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岩中祥史『札幌学』(新潮文庫)

2018-03-12 | 書評「い」の国内著者
岩中祥史『札幌学』(新潮文庫)

美しい自然があり、ウインタースポーツが楽しめ、美味しい食べ物も味わえる北の都。だが、そこは人気の観光地でありながら、二百万人近い人々が暮らす巨大都市でもあった。この街を知るには、しがらみから離れ、合理的で自由奔放な札幌人の生態を知らなければならない。歴史、地理、行事、慣行はもちろん、観光やグルメのツボも押さえた北の都市学。真の札幌好きへ贈る充実の一冊。(「BOOK」データベースより)

◎北欧の匂いがする街

岩中祥史(いわなか・よしふみ)は、1950年生まれの名古屋育ちの編集者・出版プロデューサーです。『札幌学』(新潮文庫、初出2009年)上梓以前に、『博多学』(新潮文庫、初出2003年)など何作も著作を発表しています。しかし私の目に触れることはありませんでした。

新潮社の情報誌『波』のなかに、こんな文章がありました。

――都市はその規模と関係なく、住んでみたくなるところと、行ってみたくなるところとに大別される。しかし、その両方を兼ね備えたところとなると少ない。そうした意味では、博多と札幌は双璧だろう。二つの都市に共通するのは、「異国」の匂いがすることで、博多はアジア、一方の札幌は北欧を感じさせる。(『波』2009年3月号、岩中祥史「引きの強い街」より)

北海道は屯田兵により開墾されました。その名残は地名として、いたるところに残されています。「鳥取」「広島」「富山」など、屯田兵の出身地がそのまま町名となっています。また先住民族のアイヌがつけた名前が、そのまま漢字で表記されている地名はたくさん存在しています。

◎道産子には書けない

岩中祥史『札幌学』(新潮文庫)を 笑いながら読みました。『札幌学』は道産子の私でさえ、新発見をさせられことがたくさんありました。

冠婚葬祭はもちろん、道産子気質に触れた部分は「あるある」「そうだったのか」「なるほど」と、忙しい合いの手が入ってしまいました。今現在札幌や北海道に住んでいる人よりも、離れた人が読むと前記の反応になると思います。

「学」とついているから、生活保護や離婚率まで統計学的に詳述されています。書かれていることの多くは、あたっています。これは血液型よりも信憑性があると思います。私自身を切り刻まれているような、不思議な感覚になって読みました。

「これ、それとばくろうよ」「あずましくない」「じょんぴんかる」など、方言も懐かしく思い出しました。「ばくる」は交換するの意味なのですが、おそらく馬の仲介をする商人・馬喰が語源だと思います。「あずましくない」は、安住しがたいが語源だと思います。落ち着かないときに用いていました。「じょんぴん」は錠前のことです。

本書には直接の言及はありませんでしたが、そんな方言が浮かんできました。

道産子はドライである。著者はそう書いています。そのとおりだと思います。著者である岩中さんに脱帽です。いまごろの札幌は、しばれているんだろうな、と思いつつペンを置きます。
(山本藤光:2013.06.16初稿、2018.03.12改稿)

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