塩野七生氏の「ローマ人の物語」新調文庫本全31巻を読了した。2007年11月29日に購入して以来、約1年7ヶ月ぶりだ。
まず、塩野氏の筆力に敬服する。よくもまあ延々と書き連ねたものだ。長いから、途中で放り出し、しばらくしてからまた読み出すのだが、文章が巧みだからすぐに入り込める。記述の随所から塩野さんの粘着質、こだわり性が見て取れるが、文献や現地訪問などの徹底的な調査には、まさに脱帽するほかない。
古代ローマ人の考え方が随所で説明される。①人間を律するのは人間である(法治の精神)、②ローマ人の考える神とは人々を助ける存在である(人間を律するものではない)、③従って一神教の概念はない(人を助けるさまざまな神がいる)、④インフラ整備や人々が喜ぶ公共施設の建設はエリート(皇帝)の責任である、⑤皇帝といえども、人々から統治を委託された者である、等など、これらの考え方は現代の感覚からしても極めて合理的で、感心させられる。(しかし、別の著者チャールス・ヴァン・ドーレンによる「知の全体史」は、古代ローマ人の非合理性を痛烈に批判していて、人によってこうも見方が変わるものかと、分からなくなる。)
そもそもこの本を読む気になったのは友人に紹介されたからだが、友人はカエサルの戦闘に関する記述が特に面白いと言う。だが、戦闘の話がこと細かく長々としていて辟易する。塩野さんはカエサルにのめり込みすぎている感じで、彼がいかに現実的、合理的であるかを力説する。しかし、事の経過から読者がそのように感じる前に、現実的、合理的という結論を先に述べてしまうので、読んでいて、力説されるほどには実感が湧かない。むしろ、私には、帝国が傾き始める辺りの記述のほうが簡潔に書かれていて分かりやすく、興味深かった。
しかし、読了後、古代ローマが滅び、キリスト教文化が席巻する中世がどのように過ぎてゆくのか、塩野さんの続本を期待したくなる。(AO)
まず、塩野氏の筆力に敬服する。よくもまあ延々と書き連ねたものだ。長いから、途中で放り出し、しばらくしてからまた読み出すのだが、文章が巧みだからすぐに入り込める。記述の随所から塩野さんの粘着質、こだわり性が見て取れるが、文献や現地訪問などの徹底的な調査には、まさに脱帽するほかない。
古代ローマ人の考え方が随所で説明される。①人間を律するのは人間である(法治の精神)、②ローマ人の考える神とは人々を助ける存在である(人間を律するものではない)、③従って一神教の概念はない(人を助けるさまざまな神がいる)、④インフラ整備や人々が喜ぶ公共施設の建設はエリート(皇帝)の責任である、⑤皇帝といえども、人々から統治を委託された者である、等など、これらの考え方は現代の感覚からしても極めて合理的で、感心させられる。(しかし、別の著者チャールス・ヴァン・ドーレンによる「知の全体史」は、古代ローマ人の非合理性を痛烈に批判していて、人によってこうも見方が変わるものかと、分からなくなる。)
そもそもこの本を読む気になったのは友人に紹介されたからだが、友人はカエサルの戦闘に関する記述が特に面白いと言う。だが、戦闘の話がこと細かく長々としていて辟易する。塩野さんはカエサルにのめり込みすぎている感じで、彼がいかに現実的、合理的であるかを力説する。しかし、事の経過から読者がそのように感じる前に、現実的、合理的という結論を先に述べてしまうので、読んでいて、力説されるほどには実感が湧かない。むしろ、私には、帝国が傾き始める辺りの記述のほうが簡潔に書かれていて分かりやすく、興味深かった。
しかし、読了後、古代ローマが滅び、キリスト教文化が席巻する中世がどのように過ぎてゆくのか、塩野さんの続本を期待したくなる。(AO)