バルセロナでは、観光名物となっている建造中のサグラダファミリァ教会の回りを一巡した。その一部には鉄筋コンクリートの柱がむき出しに数本立てられていた。その回りを塔として仕上げるのだろうか。残薄な知識ではあるが、鉄筋コンクリートは、表面から空気中の炭酸ガスに浸食され、やがて崩壊すると聞いているので、サグラダファミリァの建築寿命は、木造建築に劣るのではないかという想いがよぎる。
つい最近の2014年5月に筆者が撮影した写真を上記に提示する。この写真の左隅に鉄筋コンクリートの柱が僅かに見える。みっともない鉄筋コンクリート柱をまともに撮した写真を捜したが、ない。
筆者は、できる限り美しくサグラダファミリァを撮影しようとした美意識が働いたせいかなと思う。
建造計画を立てたガウディは1926年に他界した。その100年後の2026年の完成を目指しているとされている。ガウディは鉄筋コンクリートを支柱とした建造は指示していなかったと想像する。その理由は、バルセロナの中心地から北西方向に約20キロ離れた田園地方のコロニア・グエルにあるガウディが作りかけた世界遺産となっている地下教会を拝観したことから伺える。その地下教会はコロニア・グリル教会ともよばれており、天井を支える支柱は、下記の筆者撮影写真のように玄武岩の原石を切り出したものであった。玄武岩の天井を支える柱は斜めにしつらえられている。斜め方向に巨大な重量を支える柱を見たのは、はじめてであった。煉瓦のリブをはめ込んだ放物円面の天井は、世界遺産にふさわしい光景を演出している。
現在建造中のサグラダファミリァの垂直に建てられた鉄筋コンクリート柱のイメージがガウディの芸術的な作品に重なるのは、ふさわしくない。
ガウディはこの教会の設計を行うにあたり、逆さ吊りにした金属鎖の形状を基にしたことが付設の説明館に具体的な模型で展示されていた。この様子も写真に納めたので提示する。筆者は、1900年代の初頭に作成したアナログ・コンピュータであると直感した。ただし強度計算までは、できなかったであろう。現在のディジタル・コンピュータで強度計算をしてみるのも意義深いかも知れない。金属鎖にかかる荷重計算は、現在のコンピュータで処理するとしても、ありきたりの強度計算ソフトウェアで対応できるかどうか疑わしい。
逆さ吊りの金属鎖のアナログ模型を拝観しながら、その構造物の一部が損傷したとき、構造物全体にどのような影響があるだろうかと考えていた。この模型から実物を作成し、どこかの構造部材が仮に破損したときには、建造物全体に大きく影響して全体が損壊するのではないだろうかとも思った。金属鎖の一端を切断してその影響を調べることも可能であるが、重力方向は逆であるから、シミュレーションにはならない。コンピュータの耐故障能力について、長年つきあってきた筆者のコダワリから、ガウディが行ったと伝えられる逆さ吊り建築設計の思想をじっくりと味うことになった。
さらに言えば、実物を拝観した地下教会の玄武岩の支柱では、逆さ吊りの鎖模型で示された教会を支えることは難しいであろう。また、このコロニア・グエル教会の地下部分の建造にも困難な事態に遭遇したのではないか。斜めの柱を何らかの方法で保持しながら放物円面天井を建造していく過程は難事業と思われる。度重なる崩落もあったのではなかろうか。当時の工事記録があれば拝見したいものである。と、建築建造に少しばかり興味を持った筆者の所感である。
ガウディがコロニア・グエルの地下教会の建造を未完成のままにした理由は、難事業と共に十分な玄武岩の柱が上部構造物を支える強度に不安があることなどによると想像した。
いずれにしてもこの地下教会、日本のような地震の多い国では、とても建造できないし、耐久力もないことだけは確かである。
(応)
コロニア・グエル地下教会
幻となった上部建築構造物の逆さ吊り模型