ある方から前回の話題にコメントが寄せられた。
欧州では、200年どころか何百年も前の住宅を内部改装して使っているが、最近のプレハブ住宅等は、早い物では数十年で解体しているではないか、というのである。なるほど簡易に建てられた住宅は、改装するよりも解体撤去して新築する方が費用対効果から考えても、優れている場合がある。
観光旅行でバルカン半島を訪れた知人からは、この地域では石灰岩が豊富なことから石灰岩建築が多く、多世代にわたって住居として使っているが、日本では石灰岩が産出するにもかかわらず、石灰岩の住宅はないという。石造りの家屋は、地震に対して耐震性がないことが問題である。バルカン半島にあるクロアチアではかっての地震で大きな被害を被った都市があり、地震が少ないから石造り住宅にしているというのは必ずしもあたらない。
欧州で石造りの多い理由の一つは、構造となる木材が少ないことがあろう。クロアチアでは石灰岩地質であるために森林が少ない。荒野に糸杉の一本立ちがところどころ生えている程度であるという。
日本のように海洋性気候による湿気が多いところでは、石造りの家では結露に悩まされて住みにくいことも理由の一つであろう。最近では鉄筋・鉄骨コンクリートの住宅が多くなっている。コンクリートは熱伝導性がよいことから外気温の影響が大きく、湿気対策のためにエアコンが欠かせない存在になっている。一級建築士の知人からコンクリートを使った住宅の設計寿命は、50年程度であるという。コンクリートは、ほぼ1年に1ミリずつ劣化することが、その理由であるというのである。もしそれが事実ならば、日本列島改造論を唱えた田中首相のもとに日本国土全域にわたって建設されたコンクリート造りの鉄道高架橋とか高速道路は、やがて寿命を迎えることになる。少子高齢化が進む日本国にとっては、いまひとつの悩ましい課題である。
石垣を築いた上にたたずむ城郭を見るにつけ、様々な風水害とか地震によって石垣は崩れても修復され、昔の姿をとどめていることに感動を覚えるのは、たんにノスタルジアだけではない。
さて、200年の住宅の話題に移ろう。
少しばかりDIYをかじった立場から、200年は保たせたい住宅のあるべき姿を考えてみた。
上に述べたように、家屋の土台は、コンクリートを使ってはならない。鳩山元首相はコンクリートを排除しようと言ったが、200年は保つ住宅については正しい。石灰岩も好ましくない。土台は、祖先が使った城壁のごとき深成岩でなければならない。岩と岩はカミソリの刃さえ差し込めないように密着させ、地震でも崩れないように組み上げるのである。このような組み上げ方は、クロアチアの石造り住宅に使われた手法が参考になろう。
ここに掲げてある写真は、知人が撮影したクロアチアの教会で、1402年から着工され、完成後1555年に献堂された世界遺産の聖ヤコブ大聖堂で、世界最大の石灰岩建造の教会といわれている。耐震のために石組みは密着させた特殊な咬合になっているといわれている。
日本は湿気が高い。床下は特に湿気が籠もるから徹底して通風をよくする。通風をよくすると開口部か多くなるので、ネズミなどの小動物が入り込まないようにしなければならない。湿気を吸収するために床下に木炭を入れる工法もあるが、木炭を使用するとすれば定期的にこれを交換しなければならないであろう。木炭の吸湿能力が200年もあるかどうか疑わしいからである。
現在の住宅工法は、一言にしていえば、いまだに発展途上である。
例えば、床板は合板製が主流となっている。DIYを行ったとき、40年も経った合板の床板はペコペコになり強度がなくなっている。しかし部分的に使われた檜材は、健在であった。いま市販されている合板の床材は改良されていると思われるが、どのくらいの耐用年数があるのか、これは確かめておくことが必要である。仮に100年は保つと保証されたとしよう。しかし100年経過したら交換しなければならない。このとき洋風の部屋では床板だけ交換できるかどうか。DIYを行った知識からすると、床板を交換するためには天井を外し、壁を撤去してから、床材を外さなければならない。理由は簡単で、洋風の部屋では、この逆順で内装工事を施しているからである。つまり、まず床板を張りつめ、その床板の上に壁を作りつけ、その壁を元にして天井の骨組みを作り、天井を張りこむからである。このように洋風の部屋の床板交換を行う場合、内装をすべて交換することになるから、現在の工法で構築された住宅では、このような手間をかけるぐらいならば、すべて解体して新築しても費用的には大差がないことになる。新築から30年以上経過している近くの住宅は、このような理由から立て替えられているであろうと想像している。
200年は保つ住宅では、床板、天井、壁が個別に取り替えられる構造になっているか確かめる必要がある。古来の工法による畳を敷く和室は、この要求は満たしている。ただし最近の和室は、ビフォア・アフターの建築番組を見ていると洋風部屋に畳を置くだけの近代工法による場合も見かける。番組に寄与された建築設計士には申し訳ないが、これはいけないと言いたい。畳は湿気を吸収し、乾燥した時期には吸収した水分を排出する機能を持っている。そのために畳みの裏側には、適度の通風を行わなければならない。
壁について言えば、すべて石造りの壁にしない限り、現在200年に耐えうる壁はない。
焼き固めた、窯業系の外壁材があるではないかと指摘されても、それではその壁を支える構造物は200年も保つだろうか。
ラス・モルタル壁は「葉山の家のこと」で述べたように、筆者は欠陥工法であると考えている。いま主流になっている石膏ボードを貼り付けて、その上に壁紙を張る工法も200年を保つ住宅には適さない。
壁の間にガラス・ウールを入れて断熱性をよくする工法もあるが、これには多くの批判がある。北海道地域で、部屋内部の湿度の高い空気がガラス・ウールに吸収された後に外気温でこれが結露して、壁の中に多量の水分がたまり、それがもとになってカビが発生し、さらに壁の構造物が腐敗するという事例を聞いている。DIYのつたない知識から言えば、壁は外気の通風をよくする層と、外気層とは隔離して、部屋内部の空気を壁の内部で対流させるようにした三重構造にする。真ん中の層の壁は、常に乾燥状態にさせるのである。これが、現在考えられるもっとも優れた壁構造である。最近は外断熱工法とか、内断熱工法とか宣伝しながら競っているが、ガラス・ウールを使わず、このように内外断熱構造にするのである。しかしこれで200年も保たせられるかどうかは解らないが、外壁と内壁を個々に交換・保守でき、構造物が200年保てば対応できるはずである。
いま一つ重要なのは、電気・水道・排水・ガスなどの配線・配管である。これらの設備は200年どころか100年の間に必ず交換することになる。従ってこれらの設備をコンクリート土間の中に埋め込む工事は行ってはならない。これらの設備は交換容易なダクトのような空間に収容する。
風呂桶なども交換することがあるから、現在普及している風呂場の一体型ユニットは、200年の住宅に対応できるかどうかは疑問である。
電気の配線なども50年あるいは100年の間には交換しなければならない。電気工事に携わっている知人から聞くところによると、30年程度経過した住宅で湿気の多い場所の電線に緑錆が発生し、危なく漏電火災になりそうな事例があったという。
以上のような条件を満たして、いま200年住宅を新築するとすれば、現在広く用いられている建築工事よりもかなり高価になることは間違いない。200年も保たせる住宅ができれば、それはそれで子々孫々にわたり残す財産的価値があろう。
DIYの経験から言えば、200年の住宅は、やはり過大広告と思わざるを得ない。しかしながら、あえて挑戦して採用するのであれば、ここに記した内容が参考になるかも知れない。
(農)
欧州では、200年どころか何百年も前の住宅を内部改装して使っているが、最近のプレハブ住宅等は、早い物では数十年で解体しているではないか、というのである。なるほど簡易に建てられた住宅は、改装するよりも解体撤去して新築する方が費用対効果から考えても、優れている場合がある。
観光旅行でバルカン半島を訪れた知人からは、この地域では石灰岩が豊富なことから石灰岩建築が多く、多世代にわたって住居として使っているが、日本では石灰岩が産出するにもかかわらず、石灰岩の住宅はないという。石造りの家屋は、地震に対して耐震性がないことが問題である。バルカン半島にあるクロアチアではかっての地震で大きな被害を被った都市があり、地震が少ないから石造り住宅にしているというのは必ずしもあたらない。
欧州で石造りの多い理由の一つは、構造となる木材が少ないことがあろう。クロアチアでは石灰岩地質であるために森林が少ない。荒野に糸杉の一本立ちがところどころ生えている程度であるという。
日本のように海洋性気候による湿気が多いところでは、石造りの家では結露に悩まされて住みにくいことも理由の一つであろう。最近では鉄筋・鉄骨コンクリートの住宅が多くなっている。コンクリートは熱伝導性がよいことから外気温の影響が大きく、湿気対策のためにエアコンが欠かせない存在になっている。一級建築士の知人からコンクリートを使った住宅の設計寿命は、50年程度であるという。コンクリートは、ほぼ1年に1ミリずつ劣化することが、その理由であるというのである。もしそれが事実ならば、日本列島改造論を唱えた田中首相のもとに日本国土全域にわたって建設されたコンクリート造りの鉄道高架橋とか高速道路は、やがて寿命を迎えることになる。少子高齢化が進む日本国にとっては、いまひとつの悩ましい課題である。
石垣を築いた上にたたずむ城郭を見るにつけ、様々な風水害とか地震によって石垣は崩れても修復され、昔の姿をとどめていることに感動を覚えるのは、たんにノスタルジアだけではない。
さて、200年の住宅の話題に移ろう。
少しばかりDIYをかじった立場から、200年は保たせたい住宅のあるべき姿を考えてみた。
上に述べたように、家屋の土台は、コンクリートを使ってはならない。鳩山元首相はコンクリートを排除しようと言ったが、200年は保つ住宅については正しい。石灰岩も好ましくない。土台は、祖先が使った城壁のごとき深成岩でなければならない。岩と岩はカミソリの刃さえ差し込めないように密着させ、地震でも崩れないように組み上げるのである。このような組み上げ方は、クロアチアの石造り住宅に使われた手法が参考になろう。
ここに掲げてある写真は、知人が撮影したクロアチアの教会で、1402年から着工され、完成後1555年に献堂された世界遺産の聖ヤコブ大聖堂で、世界最大の石灰岩建造の教会といわれている。耐震のために石組みは密着させた特殊な咬合になっているといわれている。
日本は湿気が高い。床下は特に湿気が籠もるから徹底して通風をよくする。通風をよくすると開口部か多くなるので、ネズミなどの小動物が入り込まないようにしなければならない。湿気を吸収するために床下に木炭を入れる工法もあるが、木炭を使用するとすれば定期的にこれを交換しなければならないであろう。木炭の吸湿能力が200年もあるかどうか疑わしいからである。
現在の住宅工法は、一言にしていえば、いまだに発展途上である。
例えば、床板は合板製が主流となっている。DIYを行ったとき、40年も経った合板の床板はペコペコになり強度がなくなっている。しかし部分的に使われた檜材は、健在であった。いま市販されている合板の床材は改良されていると思われるが、どのくらいの耐用年数があるのか、これは確かめておくことが必要である。仮に100年は保つと保証されたとしよう。しかし100年経過したら交換しなければならない。このとき洋風の部屋では床板だけ交換できるかどうか。DIYを行った知識からすると、床板を交換するためには天井を外し、壁を撤去してから、床材を外さなければならない。理由は簡単で、洋風の部屋では、この逆順で内装工事を施しているからである。つまり、まず床板を張りつめ、その床板の上に壁を作りつけ、その壁を元にして天井の骨組みを作り、天井を張りこむからである。このように洋風の部屋の床板交換を行う場合、内装をすべて交換することになるから、現在の工法で構築された住宅では、このような手間をかけるぐらいならば、すべて解体して新築しても費用的には大差がないことになる。新築から30年以上経過している近くの住宅は、このような理由から立て替えられているであろうと想像している。
200年は保つ住宅では、床板、天井、壁が個別に取り替えられる構造になっているか確かめる必要がある。古来の工法による畳を敷く和室は、この要求は満たしている。ただし最近の和室は、ビフォア・アフターの建築番組を見ていると洋風部屋に畳を置くだけの近代工法による場合も見かける。番組に寄与された建築設計士には申し訳ないが、これはいけないと言いたい。畳は湿気を吸収し、乾燥した時期には吸収した水分を排出する機能を持っている。そのために畳みの裏側には、適度の通風を行わなければならない。
壁について言えば、すべて石造りの壁にしない限り、現在200年に耐えうる壁はない。
焼き固めた、窯業系の外壁材があるではないかと指摘されても、それではその壁を支える構造物は200年も保つだろうか。
ラス・モルタル壁は「葉山の家のこと」で述べたように、筆者は欠陥工法であると考えている。いま主流になっている石膏ボードを貼り付けて、その上に壁紙を張る工法も200年を保つ住宅には適さない。
壁の間にガラス・ウールを入れて断熱性をよくする工法もあるが、これには多くの批判がある。北海道地域で、部屋内部の湿度の高い空気がガラス・ウールに吸収された後に外気温でこれが結露して、壁の中に多量の水分がたまり、それがもとになってカビが発生し、さらに壁の構造物が腐敗するという事例を聞いている。DIYのつたない知識から言えば、壁は外気の通風をよくする層と、外気層とは隔離して、部屋内部の空気を壁の内部で対流させるようにした三重構造にする。真ん中の層の壁は、常に乾燥状態にさせるのである。これが、現在考えられるもっとも優れた壁構造である。最近は外断熱工法とか、内断熱工法とか宣伝しながら競っているが、ガラス・ウールを使わず、このように内外断熱構造にするのである。しかしこれで200年も保たせられるかどうかは解らないが、外壁と内壁を個々に交換・保守でき、構造物が200年保てば対応できるはずである。
いま一つ重要なのは、電気・水道・排水・ガスなどの配線・配管である。これらの設備は200年どころか100年の間に必ず交換することになる。従ってこれらの設備をコンクリート土間の中に埋め込む工事は行ってはならない。これらの設備は交換容易なダクトのような空間に収容する。
風呂桶なども交換することがあるから、現在普及している風呂場の一体型ユニットは、200年の住宅に対応できるかどうかは疑問である。
電気の配線なども50年あるいは100年の間には交換しなければならない。電気工事に携わっている知人から聞くところによると、30年程度経過した住宅で湿気の多い場所の電線に緑錆が発生し、危なく漏電火災になりそうな事例があったという。
以上のような条件を満たして、いま200年住宅を新築するとすれば、現在広く用いられている建築工事よりもかなり高価になることは間違いない。200年も保たせる住宅ができれば、それはそれで子々孫々にわたり残す財産的価値があろう。
DIYの経験から言えば、200年の住宅は、やはり過大広告と思わざるを得ない。しかしながら、あえて挑戦して採用するのであれば、ここに記した内容が参考になるかも知れない。
(農)