シンガポールのジュロン島にある日本企業の三井フェノール・シンガポール工場を訪れる機会があった。この「ジュロン島は、いま」の内容は、懇切丁寧に御案内頂いたこの企業の志賀敬之社長による説明資料を基にしている。ここに志賀社長の懇意な御案内に感謝しつつ、記録にとどめたい。
これまでのところシンガポールの国土面積は、1965年当時は582キロ平方メートルで日本の淡路島程度とされていたが、ジュロン島の基となる小島を埋め立てて広げていること等により、シンガポール国土はすでに淡路島の大きさを越え、716キロ平方メートルに拡大し、東京23区をやや上回るようになった。この埋め立ての土砂はインドネシアからも購入したという。今回訪れた折りには、ジュロン島には埋め立て後の広大な敷地が拡がっており、さらなる工場の誘致を計っているように見受けられた。
シンガポールは1965年に独立を果たした立憲共和制で、2011年からトニー・タンが大統領、リー・シェロン首相が16閣僚のもとに政権を維持している。シンガポールの政治の現状については、前の「シンガポールは、いま」で述べたように、議会は一院制で人民行動党People’s Action Party, PAPと略称、が87議席の内80議席を占めているので一党独裁に近い。。シンガポールの発展の現代史としての側面は、坪井正雄著「シンガポールの工業化政策」日本経済評論社による2010年の刊行図書で詳細に論説されており、シンガポール社会の推移について関心がある方にとっては必読の書として推奨しておきたい。
ジュロン島の話題に戻ることにする。
ここには多くの国籍の異なった石油化学企業の集合体によるコンビナートが建設されて運営されている。2001年9月11日に発生した米国の同時多発テロ事件より、ジュロン島の警備は厳重になったという。それまでは、ジュロン島内までの路線バスもあったそうだが、いまはシンガポールとは別の国といえるほどの厳重な警備態勢にある。従って路線バスは、この入り口の検問所前で降車しなければならない。
ジュロン島内に入るためにはパスポートが必要であり、そのパスポートも入島中は預けておかなければならない。あらかじめ志賀社長の計らいで事前手続きが行われていた。基本的にはジュロン島内の企業による事前手続きがなければ入島許可が得られない。
ジュロン島内の観光など、まずはできない、といえる。
ただし、島内の企業の従業員は、専用の通行証とか許可された通勤バスによって入島できる。また島内だけの路線バスも運行されているが、入島手続きを済ましてからしか利用できない。
石油コンビナートは、広大な敷地に様々な企業が散在し、その企業の間は主としてパイプで連結して資材の供給を行っている。企業が利用するエネルギーは、電気、天然ガス、さらには高圧高温の蒸気、水が用いられ、電気以外はパイプを通じて供給される。これらのパイプは、地中埋設もあるとは思われるが、保守・点検の観点からすれば空中配管の方が望ましい。
それぞれの化学工場も複雑な配管の間に化学反応塔が林立している。この化学反応塔の中では、液化、あるいはガス化した資材の分解(クラッキングともいう)、あるいは重合(分子レベルでの結合)が行われる。
これらのパイプとか反応塔を近くから眺めると、テロ攻撃には弱そうに思える。重要な部分にテロによる破壊が行われれば、場合によっては爆発的に工場の破壊が起こることもあり得る。その爆発は広域にわたって影響が及ぶかも知れない。
ジュロン島は、シンガポールから別の国のような関所を設けて警備態勢を敷いていることは充分理解できる。
日本の3月11日の地震と津波災害に関して、福島の第一原子力発電所は無防備に近い状態であった。日本の原子力発電所はすべて海岸沿いに設置されており、海岸からの軽易なテロ攻撃に対しても脆弱であり、国土防衛の弱点であることを露呈した。
ジュロン島を一つの国土として見なした場合、テロ攻撃は海岸からロケット・ランチャーのような簡易な武器で行われることもあり得る。もとより、ジュロン島全体の海岸からのテロ攻撃に対する警備もシンガポールの国家としての責任にかかわる。とはいえ、各企業においてもテロ攻撃に対して自衛できる防護対策が必要となっているのではないかと思索した。
すでに実施されているかも知れないが、例えば重要な配管は、外隔を頑丈にしつらえた二重構造とするとか、重要なバルブも二重化し、更にバルブの周囲を堅固に覆うことなどがあろう。そのために余計な費用負担があることは避けられない。安全のための費用は、必要経費でもある。
世界中に進出する日本の石油コンビナート産業にとって重要な課題であろう。
(納)
これまでのところシンガポールの国土面積は、1965年当時は582キロ平方メートルで日本の淡路島程度とされていたが、ジュロン島の基となる小島を埋め立てて広げていること等により、シンガポール国土はすでに淡路島の大きさを越え、716キロ平方メートルに拡大し、東京23区をやや上回るようになった。この埋め立ての土砂はインドネシアからも購入したという。今回訪れた折りには、ジュロン島には埋め立て後の広大な敷地が拡がっており、さらなる工場の誘致を計っているように見受けられた。
シンガポールは1965年に独立を果たした立憲共和制で、2011年からトニー・タンが大統領、リー・シェロン首相が16閣僚のもとに政権を維持している。シンガポールの政治の現状については、前の「シンガポールは、いま」で述べたように、議会は一院制で人民行動党People’s Action Party, PAPと略称、が87議席の内80議席を占めているので一党独裁に近い。。シンガポールの発展の現代史としての側面は、坪井正雄著「シンガポールの工業化政策」日本経済評論社による2010年の刊行図書で詳細に論説されており、シンガポール社会の推移について関心がある方にとっては必読の書として推奨しておきたい。
ジュロン島の話題に戻ることにする。
ここには多くの国籍の異なった石油化学企業の集合体によるコンビナートが建設されて運営されている。2001年9月11日に発生した米国の同時多発テロ事件より、ジュロン島の警備は厳重になったという。それまでは、ジュロン島内までの路線バスもあったそうだが、いまはシンガポールとは別の国といえるほどの厳重な警備態勢にある。従って路線バスは、この入り口の検問所前で降車しなければならない。
ジュロン島内に入るためにはパスポートが必要であり、そのパスポートも入島中は預けておかなければならない。あらかじめ志賀社長の計らいで事前手続きが行われていた。基本的にはジュロン島内の企業による事前手続きがなければ入島許可が得られない。
ジュロン島内の観光など、まずはできない、といえる。
ただし、島内の企業の従業員は、専用の通行証とか許可された通勤バスによって入島できる。また島内だけの路線バスも運行されているが、入島手続きを済ましてからしか利用できない。
石油コンビナートは、広大な敷地に様々な企業が散在し、その企業の間は主としてパイプで連結して資材の供給を行っている。企業が利用するエネルギーは、電気、天然ガス、さらには高圧高温の蒸気、水が用いられ、電気以外はパイプを通じて供給される。これらのパイプは、地中埋設もあるとは思われるが、保守・点検の観点からすれば空中配管の方が望ましい。
それぞれの化学工場も複雑な配管の間に化学反応塔が林立している。この化学反応塔の中では、液化、あるいはガス化した資材の分解(クラッキングともいう)、あるいは重合(分子レベルでの結合)が行われる。
これらのパイプとか反応塔を近くから眺めると、テロ攻撃には弱そうに思える。重要な部分にテロによる破壊が行われれば、場合によっては爆発的に工場の破壊が起こることもあり得る。その爆発は広域にわたって影響が及ぶかも知れない。
ジュロン島は、シンガポールから別の国のような関所を設けて警備態勢を敷いていることは充分理解できる。
日本の3月11日の地震と津波災害に関して、福島の第一原子力発電所は無防備に近い状態であった。日本の原子力発電所はすべて海岸沿いに設置されており、海岸からの軽易なテロ攻撃に対しても脆弱であり、国土防衛の弱点であることを露呈した。
ジュロン島を一つの国土として見なした場合、テロ攻撃は海岸からロケット・ランチャーのような簡易な武器で行われることもあり得る。もとより、ジュロン島全体の海岸からのテロ攻撃に対する警備もシンガポールの国家としての責任にかかわる。とはいえ、各企業においてもテロ攻撃に対して自衛できる防護対策が必要となっているのではないかと思索した。
すでに実施されているかも知れないが、例えば重要な配管は、外隔を頑丈にしつらえた二重構造とするとか、重要なバルブも二重化し、更にバルブの周囲を堅固に覆うことなどがあろう。そのために余計な費用負担があることは避けられない。安全のための費用は、必要経費でもある。
世界中に進出する日本の石油コンビナート産業にとって重要な課題であろう。
(納)