風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

蕎麦屋

2011-09-20 17:39:16 | グルメ
    風子ばあさんに友だちは多いが、
   イタリアンや和風のランチに付き合ってくれても、
   ラーメン屋につきあってくれる仲間は案外いない。

    たまにラーメンが食べたくなっても、年寄りが一人では入りにくい。
   そのてん、蕎麦屋はなぜか一人でも入りやすい。

    おかめ蕎麦をバアサンが一人で食べていても、
   ジイサンが手酌でビールを飲みながら天ぷら蕎麦を食べていてもおかしくない。 
 
    今日も今日とて、風子ばあさんは某店で一人でざる蕎麦を食べていた。
    
    通路を挟んだテーブルに一人の老女。
   そのまた隣のテーブルには老夫婦ひと組。

    聞くともなしに聞いていると、
   赤の他人の双方、すぐに親しげな会話がはじまった。

    お元気そうで……、いやいや、足が悪く……、
   はいはい、こちらは腰が痛くて……。

    これもなぜか年寄りの特権で、
   若者どうしではこうすぐに友好的にはならない。

  「私は主人を半年前に亡くしましてねえ。こうしてお二人お揃いなのが羨ましい」
  一人でいる方のバアサンが、あまり苦しまずに逝った夫の最期を語れば、
  一方の二人連れの夫は92歳を誇り、妻は13歳も齢下だという。

   年寄りの声は大きいから全部筒抜けである。
 「60年も一緒におりますけん、つまらん家内でも、もう放り出せんとですばい」

   92歳にしてはしっかりした受け答えの夫がぬけぬけという。
  なにをぬかすか、放りだされればすぐに困るのは、
  あんただろうもんと思いながら、風子ばあさんはざる蕎麦を啜りこむ。

   男というのは幾つになっても、見栄っぱりなものである。

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