経理・経理・経理マンの巣窟

大・中・小あらゆる企業で経理実務経験約40年の蔵研人が、本音で語る新感覚の読み物風の経理ノウハウブログです

税務調査時のランチタイム

2013-07-30 09:06:28 | たそがれ経理マン編

 企業が自主的に選んで監査報酬を支払っている公認会計士は、少なくとも半分は企業の味方と言っても良いだろう。だが必ず税金の申告漏れがあると決めつけて調査に来る国税調査官は、企業にとっては敵対する関係と言ってもよいかもしれない。
 従って企業側としては、税務調査時のランチについては全く無視してもよいのだが、戦国時代からの「敵に塩を送る」という日本的感覚からか、あるいはお役人様へのお目こぼし願望からか、ついついランチの提供を考えてしまう悲しい性がある。だが昔から国税調査官は「お茶は良いけどコーヒーは飲まない」と言われたほどお役人の中でも特に固いと言われる人種であった。だから税務調査中にその企業の人と一緒に外食に出るなんてことは絶対にあるはずがない。また企業側で勝手にランチ弁当などを用意しても、一回目は渋々その代金を支払い、次回は不要だと断ってくるのが常道だ。

 ところがである。調査企業の地方工場への調査時は、旅情気分に浸ってしまうのか、はたまた知り合いの者に見られないという安心感からか、調査作業自体も単調で簡潔になり、外食の誘いにも簡単に乗ってくることが多かった。従って工場経理のベテランたちは、まず工場長に工場の歴史や生産品目について詳しく説明させ、そのあとでじっくりと舐めるように工場見学ツアーを行うのである。
 さらにかなり遠方にある料亭に社有車で案内し、たっぷりと時間をかけて高級ランチをご馳走し、帰り際にはさり気なく地元の名産品を持たせるのだ。その後工場に戻ったら、原価計算のしくみを丁寧に説明していれば、すぐに一日が終わってしまうという仕掛けなのである。そして翌日以降に単純な棚卸洩れのような「翌期認容のお土産」(翌年の費用にずれるだけの罪の軽い税金申告漏れ)を持たせてお引き取り願う、という手順が定石だったようだ。当時はまだ若かったので、この仕組みがよく理解出来ていなかったのだが、企業側も調査官側もある程度は暗黙の了解だったのではないだろうか。

 しかしながら、流石にもう現在ではこうした甘い調査や接待はないはずだ。少なくとも1998年に発覚した「ノーパンしゃぶしゃぶ店」を利用した大蔵省接待汚職事件以降は、お役人たちは身を亡ぼすようなつまらない接待に巻き込まれないよう、かなり慎重になってしまったからである。
 ただ地方の工場へ調査に行った場合は、歩いて行ける場所に飲食店が存在していないため、どうしても会社の社員食堂などでランチを取らざるを得ない。もちろん調査官たちは、自腹を切って食事代金を支払ってゆくので、前述した接待とは天と地の差と言える。だが本社から同行している経理マンとしては、このときに調査官と一緒に食事をするチャンスを逃してはいけない。そしてここでする話は、本社でする固い話ではなく、趣味などを含めたゆるい世間話でよいのである。

 もちろんそんな話をしたからどうだと言うわけではない、だが「魚心あれば水心」と言うが如く、のちのちざっくばらんに話をし易くなることは確かなのだ。それから地方工場調査同行には、もう一つの隠し必殺技がある。
 それは工場調査期間中に、最寄り駅と工場間のタクシー往復同乗である。当然全額を同行経理マンが支払うのだが、調査官たちはランチ代のように本気で「自分の部分」を支払うとは言わない。それには次のような理由がある。
例え一日に数本しか運行していなくとも、路線バスが存在している限り、国税局では調査時のタクシー利用を認めていない。
駅から工場までのタクシー代はかなり高額で、ワリカンにしても数日間の調査期間中に一人一万円近くかかってしまう。
調査官もはじめは、建前上ワリカンにしようと言うのだが、タクシーは一人で乗っても同じ料金なので、出張費に出来る私が払うと言えば、それ以上反論する理由もなくなる。

 と言うことで、ここで若干恩に着せておくのである。ケチ臭いと言われそうだし、こんなことで調査の手綱を緩めてくれるはずはないのだが、ランチタイムの世間話同様、やはり人間は「気は心」で、のちのちの交渉などでギクシャクすることが少なくなるような気がするのだ。もちろん相手は全く何も感じていないかもしれない、だが要は自分がどう感じるかである。自分自身の気持ちに余裕が出来ればそれで良いのだ。そしてそれが自然と良い結果に繋がる場合が多いから、人の人生とは不思議なものである。

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