文書を構成するには大きく分けて二通りのことを考えなければなりません。
第一は、会話を全く入れない書き方です。これは例えば旅行記とか思い出話に
適切かも知れません。私が高校生の頃見た映画で「ベルリン物語」というのが
ありました。もう六十五年ほど前に見た映画でしたが私にとっては印象に残っ
ている映画の一つです。この映画は一人の復員兵が故郷に戻って昔を思い出し
ながらベ廃墟になったベルリンに思いを寄せるという映画でした。全編を通じて
静かな語り口だけで会話がなかったのが、自分の経験に重なったこともありま
した。しかし退屈はしませんでした。
第二は、適当に会話を挿入する方法ですがこちらの方が普通ですね。会話を
挿入するときに注意するのは、登場人物によって言葉使いが変わることですね。
それと会話の相手によって話し方が変わることにも注意が必要です。志ん生師
匠の語る落語の枕の部分にいい例があります。志ん生師匠は関取と子供とで話
すことが同じでも印象が全く違うと言っています。育った環境や職業や付き合
っている相手によって言葉使いを考えなければなりません。これが重要な条件
になります。そのためにはいろんな方の小説を読んだり、街中へ出て行って実
際に会話をしたり聞いたりして記録を残しておき、書く際に参考にするのです。
私は七十二才まで仕事をしているとき、若い方々といろんな話をすることが
多くありましたが、彼あるいは彼女らが仲間と話している言葉の内容を理解す
るのが大変でした。ここで思い出したことがあります。言葉の基準となるよう
なアナウンサーが、
「不都合なことが起こらない前に、必要な対策を立てて置くことが必要ですね」
と言いました。このような会話はよく聞くことがありますが普通は、
「不都合なことが起こる前に、必要な対策を立てて置くことが必要ですね」
と言うのが正しいと思います。
それから若い人は、よく「やばい」という言葉を使います。それは嬉しいと
きも、美味しいものを食べたときも、困ったときもその他あらゆる感情表現に
対して同じように使うのですね。私にはどういう意味で使っているのか判断不
可能なので、その都度意味を聞くことにしていました。それで会話が途切れて
しまうこともあります。
文章を書いているときに、上述のようなことを表現するのは難しいと思いま
す。したがって、あまり意味不明の言葉を使わない方が無難だと思います。
今回はここまでにします。