風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

桜餅

2011-10-05 10:40:17 | グルメ
   通い慣れた道を、ぼんやりと歩いていた。

   ふっと桜餅の匂いがして、見上げると、
  公園から張り出した桜の樹から赤くなった葉が落ちてきた。


   すごいなあ、桜の葉っぱって、桜餅の匂いがするんだ、と思った。

   しかし、よく考えたらこれは違う。
  桜の葉っぱがいい匂いだから先人は桜餅を思いついたのだろう。

   桜の葉っぱは桜餅の匂いがする……のではなく、
  桜餅は桜の匂いがするが正しい。当たり前の話である。

   だけど……、やっぱり桜の葉っぱは桜餅の匂いがする……
  つまり風子ばあさんは、よくよく食いしん坊なのだろう。

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蕎麦屋

2011-09-20 17:39:16 | グルメ
    風子ばあさんに友だちは多いが、
   イタリアンや和風のランチに付き合ってくれても、
   ラーメン屋につきあってくれる仲間は案外いない。

    たまにラーメンが食べたくなっても、年寄りが一人では入りにくい。
   そのてん、蕎麦屋はなぜか一人でも入りやすい。

    おかめ蕎麦をバアサンが一人で食べていても、
   ジイサンが手酌でビールを飲みながら天ぷら蕎麦を食べていてもおかしくない。 
 
    今日も今日とて、風子ばあさんは某店で一人でざる蕎麦を食べていた。
    
    通路を挟んだテーブルに一人の老女。
   そのまた隣のテーブルには老夫婦ひと組。

    聞くともなしに聞いていると、
   赤の他人の双方、すぐに親しげな会話がはじまった。

    お元気そうで……、いやいや、足が悪く……、
   はいはい、こちらは腰が痛くて……。

    これもなぜか年寄りの特権で、
   若者どうしではこうすぐに友好的にはならない。

  「私は主人を半年前に亡くしましてねえ。こうしてお二人お揃いなのが羨ましい」
  一人でいる方のバアサンが、あまり苦しまずに逝った夫の最期を語れば、
  一方の二人連れの夫は92歳を誇り、妻は13歳も齢下だという。

   年寄りの声は大きいから全部筒抜けである。
 「60年も一緒におりますけん、つまらん家内でも、もう放り出せんとですばい」

   92歳にしてはしっかりした受け答えの夫がぬけぬけという。
  なにをぬかすか、放りだされればすぐに困るのは、
  あんただろうもんと思いながら、風子ばあさんはざる蕎麦を啜りこむ。

   男というのは幾つになっても、見栄っぱりなものである。
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レストラン ゆずの木

2011-08-20 14:53:39 | グルメ
   姪浜にある「ゆずの木」は、
  社会福祉法人が経営する就労支援のレストランである。
  営利が主目的ではないから、大変良心的なお店である。

   無農薬野菜を使った健康ランチは数種類のおかずがセルフ式でお代わり自由である。
  ご飯は雑穀米と白米が選べるし、ワンドリンク付きで880円。

   風子ばあさんはこのお店がお気に入りである。
  就労支援が目的だから、お客は「食べるボランティアさん」と大事にされる。

   いつもは健康ランチひとすじの風子ばあさんだが、
  先日は連れがいて、彼女は880円の天ぷらそばを頼んだ。

   少しお時間がかかりますがよろしいでしょうかと訊かれた。

   いっこうにかまいませんと答えると、
  やがて蕎麦に添えた皿に大きなエビと白身の魚がどで~んとやってきた。

   すごいねえ、とのけぞるほど立派な天ぷら蕎麦だった。
  運んできたウエイター氏は、
  「このあと、お野菜のてんぷらもまいります」と告げた。
  
   へえ、と言うまもなく、別皿に盛られてきたのは
  ニンジン、春菊、なす、さつまいも……などなどで、
  思わずぎゃはははと笑った。

   まだご存じない方は一度食べるボランティアさんになってみてください。
  パーティやお弁当も引き受けてくれるようです。
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グルメなママ友

2011-06-01 10:47:27 | グルメ

温泉行きのバスで、風子ばあさんの後ろに、
チビたちを連れたママ友三組が座った。

  ナムルがどうの、カルビがどうの、やれロースだ、モモだ、
国産和牛、いえアチラ肉……。

  ドコソコはご飯がいいのよねえ。
  コンニャクがおいしい。
 
お好み焼きがいい、
  もんじゃ焼きがいい。

  大阪の人は豚ダマだ、ネギ焼きだ。

  ふわっとして、ぷりっとして、ねっとりして……。

  出発から到着まで、グルメ談義が途切れることなかった。
よく続くなあと感心した。

  その間、それぞれのチビたちには、食糧があてがわれているらしく、
ときどき、袋を開く、バリバリという音が聞こえる。

    ひどくおとなしい。

どんなグルメが振る舞われているのか気にかかり、
振り向いてみたかったが、ぐっと我慢した。

  君たち、いい子に育って親孝行してね。

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行列のできる店

2011-05-29 10:30:12 | グルメ

    阪急デパートの地下に行列のできるお菓子屋さんがあるらしい。

    先日、それをゲットして、風子ばあさんのところへ届けてくれた人がいる。

   「すごいんですよぉ、40分も並んだんですよぉ」

    ラスクというそのお菓子は、まあ、はっきり言って、
    特別うまくも、まずくもなかった。
    人が並ぶから、また並ぶ、人気が人気を呼んでいるのだろう。

    それから一ヵ月ほど経ち、その友だちと町中で、ばったり出会った。

    雨降っていやあねえ、というような話をして、別れようとしたら、
    彼女はしばらく、もじもじしたあと、

    「あのお菓子、どうだった?」
     とお礼の催促をした。

         しまった! 

         忘れてた。

     人は、してやったことは覚えているが、
     してもらった方はとかく忘れやすいものである。

    「あ、ありがとう、ありがとう、美味しかった!」
     うまくも、まずくもなかったとは言えなかった。
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牡蠣小屋

2011-02-28 12:34:28 | グルメ
 昨日、牡蠣小屋へ行った。
日曜の正午ごろだから、店内は満員であった。

 風子たちのように、仲間どうしもいれば、恋人らしい二人連れもいる。
 幼い子供連れの家族もいる。

 向かいのテーブルのコンロのあたりから、突然、子供の泣き声がした。
何事かと見ると、まだ 2、3歳の男児が、恐怖に顔を引きつらせて泣き叫んでいる。
火傷でもしたかと見るが、そうでもないらしい。

 母親がなだめても、抱き締めても泣きやまない。
彼らの炭火の上でも、グロテスクな牡蠣がのり、はぜた音をたてている。
活きた車エビが網の上で身をよじって跳び撥ねる。
 そのたびに子供はいっそう激しく泣きたてる。

 ああ、子供は正直だよねえ、これを残酷と思わなくなった大人たちは、この子が泣くのを笑ったり叱ったりしている。

 いや~ん、いや~ん、と子供はママにしがみつく。

 我らは、その横で、炭火に焼かれて開きかけた牡蠣殻に、ナイフを突っ込み、こじあけて身を剥く。

 サザエも、いかも、アナゴも、うまい、うまいと山のように盛り上げて食べた。
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食欲

2011-02-26 10:56:58 | グルメ

 食べたいというのは人間の本能である。
あられもない寝姿、排泄、本能のままの姿態は、いずれも誰かに見られたくないものである。
食欲だって、空腹に耐えかねて、がつがつ食べる姿などは人さまに見られたくない姿である。

 だから、人間は、おちょぼ口をして食べるマナーとやらを考え、テーブルセッテングをして、
バックミュージックで咀嚼の音を消すのかもしれない。

 もう20年ほど前に亡くなった年上の友人がいる。
我が家にも何度か訪ねてくれたし、グループで食事の機会もあった。
そんなとき、彼女は一度も箸をとらなかった。
私はアレルギーがあるから……お水ちょうだい、といつも水だけ飲んで、にこにこ楽しそうにしていた。

 さりげなく美しい振る舞いだった。今になって思うに、あれは老いて食べる行為を、
若い仲間に見せたくなかったのではなかろうか。
センスの良くてモダンな彼女だったから、あれも究極のお洒落だったのかもしれない。

 風子もあのころの彼女の齢になった。
 
 でも、真似できないなあ。
あれも食べたい、これも食べたい、すすめられれば、人さまの皿にまで手をのばす。
 
 明日は若い仲間が、海辺に牡蠣を食べに行くという。
遠慮した方がいいのになあと思いながら、本心は行きたい。

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うなぎ

2010-08-04 21:41:25 | グルメ
 今年も土用の丑の日にうなぎを食べた。
 例年同じ店で買う。好物だが、今年は、あまり旨くなかった。
後日、店頭にいたおやじさんに、バカ正直に、そう言った。

 おやじさんは、そんなわけはない、もう一度食べてみてくれと、包んだ一尾を風子ばあさんの手に押し付けた。
「いえ、そんなつもりで言ったんじゃないんです」
「わかってます、でも、これはうちの信用に関わりますから、もう一度食べて感想を聞かせてください」
 押し問答の末、内心、にんまりして有難く頂戴した。

 しかし、やっぱり、今年のうなぎは去年に比べて数段味が落ちた。
でも、お金を払わないで食べたものを、旨くなかった、とは言いにくい、かと言ってタダだったからと言って、お世辞はなお言えない。
 気が小さいばあさんは、あれからその店の前を通らないように、この炎暑の中を、遠回りして買い物に行くのである。

 にんまりして、二度も続けてうなぎを食べたバチが今頃あたっているのである。
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