極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

小さな器と大きな器

2013年04月01日 | 時事書評

 

 

 

【小さな器の話】

最近、東京・新大久保や大阪の鶴橋など在日韓国人が多い繁華街で「朝鮮人を殺せ!」「出てけ」
となどとコールするデモが開かれ、日の丸や旭日旗を掲げた集団が「朝鮮人をガス室に送れ」な
どと掲げた板を持ちながら練り歩き、参加者が「朝鮮人の女はレイプしろ」と語っている動画が
YouTubeにアップされるなど、
排外主義・人種主義(レイシズム)が過激化の一途を辿っているという。
いとも簡単に基本的人権を自ら破壊するに通じる精神を知って、昨今の情況から気持ちはわからな
いことはないが、ずいぶんと器の小さい話だと思う



話はそれがメインではない。エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の話。この手のサプリメ
ントが通信販売や店頭販売でわんさか並んでいるので屋上屋を重ねるともりはないのだが、ニスイ
が「EPA濃縮油およびDHA濃縮油の製造方法」(WO/2009/017102 )の国際特許が公知されているの
を知りそれを調べていた。最近は化学反応式から遠ざかっているのですっかり忘れてしまっていた
ことに気付いたが、そのことはこっちに置いて、使用する原料としてはEPAおよびDHAの含有量が高
いほど良く、好ましい脂質として、イワシ油(例:EPA 17%、DHA 12%)、マグロ油(例:EPA 7%、
DHA 25%)、カツオ油(例:EPA 5%、DHA 24%)、サケ油(例:EPA 9%、DHA 14%)などが挙げ
られる。油脂は、通常、脂肪酸のトリグリセリドを意味するが、本発明ではジグリセリド、モノグ
リセリドなどリパーゼが作用するその他のグリセリドも含み、グリセリドとは、脂肪酸のトリグリ
セリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドの総称であるとする。で、この発明は「酸化マグネシ
ウム等の反応添加剤の存在下でEPAおよびDHAを含有する油脂を炭素数18以下の脂肪酸に基質特異
性を有するリパーゼによりアルコリシス反応させたのちグリセリド画分を分離し、さらにそのグリ
セリド画分を酸化マグネシウム等の反応添加剤の存在下で、炭素数20以下の脂肪酸に基質特異性
を有するリパーゼによりさせて、EPA濃縮油およびDHA濃縮油を同時に得る方法が提供」なのだが、
ブログテーマの「魚工場」のイワシ畜養の出口プラットフォーム構想として考えてみたかったのだ。
そして、香川県のオリーブオイル、中国産の八角とニンニク工場(これから構案する)を加え「
イブリッド水素燃料電池
」で掲載した「アンチョビエキスのオリーブ油」を製造・販売するという
具体案として動き出したというわけだ(本当!これだけでも忙しいのだが、結構、面白くやってい
る)。それにしても、毎日、マイワシ40グラム以上と野菜(βーカロティン、ビタミンC)と緑
茶を摂っていれば・・・。





と、さて今夜は「インフレーション」をポール・デヴィッドソンに語ってもらうことに。


【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】


1.タブーと経路依存性

2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

【ケインズ経済学の現在化】


【国債とインフレーションについての事実】

【インフレーショを説明する】

【所得インフレーション】

 ケインズは、第2の形態のインフレーション、すなわち所得インフレーションを次のように定義
 している。それは、生産物1単位あたりの貨幣表示の生産コストの上昇と結びついている。もし
 企業が自分の生産している製品で利益を上げ続けようとするならば、生産コストが上昇するにつ
 れて、自らの生産物の市場価格を引き上げざるを得ないであろう。これらの生産コストの増加は、
 生産過程への役人物の所有者、すなわち賃金・給料の稼得者、原材料供給者、貸し手あるいは利
 潤受取人に対する支払所得の増加を反映している。したがって、例えば、労働者の生産性は変化
 しないにもかかわらず貨幣賃金率が上昇するならば、生産物1単位当たりの労働コストは上昇す
 る。企業はこの単位生産コストが上昇するなかで、生産を続けなお利潤を上げるためには、状況
 に応じて価格を引き上げなければならない。

 言い換えれば、所得インフレーションは、生産過程への投入物の所有者が生産性の上昇によって
 は相殺されないようなより高い所得を受取るために生産コストが上昇するときに、起こるのであ
 
この所得インフレーションは,生産性は不変であるとして、国内生産物価格のインフレ的上
 昇が、生産過程で得られるだれかの貨幣所得の増加とつねに結びついている(と共にその結果で
 もある)という。明白だがしばしば無視されている事実を浮き彫りにする。ある企業の生産コス
 トは、生産過程で企業によって使用される労働、原材料、財産あるいは資本を提供する人たちの
 所得という同じコインの裏側なのである。

 もし政府が国内で生産される財やサービスの所得インフレ率を抑制しようとするならば、生産過
 程への投入物の所有者の貨幣所得が生産性の改善以上に上昇するのをとにかく抑制しなければな
 らない。生産契約における賃金、給料および他の原材料コストの上昇は、つねにだれかの貨幣所
 得の増加を意味する。文明化された社会においては奴隷制が違法とされているので、労働者を雇
 うための貨幣賃金契約は、すべての生産コストの中で最も一般的なものである。労働コストは、
 経済における生産契約コストの大部分を占めており、NASAの宇宙船のようなハイテク製品に
 おいても例外ではない。これは、なぜ、とくに第2次世界大戦後の25年間において、インフレが
 通常貨幣賃金インフレと結びついていたかを説明するものである。

                      -中略-

 明らかなことだが、所得インフレーションを防ぐためには、生産性との比較における貨幣所得の
 増加率になんらかの制限が課せられなければならない。最近、経済がより深刻な景気後退に陥っ
 ているので、大抵の労働者、家主、貸し手および企業は自らの販売価格を引き上げ、それによっ
 て所得インフレ的な情況を作り出せるような力をほとんど持っていない。したがって、オバマ大
 統領の景気刺激策が所得インフレーションを促進するような情況を作り出す恐れは、ほとんどな
 いし全く存在しない。オバマ大統領の景気回復計画が米国経済を景気後退から完全に救い出し完
 全雇用と繁栄への途に引き戻すことができるならば、そしてそのときにこそ、政府は、生産に用
 いられる投人物が、所得インフレ的な価格引き上げを要求できる状況の生み出されることのない
 ように用心しなければならないであろう。もし将来このような所得インフレーションに苦しむ状
 態が発生するならば、ケインズ・ソリューションはどのようなものになるのであろうか。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                    『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

 


【所得インフレーションと闘う所得政策】

 

 第2次世界犬戦後長年の間、ほとんどの先進国での貨幣賃金率の上昇が、所得インフレーション
 を引き起こす主たる要因であった。なぜこのような賃金一物価インフレが猛威をふるったのかを
 理解するためには、戦争の結果起こった産業社会の質的変化を明確に理解しなければならない。
 経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイス(John Kenneth Galbraith)が指摘しているように「市
 場は、産業社会やそれと結びついた政治的諸制度が成熟するにつれて、物事を取り仕切る力とし
 ての権威をすっかり失ってしまっているが・・・それは、ある意味では、われわれの民主主義精神
 の現われでもある」。大不況による甚大な被害を経験した後に、民主主義国家の一般市民の間に
 現れてきた風潮は、人びとが自分の経済的命運をもっとコントロールすべきだと主張することで
 あった。大不況はすべての人に、もし人びとが自らの所得の決定を全く自由市場のなすがままに
 委ねるならば自分の経済生活をコントロールすることができないということを教えたのである。
 
 その結果、第2次世界大戦後、多少とも民主主義的な風潮を持つ社会においては、人びとは、資
 本主義システムから経済面での保証を要求するのみならず。自分たちが自らの経済的命運を決定
 する上で主導的役割を演じるべきであると主張した。この主導的役割には、自分の所得をコント
 ロールできる力が必要であった。
その結果、労働組合、政治的連合体、経済団体連合および独占
 的産業などの組織間で、より高い所得を自分の方に取り込もうとする権力闘争が起こり、これが
 所得インフレーションをもたらすこととなったのである。

 政府が完全雇用政策を追求することを保証しているかぎり、利に心に基づいた労働者、労働組合
 および企業経営者のすべてにとって、自分たちの価格や貨幣所得の引き上げ要求が、売上げの喪
 失や失業に終わることを恐れる必要はほとんどないことになる。政府が、完全雇用の生産水準に
 近い状態に経済を維持するために十分な総有効需要を作り出す責任を引き受けているかぎり、所
 得インフレーションをもたらすこの繰り返し発生する所得分配をめぐる争いを差し止めるなんら
 のインセンティブも、市場には存在しないであろう

 なんらかの公表された計画的所得抑制策を伴わない完全雇用政策は、現在雇用されている人より
 も低い賃金を受け入れることによって職を得たいと思う失業者の、カール・マルクス(Kar Marx
 が軽蔑的に呼んだ「産業予備軍」が、もはや存在しないことを確実にするものである。大多数の
 失業者が存在するかぎり、企業はより高い賃金を求める労働者の要求をはねつけることができる。
 同じような技能を持った大多数の失業者が存在すれば、現在雇用されている人は、自分がなお働
 き口を持っており所得を稼ぐことができていることに感謝の気持ちを抱くようになる。したがっ
 て雇用されている労働者たちは、景気後退や高水準の失業労働者の存在をものともせずに攻撃的
 でより高い賃金を要求するようなことはしそうにない。自由放任の市場環境のもとでは、失業労
 働者の割合のかなり高いことが、組織労働者による貨幣賃金アップの要求を抑制する主な要因に
 なる可能性がある。

 1990年代以降、グローバルな自由貿易とともに、中国、インドその他の国々において、欧米で普
 及している賃金よりもはるかに低い賃金で働きたいと思う。未熟練ないし半熟練労働者のほとん
 ど際限のない供給が可能となり、これが、大抵のブルーカラーや一部のホワイトカラーの仕事に
 対してさえ現在支払われている貨幣賃金率を引き上げたり現状維持したりできる。西欧労働者の
 能力を制限している点において、マルクスのいう「失業者の産業予備軍」のような働きをしてい
 る。その結果として高賃金のアメリカ人の働き口をこれら低賃金の国々に外部委託すること
 (outsourcing)が、労働者の賃金や付加給付を引き上げようとする国内の労働組合の力を減殺し
 ているばかりでなく、米国製造業の基盤の破壊ないし空洞化をもたらしている。第7章において
 は、こうした外部委託と国際貿易に対処する問題と方策が論じられる(後略)。

 自由市場の「見えざる手」の恩恵を信じている古典派の経済学者によれば、外部委託によって自
 分の働き口を国内の失業者ないし外国人に奪われる心配のない場合には、賃金一所得インフレー
 ションと闘う唯一の方法があるとされる。人びとがもっぱら利己心によって動かされている自由
 な社会においては、労働者も企業家も、自分のサービスに対してどのような対価をも自由に要求
 -その要求がたとえインフレ的であったとしても-することができる。そこで所得インフレーシ
 ョンに対する古典派の解決策は、経済を不景気にすることである。それによって古典派理論が暗
 に意味しているのは、自由社会の権利のひとつが自分に法外な高値をつけて雇い手がつかなくな
 るようにする権利であるということである。

                      -中略-

 

 例えば、中央銀行は、目標インフレ率が2%であると公表しているものとする。この目標値は、
 インフレ率
の測定値が2%を超えるならば、中央銀行が人びとにそのインフレ的な所得要求を取
 り下げさせるべく意図的に景気後退の状況を作り出し、人びとの働き口を危うくするであろうと
 
国民に警告するために設定されている。言い換えれば、貨幣所得の引き上げを推し進める力が物
 価
を目標率以上に上昇せしめるならば、中央銀行は、たとえその措置が広範囲におよぶ失業と企
 業の損失を引き起こすとしても、インフレ率が再び目標率の水準へ低下するまで,利子率を引き
 上げるであろう。したがって、中央銀行は、公表した目標インフレ率を,企業や労働者側に対し
 て、もし自分たちが賃金や物価の上昇を認める(要求する)ならば生活の糧を稼ぐ機会を失う危
 険に陥るのではないかとの恐れの気持ちを起こさせる手段として、用いているのである。

 この貨幣所得増額要求を抑制する政策は、「恐れの気持ちを利用した所得政策」と呼ぶことがで
 きるかもしれない。その目的は,中央銀行が賃金やその他の所得のどのような大幅なインフレ的
 要求も市場で容認されることになるのを阻止するためにはどんなことでもするということを、労
 働者大衆に悟らせることである。市場の需要を十分に減少させることにより、利潤喪失の恐れが
 労働者の賃金要求を拒否するほど十分に経営者の対決姿勢を強化し,失業の恐れが労働者の賃金
 および付加給付の改善要求を手控えさせるような、金融引き締め政策が、古典派理論の所得イン
 フレーション抑制政策なのである。

 古典派の理論家たちは、もし独立した中央銀行が景気後退の情況を作り出すことによって断固と
 して所得インフレーションを退治しようとするならば、その結果として生じる国内製品に対する
 不活発な市場の需要がすべての労働者や企業に,売上げや所得を失う恐れを感じさせるであろう
 と、信じているのである。われわれは、自由市場観に基づき失業や企業倒産を脅しの材料に使う
 所得政策に頼っているかぎり、完金雇用にほぽ近い経済繁栄の状態をけっして達成することはで
 きないであろう。したがって、中央銀行による「目標インフレ率を設定する|金融政策を唱道す
 る人たちは、恐れ、すなわち国内で財・サービスを生産している企業にとっての仕事、売上げ収
 入および利潤を失う恐れを利用した所得政策を暗黙裡に支持しているのである。恐れは、国内の
 生産要素の持ち主たちを付け上がらせないであろうと信じられている。この恐れの気持ちを利用
 した所得政策を実効あらしめるのに必要な不活発な需要水準は、現代の古典派の経済学者たちが
 国内の失業の「自然率」と呼ぶものに依存している。

 この目標インフレ率を設定する、恐れの気持ちを利用した所得政策の提唱者が暗黙のうちに想定
 していることは、もし政府が長期の失業手当や、最低賃金、年金基金への雇用主分担金、従業員
 のための健康保険、労働条件を保護する法律、労働者の組合への組織化を含むその他の貨幣所得
 援助を、完全に取り止めるとまではいかないにしても、削減することによって労働市場を
「自由
 化する」ならば、この自然失業率はより低いものになるであろうということである。のような情
 況では、労働者はさほど反抗的でなくなるであろうとされているのである。

 
自由市場の唱道者はしばしば、失業者を保護するための恒久的な社会的安金網が、インフレに対
 する闘いにおける犠牲者を甘やかすものであり、その結果、労働者が失業者の群れに加わること
 をほとんど恐れなくなっているとみている。社会のすべての構成員の心に染み込まされた、遍く
 存在する圧倒的な恐れは、目標インフレ率を設定する野蛮な政策が有効に機能するための必要条
 件である。必然的に文明社会がこの闘いの最初の犠牲者になっている。

 本質的に、このインフレと闘う自由市場観は、メロン財務長官がフーヴァ大統領に具申した次の
 ような勧告からさほど進歩しているわけではない。労働を清算しましょう。・・・ そうすれば、こ
 のシステムから不健全なものを一掃することになり、・・・人びとはより勤勉に働き、より道徳的
 な生活を送るようになるでしょう。・・・」。
中国やインドのような人口の多い国が21世紀のグロ
 ーバル経済に統合された結果、これらの国の「産業予備軍」が、多くの先進国経済に組み込まれ
 るに至っている。「自由貿易」が推進されるにつれて、高賃金の国内労働者の間に、外国の低賃
 金の労働者に自分の働き口を奪われるかもしれないとの恐れが芽生え始めている。これら低賃金
 で人口過剰の国々は、主な先進国での一般的な水準よりはるかに低い賃金で仕事を引き受けたい
 と思う。失業していて暇な労働者をほとんど無制限に供給することができるのである。この事実
 は、製造業の仕事や特定のサーヴィス業務の外部委託(例えば、インドにおけるコールセンター
 のように、生産されるサービスによっては、輸送・通信費用が相対的に低いものがある)の高ま
 りと組み合わさって、過去20年における主要産業国家の労働者の所得要求を大幅に抑制するに至
 っている。その結果、所得インフレーションは、これらの国内サービス業や外部委託の不可能な
 (国防などの)製造業に限られている。

 したがって、西欧産業国家における未熟練および半熟練労働者と、低賃金の仕事を外部委託する
 ことができ、同時に生産物の販売による高い利潤マージンや高額の役員給与・賞与を要求するこ
 とのできる多国籍企業の西欧人の幹部やオーナーとの間で、所得分配上の格差が広がっている。

 古典派理論の所得インフレーション抑制政策を市民に対するあまり文明国にふさわしくないやり
 方であると考えている人たちにとって、それに取って代わるインフレーション抑制のための所得
 政策が、インフレに関するケインズの考えから、導き出されうるものと思われる。
外部委託が労
 働者に出過ぎたまねをさせない主要な武器となる前の1970年に、ペンシルバニア大学のシドニー・
 ワイントロープ(Sidney Weintraub)教授は、1973年の石油価格ショックに先立って国々が経験し
  ていたインフレ的現象にとってケインズの所得インフレーションの概念が適切であることを悟っ
  た。
そしてワイントロープは、課税を活用した所得政策(tax-based incomes policy, TIP)と呼ばれ
 る「賢明な」インフレ抑制政策を提案した。TIPは、国内の大企業が国の標準的な生産性向上率
 を上回る賃金率の引き上げに同意した場合、その企業を罰するために,法人所得税制を用いるこ
 とを要求するものであった。このように、税制は、インフレ的な賃金要求に同意した企業を罰す
 るために用いられることになる。TIPが期待していることは、もし賃上げが平均的な生産性上昇
 率以下に抑えられても、労働者もその他国内の生産過程への投入物の所有者も,そのような非イ
 ンフレ的な貨幣所得の引き上げを快く受け入れなければならないということである。

 ワイントロープは、TIPが所得インフレを抑制するのに所得喪失の恐れに頼らない効果的な政策
 であろうとすれば、次の2つの条件が必要であると考えた。すなわち、

 
1.TIPは、恒久的な政策措置でなければならない。
 2.TIPは、基準を破った企業に対する懲罰税制でなければならず、基準 を守った企業への報
   奨(助成)税制であってはならない。

 
 TIPは、ひとたび導入されると、けっして撤廃できないであろう。なぜなら、そうでないと、廃
 止期日が近づくにつれてその効力が失われるからである。ワイントロープは、懲罰課税の大きさ
 は状況次第で変更可能であるが、懲罰の脅威は法令遵守を確保するためにつねに存在しなければ
 ならないと述べている。
もし人びとが国の標準賃金を厳守するならばそれらの人びとの税金を減
 額するという。報奨型のTIPは、行政的に実施不可能であろう。というのも、すべての人が報奨
 を申請することになり、政府はどの申請者が減税措置を受ける資格がないかを立証しなければな
 らないからである。ワイントロープによれば、TIPは、政府が国の高速道路上の速度制限を守ら
 せようとするやり方に似ているとのことである。もしあなたが制限速度-これはつねに実施され
 ている形であるがを超過するならば、スピード違反の罰金を支払うことになる。政府は、制限速
 度を超過しなかった優良ドライバーに対して、けっして報奨金を支払うことはないのである

 不幸なことに、米国も他の多くの国も,恒久的な罰則策としてのTIPを、けっして真面目に展開
 しようとはしなかった。その代わりに、自由貿易の旗印の下に、業務の外部委託がわれわれの所
 得政策となった。低開発国における低賃金労働者の無尽蔵な供給を容易に利用できる多国籍企業
 は、それによって国内の賃上げ要求を抑えつけることに成功してきたのである。
近年、このよう
 な所得政策が多くの産業国家に与えた本当の損失が、明らかになってきている。例えば、ドイツ
 とフランスにとって一大不況以来見られなかった。2桁の失業率がしばしば当たり前の現象にな
 っている。
ワイントローブは、人間に社会的に望ましい文明化された行動を取らせるために、野
 蛮な(市場の)力ではなく人間的な知性を用いるべきだと終生信じていたが、最終的にかれは、
 ある種の文明国にふさわしい所得抑制策が、伝統的な古典派の目標インフレ率政策には不可避の
 不景気にするという副作用を伴うことなくインフレをコントロールするためのより人道的な方法
 とみなされると考えた。ワイントロープは、文明社会がすべての所得稼得者を公平に取り扱う所
 得政策を採択するかぎり、完全雇用を目指す経済政策を追求することができると信じたのである。

 言葉と考えは、インフレに対する戦いにおける重要な武器である。主要な産業国家の政府の最も
 重要な機能のひとつは、貨幣所得の引き上げを目指す各グループの競合する要求が、結局のとこ
 ろ一国の総所得の分配をめぐる争いであるということを国民に認識してもらうことである。自由
 市場の資本主義システムにおいては、恣意的で不公平な所得分配をめぐるこのような争いは、所
 得政策がない場合、ある期間相対的な勝者は存在するかもしれないものの、すべての国民にとっ
 て勝者がなく現実には敗者しかないゲームになるように思われる。豊かに繁栄している資本主義
 経済の所得を文明国にふさわしい仕方で分配する所得政策が望ましいことに関して政治的コンセ
 ンサスを築き上げることは政府の責任にほかならない。
 

 歴史上の記録が示していることは、政府がある種の所得政策によっていろいろなグループの貨幣
 所得引き上げ要求を直接抑制する政策を支持する政治的コンセンサスを作り上げることができた
 1961年から1968年までの期間中、経済は、インフレに苦しむことなく繁栄した完全雇用の状態に
 近づいたということである。
これらのケネディ=ジョンソン政権時代の数年間、物価は、貨幣賃
 金上昇率が生産性上昇率に見合うよう調整されるのを促す賃全一物価の「ガイドライン」政策に
 よって抑えられた。これらのガイドラインは全く自発的なものであった。そこには、労働者や経
 営者の行動を強制するための報奨金も罰金も存在しなかった。これらのガイドラインはもっぱら、
 貨幣所得の要求に関して責任を負う一般市民社会の風潮に依存していて,ケネディ大統領の就任
 演説における「国家があなた方に何をしてくれるかを問うのではなく、あなた方が国家のために
 何をなしうるかを問いなさい」という感動的な標語によって補強されたのである。

 これらの自発的ガイドラインは、約8年間有効に作用した。この間消費者物価指数は13%弱しか
 上昇しなかったが、実質GDPは34%も増加した.しかしながら,ケネディのカリスマ性によっ
 て生み出されていた市民的団結は、ヴェトナム戦争のために、打ち砕かれてしまった。これらの
 ガイドラインに従おうという風潮は、市民的価値観が堕落し利己主義がより支配的な力となるに
 つれて、ジョンソン政権末期に消滅してしまった。

 とはいえここに,文明国にふさわしい所得政策が有効に作用することができるという証拠がある。
 しかしながら、所得分配に関する良識ある文明化された政策が国内的および国際的に存在しない
 場合、政府が緊縮的な金融・財政政策を追求したり大企業に生産の外部委託を認めたりすれば、
 国内的にも国際的にも、総所得に関してゼロサムゲームどころか、実質的にマイナスサムという
 結果に終わることになるであろう。

 今日のグローバルな経済においては、外部委託が西欧の労働者の生活水準にとって所得分配の不
 平等の拡大に寄与する主な脅威となっているのみならず、海外活動に従事できる産業におけるイ
 ンフレ圧力を削減する上での重要な力になっており、所得政策を求める声はまれにしか聞こえて
 こない。しかしながら、もしわれわれが(第7章で示されるように)外部委託の問題を解決する
 ことができるならば、政府が完全雇用で繁栄する資本主義経済システムを促進し維持する責任
 を引き受けようとする場合、政府は所得政策の必要性を認識せざるを得なくなるであろう。

                    ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』

  

【大きな器の話】 

ところで、第一次世界大戦のベルサイユ条約の賠償委員会にイギリス代表委員として参加したもの
の、過
酷な賠償に抗議して途中帰国した経済学者ジョン・メイナード・ケインズはクレマンソーの
目的がドイツを徹
底的に破壊し、弱体化するものであり、条約後の状態を「カルタゴ式平和」と批
判した。ケインズの予感が的中。ドイツ国民は虚無革命運動=ナチズムの渦に巻き込まれる。結果
は周知の通り。頭に血が上った時は、努めて、中学生のころ部活でひとりで化石を採取していたと
きを思い起こす。そうして時間軸を引き延ばせは、人種・民族・国家観にある「内なるタブー」を
発見できるのではと思う。安直な生活主義、安直な国家主義だけはわたし(たち)は積極的に排除
したい。

 

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