極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

校舎の桜にケインズ

2013年04月13日 | 時事書評

 


   野島断層

早朝の地震で起こされ、暫くテレビで状況収集し、一時間ほどしてテレビのスイッチを入れそのまま寝
てしまい、学区のグランドゴルフ運営のアシストの仕事に気がついたのは集合時間より一時間都少し目
を覚まし、急いで会場に駆けつけるもこと既に遅し。詫びを入れ後片付けを手伝い帰ってきた。最高の
天候で、小学校の運動場の桜が余りにも素晴らしくデジカメし印象を切り取る。大阪の義姉のマンショ
ンでの揺れは半端じゃなかったと電話があり一週間前から愛犬がいつもと異なり怯えるように義姉の背
中に隠れるような仕草が続きこれが今朝の地震の予兆を感じていたではないかと伝えてきたという-そ
う彼女が話す。野島断層の南側が震源ということで、専門家の間では、阪神大震災の余震の可能性を巡
り議論されているという。今回の発生メカニズムは断層が縦にずれ動く「逆断層型」で、阪神大震災は
「横ずれ断層型」だったことから、「別の断層が動いた可能性」も指摘されている。「震源の場所から
みて、別の断層だとしても、大震災によるストレスを抱えていて今回の地震につながったとみるのが妥
当だ。大震災の余震の可能性も含め、大震災の影響によるものと考えてもおかしくない」と分析。現在、
国が対策の検討を進めている南海トラフ巨大地震との関連は、「南海トラフの地震を引き起こす海底の
プレートのなかで起きる地震ではないので、直接の原因にはなりえない」が「南海トラフの地震はいつ
起きてもおかしくない。その意味では前兆ではないと言い切れないのではないか」という。これほどの
表面波が頻繁に続く環太平洋のプレート移動現象を目の当たりにすると、気の抜けたサイダーのような
TPP通商貿易交渉問題?より、環太平洋諸国間に“地震災害連携会議”の設立が重要だと思ったりす
る。

 


     
                 城郭の 桜の上に かかる月 残す星霜 二人で惜しむ

 


 

 

 



  

  

【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

 

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

 


 【ケインズ経済学の現在化】

さて、ケインズ革命の幕開けを予告した「生産の貨幣理論」と題する論文で、ケインズは古典派理論が
物々交換経済ないし実物交換経済のパラダイムに基づいているのに対し、彼の目指す分析対象が古典派
とは異なる原則と目的に基づいて組織された「貨幣経済」にあることを強調したと渡辺良夫はいう。貨
幣経済では貨幣が枢要な要因となっており、貨幣は経済主体の動機や意思決定に影響を及ぼす。こうし
た貨幣経済思想は、当然のことながら、『一般理論』に引き継がれ『一般理論』の序文や第1章におい
て、古典派理論の基礎となっている前提が現実の世界と大きく乖離しており、実際の貨幣経済の分析に
とって不適切であり、貨幣が「本質的かつ独特な仕方で経済機構に入り込む」貨幣経済の理論は、貨幣
が形式上存在してはいるが中立的な要因であるにすぎない実物交換経済とは、理論構成が根本的に異な
のであると指摘し、デヴィッドソンはケインズの流動性選好説を(新)古典派の効率的市場理論に対
する対抗
軸として捉えていると述べる。それでは、ケインズ理論の流動性選好説とはどのようなものか?

ケインズの貨幣の捉え方は、古典派理論が貨幣を瞬時に行なわれる交換プロセスに配流するのに対して
貨幣を「現在と将来を結ぶ連鎖」(『一般理論』P.293)として生産および投資プロセスに組み込むと
いうもので、貨幣経済において、企業家は不確実性に立ち向かって現在の貨幣を資本資産に投資し、時
間をつうじ資本資産が現在の貨幣額よりも大きな将来の貨幣額の流れを生み出すかどうかを推測する
。こ
うした企業家の投資決意やファイナンスは、不確実性から切り離して論じることができないし、不確実
性に対処するための流動性選好と不可分に結びついている。
これに対し、流動性選好説に冷淡な評価を下
したサムエルソン、クラインおよびヒックスによって開始された新古典派は、『一般理論』の貨幣経済理論を無時
間的な実物交換の一般均衡理論に歪曲(変質)。そのため流動性選好はたんなる貨幣需要という狭い範囲に閉
じ込められ、不確実性や流動性プレミアムについてほとんど言及せず、貨幣需要が利子感応的となりうることを
示す試みに限定されてしまう。その結果、貨幣の非中立性に関する議論は、経済主体が貨幣錯覚に陥いるか(
実質値のみ重要とする公理)、あるいは賃金・価格の硬直性など供給サイドの不完全性や情報の非対称性を想
定する場合に見られる、一時的な非中立性に限定され、長期非中立性のパラダイムは主流の貨幣理論により、
中立貨幣の公理で置き換えられるようになっという。

しかし、ケインズ本来の流動性選好説を追究するスタンスは、デヴィッドソンやミンスキーのようなポ
スト・ケインジアンによって受け継がれ、流動性選好説を『一般理論』第17章で展開された自己利子率
理論に沿って、貨幣から実物耐久財までを含む「貨幣的均衡分析」へ拡張され貨幣理論と資本蓄積理論
との統合される。
もしケインズの貨幣経済理論が流動性選好説を軸として動いていることを理解するには、自
己利子率理論にまで遡って検討しなければならず、自己利子率理論のフレームワークにおいて、さまざ
まな資産
は、それらが提供する貨幣的収益(qi-ci+ai)と流動性プレミアム(li)の組み合わせにした
がって、完全流動資産(貨幣)、流動資産および非流動資産に大きく分類される。貨幣(および他の流
動資
産)に対する収益は、名目価値の安定性からくる資産を自由に処分しうる力に対して、資産保有者が主観
的に評価する流動性プレミアムからなり、その意味で貨幣はきわめて素早く処分することができ、資本価値の損
失から免れるため、最も高い流動性プレミアムをもつ。これらの流動性プレミアムに関する期待は、さ
まざまな資
産の自己利子率の構成におけるliの大きさに依存して、諸資産の自己利子率(限界効率)に
対して異なったインパクトを与える。

 「貨幣的均衡分析と内生的貨幣供給」渡辺良夫、1992

たとえばいま、将来の利潤に関する長期期待に抱いている確信が高まるならば、この場合流動性に割り
当てら
れた主観的な価値評価=流動性プレミアムは低下するであろう。したがって、流動性プレミアム
に収益の多くを
依存する資産に比べて、非流動資産の現物価格は上昇し、その自己利子率=限界効率も
上昇するであろう。このように、現物資産価格が供給価格を超えるとき、たとえば裾野の広い自動車産業を例に
とれば、自動車生産に用いられる固定資本資産は新たに生産されるであろう。こうした固定資産に対す
る投資の増加は、次いで関連する部品産業における生産・雇用および所得を拡大する波及効果を引き起
こし、部品産業の固定資産に対する投資の増加を促す。現物資産価格の上昇によって始発された投資の
増大は、
関連産業だけでなくひいては経済全般に影響が及ぶ乗数効果を引き起こすとともに、資産市場
おけるさまざまな資本資産間の相対価格の調整を生じることになるのである。ケインズも述べているよう
に、「将来に対する期待の変化によって影響される現在の経済の動きを分析するわれわれの方法は、…価値の
基本理論と結び付いて」(『一般理論』P.xxii)、貨幣は産出量や雇用量の決定に深く入り込んでいる。
それゆえに、流動性選好説は資産価格の決定に関与することによって、有効需要の理論と不可分に結び
ついて
いるのである。ケインズ理論が貨幣経済理論であるといわれる所以は、たんに貨幣・金融的な用
語や概念
が用いられているからにとどまらず、貨幣が経済の長期的な状態にまで影響すると考えられて
いる点にあるという。


 デヴィッドソンは、非自発的失業の原因を厳密に評価することに多大な関心を払ってきた。セイ法
 
は、相対価格の適切な変化が経済主体に対して自己の所得から他人の所得ヘシフトさせるという
 意味で、すべての財が互換性のある代替財であるかぎり成立するであろう。消費に支出されない1
 円は、再生産可能な資産の購入に自動的に蓄えられる。すなわち貯蓄はそれ自らの投資をつねに創
 
造するであろう。したがって、粗代替性の公理はセイ法則を復位させ、非自発的失業が発生する論
 理的な可能性を否定するのである。非自発的失業は、実物財やサービスに対する制約された需要関
 数が
原因となって生じるのではなく、むしろ労働によっては生産不可能であるとともに、その需要
 が労働によって生産しうる諸資産に資源を注入させない流動資産に対する需要が原因となって発生
 するの
である。そこでデヴィッドソンは、ケインズが貨幣の基本的性質と呼んだ考えの重要性を強
 調することになる。

 生産弾力性がゼロということは、貨幣需要の増加がその生産への資源の転用を引き起こさない、と
 いうことを意味する。貨幣と生産可能資産との代替弾力性がゼロということは、その需要が増加す
 るとき、貨幣の相対価格の上昇はそうした需要を非貨幣的
な生産可能資産に転換させない、ということ
 を意味する。こうした独特な性質により、貨幣は価値貯蔵機能をもつのであり、こうした貨幣の基
 本的性質は粗代替性公理に対する対抗軸を示すとともに、非自発的失業が存在するための理論的な
 基礎をなしている。粗代替性の公理を拒否することによって明確になるのは、非自発的失業が硬直
 的な賃金が直接の原因となって生じる現象ではない
ということである。

                       ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                    『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


こうした競争的市場の情報をどのように処理して期待形成するかという点が問題となるという。そして、
効率的市場仮説では、経済主体は将来の事象に関する統計的に信頼しうる条件付き確率を割り出すため、
ファンダメンタルズ(基礎的諸要因)に関する情報を収集するものと考えられている。ここでいうファ
ンダメンタルズとは
、現在から将来にかけて企業が生み出す収益のことをさす。証券市場が効率的であ
るためには、株価の長期トレンドは不変の実物部門のファンダメンタルズによって決定されることを必
要とする。証券市場が効率的ならば、そのときに利用できるすべての情報は即座に現在の株価に織り込
まれるので、情報が公開されたあとでは誰も取引により利得を上げることができなくる。効率的市場仮
説によれば,すでに他の市場参加者たちにも利用可能になっている情報に基づいて投資をしても、投資
家にとっては市場の平均を超える利得を得る裁定機会がないということを意味する。

効率的市場仮説は、いわゆる「ランダム・ウォーク理論」と結びつけて考えられてきた。統計学では、
ある変数が上昇するのも下降するのも期待値でみて同じ幅であるという特性をもつ時系列変数は,ラン
ダム・ウォーク過程と呼ばれる。効率的市場では,株価はファンダメンタルズを反映しており一見でた
らめな動きをしているように見えても、実際にはあらゆる情報を織り込んで価格が形成されているので、
既存の情報を利用するかぎり、投資家は市場全体の平均を上回る利得を得ることができない。ランダム・
ウォーク理論では、情報がスムーズかつ即座に価格に織り込まれるので、このようにして形成される現
在の株価は将来の株価を予測するのに最も有用であると考えられている。それゆえに、株価がファンダ
メンタルズを十分に反映していることは、株価がランダム・ウォーク過程にしたがっていることと、株
式に関して市場平均を上回る収益を得る裁定機会が存在しないことを意味している。効率的金融市場モ
デルにおいて,短期のトレーダーは2つのグループ、すなわち合理的なスマート・トレーダーと愚かな
ノイズ・トレーダーからなる。ファンダメンタルズによって決定される本源的価値から乖離する観察さ
れた資産価格変動のボラティリィティーは、金融市場がどのように作用するかを知っていると過信して
ファンダメンタルズから正しい情報を人手しようとしないノイズ・トレーダーがいるために起こるとさ
れる。合理的なトレーダーは、絶えず誤りを繰り返すような非合理的なトレーダーをダーウィン流の経
済淘汰プロセスをつうじて排除するので、最終的には市場価格をファンダメンタル価値に戻すとされる。

指摘するまでもなく、流動性が重要な役割を演じるのは、将来が不確実性にさらされているような環境
においてである。ケインズ=ナイトにしたがうならば、不確実性は定量不可能な性質をもち、定量化し
うる保険数理的なリスクとは区別される。経済主体がこうした環境下で期待を形成しようとするさいに
は、不確実性に対処する「合理的」な方法のひとつは、金融市場参加者の大多数によってとられている
「慣行」に従い、市場で成立している「平均的な期待」に自らを委ねることである(『一般理論』pp.
151-152).。実際の金融市場はさまざまな不確実性にさらされてはいるものの、ケインズによれば、わ
れわれが慣行の持続性を信頼することができるかぎり、こうした慣行的な価値評価は金融市場取引のか
なりの連続性および安定性と両立するのである。もレ贋行の維持を頼りにすることができるならば、組
織化された金融市場における役資家たちは近い将来における情報の変化の危険のみを処理すればよく、
連い将来における投資価値をどのように評価するかという問題からひとまず解放されるであろう。こう
した慣行が破綻しないものと信頼できるならば、役資家たちが期待を修正し意思決定の変更の余地が残
されているものと見なしうる場合、彼らは投資物件の購入がかなり安全なものと考えるようになるであ
ろう。これによって、社会全休としては固定している投資も、投資家個人にとっては流動的な対象物と
なる。このような手続きに基づいて主要な投資市場が発達してきたというのがケインズの見方であり、
市場における投資価値の評価は、企業家の真正な長期期待によるよりも、慣行を頼りに行動する投資家
たちの「平均的な期待」によって支配されるようになる傾向がある。

ケインズは、平均的期待の基礎にある慣行が恣意的で頼りにならないため急激な変化を被りやすいとい
う性質に注目している。こうした慣行の頼りなさを生じさせるものは、専門的な知識をもたない大衆投
資家の増
加、金融市場の過剰反応、市場における群集心理の作用、および玄人投資家相互間の高次元の
期待形成であ
る。よく知られているように、ケインズは、投機という用語を金融市場の心理を予測する
活動を表わすの
に用い、企業という用語を資産の全存続期間にわたる予想収益を予測する活動を表現す
るために充てた
(『一般理論』P.158)。金融市場における活動は基本的に投機的であり、実物資本へ
の投資額や証券の
新規発行額から概ね独立している。組織化された金融市場における取引コストはきわ
めて低いので、投
資家の関心は近い将来の資産価格変動によるキャピタルゲイン(ロス)に絞られるよ
うになった。玄人
筋の投資家は一般群衆の不適切な予想につけ込んだり、あるいは他の玄人投資家を出
し抜くことに主た
る関心をもつようになった。よく組織された流動的な投資市場は、こうした玄人投資
家が群集心理の産
物として生み出される慣行的な価値評価に起こるであろう将来の変化に賭けさせるよ
うになったのであ
る。

ケインズは、こうした流動的な金融市場における投資家たちの虚々実々の駆け引きを、有名な「美人投
」の比
喩にたとえて説明した。すなわち、「玄人筋の行う投資は、投票者が百枚の写真[株式]の中
から最も容貌の美しい6人を選び、その選択が投票者全休の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与
えられるという新聞投票に見立てることができよう。この場合、各投票者は彼自身が最も美しいと思う
容貌[株式]を選ぶのではなく、他の投票者の好みに最もよく合うと思う容貌を選択しなければならず、
しかも投票者のすべてが問題を同じ観点から眺めているのである。ここで問題なのは、自分の最善の判
断に照らして真に最も美しい容貌を選ぶことでもなければ、いわんや平均的な意見が最も美しいと本当
に考える容貌を選ぶことでもない。われわれが、平均的な意見はなにが平均的な意見になると期待して
いるかを予測することに知恵をしぼる場合、われわれは3次元の領域に到達している。


さらに4次元、5次元、それ以上の高次元[の予想]を実践している人もあると私は信じている」(『
一般理論』P.156)。この比喩が意味することは、流動的な金融市場における資産価格形成を理解するた
めには、その投資家の将来利得に関する期待だけでなく、他の投資家が抱いている予想についても理解
することを必要とする。ということであろう。ケインズは、「美人投票」の比喩によって自己の期待と
他者の期待が相互に作用し合う様を巧みに表現した。市場参加者たちは、平均的な期待がどのように形
成されるかについていかなる確信の程度をもっても知り得ないし、また平均的な期待に関する他の市場
参加者たちの期待も確実に推測することなどできない。このように、市場参加者たちが形成する期待は
相互に依存しており、それらをつうじて形成される平均的期待は群集心理や慣行といった脆い基礎の上
に成り立っているのである。

もしポートフォリオを処分しなければならない時期について不確実性が存在するとき、流動性があると
いうことは待別に高い価値を待つであろう。その場合、流動性に価値を認める資産保有者は、得べかり
し収益を手放してでも、流動性を維持するために高いプレミアムを進んで支払うであろう。このように、
不確実性が高まっていると知覚することは、流動性に対する事前的な価値を高め、各種の資産からなる
一定のストックについて、流動性選好が異なった種類の資産に対する需要表のシフトを引き起こし、主
として流動性プレミアムを求めて需要される資産の価格を、流動性の低い資産の価格に比べて、上昇さ
せることを意味する。たとえば、何らかの理由により貸し手リスクが高まるとするならば、貸し手は相
対的に低い流動性を体化した危険資産から相対的に高い流動性を体化した安全資産に乗り換えようと試
みるであろう。デヴィッドソンが強調しているように、こうした通貸間や資産間で起こる「質への逃避
は、いまや流動性選好が高まるさいの典型的な現象として理解することができる。と、こう解説する。

                                       この項つづく

 

 

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ケインズの復活

2013年04月12日 | 時事書評

 

 

 



  

 

【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】  

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン 




【ケインズ経済学の現在化】

ところで、『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』の著者であるポール・デヴィッドソンは
ポストケイジアンに属しケインズ自身の流れを汲みジョーン・ロビンソン、ミハウ・カレツキを代表としては
じまる。カレツキはケインズ・サーカスとは別個に同じ内容の理論を打ち立てたが、のちにイギリスに渡りケ
インズ・サーカスと親密に交流。価格メカニズムに代わるケインズの貯蓄=投資の均衡過程の分析を基本とし
て、新古典派に代替する理論の構築を目指した。元々はケインジアンの主流であったが、価格メカニズムにお
ける均衡を数理的に精密化したアメリカンケインジアンが台頭していくにつれ、政治的に敗れたため傍流と化
した。一般理論の長期化としての経済成長理論、ミクロ理論ではマークアップ原理やカレツキの設備投資理論
の拡張、パシネッティの経済成長理論など一定の成果を挙げる。その反面、インフレ対策として所得政策を支
持するが、ポストケインジアニズムの基礎は、不均衡動学であるため数理的な精緻化が難しく、これが政治的
に不利に働くが、ここ20年来の金融恐慌の再来でポストケインジアンの金融理論の評価が高まる。これに対し、
米国系ケインジアンはケインズに影響を受けたジョン・ヒックス、ロイ・ハロッドの流れを汲みポール・サミ
ュエルソン、ジェームズ・トービンなどが代表であり、一般均衡の枠組みにケインズの有効需要理論を移植し
たものとされ、ヒックスのIS-LM分析がその代表である。経済政策では、政府による有効需要のファインチュ
ーニングを通じ、古典派の唱えた完全雇用と経済成長を実現可能(新古典派総合)と考えた。連立方程式から
なる巨大な線型計量経済モデル用いられた。ケネディ政権のブレーンとしてアメリカの経済政策を左右しノー
ベル経済学賞受賞者を多数輩出した黄金時代があった。しかし、1970年代を通じ、アメリカにおける財政赤字、
貿易赤字と慢性インフレ、失業の共存の経験を通じて理論的に破綻するとともに、マネタリストおよび合理的
期待学派など新しい古典派の理論の復活を前に影響力を失っていく。そのことを踏まえて感じることは、社会
科学を数理経済学、経済物理学あるいは計量経済学的な手法でとらえることは不可能だと考えていて、まして、
線型計量経済モデルなど感覚的に受け入れることができないと考えている。ここではそのことには触れず、ポ
ール・デヴィッドソンの『ケインズ・ソリューション』の監訳者のあとがきをたどり、復権するあるいは復活
するケインズの理由を要約しよう。

【金融危機発生のメカニズム】

 2007年8月、サブプライムローン市場の瓦解に端を発した金融不安は、短期間で収束するであろうという
 楽観
的な見方が支配的であったにもかかわらず、2008年3月には全米第5位の投資銀行ベアー・スターン
 ズが破綻
する金融恐慌に発展した。今回の金融恐慌の主役は投資銀行などの「影の銀行システム」であり、
 銀行一証券
分離規制が「1999年金融サービス現代化法」(G-L-B法)の成立で骨抜きにされることによっ
 て事実上撤廃さ
れ、金融機関は高額の手数料収入を狙う組成販売型ビジネス・モデルに転換するようにな
 った。米国の住宅バ
ブルの膨張・崩壊において,金融機関は本体だけでなく、むしろ規制がほとんどない
 SIVや投資ファンドなどを
つうじて住宅ロ-ンを証券化し、さらに債務担保証券(CDO)などのデリバ
 ティブに組み替えることによっ
て信用を膨張させてきた。金融当局の規制監督が及ばないため、これら影
 の銀行システムは、事実上いくらで
もレバレッジを効かせて信用を膨張させることできたからである。こ
 うして2008年9月、金融恐慌はリーマン・
ブラザーズの破綻でピークに達し、その後まもなくグローバル
 経済は第2次世界大戦後もっとも深刻な危機に
陥った。

 2006年12月末現在の、米国金融機関の住宅ローン残高は9.7兆ドルで、そのうちの約15%が、いわゆるサ
 ブプラ
イムローンといわれていた。1990年代前半までの時期なら、この15%が全額回収不能になったとこ
 ろで、かつて
S&L問題や日本のバブル崩壊後の金融機関問題と同じく、米国のいくつかの金融機関が倒
 産し整理され、たかだか預念者保護の問題が付け加わる程度の災難で終わったことであろう。それなのに
 今回はなぜ、世界中の投資家をも巻き込んだグローバルな金融・経済危機にまで発展したのであろうか。

 それは、この 15年間に、金融のグローバル化(globalization)と証券化(securitizationという、2つの「…
 …化」の進展に表わされる。
経済環境の大きな変化があったためである。経済のグローバル化は、効率的
 市場理論を奉じるシカゴ学派の古典派経済学が、(真のケインズ主義とは異質で、適切なインフレ対策を
 提示できなかった)サムエルソンの新古典派総合ケインズ主義に取って代わり台頭してきた1970年代に、
 始まっている。かれらは、政府の介入のない自由な競争市場こそが最も効率的であると主張し、各国に対
 し貿易や直接投資などのあらゆる市場での規制の緩和・撤廃や自由化を要求し実現させてきた、後でも若
 干ふれるが、1970年代に、ブレトン・ウッズ体制の固定為替相場制を変動為替相場制に切り替えさせたの
 も、かれらであった。金融の分野でも、国内的には、大不況直後制定された、銀行と証券の分離を規定し
 たグラスースティーガル法のなし崩し的な撤廃が椎し進められ、1999年には同法は完全に骨抜きにされた。
 (この年は、くしくもクリントン政権が米国をものづくり大国から金融覇権国家に転身させる決断をした
 とみられる時期と一致している)。

 対外的には、米国金融機関の自由な活動を可能にするような各国金融市場の開放を実現してきた。その結
 果、米国金融機関が、自らの組成した優良・不良の住宅ローン債権等を束ねて担保とする証券を発行する
 ビジネス(すなわち、金融の証券化)を大々的に行なうようになった。またエルゴード性の公理を前提と
 している金融工学の発展が、債務担保証券(CDO)やクレジット・デフオルト・スワップ(CDS)などの
 金融派生商品の開発をつうじて金融の証券化の一層の進展を後押ししたことも否めない。そのうえ格付会
 社は、担保に一部不良貸付債権を含む、この金融派生商品全体を優良と格付けしたため、投資家は安心し
 てこの派生商品に投資した。自由貿易のもとで、オイルマネーなど特定の国々に偏った貿易上の黒字資金
 がそれらの派生商品への投資に向かった面もある。米国金融機関は、これら派生商品を内外の投資家に販
 売することによって、融資金を早期に回収しまた高収益を上げることができたのである。

                        ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                      『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 

 


ところが2004年ごろになって米国で住宅ブームが終息し始め、住宅価格の上げ止まり、さらには下落さえ見る
に及んで、
もともとローン返済資力に乏しく、返済原資を主として住宅の値上がり益に期待していた住宅ロー
ンや、借入当初1~2年は低い金利ながらその後急上昇するような返済条件となっている住宅ローンなどが、
次第に債務不履行に陥り始めた。このように,金融派生商品を、担保として背後で支える原住宅ローンそのも
のの一部が回収不能に陥ったことにより、金融派生商品全体の資産価値の健全性が疑われる結果となり、すべ
ての派生商品からの投資家離れが起こりかつ加速するが。もともとこれらの派生商品には、信頼すべきマーケ
ットメーカーの存在しない市場しか整えられていなかった。この投げ売り価格以外では容易に換金されず金融
派生商品の市場価値が暴落し、この商品を購入していた全世界の投資家や、主に借入金で購入していたヘッジ
ファンドをはじめ関係金融機関も、多額の損失を被り資金繰りも悪化することとなり、債務不履行保険ともい
うべきCDSを大量に販売していた保険会社も、債務不履行の増加で予想外に多額の損失を被る。そしてこれら
すべてが、グローバルな実体経済に深刻な打撃を与えるに至る。これが、たんなる米国の金融機関の不良貸し
が、グローバルな金融・経済危機へ至ったメカニズムだと要約する。


【危機に対する緊急対応策】

そこで、ヴィッドソンは2008年1月という早い時期に提言した金融危機の影響を緩和するための方策が、今で
も有効であるとし、次の対策を提示する。

1.ルーズヴェルト時代の住宅所有者資金貸付公社(HOCL)を復活させ、ローンの返済に窮し差し押さえに直
  面している債務者をリファイナンスによって救済し、また返済不能の住宅ローン債権を抱える銀行からそ
  れらを買い取ることによって銀行を支援すること。
2.ジョージ・W.H.ブッシュ大統領時代の整理信託公社(RTC)を再生し、業績不振の金融機関その他の企
  業の抱えている有毒資産を買い取ることによってバランスシートを改善し企業の再建をはかるほか,再建
  
の見込みの立たない企業の資産を処分して企業を解散させること。
3.大きすぎてつぶせない銀行には、連邦準備制度や財務省をつうじて十分な流動性を供給すること。
4.民間からの需要が不足して失業率が高止まりしている折から、国民の生産性を向上させるものならば、当
  面財政赤字を増やすことになっても財政支出を行ない需要喚起すべきこと(インフレの脅威には課税を活
  用した所得政策で対処)。

その上で、現オバマ民主党政権は、おおむねこのケインズ的考えに基づいた緊急対策を取ってきたものと思わ
れるが、2010年秋の中間選挙で大敗を喫したのは、 経済の回復や失業の減少効果のはかばかしくなかったこと
が一因とされている。経済回復の遅れは、政府のとってきた政策がかならずしも十分なものではなかったとい
うことであるり、まず政府は、HOLCのような独立の政府機関を設立せず、既存の政府県住宅金融公社2社(フ
ァニーメイおよびフレディマック)に買い取りを任せたこ
ともあって、金融機関からの不良債権の切り離しが
徹底されなかった。上記2社は、銀行から買い取ったローンの中に銀行が借り手の年収などをよく審査しなか
ったものがあるとして銀行に買い戻すよう求めており、また証券化商品への投資で損失を被った民間の資産運
用会社も銀行が同商品の裏付けとなる住宅ローンをきちんと審査していなかったとして補償を求め始めていた。
これにより、銀行側には追加的な損失計上を迫られる可能性があり、銀行経営の不確実性が高まると見受けら
れ、銀行は経済回復のための積極的な融資活動に乗り出せず、景気回復が遅れたと考えられる。またRTC(米国
整理回収銀行)
も復活されず連邦準備制度が代行する形となったが、機動性、企業の選別、融資規模などの点で
不適切であったと見られ、最後に将来の国民の生産性を高めうるような財政支出による需要喚起策として、イ
ンフラ、教育、新エネルギーなどの分野が計画されているものの、順調に進捗しているようには見えないこと
や、長年にわたる生産の外部委託により失業率が高止まりする構造により下がりにくい要因として指摘する。 
 

【構造改革】 

デヴィッドソンは、これらを踏まえた構造改革に、第1に、21世紀版のグラスースティーガル法の制定、第2
に、国際決済システムの改革を挙げる。まず第1の新法の眼目は、銀行・証券全般にわたる規制の復活であり、

なかでも再び銀行と証券の業態の分離を厳格に行なうこと非公開の市場で組成された資産(例えば、住宅ロ
ーンや商業銀行貸付など)の公開の市場を創設することを禁ずること。すべての公開市場に十分に資力のある
マーケットメーカーの存在の義務づけなどが重視し、これにより銀行は、融資を行なう際に再び伝統的な3C
特性)の原則に則った市場行動をとらせる。この新法に関連する注目すべき最近の動きとして、議会が2010年
7月、金融規制改革法(ドッド=フランク法)を成立させる。この法律は、金融危機が金融商品と資産に関す
る「インセンティブ(誘因)とモラルハザード(倫理の欠如)」を媒介にして起こるという認識のもとに、

1.「大きすぎてつぶせない」銀行を解散可能にする仕組みの導入、
2.銀行の規模と範囲の制限(伝統的商業行銀行への回帰)、銀行の自己勘定取引禁止、自己資本・レバレッ
  ジ・流動性・リスク管理などの規制強化、報酬規制導入、
3.ヘッジファンド、格付け機関への規制、
4.証券化に関する規制、重要な金融派生商品の集中清算と取引所取引の要求、
5.システミックリスクの監視制度確立、

を規定して、完全とはいえないものの、おおむね本書の提案に沿った制度改革となっていおり、グロ
ーバル化
時代の今日、米国の金融規制がグローバルな性格のものでなければその実効性に乏しいが、欧州での金融
規制
改革とは必ずしも平仄が合っていないよう見受けられ問題は残ると渡辺良夫は解説する。

第2の国際決済システムの改革として、デヴィッドソンは、完全雇用、経済成長と国際的価値基準の長期安定性を同時
に推進しながら、他方で国際収支の不均衡も解決可能な決済システムを目指す。そもそも、ケインズは、自由
貿易、変動為替相場制および国境をまたぐ自由な資本移動が、完全雇用や急速な経済成長とは両立しないこと
があると主張しているが、現在はまさにそのような事態が生じ、現行の変動為替相場割下の国際決済システム
のもとでは、永続的に黒字を出している国がその黒字を他国の生産物の購入に用いず貯蓄し、それを主として
米国
の国債や財務省証券などの金融資産の購入に充てているが、一国内で貯蓄を増やし金融資産の購入を増や
すこと
が失業増をもたらすことになるとのケインズの指摘した現象が、長年にわたり世界的規模で起こってき
ている。そこで、黒字国にその黒字を他国の生産物の購入に使うよう促すことにより、グローバルに雇用を増

やすシステムが必要となるとして、デヴィッドソンは、そのメカニズムの基礎となる仕組みとして、ケインズ
の考えに基づき、

1.会員制の複式簿記記帳を行なう外国為替取引の清算機関の創設と、国際通貨の国際的購買力を維持しなが
  ら流動性を創造し還流させるための合意されたいくつかのルール→①一国が過剰な準備資産を蓄えること
  によるグローバルな有効需要の不足を阻止、②黒字国に収支調整の責務を負わせる。③逃避資本の動きを
  監視、必要とあらば規制,④国際決済流動資産の量的拡大を可能にする仕組み作り-の設定。
2.固定的だが変動可能な為替相場制への移行、

を提案している。その提案によれば、すべての外国為替取引はこの機関を通して決済されることになる。この
清算機関の会員は各国の中央銀行であり、各会員はそれぞれこの機関に預金勘定を設定するものとする。清算
に当たっては、なんらかの計算単位が必要であり、ケインズの「バンコール」にならって、IMCU(国際通貨
清算単位)と称する計算単位ならびに国際的決済手段を創設する。各国通貨はこのIMCU 1単位当たりいくら
であるか、すなわち、1IMCU当たり何ドル、何円、何ユーロか等々が取り決められる。これによって各国通
貨の交換比率は固定されることになる。固定為替相場制たる所以であるが、このレートは、あまりにも多額の
貿易収支の赤字を出している場合や各国内のインフレの亢進や労働生産性の向上などで経済状態に大きな変化
が生じた場合、適宜調整されるべきものとされている。IMCUは、中央銀行によってのみ所有され国内通貨へ
の一方向の交換は保証されているが、国民によっては所有されない。例えば、日本人が100万ユーロのフランス
ワインを輸入しその代金を支払う場合、この日本人は100万ユーロに見合う円を最終的には日本の中央銀行に払
い、中央銀行がその円に見合うIMCUを、清算機関に持っているIMCU預金勘定からフランスの中央銀行の同
IMCU勘定に付け替える。フランスの中央銀行は、IMCU預金の増加分に見合うユーロを、自国のワイン輸出業
者に支払うという形となる。このように決済で生じた黒字は、この清算機関におけるその国の中央銀行のIMCU
預金勘定に預け入れられるという意味で、IMCUは、国際流動性のための究極的な準備資産ともなる。こうして
おけば、投機資金を含むすべての国家間の資金移動が把握でき(運用次第ではトービン税と同じく移動資金の
抑制効果が期待でき)、また各国の国際的準備資産の積み上がり具介も明らかになる。そこであらかじめ会員
である加盟国の中央銀行間で、どの程度のIMCU残高の積み上がりが起こればその支出を促すかについての合
意が得られていさえすれば、グローバルな貯蓄の増加が抑制され、失業の減少をもたらすことができとする。

また固定相場制の採択により国際的基準価値の安定性が確保され、各赤字国には、国際収支の大幅な赤字を続
けるべきではないとの政策ディシプリン(節度)が課されることになる。要するに、ここで提案されているシ
ステムは、国際収支の調整の責務を黒字国に負わせるとともに、自らの所得以上の生活を続けこれを対外借入
によって賄うやり方、なかんずく、中心通貨国の特権を利用して毎年大幅な経常赤字を出すことによって、た
だひとり「無償の恩典(free lunch)」を享受してきた米国のやり方に制約を加えるという。国際協調を前提と
した極めて大局的見地に立ったシステムであるということである。それだけに、米国民がこれに素直に賛意を
表するのかどうかが注目される

なお、デヴィッドソンが提案の中で改革しようとしている現行の変動為替相場制は、それが導入された1970年代におい
てさえ、その主唱者の喧伝しているような効果(国際収支調整効果やインフレ隔離効果)を待たないとの批判があり、ポ
スト・ケインジアンを含む多くの学者も早い時期からされてきたという。



※ 長年、変動為替相場制のパフォーマンスの検証した、山下英次の近刊書『国際通貨システムの体制転換 変動相
場制批判再論』(東洋経済新報社で、「(2010年においても)変動相場制は、いかなる意味においても有効な調整能力を
特っ ておらず、フロート論者の主張は神話である。とりわけ,国際収支(経常収支)は純粋に名目ベースの概念であり、
為替レートに、この不均衡を調整す る十分な効果はほとんどない。……国際収支の調整効果がないとしたら、そもそも、
国民経済的には、したがって、世界経済全休にとっても、為替レー トを、毎日、時々刻々変動させる意味は全くなくなる」
(同書323ページ)と結論されていることを挙げ、最近、無意味とも思われる「通貨安競争」や為替レートの異常な投機的
乱高下を目撃するにつけ、どういう形であれ、現行の変動為替相場制は見直されるべき時期に来ている。
また、自由化
された貿易ならびに国際金融市場のもとでの、仕事の外部委託という問題に関して、古典派の効率的市場理論を 盲目
的に適用することから「悲惨な」結果が起こりうることが認識されるべきであるとして、競争条件の同一化を求めるなど、
何らかの規制の必要なことが提案されている」と指摘している。

                                                                この項つづく

 

 

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桜を光ピンセットで愛でる

2013年04月11日 | ネオコンバーテック

 





今朝もいつもの通りにマイピーシーを立ち上げ、ニュース検索しピック・アップとサイトア
ップ。日付けを確認すると11日、木曜日、へぇ~、もう木曜日か。時間の立つのは早いも
んだと、生き急いだ若いころの焦燥感が戻ってきたかのような思いは、作業が思うように
けない所為と思いつつ、用意してある彼女のレタスチャーハンを口にしながら、テーブルの
上のメモとお金を持ち床屋に出かける。駐車場に行く道の桜が風に吹かれ花弁が帯状に流れ
ている。良い眺めだ。ロードスターに乗り込み、ベルトとサングラスを着用しエンジンを吹
かす。カーステのボーズからイーグルスの“ニュー・キッド・イン・タウン”がかかってい
る。歌詞は“ダリル・ホール&ジョン・オーツ”をモデルとしたとグレン・フライが話す曲
だが朝日と桜とカントリーが違和感なくまったりとわたしとわたしのクルマを包む。ハンド
ルを切ると川沿いの道を太陽に向かって疾走させた。

 

  New Kid In Town

 

There's talk on the street; it sounds so familiar
Great expectations, everybody's watching you   
People you meet, they all seem to know you
Even your old friends treat you like you're something new

Johnny come lately, the new kid in town      
Everybody loves you, so don't let them down  

You look in her eyes; the music begins to play
Hopeless romantics, here we go again
But after awhile, you're lookin' the other way
It's those restless hearts that never mend    

Johnny come lately, the new kid in town
Will she still love you when you're not around ?
There's so many things you should have told her,
but night after night you're willing to hold her,
Just hold her, tears on your shoulder

There's talk on the street, it's there to Remind you,
that it doesn't really matter which side you're on.
You're walking away and they're talking behind you
They will never forget you 'til somebody new comes along

Where you been lately? There's a new kid in town
Everybody loves him, don't they?
Now he's holding her, and you're still around
Oh, my, my

There's a new kid in town just another new kid in town
Ooh, hoo
Everybody's talking 'bout the new kid in town,
Ooh, hoo
Everybody's walking' like the new kid in town
There's a new kid in town  


                                               “New Kid In Town” 

                                                                               music&word by
                                 John David Souther,Glenn Lewis Frey, Donald Hugh Henley

 

  【光ピンセット】

ところで、北海道大学らのグループが、先日、高い強度のレーザービームを集光することで、
焦点
に細胞などの小さな微粒子を捕捉し操ることができることに成功した発表した。これは
光ピンセット(光マニュピュレート)と呼ばれ、すでに市販化されている。生物工学分野で
は広く利用されてきているものだが、どのレベルにあるのかネットで検索した。話は前後す
るが、この光ピンセットで、細胞よりも小さな高分子(タンパク質やDNA、合成高分子など)
を捕まえたり、操ったりすることで、創薬や生物学に貢献でき、細胞よりも小さなこれらの
高分子を、従来の光ピンセットで捕まえ操ることはできなかたというのだが、北大の坪井泰
之らのグループが、特殊なナノ構造を施した貴金属が生む"プラズモン"という電子の"さざ
なみ"を光を当て励起することで、細胞やウイルスよりもはるかに小さい分子や高分子微粒
子を自在に捕捉・操作できたという。


特開2012-063668|3次元共焦点観察用装置及び観察焦点面変位・補正ユニット

【符号の説明】

1:共焦点観察用レーザー 2:対物レンズ 3:焦点面 4:光ピンセット用レーザー
5:ダイクロイックミラー 6:試料 7:下方位置 8:焦点面 9:下方位置 10:
励起用レー
ザー光源 11:共焦点ユニット 12:対物レンズ 13:試料 14:中間
結像レンズ 
15:中間対物レンズ 16:共焦点観察用カメラ 17:ピエゾアクチュエ
ータ 18:赤外レーザー光源 19:光ピンセ
ット駆動用光学系 20:ダイクロイックミラー 
21:ハーフミラー 22:明視野観察用カメラ 23:画像処理プロセス 24:断面像取得プロセス 
25:光ピンセット制御プロセス 26:円柱断面 27:側面 28:円柱断面 29:側面 
30:本体 31:固定腕 32:可動腕 33:円柱状突起部位 34:細胞 35:

小構造体本体 36:可動腕 37:円柱状突起部位 38:リング構造 39:操作対象の細胞

  

 


特開2011-072732|医療用観察システム

【符号の説明

1 医療用観察システム 100 走査型医療用プローブ 144 蛇腹状チューブ 
146 粘着剤 200 プロセッサ 240 タイミングコントローラ 254 DSP

原理は、明るいレーザービームをレンズで集光し、焦点で小さな微粒子を捕捉する技術。金
の微粒子に、特定波長の光を当て、電子の"さざなみ"を起こし(プラズモン励起)、光の力
が1万倍以上に増幅させこの効果を光ピンセットに応用する。光ピンセットの握力も一万倍
強くなると考えられている。これを自己組織化的な手法を用いてガラス基板上に金ナノ粒子
を配列し、鎖状高分子やDNA、高分子ゲル微粒子などの"分子系"のナノ粒子(サイズ10~200
nm)を含む水溶液に接触させ、プラズモンを励起する近赤外光を照射し遠隔アームのように
制御操作する(光学機構についてはここでは書かないので上図のクリックしてもらえば、新
規考案例に掲載されているので読んでもらえればそこそこ理解してもらえると思う)。

なにが言いたいのか?!つまり、これらの技術は「ナノ遠隔操作アーム」(「遠隔」(テレ
メトリ)という言葉は適当でなく、「内挿」という表現が良いのかこの時点ではわからない)
として量子ドット領域の表面加工(ネオコン)には欠かせないと思っている。そんなことを
考えていたら、阪神が巨人に勝ち、就寝時間というわけか。


 

 

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チューリップの粉茶

2013年04月10日 | 医療健康術

 

 

 【能見マートン、1Q84 Book3】

 

 

 

【チューリップの粉茶】

今朝は、日々の疲れの蓄積かスケジュール通りの仕事を果たさず、途中から別のことを考え出し。と
いうよりか、チューリップの「心の旅」の歌と共に25年前ごろの仕事中の思い出が去来したというの
が実のところだ。というのもこのブログを立ち上げてすぐに「医食同源」をテーマに漢方薬、薬草を
調べていたが、いろいろと試してみた結果、緑茶が一番という結論に落ち着いた。釈迦に説法なのだ
が、茶葉に含まれるポリフェノールの一種のカテキン類は、お茶の苦味と渋味成分で、すべての味成
分のうち最も多く含まれている。特に強力なのは抗酸化作用で、ビタミンCやビタミンEの数十倍か
ら数百倍にもなる。その他に、リフレッシュ効果をもたらす爽やかな甘みと旨味成分のテアニン、利
尿や体脂肪分解をうながすカフェイン、そしてビタミンCが含まれる。それだけでない、カテキンの
一種と男性機能不全(ED)治療薬を併用投与することで、正常な細胞を傷つけずにがん細胞のみを殺
し、高い抗がん作用を発揮することが突き止められている(『抗癌最終戦観戦記Ⅰ』)。




今夜はその話ではない。プラザ合意以降のわたしの職場は増産につぐ増産で、文字通り飛ぶ鳥を落と
す勢いだった。記憶は当てにならないが、どういう訳か頻繁にコンタクトするようになった(商売に
余りならないのにだが)。来るもの拒まずで、ソーダニッカの若き営業マンとその後数年間関係がつ
づく。
その彼が静岡出身といこともあり、ある日、お茶の話になりお茶のレクチャを受けていた時、
「茶葉
だけでなく、小枝を含めてミーリングして販売すれば、無駄なく、有効成分の品質も落とすこ
となく
結構な売り上げになるのでは?」と話を持ちかけたことを記憶している。いまでこそ、回転寿
司では
粉茶が当たり前に出されているが、当時は、そんなどころでなく、緑茶の売り上げの最低を記
録する
1992年前の市場状態だったから、話だけで終わるのだが、今ならさらに用途は拡大する状態だ
から、
二人で世界市場をにらみ、飲料水だけではなく医療、畜養の食餌向けに顧客として相当の事業
ができ
ていたはずだとそんなことを考えた。 

 


そこで、粉茶製造機について、リフレッシュ感覚でネット検索する。医療品業界や健康⾷品業界など
で数ミクロンから数10ミクロンの微粉末原料を用いた新規カテゴリー商品の開発や現有商品の付加価
値向上が大きな流れとなっているが、1つには、食材の微粉化が現在の健康志向の高まりに合致した
新たな価値を新商品に付与でき、さまざまな食材をこれまで以上に細かな微粉末にすることで、従来
商品では達成できなかった食材が本来有する有効成分の摂取が可能となり、新商品の魅力的な付加価
値にできる。また食材の微粉化が食品廃棄物低減の有効な手段となり、廃棄物がもたらす環境への負
荷は大きな社会問題で製造過程で、大量発生する食品廃棄物の減少が重要テーマとなっている。高度
な度な粉砕技術、粉砕するときに発生する熱で素材の変性や異物混入可能な限り抑制する微粉砕技術
が求められている。これまで食品原料の粉砕に使用されてきた粉砕機には回転衝撃式、ロール式、媒
体式、石臼式、カッター式などあるが、原料に衝撃、圧縮、摩擦、せん断といった機械的外力を加え
素材を細かく粉砕しようとすればするほど、粉砕時の熱の発生が避けられず食品原料を熱の発生を抑
えて微粉末化することはきわめて困難とされてきた。それを解決する装置が上図のドリームミルであ
る(図をクリック)。 

また、上図(図をクリック)は、植物の生の葉にマイクロ波を一次照射した後、一定の休止期間をお
いて水分と
温度を均してからマイクロ波を二次照射し、次いで粉砕処理することによって微粉末化し、
生葉の葉
緑素を容易に、効果的に摂取又は抽出可能な方法で、生葉全体に均一に内部の水分が外部に
発熱移行
して蒸発させ効果的に乾燥させ、次いで行われる微粉末化処理が円滑かつ効果的に行う。休
止期間を
おくと歩留りが向上し、二次照射による焙煎効果によって香りが増し、また葉緑素や有用成
分の吸収
が容易となり植物の生葉から効果的に機能し易い活性化葉緑素を量産すると共に、活性化葉
緑素を摂
取し易いような生葉の微粉末を簡易な方法で効率的に、均質に製造可能な技術を実現する。
いわば、
電子レンジの大きくしたものを利用するのだが、25年前はまだ電子レンジが普及していな
かった時
代だ。因みに、1966年のシャープ(早川電機工業)の国産初のターンテーブル式のR-600 は
198,000円
だった。

さて、植物の葉に含まれている葉緑素(クロロフィル)は、タンパク質などの頑固な汚れを分解する
作用がある。石鹸やクレンジングなどに配合すると洗顔料などとして適し、小腸の絨毛間を掃除する
ので、小腸内のデトックス効果も期待でき、また、紫外線を防ぐ作用があるので、化粧品などに含ま
せると、肌への進入を防げる。さらに、傷んだ肌の再生を早めるので、皮膚の組織が活性化し、自然
治癒を促すほか、インターフェロンを増やして免疫力を強化する作用やコレステロールの抑制作用も
注目され、加えて、葉緑素の化学式は、人間のヘモグロビンの化学式と極めて近似し、血液サラサラ
作用や造血作用、抹消血管拡張作用、血液をきれいにするので自然治癒力も向上。お茶をはじめ多く
の緑色植物の特徴とする「葉緑素」は植物の「葉」の部分に多く含まれて、今日多くの企業がこの葉
緑素の抽出による健康食品や化粧品、医薬品等への利用を目論み様々な抽出法の取り組みが行われ、
桑の葉の粉末はじめ多くの緑色葉の粉末商品が市販されているが、細胞壁が障害となりその特有とす
る各成分が十分に抽出されない。この新規考案の特徴は、新鮮な植物としての水分が残存した状態の
生の葉から、葉緑素としての効能を発揮し易い活性化状態の生葉粉末と各種生葉特有の有用成分を均
質にかつ安価に抽出採取又は製品化可能なマイクロ波加熱乾燥法を実現すると共に生産した生葉微粉
末の効果的な活用法を実現することにあり、この応用に薬用的有効成分の他、葉に由来する赤、黄色、
紫など花の色素も抽出することができ、この色素原料の粉末化も可能となる。



ところで、その後彼はどうしているか?年賀状が届く程度だが、相当優秀な若者という印象が残って
いる。しかし、余り欲張ってもしかたないが、もっと楽しいビジネスを彼のために展開させたかった
という思いが残った。その当時、金星社(LEG)のプラント建設のスーパーバイズで朴大統領の出
身地の亀尾市の工業団地出張などで忙しくしていたが、そんなときに大阪で彼らと食事して、カラオ
ケでチューリップの“心の旅”を歌っていた記憶がクロスした。

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サッチャーとケインズの国

2013年04月09日 | 環境工学システム論

 

 

 

 


福島第一原発で高濃度汚染水の漏洩が問題になっている。わたしの予測では東電をはじめとし
た地域独占電力会社は4月から原子力部門を国有化し切り離し(発送電分離の法整備はセカン
ドプライオリティ)新会社としてスタートするはずだった。このことは現行政府への求心力低
下となるはずだ。

 

サッチャーが亡くなった。皮肉なことにこのブログでは「新自由主義論Ⅰ」を論考中でサッチ
ャーには批
判的だ。ラージ・システムとしてのフリードリヒ・ヘーゲル的評価としては、米ソ
冷戦構造が生み出した異端の保守主義者となろう。彼女の信念に満ちた政治用語は曖昧そのも
のだ。彼女の“共産主義”批判は、スターリン主義(=アジア専政主義)であり、彼女の新古
典主義経済政策や新自由主義政策は、安直な生活主義には厳しく、国家間戦争や武器輸出とい
う点で安直な国家主義だ。思えば、米国の新自由主義は、へーゲル主義・レーニン主義・無政
府主義(リバタリアン)や後に新保守主義に転向するトロッキズムが影響しているし、民営化
政策はマルクス主義の価値観(非組織労働者>組織労働者、民営>国営、労働>資本、資本>
国家)とクロスするところもある。そして、国際的テクノクラート(エリート階層)による資
本収奪の後遺症からの世界規模での世直し運動が始まっているというわけだ。その意味で、戦
後の一時代を切り開いた特異な政治家だった。
                                       合掌

                                    

 

【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

 
【ケインズ経済学の現在化】


【国際通貨の改革

 【資本規制擁護論】

将来は不確実であるから,どのような時点においても,ある国の住民に自国経済の見通しにつ
いていっそうの不安を感じさせるようななんらかの出来事(束の間のものであろうとなかろう
と)が起こるかもしれない。為替取引の自由な市場システムのもとでは、これらの住民は自国
内の銀行組織からその貯蓄を引き出し、それを自らが安全な避難所と信じる他の国の銀行組織
へ移すことができる。安全な避難所を見つけようとしてある国を去る資金は「逃避資本(flight
capital
と呼ばれる。もし相当数の人びとがその資金を同時に自国経済からこの安全と思われる。
避難所に移そうとすれば、その結果もたらされるのは、銀行の倒産を引き起こす取り付け騒ぎ
と同じものになると
ポール・デヴィッドソンは語る。

 銀行取り付け騒ぎの場合には、通常であれば預金保護政策によってそれを押し止めること

 は十分可能である。不幸なことに、大量の逃避資本のある国から他国の安全な避難所への
 移動は、たんに国内の預金に保険を付けることによっては阻止できない。むしろ、もしこ
 の資金の逃避が巨額といえるほどになるならば、ますます多くの人が、国内で生産された
 財の購入を取りやめ流動的な外貨資産の自らの保有を増やすにつれて、国内経済の崩壊を
 もたらす可能性がある。このような状況は、国内経済にかなりの景気後退圧力を生み出し、
 それによって政府が経済を安定させ景気後退ないし不況に陥らないようにするための経済
 政策に取り掛かるのをより困難にするのである。

 わたくしの案では、国境をまたぐすべての資金の動きはその国の中央銀行および続いてIM
  CU
を経由しなければならないから、国家は、国境を越えるどのような資金の動きをも監視

 することができ、そのような取引がIMCUの帳簿上の中央銀行預金をつうじて処理される
 
をたんに拒否するだけでその動きを停止させることができる。各国は、理由が何であれ、
 そ
のような資金の流出を防ぐことが国民経済の利益になると政府によってみなされるなら
 ば、
資金の流出を制限するのに効果的な政策を策定することができるのである。

                  ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


適正な税負担分を支払うのを避けるために国際的な取引制度を悪用することはできないことをその市
民したがって、例えば第6章で指摘したように、もしそのようなシステムが実現されるならば、米国政府
は、秩序と流動性を保証するための信頼できるマーケットメーカーの制度を欠いている。投資
銀行によって組織される国内金融市場の創設を禁止することができるであろう。この資全管理
条項のもとでは、もし各国の証券取引委員会が金融サービス企業による一定の金融市場活動を
一律に禁止するならば、アメリカの金融サーヴィス産業は、米国の証券取引委員会の規則に従
わない外国の金融サービス企業に利益の奪われることを恐れる必要もなくなるであろう。最後
に、違法な活動得られた資金、自国の徴税吏の追求から逃れるためにある国から他の国へ

移動していIMCUに至るものでなけ
ればならない。その結果、各国はそのような国境を越える取引を監視することができ、その発生を阻止
することができるのである。明らかにこれはIMCU案の重要な側面である。それにより各国は、
だれも自らのような違法な国際的麻薬取引による利益の源をも切り崩すのを可能にするの
であるとこの章をむすぶ。

【ケインズも誇りに思うような文明化された経済社会の実現に向けて】

文明社会とは、その市民を励ましてその行なうどのような試みにおいてもすぐれたものになる
よう努力させるものである。しかしながら、文明社会はまた。その市民がすでに特っているか
あるいは今後伸ばすことのできる特殊技能を活かせる分野で働く機会を、市民に与えなければ
ならない。いやしくもなすに足ることなら立派にやるだけの価値がある。文明社会はまた、社
会で生産を担当している人びとが、他の人びとの欲求についての感受性と共感を持ち続け、他
の人びととの間で公明で誠実な契約上の取引をするよう促すはずである。これらすべての目的
は、すべての人が働き所得を稼ぐ機会を特っている経済システムにおいては、達成が容易であ
る.資本主義経済においては、律義に働きそれに対して正当な所得を得る能力は、労働者その
人だけでなくその家族に対しても自尊心を与えるものであるとし。デヴィッドソンは次のよう
に述べる。


 しかしながら、過去40年のほとんどの期間中、経済政策をめぐる社会に公開された議論は、
 もし利己的な個人が政府の干渉も規制もない自由な市場で社会の他の人びとについて思い
 わずらうことなく事業活動をすることを許されるならば、結果として生ずる自由市場は経
 済を至福の状態に導くであろうという信念によって支配されてきたのである。しかし、金
 融機関の規制緩和は、一方で私利をはかる住宅ローン組成業者、投資銀行およびその他の
 業者たちが、住宅購人希望者たちに(しばしば詐欺的な情報と一緒に)住宅ロ-ンを提供
 することを可能にしたものの、他方でもはやその住宅ローンの返済負担に耐えられなくな
 った数百万の罪のない人びとやグローバルな経済がいっそうの景気後退に陥るにつれて働
 き口を失った多くの無事の人びとに、大きな不幸をもたらしたのである。今望まれること
 は、今日の政治的リーダ
ーたちがこの社会的地殻変動ともいうべき経験から学び、けっし
 て再び自由市場哲学に盲目的に従うことのないようにすることである

 現代の資本主義経済システムにおいては、生産的な仕事を持つことは各市民に尊厳を与え
 る上での重要な要素である。したがって、文明化された資本主義経済システムの最も重要
 な目的のひとつは、働く意欲と能力を持っているすべての人が、安全で健康的な環境下で
 の働き口を確実に得ることができるようにすることである。先の諸章は、民間部門の雇用
 主が、積極的に仕事を求めているすべての労働者を雇用するのに十分な利潤インセンティ
 ブを持
つことができるのを、政府がどのようにして保証することができるのかにいてのケ
 インズの考えを説明した。


 ルーズヴェルトは,政府にはすべての市民に雇用と繁栄を提供する最後の拠り所たる買い手とし
 て演じるべき積極的で強力な役割があるという。ケインズの哲学の威力を明確に理解した最初の
 大統領であった。それでもなおルーズヴェルトは、国家を打ちのめし将来の世代に負担を
 負わせる
国債の恐怖にとらわれていたが、戦争が勃発したとき、そのような懸念は一蹴さ
 れてしまった。巨額の政府赤字によって賄われた戦争に勝つための支出は、政府がつねに
 民間の全就労可能人口に対して完全雇用という幸運を保証する上で積極的な役割を演じる
 ことができるのを明確に証明したのである。

                  ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


ルーズヴェルトの後継者たちは、共和党員であれ民主党員であれ、ケインズがこのような政策
処方茎を提案した最初の人物であったことを必ずしも理解していなかったとしても、経済的繁
栄を維持するためにケインズの発案した政策を採用した。われわれがすでに指摘したように、
トルーマン大統領の政権は、マーシャル・プランを生み出した。この計画で、国際貿易の黒字
国である米国は、貿易不均衡問題を解決するためにその富を使用し、それによってヨーロッパ
諸国がその国民経済を再建するのを助けるとともに、アメリカ人のために輸出産業での雇用機
会を作り出したのである。トルーマンの後
継者であるドワイト・アイゼンハワー(Dwight Eisenhower
は、平時に企てられたものとしては最大規模の公共事業計画のひとつである。全国高速自動車道路
網の建設計画を策定した。この事業は建設業やその関連産業に利潤と雇用をもたらしたばかりでなく、
工場の戸口で原材料を受け取ったり最終製品を市場に届けたりするのをより安価にすることによって、
アメリカの工場の生産性を高める輸送システムを国家に提供したのである。そのような積極的な政府
施策は、米国や自由世界のほとんどの国に繁栄し続ける文明化された生活の場をもたらしたのである
と強調し、その担保としての金融市場の流動性と安定性の維持が不可欠であると説く。

また、1970年代におけるスタグフレーションの出現とフリードマンの自由市場哲学の勝利によ
って、中央銀行と政府は、経済に対して、これまでとは異なったあまり
洗練されているとはいえ
い哲学的アプローチを採択するに至った。例えば、石油輸出国機構(OPEC)によって仕組
まれた原油価格の2回目の急騰後の1979年に、ヴオルカー議長のもとにあった連邦準備制度は、
利子率を2桁の水準にまで高め、多くの企業にとっての利潤獲得の機会を意図的に台無しにし,
大不況以来最も高い失業率を生み出した。米国経済が急速に悪化し自由世界の他の国々の経済
もまた落ち込むにつれて、ガソリンやその他の石油製品に対する需要の著しい減少がみられた。
同時に、非OPECの新しい原油供給が、北海やアラスカのような地域から市場に現れた。0PEC
のカルテルは、これらの挑戦に直面して、それほどの圧力を市場に加え続けることができなく
なった。石油価格は低下し、以後長年にわたって低水準にとどまった。労働者が生計費の増額
を要求し企業がその利潤マージンをインフレから守るために価格を引き上げるにつれて所得イ
ンフレを誘発することになる商品インフレの脅威は、抑えられたかのように見えた。


このように所得インフレの到来を阻止するため意図的に高い失業率を作り出すという、1979年から81
年に至る連邦準備制度主導の政策の肛例から導き出される考えは、単純明快であり自由市場哲
学にも合致するものであった。その構成員が2年ごとの政治的選挙の洗礼を受ける必要のない
独立した中央銀行理事会は、国民が不本意ながらも受け入れざるを得ないような政策をも立案
することができた。これらの政策は、労働者と経営者が自由市場において顧客を失うことなく
賃金や価格を引き上げることができると信じるほど経済が好調なときに解き放
たれるインフレ圧
力を抑えることを、目的とするものであったと思われる。

むしろ、もしインフレが中央銀行家の望ましいと感じている水準より高い場合、雇用主に労働
者を一時
解雇させるために企業にとっての利潤獲得機会の減少を生み出すことを意図的に狙っ
た不人気な金
融引き締め策を中央銀行が実施するという。金融政策が立案されるのがつねであ
った。メロン財務長
官のフーヴァ大統領に対する冷徹な政策提言が、政治権力の中枢部に復活
してきているのである。
体制から不健全な部分を取り除くには企業と労働者の所得を稼ぐ機会を一
掃する必要があった。企業と労働者は、所得を稼ぐ機会を失うことにより、新たな働き口や利
潤獲得の
機会が現れた時、より勤勉に働きより控え目な要求をするようになるであろうという
のである。確かにこれは、21世紀の資本主義システムの経済問題に対するあまり洗練された解
決策とはいえない。


ケインズ・ソリューションは単純であるとともに、間違いなくより洗練されたものである。人
びとが働くことを望んでいるかぎり、政府は人びとが自らの技能に適した働きロを得る機会を
確実に持てるような手段を講じなければならない。もしその国の営利企業が労働者を完全に雇
用して生産できるすべての財・サービスに対する市場需要を生み出すのに十分な民間部門の購
入者からの需要が存在するならば、政府の唯一の責務は、安全な労働条件、製品の安全性要件
などを確保するために文明社会によって制定された法律に、雇用主を間違いなく従わせること
である


国の産業の生産物に対する民間部門の市場需要に大幅な不足がある場合、そしてその場合にか
ぎり、政府は,企業にとって利潤獲得の機会を,また失業者にとって雇用の機会をそれぞれ生
み出すような需要を増大させる上で積極的な役割を演じるべきである。
かなり大幅な景気
後退が差し迫っているように思われ民間部門の購入者がその所得をより多く支出しようとしな
いとき,政府は最後の拠り所たる買い手としての機能を果たすべく介入しなければならない。
それでは政府はどんなものを購入すべきであろうか

ケインズが主張したことは、上述のような場合、国家は生産性を向上させるような活動を国に
もたらす分野への投資を試みるべきであるということであった。ケインズによれば、もし政府
支出が「完全雇用に近い状態を確保する唯一の方法」であると考えられるならば、「政府当局
が個人の創意と協調するようにさまざまな形で妥協し工夫することをすべて排除する必要はな
い」とし、
政府は、通勤者の交通を高速道路上でガソリン燃費の悪い車を使用することから効
率的で信頼性の高い公共輸送機
関に切り替えるのを促進するために、軽軌条鉄道輸送システム
の発展を促すべきであろう。そ
の上うなプロジェクトはまた、地球温暖化を防止しわれわれの
子孫に残す大気汚染を削減し上
うとする国の努力にも寄与するであろうと具体例を示し次のよ
うに述べる。

 
 しかしながら、ケインズも『一般理論』の中で警告している上うに「われわれは著しい分
 別をもっており、思慮深い理財家にそっくり似るようにしつけられており、子孫のために
 彼らの住む家を建て彼らの『金融的』負担を増す上うな場合には、事前に慎重な考慮を払
 うので、われわれには失業の苦難からそんなに簡単に脱出する途がないのである」。借入
 は将来の世代に多額の国家債務を負わせることになるであろうから、政府は雇用や将来の
 世代が使用する上うな生産的投資を生み出すために借金をすべきではないと主張するもの
 がいる。もし政府が後世により少ない国家債務を残そうとして、なにもしないでおくなら
 ば、われわれが生産的な成果を提供しないことによってどれだけ将来の世代を貧乏にする
 ことになるのかを、かれらは理解していない

 明らかに、政府が経済回復のための大規模な支出再建計画によって促進できると考えられ
 る投資プロジェクトの一覧表は、膨大なものになる。これらのプロジェクトの多くは、た
 とえ経済が深刻な不況に陥っていないとしても、投資するのが好ましいものであろう。国
 民の生産性を改善するメリットはあまりにも明らかであるので、投資プロジェクトヘの支
 出の結果として生じる国家債務の規模がわれわれの子供たちにとってあまりにも耐えがた
 い負担となる恐れがあるからといって何もしないで済ますことはできないのである。

 おそらく重要だが政治的に議論となる恐れのあるプロジェクトは、すべての国民にとって

 の健康管理への投資にかかわるものである。米国は、ほとんどの先進諸国とは異なって国
 民すべての健康を守るための国の制度を持っていない。その代わりにアメリカ国民は、い
 ろいろな健康保険制度の寄せ集めに依存している。第2次世界大戦以来、ほとんどの雇用
 者は、主として雇用主によって支弁される民間の健康保険制度によって守られてきた。こ
 れらの制度は、生産物を生産し販売する企業のコストを著しく増加させるに至っている。
 米国の3大自動車メーカーにとって、生産された自動車1台当たりの、雇用者と退職者(
 その健康管理費用もまた負担される)のための健康管理コストは、使用される鋼材のコス
 トよりも大きいといわれている。この事実によっても、とくに一般的に自由な国際競争を
 余儀なくされている今日のような時代において、米国の雇用主がコスト競争の点で外国の
 生産者に比べ大変不利な立場に置かれていることは明らかである。

                             ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
               『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


要するに、政府は、民間部門がよい結果をおさめるのを促すような多くの投資プロジェクトに
資金供給することができるのである。問題は、資金の不足にあるのではなく、決意の不足にあ
る。わたくしは、政府の規制当局者が、公開された金融市場のよく組織化され秩序立っている
ことを社会の構成員に保証する上で、演じるべき重要な役割を持っていることを明らかにする
ことができたと思っている。この保証行為は、自分の退職後の生活向けに流動性のある購買力
を十分に蓄えておくためのみならず、現役として所得を稼いでいる期間中のなんらかの将来の
(予期されているか、あるいは予期されていない)支出の必要性を満たすために、自らの貯蓄
を投資しておくべき金融資産を探し求めている家計を守ることになるであろう。ケインズ・ソ
リューションを実行に移すことは容易なことではないであろう。しかしながら、その解決策は、
近年推進されてきた効率的市場理論、すなわち、グローバル経済を破滅の寸前にまで追い込ん
だ哲学よりも,安定的な繁栄する経済システムヘのよりいっそうの希望を与えてくれるもので
あると述べ締めくくる。
 

 

                                                   この項つづく

 

 

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ケインズにとまどうペリカン

2013年04月08日 | 政策論

 

 

 

 

 

        夜のどこかに隠された
        あなたの瞳がささやく
        どうか今夜のゆく先を
        教えておくれとささやく
        私も今さみしい時だから
        教えるのはずぐ出来る


        夜を二人でゆくのなら
        あなたが邪魔者を消して
        あとを私がついてゆく
        あなたの足あとを消して
        風の音に届かぬ夢をのせ
        夜の中へまぎれ込む

        あなたライオン たて髪ゆらし
        ほえるライオン おなかをすかせ
        あなたライオン 闇におびえて
        私はとまどうペリカン


 

                           詩/曲 井上陽水 “とまどうペリカン” 

                          

ペリカンが胸に穴を開けてその血を与えて子を育てるという伝説があり、あらゆる動物のなかで最も
子孫への強い愛をもっているとされる。この伝説を基礎として、ペリカンは、全ての人間への愛によ
って十字架に身を捧げたキリストの象徴であるとされるこのようなペリカンをキリストのシンボルと
なす記述は、古くは中世の著作にも見つけることができるとか、ペットとして飼育されることがあ
り、人によく馴れ、ときには、主人のもとに魚を持ってこさせたりするほどに しつけることができ
古くは、マクシミリアン皇帝が飼育したペリカンは、80年以上生きたとされているとか、鵜の字は、
日本では鵜飼いなどに用いる鵜を指すが、もともとはペリカンの意であるとか、アラビア語では、水
車についた桶または水酌みを意味する al-qadus がペリカンの意味として用いられていたとか。そんな
ことを井上陽水がつよく意識していたとは思われないが、不思議と揚水ワールドにどっぷり漬かるこ
とができ、疲れた、とても疲れたとき、この一曲を聴き癒している。

 



 



【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

 


【ケインズ経済学の現在化】

  

 
【国際通貨の改革 

【国際決済制度の改革

ポール・デヴィッドソンは、下記の経験から、21世紀の相互依存的なグローバル経済においては、交
易国間でのかなりの程度の経済協力が欠かせないものとなっていると主張し、国際決済制度を改革す
るためのもともとのケインズ案は、単一の超国民的中央銀行の創設を求めていたが、彼はこれとは異
なり、国際金融の新しい制度設計を展開する-ブレトン・ウッズでケインズによって主張されたのと
同じ経済原則の下で機能を果たすべく-超国民的な世界中央銀行の設立を求めることなく、どの国に
も国内の銀行
組織や金融財政政策の実施についての監督権限を超国民的当局者に引き渡すよう要求す
ることの
ないような、より控え目で受け入れられやすい国際的合意を得ることを目指し各国は依然

として、その国民にとって最善の経済的命運を、かりにもその命運が交易相手国の雇用や所得獲得の
機会にマイナスの影響を与えることのないかぎり、自ら決定することができる制度を提示する。


 ケインズ案の根底にある原理を今日の時代に合うよう新しくすることによって、効率的市場論者
 に迎合することなしに、グローバル経済の繁栄を増進し、なおかつ今日の政治的現実にも合った。
 21世紀型の国際金融の枠組みを展開することは可能である。ケインズが記しているように、「[
 社会一般の通念がそうしているように]もしわれわれが、自由放任の方式を信頼してそれに任せ
 さえすれば、均衡を保つ何らかの円滑に機能する自動的な(自由市場の)調整メカニズムが存在
 すると想定することは、歴史的経験からの教訓を顧みず健全な理論の支持を背後にもたない独善
 的な妄想である」。1994年のメキシコのペソ危機以来,実践的な政策立案者の中には、自由市場
 が国際決済分野におけるたび重なる危機を防ぐのに十分ではないことを悟った者もいる、その代
 わりかれらは,そのような危機が起こる時はいつでも、国際金融市場での流動性の急激な枯渇を

 押しとどめ国際的投資家を救済するためのある種の危機管理者の創設を提唱している。メキシコ
 のペソ危機後の1994年に、財務長官のロバート・ルービンが、クリントン大統領に、メキシコに
 対しアメリカの資金を貸し付けることによって危機管理者としての役割を果たし、その結果とし

 ると、タイ、マレーシアおよびその他の東アジア諸国は、それぞれの経済を台無しにした国際通
 貨危機を経験した。1998年には、ロシアの債務不履行がヘッジファンドのロング・ターム・キャ
 ピタル・マネジメント(LTCM)を破綻に導くもうひとつの危機を引き起こした。ニューヨーク連
 銀による素早い措置がなかったならば、その破綻はアメリカの株式市場における暴落を引き起こ
 す可能性があったと思われる(LTCMの首脳陣の中に、効率的市場環境における「適正な」リスク・
 プライシング公式を発見したことでノーベル賞を受けた。マイロン・ショールズがいたことに留
 意されたい。ショールズの公式でさえ、LTCMを投資の大失敗から救うことはできなかったのであ
 る)。

 IMF理事のスタンリー・フィッシャー(Stanley Fischer)もまた、IMFが起こりつつある危機を阻止
 するのに十分な資金を持っていないことを認識していた。フィッシャーは、世界の主要国、いわ
 ゆる先進7力国(G7)が暫定的な仕組みを作り、それによって、国際決済において赤字をこうむ
 っている国が正常な状態に復帰することができるまでそのような赤字国に対する資金提供を劫け
 るための追加融資手段を用意するよう、提案した。赤字国に資金を供給するための先進7カ国グ
 ループによる暫定的な協調を求めるフィッシャーの声は、密集した劇場の中で誰かが火事だと叫
 んだあとで、炎を消すためのボランティアの消防署員を募る行為に等しい。たとえ火事が最終的
 に消されたとしても、多くの巻き添えを食った犠牲者が出ることであろう。さらに、新しい通貨
 危機という火事が起こる度毎に、ボランティアの消防署員である先進7カ国グループは、炎を消
 すために市場にいっそうの流動性を注ぎ込む必要があるであろう。より望ましい目的は、恒久的
 な防火体制を作り出すことであって、新しい危機が起こる毎にますます大きなボランティアグル
 ープの結成を当てにすることではない。言い換えれば,危機管理というよりはむしろ、危機防止
 こそが政策目標でなければならないのである。 

 クリントン大統領が新しい国際金融の仕組みを声高に求めたのは、現在の国際決済システムに恒
 久的な変革と改良の必要があることを暗黙裡に認めていたからである。残念なことに,クリント
 ン大統領の要請は、国やその住民の中には厳しい経済的苦痛を経験したところもなくはなかった
 ものの、国際社会がその苦難を何とか切り抜けることに成功したので、取り上げられるまでには
 至らなかった。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                  『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


会員に限定された複式簿記記帳を行なう清算機関は、いろいろな交易国間での支払い「勘定」の記録
に加え、永続的な貿易不均衡および収支不均衡の問題の解決だけでなく、一国の経済を混乱させたり
グローバル経済を脅かしたりする可能性のある国際金融市場取引を防ぐためにも、相互の合意によっ
て定められたいくつかの規則が必要だとし、デヴィッドソン、この案のもとで設立されるべき新しい
国際機関を、国際通貨清算同盟(lnternational Monetary Clearing union, IMCUと呼称する-輸入のため
であれ、国境を越える資金調達のためであれ、すべての国際的決済はこの清算同盟を経由させ、各国
の中央銀行は、IMCUに預金勘定を設定するものとする。A国居住者がB国居住者に行なうどのような
支払いも、IMCUにおける各国中央銀行の勘定を通して清算させる。IMCUを通じて清算されるとき、
A国の住民からB国の住民への支払いは、IMCUにおけるB国の中央銀行勘定の貸方記入として現れ、
IMCUにおけるA国の中央銀行勘定の借方記入として現れるこの過程は、一般の人びとには複雑なよ
うに見えるかもしれないが、米国内のある地域(たとえば,カリフォルニア州)の住民が、他の地域
(たとえば、ニューヨーク州)の住民に支払いを行なった場合の小切手を清算する方法のたんなる国
際版にすぎないもので、小切手は、米国連邦準備制度によって設立された手形交換所をつうじて清算
されるものだとし、このIMCUは、ケインズ案を21世紀のグローバル経済にも当てはまるように改良
したもので、これを機能させるには、あらゆる種類の国際金融問題を取り扱うための少なくとも8つ
の技術的提案を必要とするが、ここでの議論の目的を考え、これらの技術的な詳細に立ち入らず、そ
の代わり、永続的な貿易収支の不均衡と国境をまたがる破壊的な資金移動の起こらないようにしなが
ら、他方でグローバルな完全雇用と経済成長を促進するよう企図されたIMCUによるケインズ・ソリュ
ーションに含まれる原則を詳しく解説する。このIMCUの3つの目的は、以下の通りである。

1.ある国がその国際的に稼いだ所得からあまりにも多くを貯蓄することによって過大な遊休外貨準
  備を保有している時はいつでも、流動性問題が原因で産業の生産物に対するグローバルな有効市
  場需要の不足が発生することのないようにすること。言い換えれば、このIMCUは、グローバルな
  完全雇用を確保するのに役立つような利潤インセンティブを輸出産業において生じさせるための
  十分なグローバルな支出を促すはずである。
2.国際貿易の不均衡を是正する主な責任を、永続的に貿易黒字を出している国に負わせるための自
  動的メカニズムを用意すること。
3.各国に、以下のような資金の自国からの移動を監視でき、もし望むならば、管理できる能力を与
  えること。

  1.自らに課せられる税金逃れのために、国境を越えて移動する資金および貨幣
  2.国外逃亡を図る、違法な事業によって稼いだ所得
  3.テロリストに活動資金を提供するために国境を越える資金

この議論にとって関連の深い最も重要な原則は、項目(1)と(2)の原則であり。IMCUシステムは、
輸入を超える輸出によって永続的に貿易黒字を出しているどのような国に対しても、IMCUにおけるそ
の国の預金勘定に預け入れられた流動的な外貨準備資産のうちで、(前もっての)国際社会の合意に
よって「過剰な」預金残高(貯蓄)であるとみなされる部分を支出するよう促す自動的メカニズムを
持だなければならない。これらの蓄積された預金(国際的取引で稼いだ所得からの貯蓄)は、債権国
が外国の産業の生産物を購入するのに使用することができたにもかかわらず、そうせずにIMCUへの
預金の形での外貨準備を増やすことに用いた資金を表わしている。このことには、ある国がIMCUへ
のその預金勘定に過剰な残高を保有しているとき、これらの過剰な預金残高はグローバル経済のどこ
かで失業問題や企業にとっての利潤獲得の機会の不足状態を生み出しつつあるという認識が必要であ
る。もし債権国がその過剰預金残高を支出するならば、この支出は世界中で利潤獲得の機会と労働者
の雇用を増加させ、それによってグローバルな完全雇用を促進するであろう。ケインズ・ソリューシ
ョンは、債権国にこれらの過剰預金残高を次の3つの方法で、すなわち

    1. 他のどのようなIMCU加盟国の生産物に対して、
    2. 他のIMCU加盟国内における新規の海外直接投資プロジェクトに対して、あるいは
    3. 赤字のIMCU加盟国に、マーシャル・プランと同じような海外援助を提供する形で

支出するよう促すことにしている。債権国は、これら3つの方法のどのような組み合わせをも自由に
選んで、IMCUにおけるその過剰な預金残高を支出してもよいとされる。過剰な預金残高を他のIMCU
加盟国の生産物に支出することは、黒字国に、他の国々における利潤と雇用を作り出すよう促すこと
になる。このことは、輸入超過の貿易収支を経験しており輸出品を超える輸入品の購入のために外国
人から借入をしている国民や企業にとって,より多くの所得を意味する。要するに、このような支出
は、赤字国に対して、自らの債権者に追加的に輸出品を販売することによって追加的な所得を稼ぎ、
その結果として徐々に国際的債務の解消を図る機会を与える。

海外の直接投資プロジェクトヘの支出においては、IMCUに過剰預金残高を持つ国には、赤字国内に工
場や機械設備を建設し、それによって赤字国内の建設産業における利潤や働き口や所得を増加させる
必要がある。もしこの海外直接投資を受け入れる国が後進国であるならば、この海外直接投資支出は、
その国の諸施設を21世紀基準に合ったものに築き直すのに役立つことであろう。海外援助支出は、赤
字国に対しその債務負担を軽減するため、あるいはさらに借金を重ねることなしに外国の生産者から
追加的にその生産物を購入するため用いることのできる「贈り物」を提供することである。これら3
種類の支出代替案は、黒字国に、貿易収支および国際収支の不均衡を是正する主な責務を引き受ける
よう促すものである。にもかかわらず、黒字国には、どうすれば自国民のためになると信じるやり方
で調整の責任を引き受けることになるのかを決定するにあたり、かなりの選択の自由が与えられてい
る。しかしながら、黒字国が赤字国にいっそう貸し込みを図り、赤字国にその支払い能力とは無関係
に契約上の追加的な債務返済義務を課すことによって、責任を債務国に転嫁するようなことは許され
ないと説明し次のように強調する。


 重要なことは、黒字国による継続的な過剰貯蓄が国際流動性準備の形をとって他の国々に不景気
 をもたらすような経済的影響力をまき散らしたり、あるいは21世紀のグローバル経済を貧しくす
 るほどに重い国際的債務を累増させたりするのは許されない。ということを明確にすることであ
 る。黒字国が「過剰」とみなされた預金残高を指定された期間内に支出ないし供与しない場合に
 は、IMCUの運営者は、預金残高の内の過剰とみなされた部分を没収する(とともに加盟債務諸
 国間に再分配する)ことになるであろう。この最後の手段は,ある国の保有している過剰流動性
 に対して100%の税金をかけるのに等しい。継続的に過剰な流動性を保有していることは、貿易
 赤字を出しているひとつあるいはそれ以上の国で永続的に過大な失業が存在していることを意味
 する。もし黒字国がその過剰に保有する黒字分を支出しないならば、それらを没収し債務国に与
 えることは、後者のメリットになるであろう。もちろん、過剰な預金残高を保有している国は、
 もしそれを支出しないならば、税率百%の税金が掛けられることを十分承知しているので、この
 没収ともいえる課税がなされなければならない事態はまず起こりそうにない。


 固定為替相場制のもとであろうと変動為替相場制のもとであろうと、各国はどれだけを輸入する
 かを自ら決定する自由を持っているので、国によっては、たんに交易相手国が身分相応の暮らし
 をしないために、すなわち、それらの国が海外への輸出収入の一部を海外の企業の生産物に支出
 しないで継続的に貯蓄する(保蔵する)ために一永続的な貿易赤字を経験するところも出てくる
 ことであろう。これらの過剰貯蓄国は、そうすることによって、世界の産業が生産することので
 きる製品に対するグローバルな市場需要の不足を引き起こしているのである。

 債権国に過剰な預金残高を払い出すよう要求するこのケインズの原則の下では、他の国々が非常
 に大幅な過剰貯蓄をしているからといって、赤字諸国が自らの輸入を減らしそれによって国際収
 支の不均衡を是正すべく緊縮政策をとり国民の所得を削減する必要性はもはやないであろう。む
 しろこのIMCUシステムは、赤字国がその生産物を海外へ有利に販売でき、それによりさもなけれ
 ばますます悪化していく債務者の立場からの脱却を図る機会を増やすことによって、国際収支上
 の赤字を是正しようとするものである。

 最近、グローバルな金融危機がより深刻になるにつれて、各国は、おそらくIMFと世界銀行の機
 能を拡大するなど現行システムをへたにいじくりまわそうとすることが、かえって目下進展中の
 国際貿易および金融決済問題を解決することにはならないことを思い知らされることになるであ
 ろう。ここ数年の間に、問題を終息させるための応急手当てが無駄な試みであったことがわかり、
 国際通貨制度は困難な事態に立ち至りつつある。世界は、米国が1944年にブレトン・ウッズでケ
 インズ案を拒否したとき、ひとつの絶好の機会を逃してしまった。再び巡ってきたこの機会を、
 われわれはぐずぐずして逃すようなことのないようにしたいものである。2009年のオバマ大統領
 の経済再生計画がアメリカ経済を復活させ始めるならば、米経済は再び世界の成長の原動力とし
 ての役割を果たすことになるのかもしれない。しかしながら、その結果としてもたらされる輸出
 を上回る輸入の超過は、米国の国際収支の不均衡問題をより重大なものにし、多くの人が最も流
 動性が高く安全な避難先である外貨準備資産としてのドルの地位の劣化を恐れるような雰囲気を
 醸し出すかもしれない。そのような恐れは、グローバルな金融市場を混乱させ、グローバル経済
 をいっそう景気後退に陥れる可能性がある。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                  『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


以上のように主張し、ポール・デヴィッドソンは、かりにそのようなことが起こるとしたら、国際貿
易および国際決済システムの改革は、これまでにもまして必要とされるであろう。主要国のリーダー
たちが、グローバル経済の回復を促進し繁栄の時代を取り戻すために、IMCUのようなケインズ案を基
礎にした改革案を採択する必要性のあることを明確に理解してくれることを願うと述べる。

 

毎日、彼女が用意してくれている朝食。何気ない日常の中から「感性の赴くまま」に「美しさ」を切
り取ることも面白のではないかと前々から考えていたが、それを行動にした。気取らずに、完璧なも
のとして編集する技(わざ)。しばらくそんなことをやってみようと。

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欲望の連立方程とケインズ

2013年04月07日 | 時事書評

 




【気候変動対策という公共事業】

自治会のグランドゴルフ大会当日の態度決定が、この乱調で気を揉まし、日曜の早朝から落ち着かない。
ようやく七時半に「中止」のメールが入り急いで参加予定者へ彼女と二人で連絡に回る。それでも六時
起きで、ホームページ作成とネットニュースをまとめ、あれこれしているとたちまち昼を過ぎてしまっ
ていた。“嵐の時代”である。テレビで解説する若い学者はあいもかわらず、神学論争ならぬ、なんら
の対案をも提示せず自説のみを語っている。いろいろ書き上げてサイトアップする課題があるものの、
国際先端技術総合研究所の「ナノ二酸化ケイ素の人工水晶を用いた太陽電池」について調べサイトアッ
プを行う。

 

この技術は、千ルクス以下の低照度で起動する高機能型光発電素子で、赤外線によるデータを送信シス
テムに採用し、一定の光さえあれば太陽光がなくても発電できることを実証。多目的センサーとして
用可能だという。この企業は早稲田大学の逢坂研究室と共同で、ナノ二酸化ケイ素の人工水晶を用いた
太陽電池
の開発に世界で初めて成功している。この人工水晶を用いて低照度でも太陽電池を起動できる
ように改良した。光発電素子部は主に人工水晶と無機色素の積層構造。気温・気圧の測定センサ、デー
タ送信・受信部を組み合わせたシステムを製作した。

 
特開2012-234693 ソーラーセル
【符号の説明】

11,17 基板 12,16 透明導電膜 13 多孔質二酸化チタン焼結体 14 電解液 15 対向
電極 18 封止材 19 負荷 20,21 二酸化ケイ素粒子 22 ルテニウム錯体色素

この構造は、色素増感型太陽電池(光電変換層は、酸化チタン+ルテニウム錯体色素)対向電極に人工
水晶(二酸化ケイ素粒子)層を形成させるか、光電変換層を除いて沃素系電解液は使用する(下表の図
5が人工水晶のみ、図6は光電変換層と人工水晶)。図6はガラス粒子の図4の約20数倍、人工水晶粒
子の図3の約5倍変換効率が良くなっている。これに対し、図5より色素増感型の図6の方が約50%良
くなっていることが分かる。
 

これで(1)人工水晶粒子がナノレベルにダウンサイジングすることで変換効率が向上し(2)このこ
とで製造コストは、真空処理工程で製造されるシリコン系太陽電池(=光電変換素子)の百分の1以下
のコストダウンで作れ(3)太陽光などの自然光だけでなく人工光(照明など)を吸収し発電するとい
う特徴をもつ。 

※色素増感型太陽電池の事業開発の少ない経験から言えば特殊な分野には充分に有効だと考えている。
その反面、量子ドット系薄膜型太陽電池の事業開発は当面、真空処理工程は外せない都考えている。
従って、先ずは、30%以上の変換効率をもつレジリエンスのあるコア電源(『資本再蓄積下のケインズ』)
としての確立がファーストプライオリティで、その製造システムの脱真空処理系ロールコータ方式の確
立がセカンドプライオリティとなると現在では考えている(真空処理技術には他社との合弁化を構想し
ていたこともあった)。
 

   



【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン


【ケインズ経済学の現在化】

 

 

 

 【国際通貨の改革

【ブレトン・ウッズの解決策

ここで、ポール・デヴィッドソンの主張-これまでの古典派理論の影響を通商貿易のもとでは、米国を

はじめとする先進国内の労働の外部委託によるリストラ、研究開発へのサボタージュや産業の空洞化(
東洋への工場移転)や貧富格差の拡大を招き続けたとの批判-には、単に東洋の労働賃金(=労働条件・
生活水準)だけではなく、情報通信とした科学技術革新により多くの格差、あるいは資本による収奪を
進行させたことを過小評価させてはならないと強調し、国際貿易のケインズ・ソリューションの考察を
する。


 

 第2次世界大戦が終わりに近づきつつあったとき、戦勝連合国は、ニューハンプシャー州のブレト
 ン・ウッズに会議を招集した。このブレトン・ウッズ会議の目的は、戦後の国際決済制度を立案す
 ることであった。ケインズは英国側の首席代表であった.1944年のブレトン・ウッズ会議における
 ケインズの見解は、自由変動為替相場制の望ましさについての古典派の考えとは対照的に、国際貿
 易と国際金融に対する古典派の取り組みには、お互いに両立しがたい命題が含まれているというも
 のであった。ケインズは、自由貿易、変動為替相場制および国境をまたぐ自由な資本移動を認める
 ことが、完全雇用や急速な経済成長とは両立し得ないことがあると主張した。ケインズは、問題に
 対する古典派のアプローチに代わるもうひとつ別の案を提示した。この代案は「ケインズ案」と呼
 ばれる解決策であり、国境をまたぐ資本移動の規制を導入することを国に認める一方で、国際貿易
 や資金の流れの仕組みをグローバルな完全雇用や力強い経済成長と両立せしめるような取り決めで
 あった。

 ブレトン・ウッズ会議の席上、ケインズは、どのような伝統的な国際決済制度-それが固定為替相
 場
に基づいていようと変動為替相場に基づいていようとの「失敗の主な原因」も、それが、交易国
 間で永続的な貿易収支の不均衡が生じているときはいつでも、持続的な経済発展を積極的に促進す
 ることができない
ということにあると主張した。ケインズが記しているように、この失敗の主な原
 因は、ただ
ひとつの特徴に求めることができる.このことには深い注意を払っていただきたい。と
 いうのは、金本位
制に代わって成功するいかなる制度の性格も解く手がかりはここにあるとわたく
 しは言いたいからである。
自由兌換の可能な国際金本位制度の特徴は、調整の主な負担を国際収支
 上の負債ポジションにある国-
換言すれば(国際収支という点で)それとは反対のポジションにあ
 るその他の世界諸国と比較して、(ここで
の文脈では)より弱く、かつより小さいとみられる国-
 に負わせるというところにある。

 ケインズの結論は、調整の主たる責務を債務国から債権国に移管することが、どのような国際決済
 制度の立案に際しても絶対に必要な改良点であるということであった
。このように永続的な貿易の
 不均衡を解消する責任を、自らの輸入額を超える輸出額を永続的に経験している国に転嫁するのは、

 ケインズの説明によれば、世界貿易を圧迫する縮小主義から拡大主義に変えることになるであろう
 とのことである。経済発展の黄金時代を達成するために、ケインズは、固定的だが調整可能な為替
 相場制度と以下に述べるあるメカニズムとの併用を勧めた。そのメカニズムとは、
輸出超過の貿易
 収支を「享受している」国に対しその貿易不均衡を解消するのに必要な力のほとんどを引き受ける
 よう要求する一方で、「貿易赤字国に対し自らに許された新たなゆとりを無駄にしないような十分
 な自己
規律を保たせる」メカニズム
のことである。

 第2次世界大戦後,戦争で破壊されたヨーロッパの資本主義諸国は、自国民に食糧を与え自国経済
 を再建するための十分な生産を行なうのに利用可能な戦争被害を免れた生産資源を十分には持って
 いなかった。経済の再建には、ヨーロッパ諸国が復興のための経済的必要を満たすべく米国との間
 で巨額の輸入超過を出す必要があった。ヨーロッパ諸国は、ほとんど外貨準備を持っていなかった。
 (外貨準備とは,戦争で荒廃したヨーロッパ諸国が、当時輸出品を生産するのに十分な生産能力を
 持っていた唯一の外国-米国-から輸入品を購入するのに使用できるドルを得るために売却するこ
 
とのできた流動資産のことである)。

  米国からの必要な輸入品を得るのに分な外貨準備を持たない場合、唯一考えられる代替策は、ヨー
 
ロッパ人に食糧を供給しその経済を再建するのに必要な米国の輸出品を購入する代金を調達するために
   米国から巨額の借入をすることであった。しかしながら、米国の民間部門の貸し手は、一次世界大
 戦後の戦勝同盟諸国へのドイツの賠償金支払いが、主としてアメリカの民間投資家のドイツヘの貸
 付によって賄われたこと(いわゆるドーズ案)を忘れてはいなかった。ドイツはこれらのドーズ案
 に基づく借入金を一切返済しなかったのである。このような過去のいきさつや目下の情況を前提と

 すれば、民間の貸出機関が第2次世界大戦後のヨーロッパの復興に必要な資金を提供してくれそう
 にない
ことは明らかであった。

 1944年のブレトン・ウッズ会議に提出されたケインズ案は、最大の債権国になることが明らかな米
 国に対し、戦後のヨーロッパ諸国の米国よりの輸入品への需要から生じた貿易不均衡を解決する責
 任を負うよう、求めるものであった。ケインズは、米国がヨーロッパ諸国に100億ドルの資金提供を
 しなければならないだろうと見積もっていた。ケインズ案は、ヨーロッパ人に対するこれらの資金
 を、米国に提供してもらうための、いつでも動き出せる仕組みを用意していた。しかしながら、ブ
 レトン・ウッズ会議の米国側の代表、ハリー・デクスター・ホワイト(Harry Dexter White)は、米
 議会がけっしてケインズの必要と見積もった百億ドルを拠出することはないだろうと主張した。ホ
 ワイトの主張したのは、その代わりに議会は、この戦後の国際金融問題を解決することへの米国の
 負担金として、30億ドルを限度として拠出する用意があるということであった。

 ブレトン・ウッズ会議の米国代表団は、最も重要な関係者であった.会議で展開されるどのような
 案も、もし米国代表団がそれに同意しなければ、何事も進まないことは明らかであった.米国代表
 団はケインズ案を拒否した。その代わりに、米国案は、国際通貨基金といわゆる世界銀行の設立を
 提案した。米国案では、IMFは、輸入超過の貿易収支に陥っている国々に対し、短期融資を行なう
 ことが構想されていた。これらの融資は、債務国に、経済状態を正常に復し輸出より輸入の多い状
 態を止めるための時間的ゆとりを与えるものと想定された。米国は、IMFの融資制度への分担金と
 して最大30億ドルを拠出することとされた。世界銀行は市場から資金を調達する予定であった。そ
 してこれらの資金は、当初は戦争で破壊された国々に対し、のちには後進諸国に対し、資本設備の
 再建や改良のための長期貸付金を提供するために用いられることとされた。この案は基本的に、ブ
 レトン・ウッズ会議で採択された制度的枠組みであった。

 米国案のもとでは、IMFや世界銀行からの国際的融資は、戦争で破壊された国が、第2次世界大戦
 後直ちに必要とするような、米国からの莫大な量の輸入品の資金手当てのために唯一利用できる資
 金源であったが、IMFも世界銀行もともに、ヨーロッパ諸国が必要とする額の貸付をするのに十分
 な資金を持っていなかった。かりにこれらの機関が十分な貸付を行ない得たとしても、ヨーロッパ
 諸国は、巨額の国際的債務を負わなければならなかったであろう。ヨーロッパの選挙民は,再建の
 ために必要な巨額の国際的借入債務に直面するくらいなら、共産主義体制を選ぶかもしれなかった
 のである。

 共産主義がソヴィエト連邦から西側に広がらないことを確実にするために、1947年に米国は、海外
 援助として18ヵ月にわたって50億ドル、4年間にわたって総額130億ドルの資金を提供するマーシャ
 ル・プランを策定した(この額は、インフレを勘案すれば、2008年時点のドル価額で約1,500億ドル
 に相当する.)被援助国は、マーシャル・プランの資金を返済するなんらの義務も負わなかった。マ
 ーシャル・プランは本質的に、戦争で破壊された国々に対する130億ドル相当のアメリカの輸出品の
 4年間にわたる贈与であった。マーシャル・プランにより、被援助国は、米国の年間総生産額の2
 %に相当する米国の輸出品を、1947年から1951年までの4年間にわたり購入することができたので
 ある。しかし米国の住民のだれ1人も貧しくなったと感じたことはなかったし、マーシャル・プラ
 ンが、アメリカの家計に対しなんらの実質的な犠牲を強いたわけでもなかった。アメリカの家計の
 所得は、マーシャル・プランの期間中も伸び続けたのである。

 戦争が終結するやいなや、政府の軍事支出は大幅に減少し、このことだけでも戦後の重大な失業問
 題を生み出していたかもしれない。この軍事支出の削減を相殺したのがマーシャル・プランの資金
 であり、被援助国はその資金をアメリカの輸出品の購入に使用し、それによって、
ちょうど数百万
 人の成年男女が兵役から解放され就労可能人口に加わったまさにそのときに、米国輸出産業におけ
 る雇用の増加を促進したのである。(さらに、アメリカの労働者が戦時中に稼いだ高所得から支出
 せずに閉じ込めていた消費者需要は、消費支出の大幅な増加をもたらした。)米国はその歴史上初
 めて、大きな戦争の終結直後の支出不足による厳しい景気後退を披らずに済んだのである。

 むしろ、米国もその他の世界のほとんどの国も経済的な「無償の恩典」に浴したといえる。将来債
 務国になりそうな国も債権国になりそうな国もともに、巨額の実質的経済利得を得たのである。こ
 のマーシャル・プランの経験から汲み取るべき教訓は、債権国が貿易および国際収支の永続的不均
 衡を解消する責務を引き受けるならば、その結果として赤字国と黒字国の双方が勝ち組になるとい
 うことである。このことの含意は、米国がここ数十年の間貿易赤字を出しており、日本、インドお
 よび中国が自らの経済を成長させるために輸出超過を出すことに頼っている昨今の国際貿易状況に
 とって、明白である。

 しかしながら、1958年の時点では、米国はなお年間50億ドルを超える財・サービスの輸出余剰を上
 げていたが、米国政府の海外および軍事援助は60億ドルを超え、他方16億ドルのネットの民間資本
 流出があった。すなわち、米国の輸出品への外国人の支出による流入額よりも総額で26億ドルも多
 い資金が米国から流出しており、戦後の米国国際収支の潜在的な黒字状態は終わっていたのである。
 他の国々は、国際収支の黒字を経験し始めていた。これらの黒字収支国は、その黒字を米国からの
 輸入品の追加的購入に費やさなかった。むしろそれらの国々は、その余剰ドルを米国連邦準備制度
 から金準備の形での国際的流動資産を購入するのに用いた。同時に、復興なった欧州と日本は輸出
 品の重要な生産者となり、その他の国々は米国の輸出産業にさほど依存しなくなった。

 1958年だけでも、米国は20億ドル以上の金準備を外国の中央銀行に売却したが、他方欧州へのアメ
 リカの輸出は大幅に落ち込んだ。その結果、米国経済は景気後退に陥り,他の国の経済も直ちに景
 気の後退を示した。1960年代に、貿易黒字国はその輸出超過額を、国際市場で流動性タイム・マシ
 ンとして使用できる米国の金準備への需要に転換し続け、黒字諸国が米国の金準備を枯渇させるに
 つれて,ブレトン・ウッズ体制と経済発展の黄金時代を崩壊させる種はまかれつつあったのである。

 1971年に、リチャード・ニクソン大統領は,ドルを稼いでアメリカ製の財を購入せずに金を購入し
 たいと思っている外国に対し、米国政府がもはや金を売却しないと宣言した。要するに、米国は一
 方的に、ブレトン・ウッズ協定から離脱したのである。1971年には、債権国が永続的な貿易不均衡
 を是正する大きな責任を負うべきであるとする。国際金融へのケインズの開明的なアプローチの最
 後
の痕跡すら忘れ去られてしまうに至った。

 それ以来、他の国々が世界最大の消費財市場である米国に対する輸出品販売の継続的拡大に基づく
 経済成長政策を追求するにつれて、米国は貿易収支の悪化を示しがちとなった。輸出産業は多くの
 国の経済、とくにアジアの経済を支える背骨であった。アメリカ人が、外国人向けに輸出するより
 多額の輸入品を外国人から進んで購入するかぎりでは、米国はこれらの輸出国の成長を剌激した。

 しかしながら、米国が2008年に大不況以来最大の経済危機に陥ったため、アメリカ人は輸入品に対
 する支出を大幅に削減した。の結果、経済成長を輸出に頼っている国々は、ただちに景気後退に陥
 った。例えば、2008年の第4四半期についていえば、日本の国内総生産は輸出の急激な落ち込みに
 より12%以上も減少したのである。

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


このように歴史的経緯をふまえながら、デヴィッドソンは、現在の国際貿易と国際決済制度は、このよ
うな不景気の波のグローバルに広がるのを可能にし、また実際に助長しているため、1944年のケインズ
案は、ある国で起こるかもしれないどのような景気後退や金融市場の失敗も他の国々には波及すること
のないように慎重に設計されていた。
今こそ、将来このような伝染が起こらないように、国際決済制度
をどのように改革することができるのかを考えるべき時であると説く。

                                       この項つづく





地球温暖化、大規模気候変動対策は、人類の欲望拡張史が横たわっている。従って、経済成長という言
葉は、21世紀には変容せざるをえない。いわいる“欲望の連立方程式”の解を人類は否が応でも求め
られているというわけだ。これは困った!?

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大仰天のケインズ

2013年04月06日 | 政策論

 

 


【静電風力発電システム:人工雷発電の誕生?】 

オランダのデルフト工科大学が、羽根がなく動く部品もない風力発電システムを開発した。静電
風力エネルギー変換(Electrostatic WInd Energy CONverter)という技術を取り入れて、荷電粒子を
風で電界の反対方向へ移動させることで発電し、風力エネルギーから直接電気エネルギーを生み
出す。これは、或る意味自然現象のカミナリの原理だから仰天だ!

 



【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】 

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン 

【ケインズ経済学の現在化】 

 

 

国際貿易の改革

【比較優位に問する第2の問題】


ここで、デヴィッドソン古典派主流の主張は、貿易通商関係諸国の先進諸国(ここではアメリカ
側の勤労者(=賃金労働者)に対する資本による収奪(生活条件の抵水準化)でしかないと根気
よく解説し次章の「国際通貨の改革」に論点を移す。

 不幸なことに、比較優位の法則は、われわれが住んでいる現実世界に妥当しない少なくとも
 2つの基本的想定を必要としている。第1に、われわれの自転車とコンピュータの仮説例は、
 追加的に生産された、25、000台の自転車と15,000台のコンピュータの供給が、これら
の生産
 物に対する追加的なグローバルな市場需要を自動的に作り出すであろうと想定してい
る。言
 い換えれば、追加的な自転車やコンピュータは利益の上がる価格で容易に売却でき
るとされ
 ている。
もし多国籍自動車メーカが自動車組立ての点で比較優位を持つ国に工場を設置する
 ことに
よってグローバルな生産能力を増強しさえすれば自分たちの生産できるすべての車を
 (利益
を上げて)販売することができるということならば、そのことを知って喜ばない多国
 籍自動
車メーカはいないであろう。余剰の生産能力が発生するはずはないとされているから
 であ
る。もっとも、今日では米国の3大自動車メーカのみならず評価の高いアジアの自動車
 メ
ーカにおいても過剰生産設備の状況にあるようであるが、国が比較優位の産業に特化する
 ことにより生じる追加的生産物に対してどのような需要不足がありえないというこの古典派
 の想定はもちろん事実に反している。

 この想定は、国内的にも国際的にも、労働力と設備
能力のフル稼働が、自由貿易と自由市場
 の世界におけるグローバルな経済に属するすべての
国に自動的に生じると、仮定しなければ
 ならないであろう。過去2世紀半にわたる資本主義
経済の歴史は、ほとんどの国がまれにし
 か完全雇用を達成しておらず、世界のどの国も永続
的な完全雇用を成し逐げていない。した
 がって、ケインズ以来の歴史から経済学者が学ぶべ
きであったことがあるとすれば、それは、
 自由貿易の前のみならず後も、すべての国で完全
雇用が達成されているということが確信で
 きなければ、すべての交易国が自動的に自由貿易
からメリットを受けることを立証できない
 ということである。
このことはわれわれを、第2の問題に導くことになる、比較優位の法則
 による交易からの利
得は、資本も労働も国境を越えて移動可能でない場合にのみ、生じる
 ものと想定されてい
る。事実、われわれの単純な自転車、コンピューターの例は、東洋と西
 洋の間で資本や労働
の移動がなく、一方比較優位の法則がそれぞれの国の輸出産業がなんで
 あるかを決めること
を示している。

 しかしながら、もし資本が国際的に移動可能であるならば、そして交易を行なったあとにグ
 ローバルな完全雇用が達成されていないならば、比較優位の法則に由来する好ましい結果が
 生じるはずはない。自由な国際的資本移動と自由貿易により、企業家は最も利益率の高い財

 の生産ができるところならどこにでも、言い換えれば、単位労働コストが最低であるところ
 ならどこにでも、工場や機械設備への投資を行なうであろう。このようにして、もしどの国
 でも1単位の製品を生産するのに投入される人間労働時間数が同じになるように、多国籍企
 業が技術を国から国へ移転することができるならば、あるいは、ケインズも記しているよう
 に、もし「現代のほとんどの大量生産過程がたいていの国…において、同じ程度に効率よく
 営まれうる」ならば、資本はつねに労働コストのより低い国を求めるであろう。というのも、
 そうすることが、利潤率を高めることになるからである。

 われわれの仮説例では、グローバルな市場が吸収することのできる程度の適切な水準での自
 転車とコンピューター双方の生産において、東洋は貨幣表示の単位労働コストがより低いと
 いう意味でコスト上の絶対優位を持つことができる。東洋は最終的には、グローバルな需要
 を満たすのに必要なすべての自転車とコンピューターを生産する上で十分な外国の資本を誘
 致できるであろう(中略)その結果、西洋においては、貿易財産業における生産と雇用は、
 完全にとは言わないまでも相当減少するであろう。極端な場合、西洋に残ってい
る仕事のほ
 とんどは、輸送・情報伝達コストの高さが外国労働者のコストの安さを上回って
いるために
 外部委託できないものだけとなるであろう。(
中略)  先進諸国の政府が、自国の労働者の完
 全雇用を確保し維持するための
計画的な行動を取らないかぎり、自由貿易は結局のところ失
 業率の上昇か、自国の労働者が
後進諸国の低賃金労働者に支払われている賃金に相当する実
 質賃金を受け入れることを余儀
なくされるかのいずれかの結果に終わるであろう。まちがい
 なく、西洋の政治家たちは、自
由化された貿易ならびに国際金融市場の下での仕事の外部委
 託という今日の問題に対し古典派の効率的市場理論を盲目的に適用することから「悲惨な」
 結果が起こりうることを、認識すべきであろう。西洋の政府が、自国の労働者の永続的な完
 全雇用を確保するために、強力で積極的かつ直接的な行動を取らなければ、自由貿易と外部
 委託は、それらの唱道者の主張しているような万能薬にはならないであろう

                  ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


国際通貨の改革


 1982年以来、米国は一貫して輸出額以上に輸入してきており、それによって、外国人が米国
 輸出産業内に作り出してきた以上の利潤獲得の機会と雇用を外国のために作り出してきた。
 こうした雇用と利潤機会を外国に提供してきた結果として、米国は20世紀最後の四半世紀に
 おいて他の国々ための経済成長の原動力の役割を果たしてきたのである。1980年代の日本は
 もとより、21世紀初頭の中国やインドによって示された驚嘆すべき成長率は、米国がこれら
 の国々からの輸出品に対して支出を増やしたことに基づいて達成されたものである。

 このことは簡単な例によって説明されよう。ある1年間に、米国が中国からの輸入品(例え
 ば、おもちゃ)に100億ドル多く支出し、したがって国産のおもちゃに100億ドル少なく支出
 すると仮定しよう。中国は米国の輸出品への支出を増加させず、したがって米国の中国との
 貿易赤字は100億ドルだけ増加すると仮定しよう。その結果は、輸入品に費やされた100億ド
 ルは、中国のおもちゃ産業における利潤と働き口を作り出したが、一方国産のおもちゃから
 外国製のおもちゃに支出を切り替えた米国の住民は、結局のところ、米国のおもちゃ産業の
 利益と雇用をその分台無しにしたということである。

 この仮説例において、中国は国際貿易勘定の上で 100億ドル多く稼いだことになる。われわ
 れの想定では、中国はこの 100億ドルをアメリカ製の製品をより多く買うことには用いず、
 その国際的な稼ぎからの100億ドルを「貯蓄する」としている。ケインズの分析においては、
 「1ペニーの貯蓄は1ぺニーの所得を生むことはできない」から、この例において中国が貯
 蓄した100億ドルは、米国に立地する企業やアメリカの労働者の所得にはなり得ない100億ド
 ルである。

 輸入が輸出を超過するとき、貿易収支に赤字が発生しており、経済学者はこれを貿易収支の
 悪化と呼んでいる。この貿易収支悪化は、当該国がその輸出品の代金として受け取る以上の
 金額-われわれのおもちやの仮説例では 100億ドルーを輸入品に対して支払うので、輸入国
 とその他の国々との間における国際収支の赤字をもたらすことになる。国際収支の赤字を経
 験しているどのような国も、次の2つの方法のいずれかでこの赤字の資金手当てをしなけれ
 ばならない。  

 1.赤字国は、輸入超過額を支払うため、これまで国際的取引で得た所得から貯蓄していた
   もの(これらの貯蓄はその国の「外貨準備」と呼ばれる)を取り崩す。
 2.赤字国は、その輸入したものの価額と輸出したものの価額との差額を支払うために、そ
   の他の国々から資金を借りる。

 過去25年の間、米国の年々の輸入額は輸出額を超過してきたので、国として長年の間の輸出
 を上回る輸入の超過額の資金手当てのため海外から借金をしなければならなかった。その結
 果、米国は世界で最大の債権国から、その他の国々から借りている負債額という点で世界で
 最大の債務国に移行してしまった。

 先の例を続けて用いて、中国が国際取引で得た所得からの100億ドルの貯蓄をどうするのかを
 考えてみよう。中国人は、すべての貯蓄者と同じように、自ら貯蓄した(来使用の)国際的
 な契約決済手段(購買力)を将来へ繰り越す流動性タイムマシンを求めている。中国人は、
 その国際取引で得た貯蓄の大部分を米国財務省証券やその他米国政府支援機関の債務証券の
 購入に用いている。この事実は、中国人がドルこそ自らの来使用の国際的な契約決済手段を
 蓄えるのに最も安全な避難場所であると信じていることを示している。この中国人による貯
 蓄について、多くの「専門家」は、中国がアメリカの消費者の盛んな買い物のための資金を
 融通してきた結果、米国の国際的債務の増加をもたらしたと断言している。もし中国人が国
 際取引で得た貯蓄によって米国の有価証券を購入するのを止めたならば、アメリカの消費者
 にはもはや輸入品を買う余裕はなく、あれほど多くの中国製品の購入も止めなければならな
 いだろう、とさえ言われている。

                               -中略-
 
 仮に中国がその国際取引で得た貯蓄 100億ドルを財務省証券の購入に用いる代わりに、アメ
 リカ産業の製品に支出したとしよう。その結果は、アメリカの工場のより多くの製品が中国
 において中国人労働者の生活水準向上のために役立つことになり、またアメリカの企業と労
 働者もより多くの所得を稼ぐことができ、輸出を上回る中国製品の輸入に伴う支払い代金を
 まかなうために中国から借りる必要もなくなるということである。この例示から得られる教
 訓は、もし中国が財務省証券を購入する代わりに米国製の財を購入するならば、中国は自国
 民の実質的生活水準を改善できるのみならず、アメリカ人も中国から借金をすることなく購
 入したすべての中国製輸入品の代金を支払うのに十分な稼ぎを得ることができるであろうと
 いうことである。

                  ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』



この簡単な例示は、貿易収支の悪化した国に巨額の国際的債務を背負わせるような貿易不均
衡を
終わらせるためのケインズ・ソリューションについてのヒントを提供してくれるはずで
あると、
彼はこの章の後半でそのような解決策の実施案を提示すると述べ、これ
とは対照的に、この貿易
不均衡問題に対する古典派の効率的市場理論の解決策は、もし中国
の通貨(人民元)が自由変動
外国為替市場で取引されており、米国が中国との貿易収支で輸
入超過を出しているならば、人民
元の価値がドルに比べて大幅に上昇することで問題は解決
されるであろうと示唆することである。
米ドルで測った中国からの輸入品の価格は劇的に高
まり、ついには米国が中国から大量に購入す
る余裕をもはや持ち得なくなるであろうという
わけである。したがって、中国からの米国の輸入
額は顕著に減少するであろう。ドルに比べ
て人民元の価値が高まるとともに、中国は米国からの
輸入品の価格の低下を経験し、米国か
らより多くの輸入品を購入するであろうとされるとするが、
これに対し次のように反論する。


 マーシャル=ラーナー条件に関する技術的な議論は、要点の理解を妨げる恐れがあるので、
 ここでは深入りしないことにしよう。(中略)自由市場が、輸入超過の貿易収支を経験して
 いる国の通貨を切り下げる
ことによってどのような貿易不均衡問題も解決することができる
 とつねに想定されている。
この古典派理論の解決策のもうひとつの起こりうる有害な影響に
 ついて論じることとしたい。
もし連邦準備制度が自らの主要な責務はインフレと闘うことで
 あると信じているとすれば、
それが採択するインフレ抑制政策にしたがって、ある低い目標
 インフレ率、たとえば2%が
回復されるまで、国内利子率を引き上げる必要があるであろう。
 米国における利上げはアメ
リカ企業の現存する利潤獲得の機会をいくらか失わせ国内の失業
 を増加させるであろう。連
邦準備制度のインフレ抑制を目指した金融政策の目標は、アメリ
 カの家計がすべての財・サ
ービス、すなわちアメリカの工場製品のみならず中国からの輸入
 品の購入をも減少させるの
に十分なほどに、アメリカ人の所得を減少させることである。も
 しそのインフレ抑制政策が
成功するならば、アメリカ人による輸入品の購入がより少なくな
 るので、中国からの輸入を
含む市場需要の減少が、価格上昇に対するブレーキとして働くで
 あろう。おそらくこの輸入
の減少がドルに比べた人民元の値上がりを緩やかにし、それによ
 って現実のインフレ率の引
き下げにいずれなんらかの効果をもたらすことであろう。

 この筋書きでは、アメリカ人たちが中国からの輸入品の購入を減らすので、中国の輸出産業
 における利潤と働き口は減少し、中国における失業と潜在的な政治的不安が生み出されるこ
 とになるであろう。中国においても雇用の喪失が生じるものとすれば、米国輸出品に対する
 中国の市場需要は減少し、その結果進行中のドルの減価によって増えるはずのアメリカの輸
 出産業における利潤獲得の機会をむしろ減少させるであろう。明らかに、そのような筋書き
 は、アメリカと中国の労働者と企業のどちらにとっても好ましいものではない

 古典派理論は、国家間の通貨の交換レートにどのような変化が起ころうとも、自由で効率的
 な市場であればすべての交易国において資本と労働の完全雇用がつねに存在しなければなら
 ないと想定することによって、この考えられる不愉快な筋書きを避けている。言い換えれば、
 古典派理論は、この起こりうる失業問題をたんに仮定によって排除しているに過ぎないので
 ある。長期においては、古典派理論は,すべての国に完全雇用が存在しなければならないと
 いうことを、経験による証拠としてというよりはむしろ、事実の裏付けのない信念の問題と
 して主張しているのである。

 古典派理論は、モデルにたくさんの非現実的な公理を詰め込み、将来が少なくとも長期にお
 いては知られているという世界における自由変動外国為替市場の魔力を援用することによっ
 て、起こりうるいかなる貿易赤字問題も解決しているだけである。より実際的な経済学者の
 中には、歴史的に見ると、為替レートが市場で自由に変動することが許されていた時期には、
 国家にとってしばしば最悪の結果に終わったと指摘する者がいる。したがって、いく人かの
 専門家は、マーケットメーカーが実際に為替レートを事前に公表されたなんらかの水準に固
 定するような外国為替市場を提唱している。その結果として、優れた国際決済制度のための
 必要条件に関する経済学上の議論が、固定為替相場制対変動為替相場制のメリットとデメリ
 ットの問題に絞られることが非常に多かった。

 しかしながら、第2次世界大戦の終結以来の経験的事実やケインズの革命的な流動性分析が
 示していることは、たんに為替レートが固定されているべきか、それとも自由に変動するも
 のであるべきかを決定する以上のことが、必要とされるということである。為替レートが固
 定的であろうと変動的であろうと、起こる可能性のある貿易および国際決済上の永続的な不
 均衡を適切に解決できるようなメカニズムこそが計画されなければならないのである。その
 メカニズムは、これらの不均衡問題を解決するのみならず、同時にグローバルな完全雇用を
 推進するよう設計されなければならない。そのようなメカニズムは、国際貿易および国際収
 支の不均衡に対するケインズ・ソリューション
の必須の部分になっているのである。

                  ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

                              
                                   この項つづく



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資本再蓄積下のケインズ

2013年04月05日 | 時事書評

 

 

【国内資本再蓄積時代】

“アベノミックス”が話題となり流布されてから、日銀の「量的・質的緩和」を受けて経済活性化
期待が膨らみ、全面高の展開となった。日経平均株価は一時600円近く値上がりし、2008年8月29日
以来ほぼ4年7カ月ぶりに1万3000円台を回復したことが報じられている。
驚くことはないのだ。金融
政策としての“禁じ手”こそは、“デジタルケインズ・ソリューション”にとっては、打破すべき“タブー”であり、ま
さに正論なのだから、この追体験(追認識)はこれから深まっていくだろう。後は、「未来国債」で提示したよう
に、レジリエンスな国土構築やグリーン・イノベーション、一次産業の高次化などの政策実施による、国内の
資本蓄積への財政政策(一部は、震災復興や再生可能エネルギー政策として先行している)の良循環効果
を待つばかりの段階だ。 



そこで、期待しているのがポスト・メガソーラ(一部は市場では、ミドルソーラとして実用段階に
ある)開発速度アップに熱い期待がかかる。どこよりもはやく変換効率30パーセントの高性能モ
ジュール試作量産ラインを研究室で構築しナンバーワンになることであり、そこに集中することだ
ろ。またこのことで“オールソーラシステム”(別称、プロトン社会)の前工程は完成し、後工程
のスマートグリッド・電気自動車・水素燃料電池車もかなり前倒しになってくる。


 



【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

【ケインズ経済学の現在化】

 

 

  貿国際易の改革

【自由貿易論の基礎としての比較優位】  

 

貿易の普遍的なメリットであると古典派理論が主張するものと、働き口の外部委託に基づく貿易が
原因で米国の労働者たちに見受けられる苦難との間のこのように明らかなギャップの存在を、ポ
ル・デヴィッドソンは説明する。


 主流派のすべての経済学者が合意している経済学のひとつの普遍的な「真理」は、経済学者が
 「比較優位の法則」と呼んでいるものである。もしすべての国が自由貿易を容認しているなら
 ば、比較優位の法則により、すべての国の資源が完全に雇用されるので、グローバルにより多
 くの財やサービスの生産されることが保証されると主張されている。結果として生じる想定上
 の豊富な財やサビスは、各国が「比較優位」を持っている産業での生産にそれぞれ特化し、こ
 れらの産業の生産物のいくらかを、他の国の比較優位の産業からの輸入品と交換に輸出するこ
 とによって得られる。その結果、すべての国が自由貿易から利得を得るはずであると、古典派
 理論は主張する。経済学者が比較優位を持つ産業といっているのは、どういう意昧なのであろ

 うか。

 1817年に、当時の代表的な経済学者のデイヴィッド・リカードは、国家間の自由な交易の重要
 性を正当化するために、比較優位の法則を導入した。リカードの考えでは、各国は、同一の生
 産物を生産する各国のコストを比較してみて、生産コスト面で最大の優位を持っている自国の
 産業で輸出向けの生産物を生産することに特化すべきであるとしている。同じ生産物を生産し
 ている他の国々の産業と比べて生産コスト面で絶対優
位を持つ産業のない国々は、コスト面で
 劣位度が最も低い産業での生産物を輸出することによって「比較優位」を得ることができるだ
 ろうと、リカードは主張している。リカードの比較優位の原理に基づく輸出品と輸入品との間
 の交易パターンは、財およびサービスに対する需要が増加しこの増加した需要を満たすために、
 グローバルな生産が増加するにつれて、両交易国の富の増加を可能にするであろうと主張され
 ている。

 この比較優位の法則について、仮説例を用いて説明することとしよう。東洋(インドや中国の
 ような低賃金労働国)と西洋(米国や西欧のような高賃金労働国)という、2つの経済がある
 と仮定しよう。話を簡単にするために、自由貿易が始まる前は、両経済は2種類の輸出可能な
 製品一例えば、(低賃金の不熟練労働を使って生産される)自転車と(高賃金の熟練労働を必
 要とする)コンピュータ一を生産していたと想定しよう。両経済はいずれも完全雇用の状態に
 あると仮定する。貿易が始まる前は、東洋には100万人の労働者が、また西欧には10万人の労
 働者が、いずれもこれら2つの産業において完全雇用されており、世界全体で110万人のこれ
 ら雇用労働者が総計375,000台の自転車と55、000台のコンピューターを生産して市場に出荷し
 ている(そしておそらくかれらの雇用主もその販売で利益を上げている)ものと仮定しよう。

 リカードの古典的な理論によれば、東洋と西洋との間に自由貿易が導入されると、各経済は、
 自らが比較優位を持っている製品を生産することに特化するよう促されるであろう。両国が同
 じ生産技術を用いており、東洋でコンピューターの生産に必要な熟練労働者でさえ西欧におけ
 る高賃金熟練労働者よりもかなり低い賃金で働くことを厭わなかったので、自転車もコンピュ
 ーターもいずれも西欧より低いコストで生産することができたと想定しよう。しかしながら、
 東洋のすべての労働者により低い賃金が支払われているために、低い生産コストという意昧で
 の東洋の優位は、コンピューター産業においてより自転車産業においてのほうが大きかったと
 仮定しよう。

 経済学者は、東洋が自転車とコンピューター双方の生産コストにおいて絶対優位を占めている、
 すなわち、東洋は西洋よりもより低いコストで自転車とコンピューターの双方を生産できるも
 のの、東洋の比較優位は自転車の生産にあり、西洋の比較優位(すなわち、コスト上の劣位度
 がより低いこと)はコンピューターの生産にあるというであろう。そこで、比較優位の法則に
 よれば、東洋はそのすべての100万人の労働者と資本を用いて自転車の生産に特化すべきであり、
 一方西洋は10万人の労働者とすべての資本を用いてコンピューターの生産に特化すべきである
 ということになる。このように特化することによって、グローバルに雇用されている110万の労
 働者が、より多くの自転車とコンピューター、例えば400,000台の自転車と70,000台のコンピュ
 ーターを生産するものと想定しよう。 

 この比較優位の仮説例では、世界は自由貿易に携わることによって、全体として25,000台の自
 転車と15,000台のコンピューターを追加的に得たことになると想定される。そして東洋は自転
 車を西洋に売り、代わりに西洋からコンピューターを購入すればよいことになる。貿易開始の
 前と後で同じ数の労働者が雇われていながら、仮定によってグローバルにより多くの両製品が
 生産され消費に供されることになる。その結果、各国の住民はこの貿易からなにがしかのメリ
 ットを得るはずである。というのも、各国においてすべての財が想定された同じ量の労働時間
 (実質コスト)で生産されながら、各国の住民はより多くの自転車とコンピューターを使用す
 ることができるからである。このように、比較優位の法則は、より多くの財とサービスが東洋
 と西洋双方の消費者に提供されるので、グローバル経済の実質所得が自由貿易によって増加す
 ることを「証明している」と主張されることになる。

 リカードにとって、各国の比較優位は、典型的な場合には生産コストの差をもたらす各国特有
 の供給環境(例えば、埋蔵鉱物資源の入手可能性、気候の違いとそれらが農業生産に与える影
 響など)と関連しているとされた。それとは対照的に、「自由な」貿易を支持する論拠を説明
 しているわれわれの仮説例は、より低い生産コストを持っている海外の供給源に国内市場を開
 放するのが、西洋における自転車産業の労働者より東洋における自転車産業の労働者の方が1
 時間当たりより多くの自転車を生産するといったようななんらかの物的生産性の面で優位にあ
 るためではない、という考えに基づいている。各国で同じ技術が用いられていると仮定するこ
 とによって、例えば、西洋における自転車産業の労働者が、東洋における自転車産業の労働者
 と1時間当たり同じ台数の自転車を生産すると想定しているのである。したがって、自転車と
 コンピューターの生産における東洋のコスト面での絶対優位は、たんに東洋においては労働者
 に対してより低い1時間当たり貨幣賃金が支払われているという事実によるのである。

 実質的な生産コストの差は農業や鉱物資源開発において明らかであり、そこでは国によって気
 候にちがいがあるとか鉱物資源の埋蔵量に偏りがあるため、一定の商品については一方の国で
 の生産費を他の国に比べ相対的に安くするのである。例えば、1バレルの原油は米国のデスバ
 レー(死の谷)砂漠よりもサウジアラビアの砂漠の方が安く生産できる.その主たる理由は、
 デスバレーに比べてサウジアラビアの地下の方が、はるかに容易に入手できる原油を自然が提
 供しているということである。しかしながら、大量生産を行なう産業においては、生産コスト
 の差は、どの国におけるどのような特定の製品の生産においても同じ技術が用いられるので、
 一国の気候や鉱物資源といった天賦の条件による差をさほど反映しそうにないように思われる。

 ケインズは次のように記したとき、このような可能性を認識していたのである。

 合理的な世界においては、気候や自然資源に国家間で大きな差異があるすべての場合に、かな
 りの程
度の国際的特化が必要になるであろう。・・・しかし、わたくしは、ますます広範囲にわ
 たる工業製品に関
しては、・・・自給自足体制をとることの経済的マイナスが、[完全雇用を確
 保するために]同じ国内の経
済・金融組織の同じ活動範囲内に生産者も消費者も徐々に導き入
 れることの別なメリットを帳消しにして
しまうほど十分に大きいかどうかについて、疑いを抱
 くようになっている。現代のほとんどの大量生産過程が、たいていの国や風土俗において、同
 じ
程度に効率よく営まれうることを証明する事例が増えている。

 言い換えれば、ケインズが主張し、そして今日の事実が明らかにしようとしていることは、多
 国籍企業の存
在と技術を国際的に移転できる容易さを前提とすれば、ほとんどの産業における
 相対的な生産コストのどのような差も、(「実質的な」人間労働の同一時間当たりの)貨幣賃
 金に、年少者労働の使用制限などの「文明国にふさわしい
」労働慣行を整えるためのコストや雇
 用者の健康保険や年金手当ての支給といった労働者への付加給付のための企業家負担を加えた

 合計額における国家間の差を反映している可能性が高いということである。今日の自由貿易体
 制のもとでは、輸出工業製品の製造工場のグローバルな立地は、時間当たりの貨幣賃金に加え
 て、国家が、国の税金によってというよりもむしろ企業家によって直接負担されるべきである
 と決定しているか、あるいは労働者には提供される必要がないと決定している。安全労働やそ
 の他の労働付加給付のための所
要経費における差に左右されがちであると思われる。

 21世紀においては、輸送コストあるいは情報伝達コストが低いため、多くの財やサービィスを
 遠方の海外市場まで安く届けることが可能になっている。その結果として、未熟練、半熟練あ
 るいは高度な技術を持つ労働者をさえ使用する大量生産の産業は、単位労働時間当たりの支払
 い賃金額や企業家によって提供されている労働環境から判断して、人間の生命が最も低く評価
 されている経済システムをもつ国々に、工場を立地させそうに思われる。ほとんどの先進諸国
 は、かなり前に「低賃金・悪条件の工場」での生産や年少者労働の使用を違法とする法律を制
 定している。しかしそのような労働条件は、ほとんどの低開発諸国の「競争力ある」輸出産業
 においては、依然として存在している。したがって、自由貿易競争とは通常、先進諸国におけ
 る働き口が、安全で衛生的な作業条件を要求する法律をほとんど持たず低賃金・悪条件の工場
 で働く安く利用できる労働人口の大量に存在する国の労働者に奪われることを意味する。その
 ような自由貿易競争のもたらす結果は、必然的に先進諸国の労働者の生活水準を引き下げるこ
 とになるに違いない。

 というのも、かれらの賃金が低賃全国で支払われる賃金水準の方へ引き寄せられるからである
 われわれは本当に、米国の労働者の賃金を時給1ドル以下にまで引き下げ、同時に家族が飢え
 をしのぐのに足るだけの稼ぎを得ることができるよう、米国の子供に中国の子供のように工場
 で働かせたいとでも思っているのであろうか。われわれは本当に、米国の労働者の賃金を時給
 1ドル以下にまで引き下げ、同時に家族が飢えをしのぐのに足るだけの稼ぎを得ることができ
 るよう、米国の子供に中国の子供のように工場で働かせたいとでも思っているのであろうか。

 もしわれわれが中国に対し、カリフォルニアに工場を建設することを許可し、その工場を、中
 国で運営されるのと同じ条件、すなわち、(1)14歳未満の子供も工場で働く、(2)なんらの
 職場の安全基準も制定されていない。(3)労働者が米国の時間当たり法定最低賃金をはるかに
 下回る貨幣賃金率で週55~60時間ないしそれ以上働く、(4)工場は環境を汚染している。とい
 う条件で運営することを認めるならば、米国の進んだ法律では、どの米国の住民もこのカリフ
 オ
ルニアに立地する中国の工場のどのような製品をも購入することを許されないであろう。そ
 れ
にもかかわらず。自由貿易の旗印の下では、われわれはそのように後進的で不健全な工場環
 境から生み出される製品を、まさにその工場が中国に立地しているという理由だけで、米国人
 が購入するのを容認しているのである。
なぜわれわれは、労働者を人道的で文明国にふさわし
 い仕方で処遇する工場組織が社会的に望ましいという、自分たちの信念を放棄してしまわなけ
 ればならないのであろうか。もしわれわれが米国の企業家たちに中国の労働者が雇用されてい
 るのと同じ条件で労働者を雇用することを認めるならば、米国の工場は、輸送コストがより低
 
いという理由だけでも、中国に立地する工場より安く売ることができるであろう。

                   ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                 『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


以上のごとく、縷々、限定された条件下での言葉によるシュミレーションを記載してきたが、ここ
で デヴィッドソンは、現在の情況では、低質全国との自由貿易は、けっして自由な競争的貿易で
はないとした上で、米国の法律は、米国の企業家が中国での労働者の雇用および労働条件をそのま
ま踏襲することを禁じているからである
そのように不公正な競争状態にある海外の工場に仕事を
外部委託することに対するとして、そのような状況下での解答、すなわちケインズ・ソリューショ
ンは、わが国の労働法が米国の企業に課しているすべての条件を、少なくとも満たしていないどの
ような工場からの製品輸入も禁止することである。われわれはまた、外国で生産される財のうち、
純正食
品薬事法やその他の消費者保護法に基づく政府の検査に合格したものにかぎり輸入できるよ
うにすべきで
あると、大変ラジカルで重要なこと、裏返せば非現実的と思えることを提示する。


 現在の自由貿易体制の下では、米国市場に財やサーヴィスを提供する生産にかかわっている職
 種の中で、(1)外国からの情報伝達コストや輸送コストが非常に高い(例えば,家事使用人、
 ウェーター、理容師、乳母などの)職種や(2)移民法で低賃金労働の導入が制限されているよ
 うな職種でのアメリカ人の働き口を外部委託する余地はほとんどないであろう。とくに先進的
 な労働環境基準を持つ先進諸国の個人サービス産業には、まだかなりの雇用機会が残っている
 かもしれない。しかしながら、自由貿易の旗印の下で、もしわれわれが大量生産産業の雇用の
 外部委託を容認し続けるならば、以前高給を受けていた大量生産産業から使い捨てられなんら
 かの雇用機会を探す労働者が、ますます増えることにならざるを得ないであろう。その結果と
 して、これらの解雇された労働者の間で、非貿易財の生産産業に現存する働き口を求めて競争
 が激化するであろう。その結果は、ユチテルの著書が示唆しているように、これら非貿易財生
 産活動における賃金を押し下げるか、あるいは少なくとも、雇用されている労働者の賃金が時
 とともに大幅に上昇するのを妨げることになるであろう。近年行なわれた大規模な外部委託を
 考慮すれば、米国のGDPに占める賃金の割合が2005年にここ数十年来最低の水準にあったの
 は、なんら驚くに当たらない。

 われわれはすでに21世紀に入ったので、以下のような産業を除いて、リカードの比較優位の法
 則に基づいてすべての国とその住民の富を増進する手段としての自由な国際貿易を支持する主
 張を正当化できないことは明らかであろう。そうした産業とは、おそらく価値生産性が気象
 件や鉱物資源の入手可能性と関連する鉱業、農業よびその他の産業である。しかしながら、こ
 れら特定の産業における生産はしばしば、カルテルの市場支配力や、市場価格が生産の「実質
 的な」コストを反映するのに十分なほど下落するのを防ぐよう企図された生産諸国の政府施策
 によって、コントロールされている。言い換えれば、比較優位の法則が依然として当てはまる
 かもしれないと思われる産業はしばしば、(例えば,石油輸出国機構のような)カルテルの力
 や、国際市場で売られる必需品をコントロールする政府の権限の行使により、概して国際競争
 の圧力から保護されているのである。

 大量生産産業における多国籍企業の成長と20世紀最後の数十年間における自由貿易へのさらな
 る動きは、米国の企業に,生産を「外部委託」する、すなわち生産コストを削減するために雇
 用できる中で賃金が最低の外国労働者を求めさせることとなった。外部委託を活用できること
 はまた、高賃金で労働組合に所属している先進諸国内の労働者に対する桔抗力としても働いた。
 事実、21世紀の初頭に多くの国の産業構造が急速に進化したのは、主として多国籍企業が、同
 じ技術的生産過程を用いて同一の財やサーヴィスを生産するために海外の低賃金労働者を利用
 することによって、国内の労働問題を回避したいと望んだためであるといえるかもしれない。
 
 国家間の輸送・情報伝達コストが高く貿易に対する顕著な制限が課せられていた第2次世界大
 戦後の最初の数十年間には、国内の単位労働コストの高かったことは、大量生産産業の企業家
 たちに国内の生産性を高めそれによって生産物1単位あたりの労働コストを削減するための革
 新的な方法を見出すよう促した。多国籍企業の成長と大量生産品の国際貿易に対する多くの制
 約の撤廃とともに、高い国内労働コストはいまや、単位生産コスト引き下げのための生産性向
 上を目指した投資よりもむしろ、外部委託を促進している。

 というのも現状では、国内的に単位生産コストを引き下げるために生産過程の技術的改良をは
 かるよりも、外部委託する方がより安上がりであるからである。したがって、単位労働コスト
 を引き下げつつ生産量と利益率の高い売上げを増加させたいと思う企業家による技術革新が、
 資本主義経済のすべての構成員の生活水準を高めてきた過去とは異なり、現在では、外部委託
 から得られたより大きな利潤が、国内生産方法の研究や技術的開発に再投資されなくなってい
 

                   ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                 『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


ここに書かれていることは現在の貿易通商問題と絡み、大変示唆に富んだ問題提示がなされている。
TPP問題もこの原則を踏まえたような基調報告(メッセージ)が行政府からの国民やび対貿易通
商交渉国に、はやくなされていたらと思うばかりであるが、所詮、新自由主義の尻馬に乗る付和雷
同の政治家や政党(逆に、かたくなに自説の正義を説くばかりの政治家、政党)であっては詮無い
ことではある。ところでここで、最後の下線部分に注目する。つまり「国内的に単位生産コストを
引き下げるために生産過程の技術的改良をはかるよりも、外部委託する方がより安上がりであるか
らである」という件であり、これを可能にした、あるいはこのため再投資されず、資本蓄積されず
資本収奪の憂き目に遭うという認識観であるが、このソリューションの提示こそ、わたしがこのブ
ログで(たとえば「未来国債」「ピラミッドの経済学」「デジタル革命の基本六則」)で問題提起
指摘してきたことであり、いまでは“アベノミックス”として流布されている基礎になるもので、
デジタル革命のグローバルな展開による生産財をめぐる此彼の落差(時空間)の縮小により顕在し
ているものである。具体例を示せば、先端的技術設計図や金型、あるいは種子苗、DNAがいとも
簡単に自国から持ち出され、コピーされるという事柄が茶飯事として存在していることを踏まえて
おかなければならいないだろう(例えば、日本の新幹線技術が中国にこの事案が日本の贈与による
ものかどうかという公的な確認なしでコピーされ輸出商品として競合しいる)。


 今日のような自由貿易のルールのもとでは、企業経営者たちは、低賃金の外国労働者が「仕事
 をこなす」ことができ輸送・情報伝達コストが生産コストに比べ少額な産業部門において、国
 内の労働生産性を向上させるための技術革新を追求するインセンティブをもたなくなっている。
 1970年代以来多くの先進諸国において国内の労働生産性の上昇率が低下したことは、少なくと
 も部分的には、国内の生産過程を改善するよりもむしろ海外の安い労働力を用いるというこの
 現象に関係づけて説明できるであろう。先進的な生産環境で高給を取っている労働者に代えて、
 たんに低賃金・長時間労働という条件で雇用される労働者を用いる外部委託の問題に対する
 インズ・ソリューションは、競争条件を等しくするということである。その法律が国内の工場
 の労働者を文明国らしく処遇することを奨励する米国のような国家にとって、国内への輸入の
 許される製品は、米国がアメリカ企業に要求しているのと同じ法定の労働、環境および消費者
 安全の諸基準を満たさなければならないとされるべきであろう。
したがって、自由市場に外部
 委託、貿易および国際決済の流れを決定させるのを正当化するものとして比較優位の分析を用
 いることは、ケインズが警告したように、文明国の経済,とくに年少者労働の使用を制限し労
 働者に対しより進んだ労働条件と同時に高賃金の生活水準を提供する国の経済の健全性にとっ
 て「誤り導き、災害をもたらす」ものになりうるのである。


                   ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                 『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 

          
                                                      この項つづく

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デフレ脱却下のケインズ

2013年04月04日 | 日々草々

 


   Pasta e broccoli al sugo di tonno   

【イタリア版食いしん坊万歳:パスタとブロッコリのツナ・ソース和え】

材料:ロングパスタ 500g、小房に分けたブロッコリ 600gまたは同量のカリフラワー、ツ
   ナのオイル漬け 100g、塩漬けア
ンチョビー2尾、スーゴ用トマト 200g、オリーブ
   油 60cc、ニンニク2片、
パセリ、塩、コショウ

ブロッコリまたはカリフラワーをよく洗い、一ロ大の小房に分けておく。深鍋に水をたっぷ
り入れて火
にかけ、塩を軽くふりかけて沸騰させ、ブロッコリまたはカリフラワーを入れる。
1~2分たったところ
でパスタを加えてゆでる。そうしている間に、ツナ・ソースの準備に
とりかかる。鍋を火にかけ、オリ
ーブ油、ニンニクのみじん切りを入れ、あらかじめよく洗
って小口に切ったアンチョビを加える。数回かき混ぜてから、細かくほぐしたツナ、同しく
細かく潰すか、または裏ごししたトマトを加え、全体が滑らかなソースになるまで煮込む。
塩、コショウで味を調え、パセリををみじん切りをひヒつかみふりかけて、ソースを仕上げ
る。このソースに、ハスクは、パスタがアルデンテにゆであがる直前ににタイミンブを合わ
せて仕上げる。パスタとブロッコリまたはカリフラリーがゆであかったら、ただちに水気を
よく切りスープ皿に移し、ツナ・ソースダよく和えて供す。

 

  



【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

【ケインズ経済学の現在化】

 

 

さて、今回は証券化市場の機能不全への防止政策のつづいて、「第七章 国際貿易の改革」
に入り、ケインズソリューションの解を考察する。歴史的、具体的事例が豊富に例示させて
いるので
、既にケインズソリューションを了解している読者には諄い、あるいは物足りない
ものとなるだろ
うが、米国の事例とはいえ、わたしたちも過去に経験してきたことと密接に
絡み込んでいることが
理解できると考える。これから提示されていることがらは、『新自由
主義-その歴史的展開と現在
-』の著者であるデヴィッド・ハーヴェイが提示する、グロー
カルな資本の収奪抵抗運動の提示とオーバー
ラップないしは交差する事柄があり、かなりス
リリングな展開になっていくと予想する

経済回復のあとに改革を

証券取引委員会のウェブページによれば「米国証券取引委員会の使命は、投資家を保護し、
公正で秩序ありかつ効率的な市場を維持し、資本形成を容易にすることにある」。そ
してウ
ェブページはさらに続けて1933年の証券法は2つの基本的な目的を持っていたと記
している
。すなわち、「公売に供されている有価証券に関する、金融上およびその他の重
要な情報を
投資家が受けることができるよう命ずることと、有価証券の販売において詐欺
や不実表示や
その他の不正手段を禁止することである」。SECの規制は、資産の買い手と売
り手が通常お
互いに自分がだれであるかを明らかにしないような、公開の金融市場に適用
されるのが普通
である。公開の金融市場においては、各買い手は特定の個人にかかわらない
市場から購入し
各売り手は特定の個人にかかわらない市場に対し販売する。これらの公開市場が秩序あるも
のであることを投資家に保証することは、SECの責務である。これとは対照的に、非公開の
金融市場においては、金融資産の買い手も売り手も、お互いに自分がだ
れであるかを明らか
にしている。例えば、銀行貸付は通常、銀行の経営者が借り手につい
て知っているような相
対市場での取引である。このような銀行貸付はSECの監査を受けるこ
とはなかった。グラスー
スティーガル法の下では、このような相対市場で生み出された銀
行貸付を転売するための公
開の有価証券市場は存在しなかった。相対市場での取引から生
まれた資産には、伝統的に流
動性がなかったのであると、デヴィッドソンは指摘して次の
ように防止策を次のように提示
し解説する。

 1.SECは、信頼できるマーケットメーカーを持たない公開市場に対し、非流動的になる
   可能性についての警告を公表するよう要求すべきである。
 2.SECは、非公開の市場で発生した資産のための公開市場を作り出そうとするどのよう
   な金融の証券化も禁止すべきである。
 3.議会は、21世紀版のグラスースティーガル法を制定すべきである。

 わたくしはここで,上記3項目について順次論じていくこととしたい。20世紀の最後の
 四半世紀に、大手の金融引受業者たちは公開市場を作り上げてきたが、それらの市場は
 金融の証券化をつうじて長期債務証書(それらの中には、例えば住宅ローンのように非
 常に非流動的なものも含まれる)を、収益性が高く非常に流動性のある短期金融市場投
 資信託やその他の短期金融市場連動型預金勘定と実質的に同価値のものに変換させたか
 のように思われた。先に引用された新聞記事が示しているよに、引受業者たる投資銀行
 が社会的に高い地位にあることやその代表者が顧客に対しはっきり述べていることから、
 個人投資家たちは投資資産持ち高を、公表された直前の取引価格から秩序ある仕方で変
 化した価格で換金できると考えるに至ったのである。

 これらの証券化資産が高い流動性を持っているという考えは、幻想であることがわかっ
 た。購入者たちが、もし市場組織に関して契約書本文より小さい文字で印刷されたすべ
 ての注意事項について十分知らされていたならば、これらの資産の流動性が低くなる可
 能性を悟っていたかもしれない。例えば、ARS市場においては、市場の組織者である
 引受業者は自己勘定で購入することができるが、かれらには秩序ある市場を維持する義
 務はない。SECの権限は秩序ある公開金融市場を保証し 「公売に供されている有価証券
 に関
する、金融上およびその他の重要な情報を投資家が受けることができるよう命ずる
 ことと、有価証券の販売において詐欺[や]不実表示・・・を禁止することである」から、
 (1)信頼できるマーケットメーカーを置かずに組織された公開の金融市場は、無秩序に
 陥る可能性があるためすべて閉鎖されるべきである。ないしは(2)少なくともそのよう
 な資産が非流動的なものになる可能性に開する情報は広く公表され、金融証券化市場で
 
取引されている資産の各購入者に対し与えられるべき最も重要な情報の一部とされるべ
 きであるのは明らかであるように思われる。

 
マーケットメーカー制度を持っていない金融市場を閉鎖するのは、厳しい政治的抵抗を
 受けるであろう。金融界は、資金の電子振替が容易なグローバルな経済において、その
 ような禁止措置がただたんに投資家たちに海外の金融市場や引受業者と取引するのを助
 長し、国内の金融機関や資金供給を受けようとする国内産業を損なうだけであると、主
 張することであろう。国際貿易と決済とのかかわり合いの問題を含む必要な改革を論じ
 
る第8章において、わたくしは革新的な国際決済システムを整えることに関するケイン
 ズの考えを発展させた。
わたくしの提案するシステムは,1944年のブレトン・ウッズ公
 議でケインズが提案し、米国によって拒否された計画案を少しばかり変形したものであ
 る。もしケインズの計画
案の現代版が実施に移されていれば、それは、外国企業の守っ
 ていないSECの規則を遵守している米国企業
にとって不利であると米国が考える海外の
 金融市場で、米国の住民が取引するのを止めさせることができるであろう
。しかしなが
 ら、もし国際決済システムを改革しようとする政治的意志がなく現在のシステムがその
 まま継続されていると想定すれば、金融サーヴィス産業における米国企業の働き口と利
 益が海外の企業に奪われてしまうという懸念が金融界になお存在するかもしれない。そ
 の場合SECは、信頼すべきマーケットメーカーを持たない公開金融市場の存在を、これら
 の市場で取引される資産の保有者にその資産の流動性がなくなる可能性のあることをは
 っきりと公表するよう市場組織者に要求する限りは、認めてもいいだろう


 文明化された社会では、健康に有害な効果を及ぼす可能性のある製品が売られている市
 場に対して買主の自己責任の原則〔売り手は、とくに保証を与えた場合を除き商品の品
 質の責任を負わないという原則〕は認められない。喫煙は健康にとってはなはだ危険で
 あるとの一般的情報が広く行きわたっているにもかかわらず、政府の規制はなお,紙巻
 タバコの会社に対し紙巻タバコの各包みに肉太の宇で「喫煙はあなたの健康を害する可
 能性があります」という警告を印刷するよう命じている。同様にまた、信頼できるマー
 ケットメーカーを持たない形で組織された公開の金融市場でのどのような資産購入も、
 購入者の金融的な健全性に深刻な影響を及ぼす可能性があるので、SECは信頼できるマー
 ケツトメーカーを持たない市場で取引される資産の潜在的な購入者に対して、以下のよ
 うな警告を命じるべきであろう。

 この市場は、証券取引委員会公認の信頼できるマーケットメーカーによっては組織され
 ていない。そのため、取引される資産の流動性を維持することができないかもしれない。
 資産の保有者は、これら市場における投資資産持ち高が凍結され、保有資産を現金化で
 きない事態になるかもしれないことを認識すべきである。さらにまた、SECは、ある法
 人がどのような金融市場においても信頼できるマーケットーカーとして認定されるため
 の、所有していなければならない金融資産の最低額に関する厳格に執行される規則を設
 定しなければならない。SECは、すべてのマーケットメーカーに対し定期的に、少なく
 とも年に1回は認定の更新をしなければならないであろう。公衆相手に商売をする投資
 信託の経営者が,SEC公認の信頼できるマーケットメーカーを置かずに運営されている金
 融市場に参加したいと考えるかぎり、そのような有価証券のみを扱う別の独立した投資
 信託を立ち上げなければならない。これら特殊な投資信託は、先に述べたような警告を
 肉太の文字で公示しなければならない。この警告は、投資家がこの特殊な投資信託へ預
 けた資産の現況についての事業報告を電子メールや通常郵便で受けるたびごとのみなら
 ず、これらのファンドに投資を行なうときはいつでも、繰り返されなければならない。

 SECが執行すべき第2番目の規則は、非公開の市場で組成された資産(例えば、住宅ロー
 ンや商業銀行貸出など)のために公開の市場を創設しようとする金融の証券化を禁ずる
 ことである。担保物件の状況や立地、借り手の信用度およびすべての住宅ローンのその
 他の諸要因があまりにも個々別々であるので、投資家や格付会社は,多くの住宅ローン
 をまとめてひとつの投資媒体にした金融資産の価値を評価することのできる方法を持た
 ないのである。したがって、そのような資産の証券化を禁止することはすべての投資家
 にとって必要な保護措置であり、それはちょうど純正食品・薬品法が、消費者の独力で
 は検査できない有毒な商品を購入することから消費者を守っているのと同じである。

 第3の項目は、議会が21世紀版のグラスースティーガル法を制定すべきであるというこ
 とである。そのような法律の目的は,金融機関に対して、非公開の金融市場で個々の顧
 客に対し貸付を行なう普通銀行か、それとも公開の金融市場で生み出され転売できる証
 券のみを取り扱うことのできる引受ブローカーかのいずれかとなるよう強制することで
 ある。

                ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
              『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


そして、米国が業績不良な銀行を実際に国有化する必要があるのかどうか、あるいは政府の
資金を受けた銀行が確実に融資を再開できるようにするのに十分な規模の政府出資を保持す
るだけでよいのかどうかは、経済的問題というよりもむしろ政治的問題である。重要なこと
は、もはや流動性のないこれら問題資産を買い上げることによって、政府が経済システムに
ささやかながら流動性を回復させつつあるということを認識することである。そしてケイン
ズも主張しているように、資本主義システムが正常に機能するためには流動性を必要とする
のであるとこの章をむすぶ。

貿国際易の改革

 の古典派の理論家たちは、自由貿易と自由変動為替相場の政策が、その国のすべて
 の市民に豊穣の時代をもたらすであろうと確信を持って主張している。この文脈におい
 て、「自由貿易」とは、政府が輸入品に関税(税金)を課したり、(例えば、輸入割当
 制を布くなど)国内に輸入される製品の数量を制限したりすることによって、財やサー
 ビスの輸入を妨げるようなことはしないことを意味する。自由変動為替相場とは、どの
 ような政府の介入によっても縛られない自由な市場に、自国通貨で測った外国の通貨の
 購入価格の決定をゆだねようとするものである。さらに政府は、居住者が購入できる外
 国通貨の朧にどのような制限や限度も課すことはできないし、外国人が購入する国内通
 貨の量を制限することもできない。1970年代以来、議会あるいはホワイトハウスを支配
 したのが民主党であったときも共和党であったときも、米国政府は、(例えば、北米自
 由貿易協定のような)他の国との自由貿易協定を結ぶ政府が望ましいことを唱えてきた
 し、少なくとも口先だけでも同意してきた。さらに、米国政府は、外国為替市場に対し
 て直接的な介入を行なうこともなかった。

 もし読者がこの国際貿易と決済に関する古典派の効率的市場理論の主張を信じている
 ならば、政府がこれらの古典派理論の目的を追求し始めてから30年以上も経過して
いる
 今日、米国と世界の他の国々との間の貿易および決済関係になんらの問題もない
と考え
 ることであろう。不幸なことに、この間国際経済の分野で、いくつかの不都合
な問題が
 米国に起こっている。第1に,米国は世界般大の経済大国であるにもかかわ
らず、世界
 最大の債務国となっていることである。第2に、多くの米国の住民は、自
分たちの高賃
 金の働き目が低賃金の国へ外部委託されるのを経験していることである。『ニューヨー
 ク・タイムズ』の金融欄担当記者であるルイス・ユチテル(
Louis uchitelle)は、2006年
  刊行の著書『使い捨てのアメリカ人:解雇とその帰結』において、自分の働 きロを外部委託され
  たこれら労働者たちが、自尊心をひどく傷つけられ、その結果精神的な健康をも害していると
 詳細に報じている。場合によっては、このことが離婚
やその他の深刻な一身上の結果を
 もたらしているとのことである。

 ユチテルが用いた労働統計局のデータは、解雇された3人のうちわずか1人のみが、2
 年たった後で、失った仕事で稼いでいた以上の所得を新しい仕事で稼いでいるにすぎな
 いことを示している。解雇された労働者の残る3分の2は稼ぎが大幅に減少したか、あ
 るいは依然として雇用されないままにとどまっていた。なかには職探しを止めてしまっ
 た者さえいた。さらに一般的にいって、外部委託のインパクトは,外部委託されたのと
 同じ職種に引き続き雇用されている人びとに賃金引き下げの圧力を加えたことである。

 外部委託により失職し職探しをしている多数の労働者の存在は、すべての他の地域の労
 働者、すなわち,たとえかれらが外部委託のあまり行なわれそうにない産業でなお雇用
 されている労働者であるとしても、かれらの賃金を押し下げる傾向がある。その結果、
 米国の貨幣賃金がここ数十年の間伸び悩んでおり、ますます多くのプルーカラーの仕事
 が自由貿易の名の下に外部委託されるにつれて、所得分配の不平等がよりいっそう高ま
 っているのは、驚くには及ばない。にもかかわらず、主流派の経済学者たちは依然とし
 て、自由貿易と自由変動為替相場が最大の効率性とグローバルな繁栄をもたらすと主張
 している。例えば、2005年の春に当時ブッシュ大統領の経済諮問委員会委員長であった
 ハーバード大学のマンキュー教授は、アメリカの企業が、米国に立地する工場で働く住
 民を雇用する代わりに、より低賃金の労働者を容易に獲得できる海外の工場に生産を移
 す形を取る生産の「外部委託」の慣行を弁護している。マンキューは、外部委託が明ら
 かにアメリカの労働者の高賃金の働き口がより低賃金の海外の労働者に奪われることを
 意味するにもかかわらず、米国と世界の他の国々にとって有益であると言い張っている。
 マンキューの議論は、自由貿易が,長期的には、生産を委託された国々の働き口のみな
 らず米国の労働者のためにより価値の高い新しい働きロをも作り出すことによって、す
 べての国により多くの所得と富をもたらすだろうというものである。

 もちろん、マンキューの見解に対するひとつの応答は、ケインズの言い古された「長期
 的にみると、われわれはみな死んでしまう
」という一節である。そして外部委託によっ
 て使い捨てられた労
働者は、長期を待てずにその前に死んでしまっている可能性が高い。
 貨幣経済の運行に関する
ケインズの分析は、主流の古典派経済学者によって喧伝されて
 いる外部委託の望ましさに関す
る主張が間違っている理由を示唆している。ケインズに
 よれば、自由貿易を認めさえすれば繁栄が必ず訪れるという主張は、「人を誤り導き、
 災害をもたらす」ものとなりかねないのである。歴史的証拠は明らかに、マンキューに
 よ
る主流の古典派経済理論の公式発表ではなく、ケインズの見解を支持している。

                 ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
              『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』 


そして、貿易の普遍的なメリットであると古典派理論が主張するものと、働き口の外部委託に
基づく貿易が原因で米国の労働者たちに見受けられる苦難との間のこのように明らかなギャッ
プはなぜ存在するのかとデヴィッドソンは問いかける。
                                                         

                                  この項つづく

 

 

 

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ケインズとニンニクの十字架

2013年04月03日 | WE商品開発

 


 

 
国産ニンニクは1990年代に中国からの輸入の急増によって生産量が半減するが、その後は輸入品と
の差別化が進み、一定の生産量を維持している。
ニンニクの収穫は年1回で短期間に限定されるた
め、収穫物を貯蔵し、これを計画的に出荷することにより、周年供給が可能となるといわれている。
収穫したニンニクをそのまま貯蔵すると腐敗するため、貯蔵前には乾燥が行われるため、ニンニク
の周年供給には、貯蔵性を高める乾燥技術と品質を1年近く保存できる貯蔵技術が必要だし、栽培
や取り扱いが難しい。そこで、なんとか、ニンニクを郷土の名産品にできないかと準備をはじめた。
それが、「ニンニクの科学」であり、「ニンニク工場」であり「ニンニク栽培の知財」という3つ
のテーマ。近い将来、「彦根」といえば「彦にゃん」「彦根城」じゃなく「ニンニク工場」として
世界から観光客が大勢訪れているだろう?!^^;。

 

神戸製鋼所は有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)製品の性能劣化を防ぐ成膜装置を商品化し、
た。ソーラーパ
ネルや電子ぺーパー用の装置に比べて百倍超の高い封止性を持ち、ロール上で連続
処理することで生産
性も高く、有機EL向けで同様構造の商品は世界でも初という。照明やテレビ
など有機EL製品の実用化が2015年ごろに控えており、装置・部材メーカーなどに採用を働きかけ

る。商品化した成膜装置「W60Cシリーズ」は、国内成膜メーカー数社から先行受注したという。価
格は5
億~6億円程度。15年度に年商20億円、20年度に同50億円を目指すと公表したので、早速、
技術背景をネット検索する。ひとことでいえば、減圧成ロール・コータ式連続成膜装置(蒸着)と
耐久性構造の半導体・表示素子ということになる。調査研究での経験を踏まえていうと、やっとこ
こまで来たかという思いとともにこの知財情報は参考になった。



 


 
【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

 

 【ケインズ経済学の現在化】

  

 
【経済回復のあとに改革を】

デヴィッドソンは、2001年9月11日の世界貿易センターと国防総省へのテロリストによる攻撃後の
数日の間に起きたときの連邦準備制度の果たした役割を説明する。


 このことの興味ある実例は、2001年9月11日の世界貿易センターと国防総省へのテロリストに
 よる攻撃後の数日の間に起こった。世界貿易センターが崩壊したとき、ニューヨークの金融市
 場や米国政府に対する公衆の信頼もまた崩壊するのではないかとの懸念が強まった.連邦準備
 制度は、攻撃後の2日間における国債市場への信頼を維持するために、450億ドルもの資金を
 銀行業界に供給した。それと同時に、ニューヨークのプライマリー・ディーラーが国債の「植
 付けをする」役割を受け持っているので、「
連邦準備制度は、木曜日[2001年9月13日]に連
 邦準備制度から直接借入れのできない投資銀行を含む、プライマリー・ディーラーの資金繰り
 面の懸念を和らげるため、ディーラーから売りの申し出のあった 702億ドル相当の政府証券を
 すべて即刻購入した。また金曜日には、記録的な 812.5億ドルもの政府証券を購入して、銀行
  業界にさらに資金を注ぎ込んだ」と、9月11日から程なくして『ウオールストリート・ジャー
 ナル』は報じている。

 実際には、連邦準備制度は貨幣と引き換えに財務省証券を買い取ったわけであり、それは、公
 衆の中で国債を買いに駆け込んでくる人がほとんどいない一方で、テロリストの攻撃後の将来
 を心配して自己のポートフォリオから国債を除きたいと思う公衆の中の多くの人だちから、容
 易に換金できない手持ちの国債を取り除いたということを意味する。連邦準備制度は、9月11
 日後の数日間で、国債市場のマーケットメーカーである金融仲介機関がいつでも流動性を入手
 できる状態にした。また公衆のだれであっても、望みさえすれば、秩序ある国債市場で速やか
 な出口戦略を取ることができるようになったのである。

 『ウォールストリート・ジャーナル』はまた、ニューヨーク証券取引所がテロリストの攻撃以
 来はじめて再開される9月17日の直前に、連邦準備制度の買い行動のおかげで潤沢な流動性を
 得ていた投資銀行のゴールドマン・サックスが、ある大手オープン・エンド型投信グループの
 投資担当役員に電話し、投資運用担当者が売りたいと思うどのような株式も購入する用意があ
 ると伝えたと、報じている。『ウォールストリート・ジャーナル』は、同時に企業も「規制当
 局により新たに緩和された株式買戻し規則に進んで便乗しようとした」と書いている。これら
 の企業は,公衆の保有していた有価証券を買い戻し、かれらの有価証券の価格を支えることに
 よって値付けに寄与したのである。

 より最近のケースでは,2008年3月13日、連邦準備制度は、ベアー・スターンズが所有する基
 本的に非流動的な住宅ローン担保証券を担保として、JPモルガン・チェースを経由してベアー・
 スターンズに融資を実行する契約を締結した。これにより、ベアー・スターンズは,3月14日
 満期の「レポ(repo)」(買い戻し条件)付き借入債務を返済するのに十分な流動性を得よう
 として,すでに機能不全に陥っている市場で有価証券を投げ売りしないで済むことになった。
 したがって、ベアー・スターンズは、一息つく間を得たことになり、金融市場への売り圧力は、
 少なくとも一時的に緩和された。JPモルガンは、ベアー・スターンズヘの融資を引き出すいわ
 ばパイプであった。なぜなら、モルガンは連邦準備制度の割引窓口を利用できる立場にあり連
 邦準備制度の管理・監督下にあるからである。にもかかわらず、3月13日の時点で明らかであ
 ったことは、もしベアー・スターンズが破綻し、その担保が融資額を償うのに十分でないなら
 ば、損をするのは連邦準備制度であってJPモルガンではないということである。

 3月16日(日)の夕刻に、連邦準備制度とモルガンは、モルガンがベアー・スターンズを1株当
 たり2ドルの投げ売り価格で買収すると発表した。(ベアー・スターンズの株式の3月14日(金)
 の終値は、1株当たり30ドルであった。)さらに連邦準備制度は、モルガンに対しベアー・スタ
 ーンズの買収にあって引き継いだ非流動的資産をまかなう資金として300億ドルを限度として融
 資することに同意した。本質的に連邦準備制度は、1989年の貯蓄貸付組合の支払い不能危機の
 とき、破綻した貯蓄貸付銀行の非流動的資産を処理した整理信託公社とほとんど同じ行動を取
 ったことになる。連邦準備制度の行動は、JPモルガンが、ベアー・スターンズから引き継いだ
 債務を償還するためにその資産を市場で投げ売りしなければならないのを防ぐ結果となった

 2001年9月11日以降の連邦準備制度の活動がはっきりと示していることは、中央銀行が一般大
 衆向けに売りに出される可能性のある有価証券の供給量を削減することによって、直接的ある
 いは間接的に証券価格の値付けを行なうことができるということである。そこで公衆は、金融
 資産の市場価格を無秩序な仕方で下落させることなく、自らの強まった弱気傾向を貨幣保有の
 増加によって満足させることができるのである。公衆の弱気の高まりが収まるまで、中央銀行
 とマーケットメーカーは、流動的資産の現在高のうち公衆が所有することを望まない部分を保
 有し続けることができるのである。

 要するに、マーケットメーカーの存在は、他のすべての条件が同じならば、取引される資産に
 対しより高い流動性を与える。しかしながらこの保証は、中央銀行が進んでマーケットメーカ
 ーに資金を提供するための直接的行動を取るか、あるいは間接的に資金を供給することがなけ
 れば、厳しい大量売りの状況では意味をなさなくなる可能性がある。もしマーケットメーカー
 が自己資金を使い果たしてしまい、また中央銀行による間接的な支援も得られないとすれば、
 資産は一時的に非流動的になる。それにもかかわらず、マーケットメーカーが買い手側を支え、
 それによって市場に流動性を回復させるために考えられる最善の努力を行なってくれているこ
 とを、資産保有者は「知っている」のである。

 マーケットメーカーのいない市場においては、ある資産の明白な流動性がほとんど瞬時になく
 なってしまう可能性も-ト分考えられ,さらに,だれかが市場に流動性を回復させるために努力
 してくれていると確信できる何の根拠もないのである。効率的市場の唱道者たちは,必要とさ
 れるのがただコンピューターを基礎とした市場組織であると想定しており、そこでは大多数の
 資産保有者が売りたいと思っているときはいつでも、コンピューターがつねにその有価証券を
 購入するのに十分な人数の市場参加者を探し見つけ出すであろうと考えられている。結局のと
 ころ、効率的市場において均衡価格以外の価格での買い手と売り手のホワイトノイズは、基礎
 的諸要因によって決定される価格を中心とした正規分布を示すと想定されている。したがって、
 金融市場の売りと買いのいずれのサイドにも市場参加者が不足するという事態は起こり得ない
 と、初めから仮定されているのである。

 2008年2月の初めの週に、多くの住宅ローン担保証券市場やARS市場が機能不全に陥ったこ
 とからすると、コンピューターがこれらの市場における秩序を維持するのに十分な買い手を見
 つけ出すことができなかったことは明らかである。さらにコンピューターは、ほとんどすべて
 の人が直近の市場価格ないしそれに近い価格で売却したいと思っているときに、機能不全に陥
 った市場に自動的に入り込み購入を始めるようにはプログラムされていないのである。ARS
 市場(やその他多くの証券化資産市場)を組織し支援している投資銀行家たちは、マーケット
 メーカーとして振る舞おうとはしないであろう。かれらは,市場が開かれる前に「価格協議
 (price talk)」)を行ない、今日の市場清算価格の予想される範囲を顧客たちにそれとなく知
 らせている。
 しかしながら、これらの価格協議を行なう金融機関は、自分の言ったことを行動で裏打
 ちするわけではない。というのも、たとえ市場清算価格がかれらの価格協議での推定値を大幅
 に下回ったとしても、かれらはマーケットメーカーとして振る舞うよう義務づけられているわ
 けではないからである。

 にもかかわらず、これらの投資銀行の代表者たちが顧客に対し、これらの証券化された資産は
 「『現金に相当するもの』である」と語ったという多くの報道がある。多くの保有者は、自分
 たちの保有資産には非常に高い流動性があると信じた。なぜなら、そもそもゴールドマン・サ
 ックス、リーマン・ブラザーズおよびメリル・リンチのような大手金融機関が市場を組織し、
 平常では価格協議も行なっていたからである。2008年2月15日付『ニューヨーク・タイムズ』
 のある記事は、次のように報じている。「いく人かの富裕な投資家は今週、
 ゴールドマン・サックスから大きなショックを受けた。というのも、ウォール街で最も著名な
 銀行であるゴールドマンは、投資家たちが現金と同じくらい安全だと聞かされていた投資から
 資金を引き上げようとするのを差し止めたからである。・・・ゴールドマン、リーマン・ブラザ
 ーズ、メリル・リンチなどが、投資家たちに、これらの証券の市場が凍結され、したがって、
 投資家の資金も凍結されると伝えつつあったのである」。

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

それでは、信頼できるマーケットメーカーのいないとどうなるのか?この疑問に対して、これらの
資産が容易に非流動的なものになる可能
性があることを示しているとデヴィッドソンは言う。


 もしこれらの投資家が古典派の効率的市場理論というセイレン〔ギリシア神話にある半女半島
 の海の精〕に惑わされることなく、ケインズの流動性分析が説く厳しい現実を学んでいたなら
 ば、かれらはけっしてこれらの市場に参加しなかったであろう。米国の証券法制と規制は、投
 資家たちが情報に基づく正しい意思決定をすることができるように、十分な情報提供に配慮す
 べきではなかったのだろうか。

 最後に、わたくしは、信用危機という大混乱を加速させたもうひとつの金融的術策の存在につ
 いて書き留めなければならない。それは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、すな
 わち、債務不履行に対する保険を提供するはずの手段として知られる革新的な金融商品のこと
 である。この金融商品は米国の金融サーヴィス会社によって開発されたものであり、将来が統
 計的に予測でき、したがって予測可能な生命保険や火災保険と同じように保険を掛けることが
 できるという効率的市場の考えの下に運営されている。それゆえ、債務不履行は過去のデータ
 に基づいて予測できるとされたのである。

 しかしながら、もし将来の出来事が過去および現在のデータに基づいて的確には予測され得な
 いならば、市場が金融債権の保有者に起こりうる借り手の債務不履行に備える保険手段を提供
 するための保険数理的な基礎など存在しないであろう。

 ところが近年、これらのCDSを保険商品として売り出すことが巨大なビジネスになった。2000
 年
商品取引現代化法(Commodity Trading Modernization Act of 2000)が、この金融商品の展開を
 促
進したといえる。この法律は、1999年のクリスマス直前に急いで議会を通過し、2000年1月
 に
クリントン大統領によって署名された。この法案の発起人である、テキサス州選出のグラム
 上
院議員は、この法律により、証券取引委員会と商品先物取引委員会という2つの政府規制機
 関
のどちらもが、新たに開発される新種の金融商品、とくにこれらのCDSを確実に規制できな
 くなるであろうと断言したといわれている。グラムは、この法案の通過が金融機関を過剰な規
 制から解放し、米国の金融サーヴィス会社に革新的な金融市場商品を育て上げる点での世界的
 リーダーの地位を占めさせることになるであろうと主張している。

 CDSは、それがあたかも保険証券でもあるかのように販売された。したがって、もしある債務
 不履行が起これば買い手は付保された全額の支払いを受けるという保証と引き換えに、金融債
 権の現在価値の一定パーセントに等しい年間保険料を支払った。これらのCDSは規制を受けて
 いないので、どの政府機関も、この保険の売り手が、債務不履行の起きたときに保険金を支払
 うのに十分な準備金を保持しているかどうかを、確認していない。

 
さらに、規制がないために,この保険の購入者〔契約者〕は、「被保険利益」を持っている。
 すなわち、債務不履行に備えて保険がかけられるような特定の債権の保有者である必要はない
 とされている。付保されるべき金融債権を保有していなくても、明らかに債務不履行が起こり
 そうだという賭けをしたい人はだれでも、CDSを購入することができるのである。言い換えれ
 ば、購入者は保険金額のx%の年間保険料を払いさえすれば賭けをすることができたことにな
 る。もし保険期間内に債務不履行が起きれば、賭けをした人は年間保険料という掛け金の数倍
 の金額を受け取ることになるであろう。多くの人は、この抜け穴を利用して、起こりうる
債務
 不履行に関して賭けを行なったのである。

 2007年には、これらのクレジット・スワップ派生資産の市場は、45兆ドル-全米株式市場のほ
 とんど4倍の大きさを超えた。明らかに、どの保険会社グループも、そのように膨大な保険契
 約市場の保険を引き受けるのに十分な準備金を特つことはできなかった。さらにより重要なこ
 とだが、これらの金融市場が非エルゴード的な過程によって支配されており、したがって、債
 務不履行の発生が不確実で,だれも債務不履行の確率的リスクを推計できないときに、だれが
 どのようにして、この45兆ドルの保険のために必要な準備金額を算出することができるであろ
 うか。世界第16位の巨大な株式公開会社であり、世界最大の保険会社であるアメリカン・イン
 ターナショナル・グループ(AIG)は、起こりうる債務不履行から守るためのCDS保険を販売
  することで、大規模な事業を展開した。

 債務不履行がとくに多くの証券化市場で起こったとき、AIGは流動性の危機に陥った。2008
 年9月には、AIGは同社が見積もっていた損失総額を数十億ドルも上回る損失をこうむってい
 たと報じられた。AIGは連邦準備や財務省が救済のために数十億ドルを提供することがなかっ
 たならば、履行されない債権の保有者たちに対し契約上の義務を履行することができなかった
 であろう。2009年2月に政府は、AIGを救済するために1500億ドルを提供していたのである。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                  『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

 


そう解説し、ケインズが主張しているように、もし将来の成り行きについての確かな予測が過去の
市場データによっては可能でないのならばCDSに基づく保険金の支払額を保険数理的に推計する
ことはできない。もし商品取引現代化法がCDS市場の規制を撤廃していなかったら、州の保険業規
制当局は、発生しうる損失についての信頼できる保険数理的な推計を得ることが不可能能であるに
もかかわらず債務不履行という事象を付保対象とする、このようなCDSを販売するのを、停止させ
ることができていたかもしれないとデヴィッドソンは振り返り、機能不全に陥りつつある証券化市
場に対する政府の政策対応は、次の2つの部分に分けられ、機能不全が将来再び起こることを防止
することであり、これらの証券化市場における最近の信用梗塞が不景気をもたらす効果を最小にす
ることであるとし、再発防止は、2つの政策対応の中では比較的論じやすいものであると主張する。

                                    この項つづく   



季節変動やバイオリズムの所為で体調が優れず免疫力が低下しているということで、ここ二日、昼
食替わ
りに、ニンニクチップス数片と刻み青ネギを具にして鶏卵2個を割り卵焼きをつくり、塩、
胡椒、醤油、酢、
オリーブ油で食べている。なんとか効いているのか少し上向きだした。なぜか、
ニンニクの十字架というイメージが浮かんだ

 

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パンツェロッティとケインズ

2013年04月02日 | 時事書評

 


【進展するデジタル革命】

関西大学システム理工学部の稲田貢准教授は、基板上に配置したナノ構造間の距離を制御する「ナノ構
造間相互作用精密制御装置(PICSN)」を開発した。DC(直流)モータで基板を伸縮させ、ナノ
構造間の距離を制御する。基板長の変位量は静電容量位置センサでモニタリングできる。位置分解能は
百ナノメートル(ナノは10億分の1)。量子ドットの間隔を変化させて、太陽電池が吸収しやすい光
の波長に変えることが可能になり太陽電池の高効率化などの応用が期待できるというニュースが朝イチ
に飛び込む。制御方法はいたって簡単で、シリコン(PDMS)基板上にナノ結晶を堆積させ、DCモー
タで試料ホルダに取付けた基板を引っ張り、延ばした距離を、ナノ結晶間距離を可逆的に制御すること
で、仮に、8ミリメートルのPDMS基板に1ナノメータ間隔に配列し、1マイクロメートル引き延ばした
とすれば、結晶間隔は0.125ナノメートル広げることができるというもの(このとき、センサ特性やシス
テムの温度特性一定にするため低温にして測定)。



なるほど、こんなもので再現性や確度良く測定できれば、或る意味画期的なことだろうが、引き延ばさ
れた(あるいはその逆の縮小)結晶体で形成された素子が、過酷な環境下(特に高温(~80℃)特性)
で信頼性のある品質が維持できるものか、素人でよくわからないという疑問符がつく。疑問符がつくが
サブナノメータ以下の微細加工が簡単にできる時代ということに改めて素直に驚く。いろいろな課題は
あるものの、本腰を入れ量子ドット太陽電池の実用化できる時代だと了解するに時間はかからないとい
うことだ。なら、いつやるか?いまでしょう!^^;。

 

   Panzerotti

【イタリア版食いしん坊万歳:パンツェロッティ】

材 料:小麦粉 400g、生イースト 25g、モッツァレッラチーズ 300g、アンチョビーのフィレ 8
    ~10枚、オリーブ油、塩

これは揚げピッツァの中でも特においしいとされている一つ。最初にぬるま湯で溶いた生イーストと、
必要なだけの水と塩とで小麦粉を練り、生地を作る。この生地を寝かせて、醗酵させた後、そこから
普通のピッツァよりも小さめの円盤の形を作る。それぞれの円盤の上の片側にアンチョビーを少し細
かく刻んだものとモッツァレッラチーズの薄切りをそれぞれ1枚ずつのせ、生地のもう片方をその上
に折り返して、重ね合わせた縁を指でつまんで閉じる。こうして作ったパンツェロッティを高温のた
っぶりの油で揚げる。このほかに、詰物としてモッツァレッラチーズとトマト、あるいはリコッタチ
ーズと卵、ソーセージかハムの角切りを組み合わせてもいいとか。

 

 


【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】


1.タブーと経路依存性

2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

【ケインズ経済学の現在化】


【経済回復のあとに改革を】

国会中継をたまたまみていたら、例のアベノミクスの質疑がなされていたので答弁を聴いていたが、
金融政策軽視?や財務・日銀官僚の経路依存性の壁に阻まれ思い切った手が打てなかったことを反省
ていた(ワンポイント・レッスン:財政を投入しても円高で相殺され景気浮揚しない)。新しいこ
をやろうとすると必ず抵抗にあい、また思わぬ失敗もする。それを乗り越えてこそ本懐というもの
と思いながらスイッチを切った。さて、ケインズは『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたルーズ
べルト大統領に対する1933年の公開書簡の中で、大統領は強力な経済復興計画を最優先事項として展
開すべきであると勧告したとポール・デヴィッドソンは述べ、復興がうまく軌道に乗ってから、大統
領は「前々からの懸案である実業界と社会の改革」のための法律の制定に取り組むべきであるとされ
たのである。これまでの章では、なぜそしてどういう形の経済復興計画が、現在の経済危機に対する
ケインズ・ソリューションとして必要とされるかを説明してきた。本章と次章では、前々からの懸案
であり2007年に始まった重大な経済危機にわれわれを巻き込んだ過ちを再び繰り返さないようにする
とわたくしの希望する実業界と社会の改革について、説明することとしたい。これらの必要とされる
改革は、将来繁栄する経済システムを作り出すのをより容易なものにするだろうと述べる。


 第1章は、最近の経済危機の原因が、ルーズベルト政権時代に制定された金融制度に関する政府
 の規則と規制の撤廃にまでさかのぼりうることを指摘した。第2章は、銀行制度を証券業や投資
 銀行から分離した1933年のグラスースティーガル法の制定にいたる経緯と、1970年代に始まる銀
 行制度の規制緩和がどのようにして始まったかについて説明した。この規制緩和は、1999年のグ
 ラスースティーガル法の事実上の廃止で最高潮に達したが、このことは、銀行や投資銀行家たち
 が、債務担保証券(CDO)や投資運用会社(SIV)の扱う特殊な金融資産などの複雑な住宅ロー
 ン担保証券を「証券化」するための市場を、考案し組織することへの歯止めを解く結果となった。
 そこで投資銀行家たちは、多くの非流動的な住宅ローンを住宅ローン担保証券にひとまとめにす
 ることにより、その結果生み出された仕組み金融派生商品が現金と同じくらい流動性がありなが
 ら高い収益性も見込めることを投資家に保証したのである


 ある投資銀行が多くの非流動的な住宅ローンをひとまとめにし、それを行なった同じ投資銀行に
 よって組織された市場で売買可能な新種の金融商品に仕立て上げることは、金融の証券化といわ
 れる。われわれの今日の危機をもたらしたのは、アメリカにおける最大手の投資銀行によって推
 進された。このような制御の効かなくなった「金融の証券化」事業である。グリーンスパンは、
 何がこれらの複雑な金融商品の取引される組織化された金融市場の大崩壊を引き起こしたのかを
 説明できず困っていることを認めた。しかしながら、第4章で論じたように、資本主義システム
 における貨幣の役割と流動性についてのケインズの考えは、この金融の証券化が最近の経済的混
 乱をなぜ引き起こしたのかを理解するための基礎をわれわれに提供してくれているのである。

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

 
【金融の証券化,流動性および金融市場の失敗】 

グラス・スティーガル法が撤廃された後、たとえ借り手が通常の基準たとえ借り手が通常の基準では
融資を受ける資格がないと考えられる場合でも、とにかく住宅ローンを実行しそれをすぐ他人に売却
してしまうという動きが、サブブライムローン危機をもたらしたのである。2008年の半ばには、各国
政府は、この危
機が米国、英国および他の多くの国における民間銀行制度の活力にとって脅威となる
ことを認識し始めていた。当初、米国におけるサブプライムローン問題として理解されているに過ぎ
なかったものが、やがていくつかの主要投資銀行が多くの住宅ローンを一まとめにした上でそれを「
切り分け」、その後その各部分を混ぜ合わせ金融派生商品に仕立てあげるようになって、難しい問題
が発生した。格付機関は、これらがきわめて安全で流動性のある資産であるとの引受業者の主張にお
墨付を与えた。これらの金融派生商品の購入者は、手持ちの購買力を将来に先送りするための流動的
なタイムマシンであるとともに無限の将来まで高収益をもたらしてもくれる資産を求める一般市民と
機関投資家であった。これらの金融資産を編み出した投資銀行家たちはまた、これらの証券を売買で
きる市場を作り上げた。突然2007年と2008年に、これらの金融資産の多くがその流動性を失ってしま
い,たとえそれら金融資産が売却できたとしても、その市場価値は「投げ売り価格」としばしば呼ば
れる水準にまで急落したが、資産保有者に対しその資産の売却に当たり市場価格の秩序ある値動きを
保証することができなくなる現象は、他の市場にも伝染しやすいことが明らかになった。無秩序な値
動きは、ARS市場(auction-rate securities market: 金利水準が1週間ないし1ヵ月単位で実施される
入札によって決定される債券市場)のような他の市場にも波及するようになったのである。これらA
RS市場は、2008年に入るまでは機能不全に陥るケースがほとんど存在しなかったにもかかわらず、
2008年1月~2月の間だけで1,000件以上もの売買不成立を経験した。これら証券化資産市場における
失敗とそうした失敗の他の市場への伝染を引き起こし、
その結果として市場の機能不全のおびただし
い増加をもたらしたのは、いったい何であったのであろうかと回顧するが、その答えは簡単だとデヴ
ィッドソンは言う。

それは、経済学者、金融市場規制当局や市場参加者はケインズの流動性選好説を忘れてしまい、その
代わりに古典派の効率的市場理論が現実世界の金融市場の動きを理解するための有効なモデルである
という考えを丸ごと鵜呑みにしたためであると。効率的市場理論の示唆するところは、もし十分な情
報を持った買い手と売り手が規制のない自由な金融市場で結び合わされるならば、そこでの市場価格
はつねに秩序ある仕方で市場清算価格に調整されるという楽観主義に流されると。この市場清算価格
は、これら派生商品を裏付けている原住宅ローンが生み出す将来のキャッシュフローから保険数理的
に「割り出された収益性」を表わす市場の「基礎的諸要因」に基づいているが、不幸なことに、将来
が不確実で現存するデータを基礎にして信頼できる予測ができないならば、割り振ることのできる確
実な保険数理的な価値は存在しないのだと解説し、「有価証券の市場価格を決定するのは、何だろう
か」と問う。


 有価証券の市場価格が秩序ある仕方で変化するのを確実にするために、スペシャリストたちは、
 取引価格が直前の水準より無秩序に変化するのを阻止する「マーケットメーカー」として行動す
 ることが期待された。例えば、もし取引日中のある時点で、売り手の数が買い手の数をはるかに
 上回っているならば、スペシャリストたちには、どのような市場価格の変化にも秩序正しさを維
 持する目的で、自己勘定で買い出動することが求められた(またもし買い手が売り手を大きく上
 回っているならば、逆に売り出動することが求められた)のである。取引資産の所有者に、直前
 に公表された価格に近い市場価格で容易に換金できることを確信させるのに必要な条件とは、こ
 の秩序ある値動きである。言い換えれば、これらの市場においては秩序ある値動きは流動性を維
 持するために必要とされるのである

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


しかし、これでは不十分だったという。現代の効率的金融市場理論は、これらの巧妙に作られたマー
ケットメーカーとしてのスペシャリストという制度的取り決めが、コンピューター時代には古臭くな
っているとほのめかしている。古典派の効率的市場理論が暗に意味していることは、コンピューター
とインターネットを用いることによって膨大な数の買い手と売り手が仮想空間で瞬時に効率よく出会
うことができるということである。その結果、この理論の唱道者たちは、人間が値付けするスペシャ
リストとして行動する必要はない。コンピューターが売りと買いの注文を記帳し、両者を秩序あるや
り方で、過去にこれらのことを行なってきた人間よりもはるかに迅速かつ安価に、突き合わせること
ができるからだと。そして、その古典派の効率的市場理論の基礎的な確信は、取引される金融資産の
価値はすでに前もって今日の市場の基礎的諸要因によって決定されているという想定にあり、機能不
全に陥った多くの金融市場で、投資家に将来のキャッシュフローを提供するはずの基礎的金融証券は、
住宅ローン、長期社債や地方債といった長期の債務証券が多く、これらの市場効率の必要条件が、債
務者が契約上の返済義務としての将来のすべての現金支払いを行なうことができなくなる確率的リス
クが保険数理的な確実性をもって知ることができるということであり、自分の利己心に最も合致した
利潤獲得の機会が選択できるということになる。

つまり、古典派の理論家たちは、これら債務証券に代表される取引資産の仮説上の保険数理的価値を
めぐるどのような観察される市場価格の変動も、統計的なホワイトノイズであると想定し、標本の規
模が大きくなればなるほど、その分散が小さくなることは、どのような統計学者でも指摘するところ
である。標本の規模が大きくなればなるほど、実際の市場価格の値は基礎的諸要因により決定される
市場価格に漸近いくというのである。コンピューターは、それが出現する以前の旧来の仕組みの市場
より、はるかに多くの買い手と売り手をグローバルに引き合わせることができるから、コンピュータ
ー時代の取引参加者という標本の規模は飛躍的に増加するであろう。もし古典派の効率的市場理論を
信じるのなら、コンピューターに市場の組織を支援させれば分散は顕著に低下し、はるかによく組織
化され秩序ある市場のでき上がる可能性が高まる。


【なぜ証券化資産市場は機能不全に陥ったのか】

そしてその結果、グリーンスパンのような古典派の効率的市場理論の唱道者たちは、これらの資産の
保有者たちにとっての確率的リスクを分散させることがはるかに効率的であり、個々の取引コストも
大幅に削減できると示唆している。すでに指摘したように、この古典派の効率的市場理論の根底にあ
るのは、将来の成り行きは分かっているという基本的な考え方(エルゴード性の公理)というわけだ
が、「もしこの理論がわれわれの世界に適用されるというのならば、投資家が突然換金できない投資
物件で身動きが取れなくなっていることに気付くという意昧での、あまりにも多い証券化資産市場の
機能不全をいったいどのように説明することができるのであろうか」とデヴィッドソンが問いかける。


 ケインズが主張したのは、経済の将来の成り行きが不確実であり、したがってどのような効率的
 市場理論にとっても基本とされる古典派のエルゴード性の公理が現実世界の金融市場には当ては
 まらないということである。不確実なわれわれの世界においては、金融市場の主たる機能は、諸
 資産の転売をつうじて流動性を提供することである。第4章(「1ペニーの支出は1ペニーの所
  得になる-資本主義経済と貨幣の役割に関するケインズの考え」)で指摘したように、どのような組織化さ
  れた市場で取引される資産の流動性の度合も、つねに秩序ある転売市場が存在するという考えに
 対する人びとの信頼を醸成しようとする信用のおけるマーケットメーカーの存在によって高めら
 れるであろう。マーケットメーカーの存在が資産保有者に示していることは、もし売りに出され
 た有価証券を適正に引き下げられた価格で購入したいという買い手が現れないならば、マーケッ
 トメーカー
が秩序を維持するために、たとえそうすることが自己勘定で購入しなければならない
 ことを意味するとしても、最善を尽くすであろうということである。言い換えれば、マーケット
 メーカーが存在する市場においては、資産の保有者は、自分たちがいつでも速やかな出口戦略を
 取ることができ保有資産を容易に換金することができると、確信していて差し支えないのである。

                     -中略-

 将来が不確実でたんに確率的にリスキーというだけではない世界において、秩序ある流動的な転
 売市場
が存在するためには、売り注文一色となったときでも、潮流に逆らって買い行動に出るこ
 とを大衆に請け合うようなマーケットメーカーが存在しなければならないのである。したがって、

 マーケットメーカーは手元資金を潤沢にもっているか、あるいは必要とあらばかなりの金額の資
 金を入
手できなければならない。にもかかわらず、どのような民間のマーケットメーカーにも、
 滝のような売り注文に立ち向かって自分の現金準備を使い果たしてしまうような事態が十分起こ
 りうるであろう。そしてマーケットメーカーが金融市場の秩序を維持するのに必要な資金を得る

 ために国の中央銀行を直接的ないし間接的に容易に利用できる方策が整っている場合にのみ、最
 も厳しい市場の状態の下でさえ流動性は保証されうるであろう。このような中央銀行に対する優
 先的なアクセスをもっているマーケットメーカーだけが,起こりうるどのような悲惨な金融市場

 の崩壊をも食い止めるのに十分な資金をつねに調達することができると、確信していて差し支え
 ないのである。

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


このことを踏まえ、デヴィッドソンは、2001年9月11日の世界貿易センターと国防総省へのテロリストに
よる攻撃後の数日の間に起きたときの連邦準備制度の果たした役割を説明する。 

                                        この項つづく



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小さな器と大きな器

2013年04月01日 | 時事書評

 

 

 

【小さな器の話】

最近、東京・新大久保や大阪の鶴橋など在日韓国人が多い繁華街で「朝鮮人を殺せ!」「出てけ」
となどとコールするデモが開かれ、日の丸や旭日旗を掲げた集団が「朝鮮人をガス室に送れ」な
どと掲げた板を持ちながら練り歩き、参加者が「朝鮮人の女はレイプしろ」と語っている動画が
YouTubeにアップされるなど、
排外主義・人種主義(レイシズム)が過激化の一途を辿っているという。
いとも簡単に基本的人権を自ら破壊するに通じる精神を知って、昨今の情況から気持ちはわからな
いことはないが、ずいぶんと器の小さい話だと思う



話はそれがメインではない。エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の話。この手のサプリメ
ントが通信販売や店頭販売でわんさか並んでいるので屋上屋を重ねるともりはないのだが、ニスイ
が「EPA濃縮油およびDHA濃縮油の製造方法」(WO/2009/017102 )の国際特許が公知されているの
を知りそれを調べていた。最近は化学反応式から遠ざかっているのですっかり忘れてしまっていた
ことに気付いたが、そのことはこっちに置いて、使用する原料としてはEPAおよびDHAの含有量が高
いほど良く、好ましい脂質として、イワシ油(例:EPA 17%、DHA 12%)、マグロ油(例:EPA 7%、
DHA 25%)、カツオ油(例:EPA 5%、DHA 24%)、サケ油(例:EPA 9%、DHA 14%)などが挙げ
られる。油脂は、通常、脂肪酸のトリグリセリドを意味するが、本発明ではジグリセリド、モノグ
リセリドなどリパーゼが作用するその他のグリセリドも含み、グリセリドとは、脂肪酸のトリグリ
セリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドの総称であるとする。で、この発明は「酸化マグネシ
ウム等の反応添加剤の存在下でEPAおよびDHAを含有する油脂を炭素数18以下の脂肪酸に基質特異
性を有するリパーゼによりアルコリシス反応させたのちグリセリド画分を分離し、さらにそのグリ
セリド画分を酸化マグネシウム等の反応添加剤の存在下で、炭素数20以下の脂肪酸に基質特異性
を有するリパーゼによりさせて、EPA濃縮油およびDHA濃縮油を同時に得る方法が提供」なのだが、
ブログテーマの「魚工場」のイワシ畜養の出口プラットフォーム構想として考えてみたかったのだ。
そして、香川県のオリーブオイル、中国産の八角とニンニク工場(これから構案する)を加え「
イブリッド水素燃料電池
」で掲載した「アンチョビエキスのオリーブ油」を製造・販売するという
具体案として動き出したというわけだ(本当!これだけでも忙しいのだが、結構、面白くやってい
る)。それにしても、毎日、マイワシ40グラム以上と野菜(βーカロティン、ビタミンC)と緑
茶を摂っていれば・・・。





と、さて今夜は「インフレーション」をポール・デヴィッドソンに語ってもらうことに。


【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】


1.タブーと経路依存性

2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

【ケインズ経済学の現在化】


【国債とインフレーションについての事実】

【インフレーショを説明する】

【所得インフレーション】

 ケインズは、第2の形態のインフレーション、すなわち所得インフレーションを次のように定義
 している。それは、生産物1単位あたりの貨幣表示の生産コストの上昇と結びついている。もし
 企業が自分の生産している製品で利益を上げ続けようとするならば、生産コストが上昇するにつ
 れて、自らの生産物の市場価格を引き上げざるを得ないであろう。これらの生産コストの増加は、
 生産過程への役人物の所有者、すなわち賃金・給料の稼得者、原材料供給者、貸し手あるいは利
 潤受取人に対する支払所得の増加を反映している。したがって、例えば、労働者の生産性は変化
 しないにもかかわらず貨幣賃金率が上昇するならば、生産物1単位当たりの労働コストは上昇す
 る。企業はこの単位生産コストが上昇するなかで、生産を続けなお利潤を上げるためには、状況
 に応じて価格を引き上げなければならない。

 言い換えれば、所得インフレーションは、生産過程への投入物の所有者が生産性の上昇によって
 は相殺されないようなより高い所得を受取るために生産コストが上昇するときに、起こるのであ
 
この所得インフレーションは,生産性は不変であるとして、国内生産物価格のインフレ的上
 昇が、生産過程で得られるだれかの貨幣所得の増加とつねに結びついている(と共にその結果で
 もある)という。明白だがしばしば無視されている事実を浮き彫りにする。ある企業の生産コス
 トは、生産過程で企業によって使用される労働、原材料、財産あるいは資本を提供する人たちの
 所得という同じコインの裏側なのである。

 もし政府が国内で生産される財やサービスの所得インフレ率を抑制しようとするならば、生産過
 程への投入物の所有者の貨幣所得が生産性の改善以上に上昇するのをとにかく抑制しなければな
 らない。生産契約における賃金、給料および他の原材料コストの上昇は、つねにだれかの貨幣所
 得の増加を意味する。文明化された社会においては奴隷制が違法とされているので、労働者を雇
 うための貨幣賃金契約は、すべての生産コストの中で最も一般的なものである。労働コストは、
 経済における生産契約コストの大部分を占めており、NASAの宇宙船のようなハイテク製品に
 おいても例外ではない。これは、なぜ、とくに第2次世界大戦後の25年間において、インフレが
 通常貨幣賃金インフレと結びついていたかを説明するものである。

                      -中略-

 明らかなことだが、所得インフレーションを防ぐためには、生産性との比較における貨幣所得の
 増加率になんらかの制限が課せられなければならない。最近、経済がより深刻な景気後退に陥っ
 ているので、大抵の労働者、家主、貸し手および企業は自らの販売価格を引き上げ、それによっ
 て所得インフレ的な情況を作り出せるような力をほとんど持っていない。したがって、オバマ大
 統領の景気刺激策が所得インフレーションを促進するような情況を作り出す恐れは、ほとんどな
 いし全く存在しない。オバマ大統領の景気回復計画が米国経済を景気後退から完全に救い出し完
 全雇用と繁栄への途に引き戻すことができるならば、そしてそのときにこそ、政府は、生産に用
 いられる投人物が、所得インフレ的な価格引き上げを要求できる状況の生み出されることのない
 ように用心しなければならないであろう。もし将来このような所得インフレーションに苦しむ状
 態が発生するならば、ケインズ・ソリューションはどのようなものになるのであろうか。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                    『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

 


【所得インフレーションと闘う所得政策】

 

 第2次世界犬戦後長年の間、ほとんどの先進国での貨幣賃金率の上昇が、所得インフレーション
 を引き起こす主たる要因であった。なぜこのような賃金一物価インフレが猛威をふるったのかを
 理解するためには、戦争の結果起こった産業社会の質的変化を明確に理解しなければならない。
 経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith)が指摘しているように「市
 場は、産業社会やそれと結びついた政治的諸制度が成熟するにつれて、物事を取り仕切る力とし
 ての権威をすっかり失ってしまっているが・・・それは、ある意味では、われわれの民主主義精神
 の現われでもある」。大不況による甚大な被害を経験した後に、民主主義国家の一般市民の間に
 現れてきた風潮は、人びとが自分の経済的命運をもっとコントロールすべきだと主張することで
 あった。大不況はすべての人に、もし人びとが自らの所得の決定を全く自由市場のなすがままに
 委ねるならば自分の経済生活をコントロールすることができないということを教えたのである。
 
 その結果、第2次世界大戦後、多少とも民主主義的な風潮を持つ社会においては、人びとは、資
 本主義システムから経済面での保証を要求するのみならず。自分たちが自らの経済的命運を決定
 する上で主導的役割を演じるべきであると主張した。この主導的役割には、自分の所得をコント
 ロールできる力が必要であった。
その結果、労働組合、政治的連合体、経済団体連合および独占
 的産業などの組織間で、より高い所得を自分の方に取り込もうとする権力闘争が起こり、これが
 所得インフレーションをもたらすこととなったのである。

 政府が完全雇用政策を追求することを保証しているかぎり、利に心に基づいた労働者、労働組合
 および企業経営者のすべてにとって、自分たちの価格や貨幣所得の引き上げ要求が、売上げの喪
 失や失業に終わることを恐れる必要はほとんどないことになる。政府が、完全雇用の生産水準に
 近い状態に経済を維持するために十分な総有効需要を作り出す責任を引き受けているかぎり、所
 得インフレーションをもたらすこの繰り返し発生する所得分配をめぐる争いを差し止めるなんら
 のインセンティブも、市場には存在しないであろう

 なんらかの公表された計画的所得抑制策を伴わない完全雇用政策は、現在雇用されている人より
 も低い賃金を受け入れることによって職を得たいと思う失業者の、カール・マルクス(Kar Marx
 が軽蔑的に呼んだ「産業予備軍」が、もはや存在しないことを確実にするものである。大多数の
 失業者が存在するかぎり、企業はより高い賃金を求める労働者の要求をはねつけることができる。
 同じような技能を持った大多数の失業者が存在すれば、現在雇用されている人は、自分がなお働
 き口を持っており所得を稼ぐことができていることに感謝の気持ちを抱くようになる。したがっ
 て雇用されている労働者たちは、景気後退や高水準の失業労働者の存在をものともせずに攻撃的
 でより高い賃金を要求するようなことはしそうにない。自由放任の市場環境のもとでは、失業労
 働者の割合のかなり高いことが、組織労働者による貨幣賃金アップの要求を抑制する主な要因に
 なる可能性がある。

 1990年代以降、グローバルな自由貿易とともに、中国、インドその他の国々において、欧米で普
 及している賃金よりもはるかに低い賃金で働きたいと思う。未熟練ないし半熟練労働者のほとん
 ど際限のない供給が可能となり、これが、大抵のブルーカラーや一部のホワイトカラーの仕事に
 対してさえ現在支払われている貨幣賃金率を引き上げたり現状維持したりできる。西欧労働者の
 能力を制限している点において、マルクスのいう「失業者の産業予備軍」のような働きをしてい
 る。その結果として高賃金のアメリカ人の働き口をこれら低賃金の国々に外部委託すること
 (outsourcing)が、労働者の賃金や付加給付を引き上げようとする国内の労働組合の力を減殺し
 ているばかりでなく、米国製造業の基盤の破壊ないし空洞化をもたらしている。第7章において
 は、こうした外部委託と国際貿易に対処する問題と方策が論じられる(後略)。

 自由市場の「見えざる手」の恩恵を信じている古典派の経済学者によれば、外部委託によって自
 分の働き口を国内の失業者ないし外国人に奪われる心配のない場合には、賃金一所得インフレー
 ションと闘う唯一の方法があるとされる。人びとがもっぱら利己心によって動かされている自由
 な社会においては、労働者も企業家も、自分のサービスに対してどのような対価をも自由に要求
 -その要求がたとえインフレ的であったとしても-することができる。そこで所得インフレーシ
 ョンに対する古典派の解決策は、経済を不景気にすることである。それによって古典派理論が暗
 に意味しているのは、自由社会の権利のひとつが自分に法外な高値をつけて雇い手がつかなくな
 るようにする権利であるということである。

                      -中略-

 

 例えば、中央銀行は、目標インフレ率が2%であると公表しているものとする。この目標値は、
 インフレ率
の測定値が2%を超えるならば、中央銀行が人びとにそのインフレ的な所得要求を取
 り下げさせるべく意図的に景気後退の状況を作り出し、人びとの働き口を危うくするであろうと
 
国民に警告するために設定されている。言い換えれば、貨幣所得の引き上げを推し進める力が物
 価
を目標率以上に上昇せしめるならば、中央銀行は、たとえその措置が広範囲におよぶ失業と企
 業の損失を引き起こすとしても、インフレ率が再び目標率の水準へ低下するまで,利子率を引き
 上げるであろう。したがって、中央銀行は、公表した目標インフレ率を,企業や労働者側に対し
 て、もし自分たちが賃金や物価の上昇を認める(要求する)ならば生活の糧を稼ぐ機会を失う危
 険に陥るのではないかとの恐れの気持ちを起こさせる手段として、用いているのである。

 この貨幣所得増額要求を抑制する政策は、「恐れの気持ちを利用した所得政策」と呼ぶことがで
 きるかもしれない。その目的は,中央銀行が賃金やその他の所得のどのような大幅なインフレ的
 要求も市場で容認されることになるのを阻止するためにはどんなことでもするということを、労
 働者大衆に悟らせることである。市場の需要を十分に減少させることにより、利潤喪失の恐れが
 労働者の賃金要求を拒否するほど十分に経営者の対決姿勢を強化し,失業の恐れが労働者の賃金
 および付加給付の改善要求を手控えさせるような、金融引き締め政策が、古典派理論の所得イン
 フレーション抑制政策なのである。

 古典派の理論家たちは、もし独立した中央銀行が景気後退の情況を作り出すことによって断固と
 して所得インフレーションを退治しようとするならば、その結果として生じる国内製品に対する
 不活発な市場の需要がすべての労働者や企業に,売上げや所得を失う恐れを感じさせるであろう
 と、信じているのである。われわれは、自由市場観に基づき失業や企業倒産を脅しの材料に使う
 所得政策に頼っているかぎり、完金雇用にほぽ近い経済繁栄の状態をけっして達成することはで
 きないであろう。したがって、中央銀行による「目標インフレ率を設定する|金融政策を唱道す
 る人たちは、恐れ、すなわち国内で財・サービスを生産している企業にとっての仕事、売上げ収
 入および利潤を失う恐れを利用した所得政策を暗黙裡に支持しているのである。恐れは、国内の
 生産要素の持ち主たちを付け上がらせないであろうと信じられている。この恐れの気持ちを利用
 した所得政策を実効あらしめるのに必要な不活発な需要水準は、現代の古典派の経済学者たちが
 国内の失業の「自然率」と呼ぶものに依存している。

 この目標インフレ率を設定する、恐れの気持ちを利用した所得政策の提唱者が暗黙のうちに想定
 していることは、もし政府が長期の失業手当や、最低賃金、年金基金への雇用主分担金、従業員
 のための健康保険、労働条件を保護する法律、労働者の組合への組織化を含むその他の貨幣所得
 援助を、完全に取り止めるとまではいかないにしても、削減することによって労働市場を
「自由
 化する」ならば、この自然失業率はより低いものになるであろうということである。のような情
 況では、労働者はさほど反抗的でなくなるであろうとされているのである。

 
自由市場の唱道者はしばしば、失業者を保護するための恒久的な社会的安金網が、インフレに対
 する闘いにおける犠牲者を甘やかすものであり、その結果、労働者が失業者の群れに加わること
 をほとんど恐れなくなっているとみている。社会のすべての構成員の心に染み込まされた、遍く
 存在する圧倒的な恐れは、目標インフレ率を設定する野蛮な政策が有効に機能するための必要条
 件である。必然的に文明社会がこの闘いの最初の犠牲者になっている。

 本質的に、このインフレと闘う自由市場観は、メロン財務長官がフーヴァ大統領に具申した次の
 ような勧告からさほど進歩しているわけではない。労働を清算しましょう。・・・ そうすれば、こ
 のシステムから不健全なものを一掃することになり、・・・人びとはより勤勉に働き、より道徳的
 な生活を送るようになるでしょう。・・・」。
中国やインドのような人口の多い国が21世紀のグロ
 ーバル経済に統合された結果、これらの国の「産業予備軍」が、多くの先進国経済に組み込まれ
 るに至っている。「自由貿易」が推進されるにつれて、高賃金の国内労働者の間に、外国の低賃
 金の労働者に自分の働き口を奪われるかもしれないとの恐れが芽生え始めている。これら低賃金
 で人口過剰の国々は、主な先進国での一般的な水準よりはるかに低い賃金で仕事を引き受けたい
 と思う。失業していて暇な労働者をほとんど無制限に供給することができるのである。この事実
 は、製造業の仕事や特定のサーヴィス業務の外部委託(例えば、インドにおけるコールセンター
 のように、生産されるサービスによっては、輸送・通信費用が相対的に低いものがある)の高ま
 りと組み合わさって、過去20年における主要産業国家の労働者の所得要求を大幅に抑制するに至
 っている。その結果、所得インフレーションは、これらの国内サービス業や外部委託の不可能な
 (国防などの)製造業に限られている。

 したがって、西欧産業国家における未熟練および半熟練労働者と、低賃金の仕事を外部委託する
 ことができ、同時に生産物の販売による高い利潤マージンや高額の役員給与・賞与を要求するこ
 とのできる多国籍企業の西欧人の幹部やオーナーとの間で、所得分配上の格差が広がっている。

 古典派理論の所得インフレーション抑制政策を市民に対するあまり文明国にふさわしくないやり
 方であると考えている人たちにとって、それに取って代わるインフレーション抑制のための所得
 政策が、インフレに関するケインズの考えから、導き出されうるものと思われる。
外部委託が労
 働者に出過ぎたまねをさせない主要な武器となる前の1970年に、ペンシルバニア大学のシドニー・
 ワイントロープ(Sidney Weintraub)教授は、1973年の石油価格ショックに先立って国々が経験し
  ていたインフレ的現象にとってケインズの所得インフレーションの概念が適切であることを悟っ
  た。
そしてワイントロープは、課税を活用した所得政策(tax-based incomes policy, TIP)と呼ばれ
 る「賢明な」インフレ抑制政策を提案した。TIPは、国内の大企業が国の標準的な生産性向上率
 を上回る賃金率の引き上げに同意した場合、その企業を罰するために,法人所得税制を用いるこ
 とを要求するものであった。このように、税制は、インフレ的な賃金要求に同意した企業を罰す
 るために用いられることになる。TIPが期待していることは、もし賃上げが平均的な生産性上昇
 率以下に抑えられても、労働者もその他国内の生産過程への投入物の所有者も,そのような非イ
 ンフレ的な貨幣所得の引き上げを快く受け入れなければならないということである。

 ワイントロープは、TIPが所得インフレを抑制するのに所得喪失の恐れに頼らない効果的な政策
 であろうとすれば、次の2つの条件が必要であると考えた。すなわち、

 
1.TIPは、恒久的な政策措置でなければならない。
 2.TIPは、基準を破った企業に対する懲罰税制でなければならず、基準 を守った企業への報
   奨(助成)税制であってはならない。

 
 TIPは、ひとたび導入されると、けっして撤廃できないであろう。なぜなら、そうでないと、廃
 止期日が近づくにつれてその効力が失われるからである。ワイントロープは、懲罰課税の大きさ
 は状況次第で変更可能であるが、懲罰の脅威は法令遵守を確保するためにつねに存在しなければ
 ならないと述べている。
もし人びとが国の標準賃金を厳守するならばそれらの人びとの税金を減
 額するという。報奨型のTIPは、行政的に実施不可能であろう。というのも、すべての人が報奨
 を申請することになり、政府はどの申請者が減税措置を受ける資格がないかを立証しなければな
 らないからである。ワイントロープによれば、TIPは、政府が国の高速道路上の速度制限を守ら
 せようとするやり方に似ているとのことである。もしあなたが制限速度-これはつねに実施され
 ている形であるがを超過するならば、スピード違反の罰金を支払うことになる。政府は、制限速
 度を超過しなかった優良ドライバーに対して、けっして報奨金を支払うことはないのである

 不幸なことに、米国も他の多くの国も,恒久的な罰則策としてのTIPを、けっして真面目に展開
 しようとはしなかった。その代わりに、自由貿易の旗印の下に、業務の外部委託がわれわれの所
 得政策となった。低開発国における低賃金労働者の無尽蔵な供給を容易に利用できる多国籍企業
 は、それによって国内の賃上げ要求を抑えつけることに成功してきたのである。
近年、このよう
 な所得政策が多くの産業国家に与えた本当の損失が、明らかになってきている。例えば、ドイツ
 とフランスにとって一大不況以来見られなかった。2桁の失業率がしばしば当たり前の現象にな
 っている。
ワイントローブは、人間に社会的に望ましい文明化された行動を取らせるために、野
 蛮な(市場の)力ではなく人間的な知性を用いるべきだと終生信じていたが、最終的にかれは、
 ある種の文明国にふさわしい所得抑制策が、伝統的な古典派の目標インフレ率政策には不可避の
 不景気にするという副作用を伴うことなくインフレをコントロールするためのより人道的な方法
 とみなされると考えた。ワイントロープは、文明社会がすべての所得稼得者を公平に取り扱う所
 得政策を採択するかぎり、完全雇用を目指す経済政策を追求することができると信じたのである。

 言葉と考えは、インフレに対する戦いにおける重要な武器である。主要な産業国家の政府の最も
 重要な機能のひとつは、貨幣所得の引き上げを目指す各グループの競合する要求が、結局のとこ
 ろ一国の総所得の分配をめぐる争いであるということを国民に認識してもらうことである。自由
 市場の資本主義システムにおいては、恣意的で不公平な所得分配をめぐるこのような争いは、所
 得政策がない場合、ある期間相対的な勝者は存在するかもしれないものの、すべての国民にとっ
 て勝者がなく現実には敗者しかないゲームになるように思われる。豊かに繁栄している資本主義
 経済の所得を文明国にふさわしい仕方で分配する所得政策が望ましいことに関して政治的コンセ
 ンサスを築き上げることは政府の責任にほかならない。
 

 歴史上の記録が示していることは、政府がある種の所得政策によっていろいろなグループの貨幣
 所得引き上げ要求を直接抑制する政策を支持する政治的コンセンサスを作り上げることができた
 1961年から1968年までの期間中、経済は、インフレに苦しむことなく繁栄した完全雇用の状態に
 近づいたということである。
これらのケネディ=ジョンソン政権時代の数年間、物価は、貨幣賃
 金上昇率が生産性上昇率に見合うよう調整されるのを促す賃全一物価の「ガイドライン」政策に
 よって抑えられた。これらのガイドラインは全く自発的なものであった。そこには、労働者や経
 営者の行動を強制するための報奨金も罰金も存在しなかった。これらのガイドラインはもっぱら、
 貨幣所得の要求に関して責任を負う一般市民社会の風潮に依存していて,ケネディ大統領の就任
 演説における「国家があなた方に何をしてくれるかを問うのではなく、あなた方が国家のために
 何をなしうるかを問いなさい」という感動的な標語によって補強されたのである。

 これらの自発的ガイドラインは、約8年間有効に作用した。この間消費者物価指数は13%弱しか
 上昇しなかったが、実質GDPは34%も増加した.しかしながら,ケネディのカリスマ性によっ
 て生み出されていた市民的団結は、ヴェトナム戦争のために、打ち砕かれてしまった。これらの
 ガイドラインに従おうという風潮は、市民的価値観が堕落し利己主義がより支配的な力となるに
 つれて、ジョンソン政権末期に消滅してしまった。

 とはいえここに,文明国にふさわしい所得政策が有効に作用することができるという証拠がある。
 しかしながら、所得分配に関する良識ある文明化された政策が国内的および国際的に存在しない
 場合、政府が緊縮的な金融・財政政策を追求したり大企業に生産の外部委託を認めたりすれば、
 国内的にも国際的にも、総所得に関してゼロサムゲームどころか、実質的にマイナスサムという
 結果に終わることになるであろう。

 今日のグローバルな経済においては、外部委託が西欧の労働者の生活水準にとって所得分配の不
 平等の拡大に寄与する主な脅威となっているのみならず、海外活動に従事できる産業におけるイ
 ンフレ圧力を削減する上での重要な力になっており、所得政策を求める声はまれにしか聞こえて
 こない。しかしながら、もしわれわれが(第7章で示されるように)外部委託の問題を解決する
 ことができるならば、政府が完全雇用で繁栄する資本主義経済システムを促進し維持する責任
 を引き受けようとする場合、政府は所得政策の必要性を認識せざるを得なくなるであろう。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

  

【大きな器の話】 

ところで、第一次世界大戦のベルサイユ条約の賠償委員会にイギリス代表委員として参加したもの
の、過
酷な賠償に抗議して途中帰国した経済学者ジョン・メイナード・ケインズはクレマンソーの
目的がドイツを徹
底的に破壊し、弱体化するものであり、条約後の状態を「カルタゴ式平和」と批
判した。ケインズの予感が的中。ドイツ国民は虚無革命運動=ナチズムの渦に巻き込まれる。結果
は周知の通り。頭に血が上った時は、努めて、中学生のころ部活でひとりで化石を採取していたと
きを思い起こす。そうして時間軸を引き延ばせは、人種・民族・国家観にある「内なるタブー」を
発見できるのではと思う。安直な生活主義、安直な国家主義だけはわたし(たち)は積極的に排除
したい。

 

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