「蕎麦をうつ」話題に、ある土木工学にくわしい知人からコメントが寄せられた。
「衝撃問題の一つの話題にひずみ速度効果というのがあります。軟鋼を一秒間に100%程度引き延ばす実験を行うと、強度が1.3倍くらいになり、コンクリートでは圧縮強度が 1.5倍くらい、引っ張り強度が2倍くらいになります。
なぜ そうなるのか?
というのにいろいろな説明があるのですが、その一つとして熱エネルギへの変換というのがあります。このことを元金沢工大のある教授が実験時の温度変化について計測した例が報告されています。
ひずみ速度効果の大きな軟鋼では温度が高くなり、あまりひずみ速度効果がないアルミでは温度上昇がないという話をされていたと記憶しています。
ちなみに荷重とその荷重点の変位を乗じますと仕事すなわちエネルギとなります。
力学の最上流部はエネルギ変換の変分原理というものがあり、構造力学はその大系でできております。
よって荷重点の変位がその先にある部材や材料の変形をもたらすとき、その荷重点でなした仕事は材料内のエネルギに変換される、という式を立てるのですが、ひずみ速度を大きくすると材料内のひずみエネルギだけでなく、そこに生ずる熱エネルギも加えられることになります。従って同一の変位量に対する外力は、熱エネルギで消費される分だけ大きくならなければならない、というのが先の現象の説明です。」
コンクリートについての記述に関して、鉄筋コンクリートの場合、あらかじめ鉄筋に伸ばす力をかけてコンクリートを打ち込み、コンクリートが固まった後、鉄筋をゆるめるというプレストレス・コンクリート工法があることを聞いたことがある。このことではないかと確認してみると鉄筋を入れないコンクリートに急激なストレスを加えて強度を増す手法が開発され、研究途上にあるという説明であった。
衝撃力に近いストレスを加えると材料の内部に熱が発生するという。
古来伝統の衝撃を与えて刀剣を鍛える技法の源は、ここにあるとも思われる。上のコメントは軟鋼の強度についてであるが、当然ながら「熱い内に撃つ」刀剣のハガネにも通じるはずである。もとより刀剣の場合は、鋼鉄を熱する炭からの炭素成分が打ち込まれていることも確かである。しかしながらこのことに関して、上記の知人は、「ある時ドイツの学者が日本刀の成分分析をして、その通りの成分の金属を作ったけれども、あの強度と靱性は到達できなかった、という話を聞いたことがあります」とコメントをつけ加えている。
刀剣と同じような技法で鍛え上げたといわれる切りだし小刀を愛用している。まことに美しく、刃の光りにオーラを感じる。その切れ味はカッターナイフに勝るとも劣らぬばかりか、強く腰がすわっているために、微妙な手元のチカラ加減が刃先に加わるのである。
ヒトも衝撃力が加わると、内部から発熱して強くなるのではなかろうか。
このところ毎日のように報道される経済的な衝撃に、そのような想いもよせている。
(農)
「衝撃問題の一つの話題にひずみ速度効果というのがあります。軟鋼を一秒間に100%程度引き延ばす実験を行うと、強度が1.3倍くらいになり、コンクリートでは圧縮強度が 1.5倍くらい、引っ張り強度が2倍くらいになります。
なぜ そうなるのか?
というのにいろいろな説明があるのですが、その一つとして熱エネルギへの変換というのがあります。このことを元金沢工大のある教授が実験時の温度変化について計測した例が報告されています。
ひずみ速度効果の大きな軟鋼では温度が高くなり、あまりひずみ速度効果がないアルミでは温度上昇がないという話をされていたと記憶しています。
ちなみに荷重とその荷重点の変位を乗じますと仕事すなわちエネルギとなります。
力学の最上流部はエネルギ変換の変分原理というものがあり、構造力学はその大系でできております。
よって荷重点の変位がその先にある部材や材料の変形をもたらすとき、その荷重点でなした仕事は材料内のエネルギに変換される、という式を立てるのですが、ひずみ速度を大きくすると材料内のひずみエネルギだけでなく、そこに生ずる熱エネルギも加えられることになります。従って同一の変位量に対する外力は、熱エネルギで消費される分だけ大きくならなければならない、というのが先の現象の説明です。」
コンクリートについての記述に関して、鉄筋コンクリートの場合、あらかじめ鉄筋に伸ばす力をかけてコンクリートを打ち込み、コンクリートが固まった後、鉄筋をゆるめるというプレストレス・コンクリート工法があることを聞いたことがある。このことではないかと確認してみると鉄筋を入れないコンクリートに急激なストレスを加えて強度を増す手法が開発され、研究途上にあるという説明であった。
衝撃力に近いストレスを加えると材料の内部に熱が発生するという。
古来伝統の衝撃を与えて刀剣を鍛える技法の源は、ここにあるとも思われる。上のコメントは軟鋼の強度についてであるが、当然ながら「熱い内に撃つ」刀剣のハガネにも通じるはずである。もとより刀剣の場合は、鋼鉄を熱する炭からの炭素成分が打ち込まれていることも確かである。しかしながらこのことに関して、上記の知人は、「ある時ドイツの学者が日本刀の成分分析をして、その通りの成分の金属を作ったけれども、あの強度と靱性は到達できなかった、という話を聞いたことがあります」とコメントをつけ加えている。
刀剣と同じような技法で鍛え上げたといわれる切りだし小刀を愛用している。まことに美しく、刃の光りにオーラを感じる。その切れ味はカッターナイフに勝るとも劣らぬばかりか、強く腰がすわっているために、微妙な手元のチカラ加減が刃先に加わるのである。
ヒトも衝撃力が加わると、内部から発熱して強くなるのではなかろうか。
このところ毎日のように報道される経済的な衝撃に、そのような想いもよせている。
(農)