デンマーク・ハーフキッズ

デンマークについての情報やニュースを紹介、またデンマーク人と日本人のハーフの子供たちの子育て日記。

デンマークの『高齢者の孤独』を読んで

2009-03-19 06:10:31 | デンマーク人
 たまたま見つけた新刊『高齢者の孤独』を読み終わりました。この本は25人のデンマークの高齢者が自らの孤独について文章で語ったもので、人生の折り返し地点を迎えた年齢の私としては、個人的にも興味があるテーマですし、また、個人主義のデンマーク人高齢者が何を考えているのか、ということにも前から興味がありました。デンマークは世界一幸福な国だとか言われていますが、中身はどうなのかという観点もいつも私が持っているところでもあります。

 25人の高齢者たちがそれぞれ自分について語るのですから、経験や感じていることもそれぞれ違うわけです。が、それでも彼らに共通することはいくつかあるように見えます。

・配偶者との死別の辛さ・・・これは皆が異句同音に語っているところで、私も以前日本の新聞の調査で「人生でもっとも辛いこと」が配偶者の死であることを見たことがありました。配偶者が亡くなった後、朝から晩まで一人であることをかみしめ、週末はもっと孤独をかみしめ、パーティーでは誰もが自分を避けているように感じ、ますます孤独を感じてしまう。立ち直れる人もいれば、あまりの辛さに立ち直れないでいる人もいる。

・家族と会えないこと・・・住んでいる場所によらず、自分の子どもたちは皆、それぞれの家族のことで忙しく、なかなか子どもや孫に会えない。私は子ども側の気持ちはわからないでもなく、確かに本当に週日も週末も忙しいのだけど、うーん、でもそれは子ども側が単に時間がないのか、あるいは会いたくないと思っているのかもしれないと思いました。

・友人がいないこと・・・もともと友人が少なかったり、あるいは友人と疎遠になってしまったりして、出かけたりお喋りしたりする人がいない、新しくグループに入れないということで、「誰もいない」生活を過ごしている。街では自分と同じように会話を交わす誰かを求めているそぶりの高齢者をたくさん見かける、せめて高齢者が気軽に立ち寄ってお茶を飲める場所があればいいのに(実際にはそういった場所を自治体で用意していることもある)、と願っている人も多い。

 ひとつはデンマーク人も日本人もあまり変わらない、と思いました。高齢者は今まで築いてきた人間関係を失い、活動範囲も狭まり、孤独に陥っていくのは核家族化が進んだ国であれば、あまりどこの国も変わらないでしょう。彼らのうちの何人かは「このような自分の楽しくない話で他の人を不快にさせてはいけない」と言っています。それから「他人に自分の気持ちを理解してもらおうというのは無理だ。自分の気持ちは自分しかわからない」とも言っています。これは個人主義から来るものだと思うので、ややデンマーク人はこうした気持ちを強く持っている傾向があるのかなとも思います。

 もうひとつはこの本の中で、誰も経済的な話をしないことに気づきました。誰もお金が足りず困窮しているなどという話をしませんし、写真で見る限り、こぎれいな家に住んでいます。ここがやはりデンマークの年金が十分であること、医療費が無料であることなどのすばらしいところなのでしょう。日本の場合は、高齢者の貧困は社会問題のひとつになっています。高齢と貧困はかなり辛い組み合わせだと思います。

 なかなか個人的に高齢者の方の意見を聞くことがないので、この本は貴重な人生の先輩の話として価値あるもので、いくつかのことを教えてもらったように思います。老いとともに一人になっていくこと、それを覚悟しつつ、今から自分の周りの人間関係をできるだけ構築しておくこと、趣味など人と共有できるものを持っておくこと、同時に自分一人の生活も充実させておくことなどをやっておかなければと思いました。まあ、これは老いに対する準備であるだけでなく、今現在、大切なことでもありますが・・・。

 さて、この本を読みながら、猛烈に気になってきたのが、義母のこと。一人で長ーい時間を過ごし、友人も多くなさそうな義母。息子の一人や孫たちとは遠く離れ、週末ごとに訪ねてくれるわけでもない・・・。そうでもなさそうに見えていたけど、もしかして、もしかして、ものすごーく孤独なのかしら? それである日、夫が電話してちょっと聞いてみたら、「全然、さびしくない!」とのこと。「デンマークの高齢者はみんないろんな活動に忙しくてさびしがっている暇はないわよー」とも。

 確かにこの本に出てくる人たちは、そもそも孤独だ、さびしいと思っている人たちであり、そう思っていない人はこの本には登場しないわけです。だから実際にどのくらいの人が孤独に陥っているかどうかは不明だけど、まあ、そういう人が少なくないことも確かでしょうし、義母が言うような状況も確かなのでしょう。

 まあ、でも義母がさびしがってなくて、本当によかったです。それでもすっかりストップしてしまっていた、毎月送っていた写真での私たちの生活リポートをこの本を機に再開しよう、と思っています。

 『高齢者の孤独』ビアギト・マスン&ピーダ・オーレスン編 
         ヘンレク・ビェアアグラウ写真
         石黒 暢訳
         新評論 1800円