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一気読み「ビリーの挑戦」113-118

2018-03-13 | 一気読み「ビリーの挑戦」
一気読み「ビリーの挑戦」113-118
113cut:仕事が楽しくなっている証
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 いよいよ第1部の終わりが近づいてきました。漆原さんにマイクを向けて、これまでを足早に振り返ってみたいと思います。目標の1億円まで、あと一息になりました。チームが2分割されているために、コミュニケーションを取るのが大変で、ノートパソコンを導入したのですよね。
漆原 あれは大変役に立ちました。特に太田とは、いつもとてつもなく長いチェーンメールになります。毎朝「本日の最大の成果見こみ」を送ってくれます。「期待しているよ」と書くと、また返事が届きます。太田は特に孤独でした。今はおもちゃのように、パソコンを駆使しています。
影野小枝 1週間の合宿で、チームに力がつきましたね。怠惰、不平不満、孤独などの垢を、温泉で洗い流したみたいでしたね。
漆原 ラクビーの世界に「one for all, all for one」というすてきな考えがありますよね。営業チームって、まさにその世界なんですね。
影野小枝「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」ですよね。
漆原 彼らにはこのメッセージを伝えたことはありません。でもそんな雰囲気ができてきました。もうひとつ「心のハンディキャップ」という大切な言葉があります。駒沢岩見沢が甲子園でベスト4まで進出したとき、記者は監督に「雪国のハンディキャップをよく乗り越えましたね」といいました。監督は室内練習場も完備しているし、そんなものはありません、と答えます。そして「心のハンディキャップを乗り越えた」というんですね。これ、いい言葉です。選手たちに負けてあたりまえ、不安などのネガティブ要素が、ない状態になったという意味なんですね。
影野小枝 いい言葉ですね。
漆原 うちのMRは、少しずつ心のハンディキャップを減らしています。「ラ行の言い訳小僧」もなくなりましたし、発言がポジティブに変わってきています。
影野小枝 最下位のチームを、ここまで引き上げた要因は、何でしょうか?
漆原 自分たちで、考えさせたことだと思います。私は命じません。教えません。その代わり育てます。育つためには、自分で考えなければならないのです。
影野小枝 教えるのではなく、育てるわけですね。
漆原 教えたことは忘れられます。しかし育てたら、経験知としてその人に蓄積されます。
影野小枝 石川さんと山之内さんの変化に驚いているのですが、2人はどうして変わったのでしょうか?
漆原 きっかけです。石川は医師会の勉強会、山之内はメールマガジンが引き金でした。こうしたきっかけは、場を共有していなければ与えられません。
影野小枝 新しいアイデアがどんどん出されますよね。なぜですか?
漆原 仕事が楽しくなっている証です。イヤイヤやっていては、ロクなアイデアは生まれません。仕事が楽しくなる。前向きな思考になる。工夫が生まれる。周りを巻きこむ。成果が上がる。この循環の原点が、仕事を楽しむことです。
影野小枝 行列のできる、ラーメン屋さんの話と同じですね。

114cut:愛の貧乏脱出大作戦
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 少し難解だったナレッジマネジメントについて、山本先生に説明していただきます。
筆者 知には2種類あって、文字や言語で表せるものを「形式知」といいます。代表格はマニュアルやテキストですね。もうひとつの知を「暗黙知」といいます。スキルやノウハウは、なかなか文字や言語では表せませんよね。私たちの知は、この2つを交換することで、磨かれていきます。これって、ナレッジマネジメントでは「セキ(SECI)プロセス」というのですが、ちょっと難解です。私はいつも次の話で説明していますが、野中郁次郎先生や紺野登先生が知ったら、叱られるかもしれません。
影野小枝 どんな話ですか?
筆者 ある日、テレビを観ていて、これだと思いました。まさに「セキ・プロセス」そのものなのです。テレビのタイトルは『愛の貧乏脱出大作戦』。ご存知ですか? うだつの上がらない店の料理人が達人の技を習いに行く番組です。
・まず達人が自ら料理を作ってみせ、弟子入りした3人がそれを真似て料理を作る。スキルからスキルへの変換ですから、暗黙知から暗黙知への知の移転にあたります。
・3人はその夜、達人の技を思い出し、それぞれがメモにしたためます。これはスキルをメモにしているので、暗黙知から形式知への知の移転になります。
・3人は自分の書いたメモが不安なため、それぞれのメモを合わせて、より完璧な1枚のメモを仕上げます。これはメモからメモですので、形式知と形式知の変換に該当します。
・翌朝、3人は1枚のメモを見ながら、再び達人の技に挑みます。これはメモからスキルに替えるので、形式知から暗黙知への知の移転となります。
これで「セキ・プロセス」は1回りしました。これを何度もグルグル回すことで、3人のスキルは少しずつ達人に近づくというわけです。
影野小枝 おもしろい説明ですね。あと営業リーダーは、これを単独で回せる唯一の職業である、という話を教えていただけますか?
筆者 さっきの例にあてはめて説明してみましょうか。
・営業リーダーは同行を通じて、自らやってみせ、部下にやらせてみることが可能です。(暗黙知→暗黙知)
・部下の優れたスキルやノウハウを、文字や言葉で他の部下に伝えることもできます。(暗黙知→形式知)
・いくつかのベスト・プラクティス(成功例)を合わせて、新たなベスト・プラクティスを作ることもできます。(形式知→形式知)
・作ったベスト・プラクティスを、部下にやらせてみることも容易にできます。(形式知→暗黙知)
つまり「セキ・プロセス」を十分に活用できるというわけです。
 
115cut:営業リーダーの基本は同行
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 釧路の喫茶店「場」で、漆原さんは山本先生と語り合っています。
漆原 私を主人公に抜擢していただき、ありがとうございます。私のやったことが、多くの営業リーダーの参考になればうれしいのですが。
筆者 もしそうならなければ、筆者である私の責任になります。
漆原 多くの営業リーダーは、形式知を中心とした管理型マネジメントをしています。電話で指示を与える。データを出力して配布する。日報にコメントを記入する。会議でやるべきことを徹底する。これらはすべて形式知の活用ですね。本社が熱心にやっているデータベースやコンピタンシー・モデル、ベスト・プラクティスも暗黙知を形式知に変換したものですよね。先生は……。
筆者 山本さんと呼んでください。さもなければ、罰金を取りますよ。
漆原 これは一本取られました。聞きたかったことは、暗黙知の活用は同行を通じてしかできないのかということです。
筆者 形式知は、部下に気づきを与えます。しかし、暗黙知ほどの絶大な効果はありません。たとえばテニスですが、インストラクターに習わなければ上達しません。テキストでは限界がありますよね。暗黙知は、いちど身につけたら、効果が持続することがメリットです。いちど身体で覚えたテニスの腕前は、少しくらい休んでも、元に戻りますよね。
漆原 私も営業リーダーの基本は、同行だと思います。
筆者 それでは、身体に気をつけて、1日も早く1億円を達成してください。
漆原 それは私というよりも、山本さんの腕にかかっているような気がするのですが。
筆者 部下のみなさんに、よろしくお伝えください。それと、登場する機会のなかった奥さんやお子さんにも。

116cut:きみはどう考えるのか
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 喫茶店「場」です。
常連D 管理系と人間系のマネジメントの違いに、「おれ」という一人称を連発するのと、「きみは」「きみたちは」と二人称や三人称を多用するというのがあったよな。先日、うちのチーム会議で、営業リーダーがそれぞれを何回いうかを記録した。
常連C D支店長らしいね。それでどうだった?
常連D「おれ」のオンパレードだったよ。「おれが営業マンだったころは、もっと頭を使ったのだが」「おまえたちは、おれのいう通りにすればいい。それで間違いはないのだから」っていう具合さ。愕然としたよ。
常連F 多くの営業リーダーは、自らの過去の経験則でしか語れない。部下の話に、耳を傾けようともしない。
常連C 時代の変化とともに、営業マンの活動自体も大きく様変わりしている。それなのに、おれの時代を引き合いに出しても説得力がない。そこを履き違えている。
漆原 普通、ついつい結論を押しつけたくなります。「きみはどう考えるのか?」という問い掛けは、結構辛抱がいる手法ですよ。
常連F 西堀栄三郎『石橋を叩けば渡れない』(生産性出版)に、個性は変えられないけど、能力は変えられる、という言葉がある。考える力は能力なので、伸ばすことは可能だ。

117cut:指導同行と戦略同行の効果
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 R製薬札幌支店の会議室です。マネージャー会議が開催されています。
支店長 それでは絶好調の漆原くんに、同行指導について発表してもらいたい。全国最下位だった釧路営業所だが、いまは支店を引っ張るチームとなった。
漆原 同行指導について、発表させていただきます。最初にお断りしておきますが、あいさつ回りとか、商談をまとめるための訪問は、同行の範ちゅうには入れていません。同行には、2種類があります。
(ホワイトボードに、「育成同行」と「戦略同行」と記入する)
漆原 どちらの同行も、あらかじめMRとじっくりと話しこみます。そして彼らとゴールを共有します。これが大前提です。「育成同行」の目的は、MRのレベルアップにあります。MRのどこを伸ばすべきか、あらかじめ話し合っているので、その部分を重点的に指導します。これは丸一日かけて実施します。
「戦略同行」は、MRと連携して攻略する病院を中心に活動します。これは接点同行で構わないわけです。私の場合は、この2つの同行を非常に大切にしています。思いつきで「同行するぞ」というのとは違い、MRと年頭に合意したゴールを目指すわけですから効果的です。
影野小枝 漆原さんのプレゼンが終了しました。質疑応答がはじまったようです。
支店長 同行には2種類ある。ポイントは、事前にMRとゴールを合意しておく。いい発表だった。何か質問は?
新谷 さすが、漆原所長だ。目からウロコだったよ。MRのレベルアップのためには、同行でのゴールを共有することが大切である。それをやらないから、金魚のフンや大名行列みたいな同行になってしまう。
漆原 MRにつき1冊のノートを作成しています。年度はじめのゴールの設定から、納得合意してもらったことなど、何でもそのノートに書き留めます。左ページは私が書き、右ページはMRが書きます。
星野 交換日記みたいなものかな?
漆原 というよりも、育児日誌みたいなものです。
島尾 漆原所長は、週に何回ぐらい同行していますか? 2つの同行の回数を教えてください。
漆原 月曜日を除く毎日です。それぞれの同行は、2日ずつを原則としています」
島尾 内勤は1日だけなの? あとは全部同行?
漆原 そうです。MRのレベルアップのためには、同行以外の方法は考えられません。
沢田 同行のときは、漆原所長がMRの自宅まで迎えに行くと聞いたけど、何でそんなことをするの?
漆原 結婚している部下に限った話です。奥さんやお子さんの顔を見られるので、大切に考えている習慣です。MRの自宅に私の車を置いて、そこからは彼の車に乗り換えます。MRの仕事がうまく行った日は、ケーキなんかを買って帰ることもあります。そうしたら、もう一度奥さんや子どもと話ができますので。

118cut:人間系ナレッジマネジメント
――19scene:ビリーのナレッジ
影野小枝 ビデオ製作会社の打ち合わせです。
製作 ここはナレッジマネジメントのおさらい場面だ。動きが少なく、おもしろい映像(え)にはなりにくいだろうが……。
監督 いらないでしょう、この場面。こんな講釈をたれなくたって、ここまでで十分に語り尽くしているはずだ。
製作 原作者が……。
監督 原作者の話はもういいです。
助監督 荒々しい営業現場と学問の世界は、何となくミスマッチな感じがします。
製作 でも、これは実話だ。現に漆原は……。
監督『人間系ナレッジマネジメント』を勉強し、それを実践したといいたいわけですね。
製作 そのとおり。何しろ、原作者が野中郁次郎先生の理論にほれこんで、それを営業現場に応用したのだから、ちょっとやそっとでは妥協はしてくれない。ナレッジマネジメントに「人間系」の冠をつけたのは、「システム系」と区別するための、原作者の熱い思いからだった。
助監督 原作者はシステムを、否定しているのですか?
製作 そんなことはない。使い勝手のよいシステムにするには、現場の深い関与が必要だといっているだけだよ。 


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