炉端での話題

折々に反応し揺れる思いを語りたい

エキスコン(11) -信頼性の壁-

2011-09-09 09:19:36 | Weblog
 最近の9月8日に米国学会IEEEの広告にエキサ・スケール(10の18乗、ゼロが18個並ぶ膨大な数で和算では100京に相当)のスーパー・コンピュータでは、信頼性が壁となって性能が出ないという論文速報があつた。
エキスコン・シリーズの当初に、このブログ表題は「エキストリーム・スケールのコンピュータ」から採用したことは最初に書いた。当然ながらエキサ・スケールのスーパーコンピュータも視野の範囲である。

 まだ発刊に至っていない論文を早速ダウンロードして、ざっと目を通した。その論文の要旨をごく簡単に紹介する。
 スーパーコンピュータは、並列多重方式を想定している。コンピュータの演算を行うコア(かっては中央演算装置CPUといっていたが、最近ではコアという)を膨大な個数用いて並列的に処理する。この論文の最初に引き合いに出している世界最高速の天河1Aは186,368個のコアがあり、演算速度は4.701ペタ・フロップス(ペタはペセタともいい10の15乗で、フロップスは浮動小数点演算単位)であるという。中国から投稿された論文なので、まずは宣伝が掲げられている。
 コアの個数が大きくなると、1個あたりのコアが故障する確率が低くても、エキスコンとしての信頼性は低下する。天河1Aを引き合いに出させてもらうと、コア単体の故障率が一時間あたり10万分の1としても、平均故障間隔(故障がなくて稼働できる時間)は35分程度となる。
 このような膨大な数のコアによるエキスコンを使って数時間にわたり、計算した結果は果たして正確なのかどうか確認するすべもない。もし再計算して結果が違っていたら、何度も計算を繰り返さなければならない。このことからエキスコンの処理能力には「信頼性の壁(Reliability Wall)」があるといい、このことをこの論文で最初に著したと主張している。

 ある小話を思い出す。
駆け出しのサラリーマンに、会社の月末決算をさせたという。ソロバンしかない時代である。この若いサラリーマンは、ソロバン計算は得意ではなかったらしい。集計した結果は、収支の帳尻が合わない。致し方なく何度も計算し直すがなかなか一致しない。ついには1円の誤差で帳尻が合ったから、自分のポケットから1円玉をとりだし、これを帳簿に貼り付けてようやく真夜中に帰宅したという。

 信頼性の壁を提唱しようするこの論文は、計算の途中で誤りがあれば、引き返して再処理を行う、専門用語では「ロールバック・リトライ」の概念が根底になっている。このロールバックには数多くの方式が提案されており、いまなお研究テーマの一つであると聞いている。例えばエキスコンを二つにわけて同じ処理を実行させる方式もあるかもしれない。この場合の計算処理速度は半分になる。仮に膨大なデータを照合するのであればその照合に時間がかかり、さらに照合結果に再び誤りが生じるかも知れない。

 中国から投稿されたこの論文は、学会誌に受理されていて、正式に掲載される前の段階であるが、引用文献も国際的な基準にあり、内容もしっかりと書かれていることから、このような論文が採録されるようになった中国の学術基盤が高くなっていることは注目したい。ただし著者は、天河の開発にかかわった気配もあり、エキスコン天河の平均稼働時間が低いこともあるのではないかとの疑念も残る。
 一般にエキスコンの平均稼働時間が公表されていないが、今後はこの評価基準も重要であると教唆される論文内容である。

 最近になって計算速度が世界トップの座についたという日本のスパコンについて、信頼性はどのように確保しており、平均稼働時間はいかばかりなのか教えて頂きたいところである。
 優れた平均稼働時間は、将来のエキスコンのセールス・ポイントであると確信させてくれた論文である。
(納)

葉山の家のこと

2011-09-05 09:06:15 | Weblog
 昨日9月4日の民放テレビ番組で、葉山の一郭に新築の家屋をたてる経過が紹介されていた。私は建築の専門家ではないが、様々な側面から建築のことを体験している。その立場から、気になったことを述べておく。

 一つは、地面での蓄熱暖房のことである。番組の最初の部分に電気温熱パネルを基礎の下に敷き詰めている場面があった。冬場の暖房として、夜間電力により建屋の地面を暖めておこうという建て主の趣向である。これにより多額の暖房費が節約できるという主張である。
 温熱パネルを地面に敷き詰め、電線をカシメ接続する。その上に土をかぶせ、さらに土台のコンクリートを打ち込む工法をとっていた。私は、こんな工法をとるべきではないと即座に思ったものである。
 温熱パネルは電気製品である。電気製品には経年変化による寿命がある。従って保守が必要であるが、この工法では保守ができない。内部に何らかの障害が発生してもこの修理はできない。
 経年変化ばかりではなく、地震により電線の接続が破断したら、使い物にならなくなることは避けられない。温熱パネルを土台でがんじがらめにすれば、地震で破断することもあり得るではないか。葉山の付近には活断層があり、これにより大地震が近々起こりうるという専門家の話題を耳にしたことがある。
 建築の設計者は、これには反対の意見があったのではないかと想像する。施主の意向が強く働いていることは番組から察せられた。この番組を見て、これはいいアイディアと思った方もいるかも知れないが、保守が困難な暖房システムであることは留意しておく必要がある。

 いま一つある。
 木造建築の外側は金属の網を貼り付け、これにモルタルを塗りつけている。これを建築家はラス・モルタル壁といっている。多分、木造建築で用いる日本独特の工法ではないかと思うが、私は、この工法を木造にもちいるのは欠陥工法であると考えている。
 建築後20年ほど経過したラス・モルタル壁の風呂場を改築したことがある。なんとこの壁は簡単に外れる。その理由は、金属網を止めている釘が水分のせいで酸化し、もろくなっているからである。壁の内部の木は腐食が進んでいた。
 ラス・モルタル壁に微少な空隙があって、水分がしみこむと壁を支える釘は容易に酸化して強度が低下する。壁の強度が低下することで、この空隙はさらに広がる。特に塩分を含んだ海風は怖い。葉山はまともに海風が吹き付ける場所にある。
 この塗り壁、ご丁寧に家の内側にまで塗りつけているから、この壁の内部の木構造物は息もできない。建築費用が意外に高価になっていたが、この塗り壁による費用のためではないかと想像した。木造建築の場合は、木が呼吸をして家屋全体を支えていることを知るべきである。このことは日本古来の木造建築である五重塔に学んでほしい。木造の躯体である柱は空気の流通にさらし、呼吸させることでコンクリートよりも長持ちすることは建築にあたる者の常識であると信じている。

 2011年9月4日の民放番組のなかで、ここで述べた工法が気に入って採用しようと思われた施主がいれば、一考することをお薦めしたい。
(農)