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モンゴメリ『赤毛のアン』(新潮文庫、村岡花子訳)

2018-03-01 | 書評「マ行」の海外著者
モンゴメリ『赤毛のアン』(新潮文庫、村岡花子訳)

孤児のアンは、プリンスエドワード島の美しい自然の中で、グリーン・ゲイブルズのマシュー、マリラの愛情に包まれ、すこやかに成長する。そして笑いと涙の感動の名作は、意外な文学作品を秘めていた。シェイクスピア劇・英米詩・聖書からの引用をときあかす驚きの訳註、みずみずしく夢のある日本語で読む、新完訳の決定版!楽しく、知的で、味わい深い…、今までにない新しい本格的なアンの世界。(「BOOK」データベースより)

◎娘から孫へ

文藝春秋編『少年少女小説ベスト100』(文春文庫ビジュアル版1992年)では、『赤毛のアン』(新潮文庫、村岡花子訳)は第39位となっています。個人的にはもっと上位にあってもよい、と思っています。私のベスト5は、次のとおりです。

1.ヴェルヌ『十五少年漂流記』(集英社文庫)
2.ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(新潮文庫)
3.モンゴメリ『赤毛のアン』(新潮文庫)
4.バーネット『小公女』(新潮文庫)
5.ルイザ・M・オールコット『若草物語』(新潮文庫、松本恵子訳)

このほかにはまだ執筆していませんが、サン・テグジュペリ『星の王子さま』(新潮文庫、河野万理子訳)ケストナー『飛ぶ教室』(光文社古典新訳文庫、丘沢静也訳)、マーク・トゥエイン『トム・ソーヤーの冒険』(光文社古典新訳文庫4-1土屋京子訳)などを紹介させていただく予定です。

そのなかでも、モンゴメリ『赤毛のアン』には、忘れられない記憶があります。幼い2人の娘とテレビアニメ『赤毛のアン・世界名作劇場』を観た日のことです。札幌への転勤の辞令を持ち帰った日だったのです。
「札幌って、こんなところかな?」
次女の呟きに長女は、「千葉よりはずっと都会だよ」と答えていました。画面には緑豊かな、プリンス・エドワード島のアポンリー村が映っていました。

札幌で『赤毛のアン』(新潮文庫、村岡花子訳)を買い求めて、読みました。小説世界のプリンス・エドワード島は、アニメで垣間見たような極彩色ではありませんでした。むしろ光と影と風と草花の香りに満ちた、落ち着いた雰囲気の村だったのです。

『赤毛のアン』(新潮文庫、村岡花子訳)を読んで以来、私はアン・シャリーとプリンス・エドワード島のとりこになりました。娘と娘の孫といっしょに、行ってみたいと夢見るようになりました。結局夢は実現していませんが、代わりにたくさんの『赤毛のアン』関連本を読んでいます。

松本侑子『アメリカ・カナダ物語紀行』(幻冬舎文庫)を読んで、松本侑子訳『赤毛のアン』(集英社文庫)も読みました。塩野米松『赤毛のアンの島へ』(文春文庫ビジュアル版)は、美しいカラー写真がふんだんにあり、憧れの島に魅了されました。

小倉千加子『「赤毛のアン」の秘密』(岩波現代文庫)、村岡恵理『アンのゆりかご・村岡花子の生涯』(新潮文庫)、茂木健一郎『「赤毛のアン」に学ぶ幸福になる方法』(講談社文庫)、バッジ・ウィルソン『こんにちはアン』(上下巻、新潮文庫、宇佐川晶子訳)、『世界名作劇場・赤毛のアン』(竹書房文庫)なども読みました。

書棚のモンゴメリのコーナーには、これらの本が仲良く並んでいます。いつか孫たちが読んでくれるだろうそのときまで、出番を待ってくれているのです。

◎プリンス・エドワード島のアン

主人公のアン・シャリーは11歳の孤児です。マシュウとマリラという、老いた兄妹の家の養女となります。2人は農業の手伝いをしてもらうために、男児をもらいうけるつもりでした。ところが手違いで、孤児院からは女児がやってきたのです。

マリラはアンを送り返そうとしますが、マシュウはおしゃまなアンを引きとりたいと思います。結局マリラが折れて、アンは晴れて2人の養女として迎え入れられます。

本書はそうしたアンの成長物語です。アンは初めて得た我が家に興奮します。アンはそそっかしく、想像力に富んだ、およそこどもらしくない饒舌家です。老兄妹の愛情を受けながら、アンは自然豊かな村でスクスクと成長します。 

アンはたくさんの失敗を重ねます。「腹心の友」であるダイアナを得ます。アンは学校でも優秀な生徒でした。ある日、主席を争っている男児・ギルバートに「にんじん」と赤い髪をからかわれます。それ以来、アンはギルバートを拒絶します。あらゆる自然を愛し、受け入れてきたアンが唯一遠ざけてしまった存在です。

アンの成長は、老兄妹にとっても幸せな毎日となります。やがてアンは短大へと進学することになります。短大へ進学すると寄宿舎生活となり、マシュウとマリラとは離れ離れになってしまいます。マリラは嘆き苦しみます。そんなときに、突然の不幸が訪れます。これから先には触れないことにします。

『赤毛のアン』は、こどもから大人まで、必読の1冊だと思っています。私はあえてエンディングを紹介しませんでしたが、立花えりかは、その不幸を乗り越えたアンをつぎのように書いています。

――「世はすべてよし」とささやくアンは、生きる勇気にみちあふれながら私の前に立っています。赤毛とそばかすとかがやく目の、永遠の少女の姿をして。(朝日新聞社学芸部編『読みなおす一冊』朝日選書、立花えりか)

アンが自然の美しさに歓喜して名づけた「輝く湖水」「恋人の小径」も、りんご並木の「よろこびの白い道」も。野生の桜の「雪の女王」も、「ドリュアスの泉」も、プリンス・エドワード島に現存しています。日本人の観光客も多いこの島への思いをはせつつ、現在の村人のことを紹介して結びとしたいと思います。私はこの文章を読んで、思わず「それはないだろう」と叫んでしまいました。

――この町の郊外の丘の上で、真っ白な花をつけた桜の木に出会った。牧草地の端にあるその木は、アンが「雪の女王」と名づけた大木を思わせた。私たちが日本で見る桜とは遠い五弁の花びら一枚一枚が細長いのだ。自転車で通りかかった農夫に、「あの花は何ですか?」と聞いたら、「ワイルド・チェリーだ」と答えて、去って行った。(塩野米松『赤毛のアンの島へ』文春文庫ビジュアル版P13)
山本藤光:2014.06.22初稿、2018.03.01改稿

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