狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

員数合わせ

2006-05-20 21:57:16 | 怒ブログ

>イラク南部のサマワで活動する陸上自衛隊の第9次人道復興支援群(群長名略)は19日、隊員の准陸尉(52)が拳銃の弾丸1発を紛失、発覚を恐れて武器庫にあった別の隊員の拳銃から弾を移して隠蔽していたとして、職務義務違反による停職5日間の処分とした。(以下略)

これはMさまの今日のブログでの毎日新聞引用の部分である。昔軍隊の「員数合わせ」は知ってはいたが、まさかイラクサマワであったとは初めて知った。信じられないことだ。

 この「員数合わせ」は、帝国陸海軍ばかりでなく、浅田次郎が自衛隊内部を描いた「歩兵の本領」にも出てくる。しかしその舞台は1970年ごろの話だ。「小村二等兵の憂鬱」がそれである。支給品の靴1足に悩まされる新隊員の憂鬱な日々が、描かれてある。

 演習用に使用したから薬莢をすべて拾って歩くような組織だ。官品の紛失には、ことさら厳しいとある。

以下「小村二等兵の憂鬱」からの引用。

 >和田士長は小村の襟首を掴んで、足が地べたから離れるぐらいまで吊り上げると、怖ろしげな声をしぼった。
「小村ァ、おまえさっき、部屋長を叩き起こしたそうだなァ」
「叩き起こしたなんて、そ、そんな」
和田士長は顔まで筋肉が付いている。5厘の坊主刈にはち切れんばかりの青筋が浮いていた。
「そのうえ、半長靴を員数つけられたそうだなァ」
「は、はい。実は――」
「半長靴には、桜のマークが入ってるの、知ってるかァ」
「はい、知っています。それが何か?」
「今から20年前にはよォ、桜のかわりに菊のご紋章が入ってたんだぞォ。それがどういうものか、オヤジに聞いて知ってんだろ」

和田士長はグローブのような手で小村の襟首を掴んだまま、ずるずると廊下を引きずって行った。非常階段に出る。
「小村二等兵、気ヲ付ケ!」
反射的に、小村は不動の姿勢をとった。
「足ふんばれ、歯をくいしばれ」
とたんに鉄拳が飛んだ。靖国通りのビルのネオンがグルリと一回転した。