寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

果たせなかった夢だけではない

2015年11月01日 07時30分54秒 | 日記・エッセイ・コラム

 私の友人の1人にS君というのがいた。彼とは高等学校の

頃に同じクラブに所属していたことがあり知り合いになった。

その頃、S君の家は地方の小さなお寺の住職をしていた。彼

は兄3人、姉2人そして彼の6人兄姉の末っ子だった。

 檀家の少ない小さな寺を継ぎたいという兄姉がいなかった

ために、彼が継ぐことになった。ご両親はS君にお寺のしき

たりやお経の読み方などを辛抱強く指導したという。しかし、

S君は高等学校で理科系の大学へ進学したいという希望を

持っており、そのための勉強に懸命であった。そのことを知

ったご両親は大変失望したという。

 高等学校を卒業して東京へ出てきたが希望の大学の門は、

S君にとって固く閉ざされていて3年間も開かれなかった。そ

の間S君は仕事をしながら生計を立て夜間大学へでも入り

たいと懸命であった。しかしその夢も叶うことはなかった。

 そんななか、S君のご両親が相次いでなくなってしまった。

S君はご両親の墓前で長い時間涙を流していたという。その

涙の中にS君は何を込めたのだろうか。それは誰にも分か

らない。 その後S君は生家にとどまり大型トラック(タンクロ

ーリー)の運転手になった。S君は岩手県で牛乳をタンクロ

ーリーに満載し千葉県の乳製品加工工場へ運ぶ定期便を

担当した。

 まだ高速道路が開通していなかった時代に片道400Km

を運転するのは大変なことだったと思う。その後約40年間

その仕事を続けた。会社から絶対の信頼を得てきたが、定

年を迎えたS君は静かに農業をしながら過ごしたという。

 S君の夢はとうとう叶うことはなかった。しかし、S君はご両

親の住んでいた生家で暮らし夢は一つとは限らないことを示

してくれた。S君は自宅に集まった近所の子供達に夢を大事

に育てることの意義を伝えてきたという。

 


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