8月14日朝、送電線の事故があった。
別ルートで送電再開 復旧までは短時間 首都圏広域停電 (朝日新聞) - goo ニュース
復旧までに意外に時間がかかったという印象は、誰しも持ったことであろう。ここで電力系統を改めて眺めてみる。
私の住んでいる近くにも高圧送電線がある。ところがその送電線は行き止まりになっている。送電であるから入り口と出口がり、行き止まりなどないはずである。工事の途中なのかとも思ったがそうでもない。結構年月を経ている鉄塔である。
このような疑問を抱えていたが、あるときこの疑問が解けた。高圧送電線系統は、とりあえず例えてみると池である。水をたたえる池を想像すればよい。この池には流れ込む水路があれば、流れ出る水路もある。入水量と出水量が同じであれば水面は一定になっている。入水路に異常があり、水の供給が途絶えればそれに応じて出水量を制限しなければならない。電力系統を池に例えれば、行き止まりの送電線の謎は解ける。
さて正確にいえば、電力系統は池として例えるのは不適当である。池ならば水をある程度保持することができるが、電力系統では、いまのところそのような能力はない。この能力を持たせるためには大電力蓄電が課題である。技術的に実現することは可能と思われるが膨大な設備投資をしなければならないことから、実現できない課題といったほうがいい。
ニュースの映像をみるとクレーン船が高圧送電線に接触しているが、断線したわけではない。クレーンの鉄塔の接触による短絡であり、ショートともいう。落雷などにより短絡が起こったときには、その影響が他に波及して重大な事故につながらないようにするため、送電供給線の両端で瞬時に遮断する。この遮断はコンピュータの支援により瞬時に自動的に行う。落雷による短時間の短絡の場合はすぐに復旧させるが、ある程度の長い時間の短絡は復旧させない。これは高圧線が断線して地面に接触してしまったことから保護するためである。クレーン船の接触は、落雷による短絡のような短時間の現象としてとらえず、送電線を両端で遮断したと考えられる。電力系統には蓄電する能力がないから、大電力送電が停止すると、他の送電系統の電力供給が過大となる。制限電流をこえると、発電機を含めた送電系統の保護のために、送電線の電力供給を両側で遮断する。先に池で例えた電力系統の入水路をすべて閉じることに相当すると考えればわかりやすい。コンピュータ制御であるから、この電力供給の遮断は瞬時にして起こる。
これは想像であるが、電力系統を監視している現場の職員は、瞬時に電力供給が停止して、パニック状態におちいつたであろう。何事が起こったのか。私が当事者ならば頭の中が真っ白になる。
まず実施しなければならないことは、どこに送電異常があって送電遮断がおこなわれたかである。いわば故障の箇所を診断することであるが、この機能を持たせることは、そう簡単な技術ではない。多分に投資が必要であり、節約の立場からはすると余計な出費は押さえたい。担当の開発技術者も、華々しい仕事ではないから、この様な技法は組み込まれていないと思われる。このような事故が起こってから、初めて対策に乗り出すことになる。一つの課題として残る。
電話連絡などにより送電線異常がどこにどのように発生したかを確かめることから始めたと想像する。その間、報道陣が殺到し、原因がどこかを問いつめる。
送電線の故障箇所診断ができたとしても、回復は報道にもあるように人手による作業になる。このコンピュータの時代にである。なぜなら復旧のための機能は前述と同じ理由から多分組み込まれていない。電力系統を複雑系として見るならば、高性能のスーパーコンピュータが必要であろう。あらかじめの設備投資は、費用対効果から避ける。
事故送電線の電力容量を参考にしながら、入力の送電線を回復し、それに見合った出力線を復旧させる。このとき入出力の見積を誤れば、また自動的に遮断される。消費者から見ると、回復された送電が再び停止される。点灯した照明でほっとしたとき、再び消える現象である。配送電の現場担当職員は、薄い氷の上を歩く想いで、スィッチを操作したであろう。汗びっしょりの姿を思い浮かべると同情する。
このような課題の解決は、ひとつの研究テーマであろう。しかしながら地道な研究であるだけに、すぐに優れた経済効果をもたらすか、多くの論文数を求める風潮にさらされる現在の大学での研究室にはそぐわない。
複雑系に組み込まれつつある社会、費用対効果のため、きりすてられた課題を掘り起こし、地道に解決しなければ、このような事象が再度起こり得ると炉端の話をしておく。日本の将来技術の発展のためには、地味な研究にも投資しなければならないと思う。
(納)