風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

口は災いのもと 鬼瓦

2010-03-13 13:33:47 | 口は災いのもと
 十年も前の話だから、もう時効と思って許してもらおう。
ご近所の娘さん夫婦に、離婚話が持ち上がった。

 母親である私の知人は、ざっくばらんな人だったから、原因も話してくれたのだが、それは忘れた。

 覚えているのは、ある日、婿さんと娘さんが親の家に集まって、深刻な話合いがされたというその時の話である。

 娘は、もう、どうしても別れるっていうんですよ、と言う。

 で、婿さんは何て言ってるんですか、と訊くと、それが、どうしても別れないって。
まあ、あんな鬼瓦みたいな顔して、思いつめたように、××子を愛してますって、こういうんですよ。

 その婿さんの顔を知ってる私は、おかしくて笑いを堪えるのに、困った。

 別に鬼瓦みたいとは思わないし、やや厳つい顔は中々男らしくて、好もしかった。
 でも、あの人がそんなことを言うのかしら、と思ったら、やっぱりおかしかった。

 映画やドラマの中でなく、ふつうの生活の中で、愛してるんです、という言葉が、おかしくなくて、似合う男って、そんなにいるのかしらと思った。

 いきさつは忘れたのに、妙にそこだけ、はっきり覚えていて、今でもときどきその婿さんを見かけるたびに思い出して、その場面を想像してしまう。

 ご夫婦はその後、円満で、仲良く散歩などされている。
 もう、それを話した奥さんも、きっとそんなことは忘れているだろうし、鬼瓦と言われた本人は、まさかそんなことが喋られていることも知らないだろう。

 そう思うと、今もおかしい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 饅頭 | トップ | 口は災いのもと 結納 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

口は災いのもと」カテゴリの最新記事