風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

美しき老い

2010-05-23 11:16:46 | 歳月
 年をとったら日々は穏やかなものであると思うのは、若いときの勝手な思い込みであった。
自分が年をとってみて初めてわかるのだが、存外、気分は若いころのままなのである。

 よく、生きてきたように死ぬと言われるが、まさに過ごしてきた人生の延長でしか年をとれないのである。
 
 激しくやり合ってきた夫婦が、年をとったからといって、急に温和な夫婦にはなれないのだ。
長年連れ添った夫婦でも、互いに見栄も外聞もある。

 近頃、耳が遠くなったじいさんは、ばあさんにそれを言われるのがいやなのである。

 ある朝、鶯が鳴いた。
ばあさんが、あ、鳥が鳴いた、と言うと、じいさんは聞こえなかったという。
 間をおいてまた鳴いた。
 
 ほら、鳴いたでしょう、と言うと、聞こえなかったと言いたくないじいさんは、ほんとだ、と頷いた。
 意地悪なばあさんが,なんて鳴いた? と訊くと、チュンチュンだ、と答える。
 
 チュンチュンじゃない、ホーホケキョです! とばあさんは勝ち誇るのである。
 
 ああ、美しき老いとは難しいものである。

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