台所にいて、ふいとM子さんのことを思い出した。
ひとまわり年上のM子さんの家をはじめて訪問したときのことである。
待ち合わせの交差点で待っていると、
坂の上から転がるようにして自転車で疾走してきた。
あぶないなあ、そんなに急がないでもいいのにと見ていた。
風子は、今あのときのM子さんの齢になった。
案内された玄関先に見事な梅の花が咲いていた。
その時はまだこの家の間取りなど知る由もなかったが、
どっしりとした洋風の応接間も、欄間のある和室もあって広い家だった。
しかし、彼女が風子を招じ入れたのは、
食器棚を背にした小さな食卓のある台所だった。
流し台には洗い桶があり生活感にあふれた、
彼女の日ごろの暮らしぶりがしのばれる場所だった。
彼女は、ああ恥ずかしい! と笑った。
「でも、今日は寒いからね、狭いけどここが一番暖かいのよ」と言った。
とかく人は見栄を張る、はじめて来た人には一番立派な部屋に座らせたい。
……しかし、彼女はそうでなかった。
恥ずかしいけど、寒いところ来てくれたのだから、一番暖かいところ、と。
それまでも尊敬する先輩として接していたが、これで、ますますM子さんが好きになった。
後日、この日の礼状を書いた。
まだ携帯電話はどちらも持っていなかった。
むろんパソコンなどもなかったから、もっぱら葉書をよく書いた。
よせばいいのに、凛と咲いた玄関先の梅の花に彼女を重ねた一句をひねり、
それを葉書に添えた。
すぐに返事が来て、風子の句は、ケチョンケチョンにけなしてあった。
これもまた凡人には中々真似の出来ないことである。
ますます彼女が好きになった。
今は遠くにいるが、離れていてもM子さんを生涯の友と慕っている。
ひとまわり年上のM子さんの家をはじめて訪問したときのことである。
待ち合わせの交差点で待っていると、
坂の上から転がるようにして自転車で疾走してきた。
あぶないなあ、そんなに急がないでもいいのにと見ていた。
風子は、今あのときのM子さんの齢になった。
案内された玄関先に見事な梅の花が咲いていた。
その時はまだこの家の間取りなど知る由もなかったが、
どっしりとした洋風の応接間も、欄間のある和室もあって広い家だった。
しかし、彼女が風子を招じ入れたのは、
食器棚を背にした小さな食卓のある台所だった。
流し台には洗い桶があり生活感にあふれた、
彼女の日ごろの暮らしぶりがしのばれる場所だった。
彼女は、ああ恥ずかしい! と笑った。
「でも、今日は寒いからね、狭いけどここが一番暖かいのよ」と言った。
とかく人は見栄を張る、はじめて来た人には一番立派な部屋に座らせたい。
……しかし、彼女はそうでなかった。
恥ずかしいけど、寒いところ来てくれたのだから、一番暖かいところ、と。
それまでも尊敬する先輩として接していたが、これで、ますますM子さんが好きになった。
後日、この日の礼状を書いた。
まだ携帯電話はどちらも持っていなかった。
むろんパソコンなどもなかったから、もっぱら葉書をよく書いた。
よせばいいのに、凛と咲いた玄関先の梅の花に彼女を重ねた一句をひねり、
それを葉書に添えた。
すぐに返事が来て、風子の句は、ケチョンケチョンにけなしてあった。
これもまた凡人には中々真似の出来ないことである。
ますます彼女が好きになった。
今は遠くにいるが、離れていてもM子さんを生涯の友と慕っている。
見栄より暖かさを優先することはありますね。
しかし、好意の俳句をケチョンケチョンにけなすのは、
確かに凡人にはなかなかできませんね。
でもそういう人は裏表がなくて信じられそうです。