狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

愛国

2006-05-24 21:45:11 | 反戦基地

代表的な東京大空襲の被害データ/警視庁調べ 
                                                              出典:『東京大空襲』
                 主要地区       投下焼夷弾        死傷者       被害家屋             罹災者
昭20.3.10    城東地区        48,194         124,711        268,358        1,008,005
4.13/14     現千代田他、       4,553          135      160,539        547,690
4.15           城南地区          4,856             124        55,151        224,367
5.24       都内、全域         74,617         2,096        64,155         213,120 
5.25              同上              多数           5,31       157,039         624,271


 60年前の今日、アメリカは首都東京に最後の止めを刺すべく大規模な空襲を行った。東京方面の空が真っ赤なのが、地図上では約5~60キロ離れている我が家からも遠望できた。多数の紙の燃えかすや灰も飛んできた。

 昭和 20年3月10日以来の被害数字の単純計算では、
        投下された焼夷弾は、132,220、    
              死傷者   127,597、    
              罹災者  2,617,452 に上る。
 その実態を経験した人は年々少なくなる。勿論国会議員に中にはいない。
 天皇陛下に おかれては、安全な所に疎開されていて、東京にお戻りになったのはいつ頃であるか庶民の知るところではなかった。

  荷風散人日録を捲ると、昭和16年12月8日は、開戦のことに関しては「日米開戦の号外が出づ」のみの記述である。
 その後、おりにふれ、風聞録、巷の噂、町の噂、街談録、流言録、噂のききがき、冗談剰語が挿入されているが、特に流言、街談録は18年~19年に集中している。
荷風散人65歳前後。
昭和18年6月初1。晴。電車7餞のところ拾銭に値上げとなる。また酒肆及び割烹店にて酒を売ることこれまでは夕方5時よりなりしがこの日より夕方6時に改められしといふ。
[欄外朱書] 6月1日より電車値上げとなる。  

    街談録
 頃日南洋において山本大将の戦死、つづいて北海の孤島に上陸せし日本兵士の全滅に関して、一部の愛国者はこれ即楠公が遺訓を実践せしものとなせり。これに反して他の憂国者の言ふところをきくに戦死の一事がもし楠公の遺訓なりとせば吾人はむしろ楠公戦死の弊害を論ぜざるべからずとなせり。
 
※筆者註 「北海の孤島云々」はアッツ等「玉砕」を謂う。
横光利一は18年7月号「改造」の〝アッツ島を憶ふ〟で次のように述べている。

<…自分の国を賞することを自己讃美といふ。私もそのやうなことに気付かぬわけではないが、私も自己讃美せざるを得ない。病院船を襲ふアメリカでさへ、「アッツ島には日本人の捕虜が一人もゐなかった。これは世界戦史上かつてなかったことである。」と報じてゐる。敵国でさへ感動する心、かういふ精神の美しさは弾丸にも篭るのは自然であろう。>

  楠公の事跡は建武年間の歴史を公平に冷静に研究したる後始めてその勲功を定むべきなり。楠公と新田義貞とを比較し1を忠臣の第一となし1を尋常平凡の武士となすは決して公平の論にあらず。
これあたかも日魯戦争において東郷大将の勲功を第1となし上村中将をその第2位に置くが如きものなり。

凡そ一国の興亡は一時の勝敗と1将帥の生死によりて定まるものに非ず。戦敗れて1将軍の死するはその人の自暴自棄に基づくものにして1個人の満足に外ならず。自己の名誉とその1刹那の感情のための多数なる無辜の兵卒を犠牲にして顧みざるは、利己主義の甚だしきものといはざるべからず。

  かつて福沢先生が楠公の敗死を持って1愚夫が主人より託せられし財布を失ひ申し訳なしとて縊首せしものに譬えたりしは、今日においてその比喩のいよいよ妙なるを知るに足るべし。云々。

昭和18年7月初5.晴。午後土州橋注射。  
    冗談剰語
1 東京市を東京都と改称する由。何のためなるや。その意を得がたし。京都の東とか西とかいふやうに聞えて滑稽なり。

1 日本人は忠孝及貞操の道は日本にのみありて西洋になしと思へるが如し。人倫5常の道は西洋にもあるなり。但しやや異るところを尋れば日本にては寒暖の挨拶の如く何事につけても忠孝々々と口うるさく聞えよがしに言ひはやす事なり。また怨みありて人を陥れんとする時には忠孝を道具につかひその人を不忠者と呼びかけて私行を訐くことなり。忠孝呼ばはりは関所の手形の如し。これなくては世渡りはなりがたし。

1 日本人の口にする愛国は田舎者のお国自慢に異らず。その短所欠点はゆめゆめ口外すまじきことなり。歯の浮くような世辞を言ふべし。
 
腹にもない世辞を言へば見す見す嘘八百と知れても軽薄なりと謗るものはなし。この国に生まれしからは嘘でかためて決して真情を吐露すべからず。富士の山は世界に二ツとない霊山。二百十日は神風の吹く日。桜の花は散るから奇妙ぢゃ。楠と西郷はゑらいゑらいとさへ言って置けば間違はなし。押しも押されもせぬ愛国者なり。

1 隣の子供の垣を破りておのれが庭の柿を盗めば不届千万と言ひながら、おのれが家の者人の無花果を食ふを知りても更に咎めず。日本人の正義人道呼ばはりはまづこの辺と心得置くべし。

1 近頃の流行言葉大東亜とは何のことなるや。極東の替言葉なるべし。支那印度赤道下の群島は大の字をつけずとも広ければ小ならざること言はずと知れたはなしなり。Greatest in the world などと何事にも大々の大の字をつけたがるは北米人の癖なり。今時北米人の真似をするとは滑稽笑止の沙汰なるべし。

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 児童生徒の「愛国心」をいかに評価するのか。24日の教育基本法改正に関する国会審議では「評価なんか必要ない」とする小泉首相と、「総合的な評価」を主張する小坂文部科学相の答弁が食い違った。
 実質審議入りしたこの日、首相は民主党案にも言及しつつ自らの教育論を自在に語ったが、政府案へのこだわりの薄さも浮かび上がった。
 「こういうことで小学生を評価するのは難しい。あえてこういう項目を持たなくていい」  小泉首相はこの日の答弁で、福岡市内の小学校で使われた「愛国心」をランク付けする通知票に違和感をあらわにした。 (朝日新聞)