日本から見るととてもいいところ。それでも非常に人気のあるコンサートなどですと、やはり日本と同じように、だいぶ前に予約しなくてはならないということもあるようです。ちなみに今年の夏、コペンハーゲンでU2のコンサートがあるそうですが、クリスマスに会った友人は、彼の友人達と協力し合って電話をし、やっとチケットを手に入れたという話をしていました。

          

 「レ・ミゼラブル」はDet Ny Theaterというところで上演されていたのですが、この劇場がとても素敵でした。この建物自体のことはよくわからないのですが、マナーハウスのような感じの、こじんまりという表現がぴったりの劇場ですが(それでも千人収容)、とても居心地のいい劇場です。アーケードをくぐって入口を入り、チケット売り場を抜けて階段を上がると、大きなクリスマスツリーが出迎えてくれました。

 この劇場は地下にレストラン Theaterkaeldren を持っていて、見終わった後の深夜にも食事が取れるようになっています。特に寒い冬、レストランやカフェを探して歩き回ったりせずに、そのまま一緒に見た人と食事をし、劇場の余韻に浸れるのはとてもよさそうです。きっとまわりのお客さんたちも同じ演目を見た人達で、皆、ざわざわと興奮を分かち合っていることでしょう。「レ・ミゼラブル」の終了が23時で、私たちは子どもが気がかりでそのまま帰り、寄れなくてちょっと残念でした。

 さて、「レ・ミゼラブル」は実は15年ほど前、ロンドンで見ようと思ってチケットまで買っていたのですが、なぜか急に高熱を出し見られなかった、という思い出があります。それで、今回はとうとう15年ぶりにやっと見ることができたのでした。

          

 ところが、始まってみてびっくり!なんとデンマーク語で上演されたのです。なぜか、なぜかてっきり、夫も私も英語で上演されると思い込んでいて、始まったとたん、二人で顔を見合わせてしまいました。まあ、話のすじは子どものころ読んだ小説のほうでだいたい分かっていたこと、そして、幕間に夫にちょっと確認したりして、だいたい理解できたのですが、それでもみんながわっと笑うところがちっとも分からず、積極的に見たがっていなかった夫のほうが、横で大笑いして私以上に楽しんでいるのがちょっと癪に障りましたが・・・。

 でもやっぱり感動。特に警官役の歌は本当に感動しましたし、最後のジャン・バルジャンが死ぬシーンは、幻想的でコゼットの母と幼友達の幽霊の歌声とともにとても心に残りました。

 その感動した気持ちのまま、劇場を出て冬の夜の黄色い光が窓から漏れ、キラキラしたコペンハーゲンの町を見ながら、しみじみ冬の劇場の楽しみというものを感じました。あまり活動的になれない冬ですが、こうした夜の楽しみが、心を温かくしてくれます。

 そして、帰りがてら、「マンマ・ミーア」の看板を見つけ、何気なく見てみたら、そこには「2010年、デンマークで初めてデンマーク語で上演!」との宣伝文句が・・・。ああ、よかった、すでに英語で見ておいて・・・と思いつつ、車に乗り込んだのでした。

『ウッラの小さな抵抗』

2009-06-04 06:32:13 | デンマーク 映画・芸術関係
 図書館の蔵書を検索していて、偶然見つけた『ウッラの小さな抵抗』という児童向けの小説を読みました。タイトルに『ナチス占領時代の少女』という副題がついています。本の扉のところに書かれた、この本の紹介文です。

   1940年4月から5年間、デンマークはナチスドイツに占領された。
   ユダヤ人迫害の手は、ウッラのピアノの先生にもせまっていた。
   「先生を家にかくまってあげれば。」と言うウッラに、お母さんは
   危険だからかかわってはいけないと答える。ウッラは初めてお母さん
   に不信感をおぼえる。
   親友のグレタと遊んでいたウッラは、地下室であやしい人影を見る。
   やがて二人は、つきまとう密告者におびえながら、ユダヤ人救出に
   立ち会うことに・・・。
   ナチス占領下のデンマークに暮らす、思春期の多感な少女を、自らの
   体験に重ねて生き生きとえがいた作品。

 子ども向けであること、小説であること、そしてやや物事を美化して書いている面も考えられますが、それでも占領下の当時のデンマークの雰囲気は、確かにこんな感じだったのかなと考えました。大人たちの緊迫した雰囲気、対独協力者や地下活動者がいて、破壊工作、尾行、ドイツ軍による制裁などが行われ、やはり日々、ぴりぴりした張り詰めた空気があったのだと思います。その中で、子どもたちは子どもたちなりの感性で、ときに敏感に、この時代を経験していったのでしょう。

 デンマーク語ではこうした小説や当時の状況を伝えるノンフィクションなどがたくさん出版されているのでしょうが、私は初めて読んだので、ああ、こういった感じだったんだ、と新鮮な気持ちで読みました。昔、アンネの日記を吸い込まれるような気持ちで読んだものでしたが、そのくらいの年齢の目線で書かれたものは多感な時期であり、若者の感性もあり、大人とは違った新鮮な見方で書かれていると思います。

 この小説の主人公ウッラも、ドイツ軍占領の下、恐怖を感じながらも同時に、ときにスリルを味わい、アイスの味が水っぽくなってきたことに気づき、友達と映画や映画俳優の話をし、髪にパーマをかけ(ちりちりになって大失敗)、ダンスを習い、父親が食卓でドイツ軍への怒りをぶちまけているときに突然「イタリア人は超直にもマカロニを食べるのかな?」と言い出してみたり・・・。そういった、普通の子どもの生活をしながら、占領下のデンマークをひしひしと感じています。

 私の息子たちがもう少し大きくなったら、この本をぜひ読んでもらいたいと思います。日本の戦時中とはまたちがったデンマークの占領下の様子を、この本で垣間見てもらいたいと思います。

 『ナチス占領時代の少女 ウッラの小さな抵抗』
  インゲ・クロー作 
  枇谷玲子訳 杉田幸子絵
  文研出版

デンマーク・ロイヤル・バレエ団 「ナポリ」

2009-05-27 05:37:35 | デンマーク 映画・芸術関係


 5月17日、9年ぶりに来日したデンマーク・ロイヤル・バレエ団の「ナポリ」を観てきました。この作品はブルノンヴィルが1842年にこのデンマーク・ロイヤル・バレエ団で初演し、以来、デンマークバレエの名作として、大切に踊りつがれている演目です。アンデルセンも絶賛したという、ユニークな作品です。

 3幕目はナポリの活気溢れる庶民、喜び溢れる祝福を表現した、非常に華やかな楽しい場面となっています。そこに至るまでの1幕、2幕での紆余曲折を経てめでたく結ばれた二人を祝福し、ひたすら続く踊りのシーンは、最後にぐっと気持ちを盛り上げてくれます。

                    

 が、そこに至るまでの、特に2幕目「青の洞窟」の場面は、それはそれは幻想的で美しかった!非常に幻想的な青のなかで、まさにデンマーク人という金髪の長い髪を垂らした海の精たちの愛らしく繊細な動き。また主役のテレシーナの衣装の早替りがこんなの見たことないというくらい、うまくできていて不思議なくらいでした。(海の王ゴルフォの衣装が魚のウロコをモチーフにしていて、笑ってしまったけど・・・。)

          

 主役の漁師ジェンナロを演じたトマス・ルンドもテレシーナを演じたティナ・ホイルンド(デンマーク語ではホイルンという発音かも)も、非常に表現力が豊かで、本当に役柄をよく踊りこなしている感じがしました。

 全体としてはかなり演劇的要素が強く、まさにバレエ、バレエした演目というわけではないのですが、心から楽しめる作品だと思います。そして衣装や背景なども色彩がすばらしく、また舞台装置も細かいところまで非常によく作りこんであります。先ほどの2幕目の青い舞台は本当に印象に残るものでしたし、3幕目の盛り上がりも色鮮やかな衣装をつけた大勢が参加し、横だけでなく、縦の広がりも出すことによって、より華やぐシーンになっています。

 デンマークは小さくて、でも自国の個性に誇りを持つ国だと思いますが、まさにデンマーク・ロイヤル・バレエ団もそういう特徴のバレエ団のように思いました。

ハンマースホイ展

2008-12-20 00:52:41 | デンマーク 映画・芸術関係
 12月の始めに国立西洋美術館の「ハンマースホイ展」に行ってきました。一人で絵を見に行くのも新鮮、そして上野の公園の紅葉に一人で浸るのも新鮮、なんだか気持ちのいい解放感があり、私にとって新しい楽しみ発見、という日にもなりました。これからはたまに一人で芸術鑑賞に出かけよう!と思います。

 さて、このデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイ(ハマースホイ)Vilhelm Hanmmershoiですが、実際に見るまではそのよさをわかりませんでした。デンマークの有名な画家ということで一応見ておこうと思ったのですが、実際に見てみると、こんな画家がいたんだ、ととても嬉しくなりました。

 ハンマースホイをうまく言葉で伝えるのは難しいのですが、彼の絵を見ていると自分がその場面に入り込んでいくという不思議さがあります。まるで3Dの世界のように、自分がそこに立っているような錯覚に陥ります。普通は描く人が何かを伝えようと、絵に何かしらの表情がつくものですが、ハンマースホイの絵にはそれが全くないのです。不思議な無の世界で、ずっと見ていると、なんだかそこに登場している彼の妻イーダのカップを置く音が聞こえたような、窓の外のガラス越しの人の話し声が聞こえたような、家事をするイーダの衣擦れの音が聞こえたような、そんな感覚を持ってしまいます。

 その絵の誰もいない室内、窓から差す光、キャンドルの光、シンプルな家具などが、とてもデンマーク的だとも思いました。最近作られた家にはないけれど、古くからの家、古い義母のアパートにはある静けさ、しんとした、落ち着いた静けさが、ハンマースホイの絵から伝わってきます。私が特に気に入った絵のうちの1枚、「2本の蝋燭」などはまさにその空気、雰囲気が伝わり、冬のデンマークそのものの感じがしました。

 そういったものが妙に心を落ち着かせてくれます。孤独感といえば孤独感なのですが、一人ヒュッゲの感覚で、やたらと癒されるのです。

 今まで家に掛けるなら抽象画がいいと思ってきたのですが、初めて、このハンマースホイの絵なら家に欲しい、と思いました。色が抑えてあるせいか、妙な描きこみがなにせいか、一緒に生活のできて飽きのこない絵です。もちろん、買えるわけもないですが・・・(笑)。

 このように、ハンマースホイの絵が一度に集められて見られたことは、幸運だったと思います。今まで私は知りませんでしたが、の絵はものすごく評価が高いらしく、近年、世界中で展覧会が開かれています。こんなデンマークのすばらしい画家がいる、と思い、なんだか嬉しい気持ちになりました。

国立西洋美術館 ハンマースホイ展

 

「恋に落ちる確率」

2008-01-05 08:27:45 | デンマーク 映画・芸術関係
 普段は映画をなかなか見れないのですが、久しぶりに2本見ました。ひとつは「ナインス・ゲート」という夫が選んだジョニー・デップ主演のDVDです。意外と面白くてよかったです。ジョニー・デップならではの奥行きのある演技、不思議な展開は早くて、引き込まれてしまいました。こういう映画だと我が家では夫と映画の楽しみを共有できます。(普段はかなり映画の趣味が合わないのです。)

 さてもうひとつの映画が、私チョイスのデンマーク映画「恋に落ちる確率」です。

 原題はReconstruction(再生、再建)ですので、ちょっと邦題の確率という言葉が違うニュアンスをかもし出してしまうようには思います。一人の男の人が人生の岐路で選ぶ相手に迷うという設定なので、そういう意味では選んだ後の人生に対する確率という言葉は的確なのかもしれないのですが、見る前はタイトルのイメージでもっと軽い恋愛物を想像していました。

 あいまいなストーリーですし、結論がこうという映画ではないので、かなり個人の解釈の幅が広がる映画です。見終わったときはよくわからなくて気持ち悪いと思ったのですが、一夜明けて、じわじわと解釈できるようになり(笑)、私なりになるほどねぇと思っています。

 全員とはいいませんが、男の人って本当に自分本位というか、永遠の子どもなのですね。この映画の主人公のアレックスも30代で仕事も結婚も覚悟を決められず、その瞬間瞬間で生きているんだなあ、と。何事も決めようとする女の人に対して、決めようとしない男の人のひとつの典型を見た気がしました。もちろん実生活でそういう人生を歩んでいる人は少数派で、実際にはどこかで覚悟を決めて人生を歩んでいる人が多いと思いますが、男の人はどこかファンタジーの世界で生きているところがあるように思います。よい言い方をすれば夢があるわけで、だからこそ世界が発展してきたということもあるのでしょうけれど。

 アレックスは素敵な女性2人の間で揺れて(現実の人生と甘い夢の世界の人生の間で揺れて)、最後は一人になってしまうのですが、監督が男の人でそういう男の人の気持ちをよく描写していると思います。そして最後がハッピーエンドではなく、寂しい終わり方であること、映画全体が現実ではないことあたりが「ちゃんとわかっているのね」と好感が持てました。それでハッピーエンドだったりすると「わかってない!若すぎる!」と女性の反感を買うことでしょう(笑)。

 それにしてもアレックス役のニコライ・リー・コースは私の好み。名前はデンマーク人だけど、典型的なデンマーク人の風貌とは違うように思うのですが、違う人種の血も入っているのかな? 以前「しあわせな孤独」のときも素敵だったけれど、今回はいっそう魅力的になっていました。